インタビュー 「野性時代」2017年8月号より
「承認欲求社会」にひとすじの光を投げかけるメフィスト賞受賞作!
構成:小説野性時代編集部
四人の女性の人生が交錯し、薄紙を剥ぐようにそれぞれの事情が明かされていく——。
精緻に組み立てられた心理サスペンスが高く評価され、
二年ぶりのメフィスト賞受賞作が誕生しました。
── : インタビューなどでお顔を出さない、覆面作家としてデビューされたんですね。
宮西: 「こういう人が書いているんだ」と先入観を持たれるより、謎にしておいたほうがよいかと思ったんです。
── : 小説を書き始めてからどれくらい経つのでしょうか。
宮西: 大学時代には映画サークルに入っていて、シナリオを書いていました。卒業してから、一人で映画を作るのは難しいけど、小説なら一人でもできるんじゃないかという、少し安易な気持ちもありました。以前、湊かなえさんが「地方に住んでいるとシナリオライターになるのは難しいと言われて作家になった」というようなことを話されていたインタビュー記事を読んだこともあって、じゃあ私も作家かなあ、と。辻村深月さんが大好きで、辻村さんみたいになりたいとも思って、小説を書き始めて一〇年になります。
── : デビュー前に一作、メフィスト賞に応募された作品があったんですね。
宮西: 一度目に応募した時に、編集のかたに声をかけてもらって。その時に、ミステリとサスペンスの違いとか、具体的なアドバイスをいただきました。そこでジャンルを意識して書いてみたらどうか、と提案されて書いたのが『誰かが見ている』です。
── : パートとしてスーパーで働きながら、ブログに嘘の「幸せな育児生活」を書き続けていく主婦の千夏子。年下の夫とのセックスレスに悩む、アパレル店店長の結子。ストレスで過食に走り、恋人との結婚だけが生き甲斐となる保育士の春花。そして、優しい夫とかわいい娘に恵まれ、タワーマンションに暮らす主婦の柚季。四人の女性は境遇も年齢も、将来像も異なりますが、こんなふうに悩んだり、気持ちが揺れ動くこともあるだろうな、と、どの女性にも等しく感情移入して読み進めました。この見事な人物造形は、どのように考えたんでしょうか。
宮西: 女性はこうあるべき、とか、輝いていなくてはならない、とか、メディアに無駄にあおられている気がしていました。ひるがえって自分の周りを見てみると、不妊治療をしている友人も、子育てをしている友人も、婚活をしている友人もいます。たとえば婚活している人から見れば、結婚している人は「結婚してるんだからいいじゃない」となるんでしょうけれど、それぞれに悩んでいる。悩みを抱えている女性たちに、どこか希望を与えるような物語にしたかったんです。
── : ブログを書いてみんなにコメントをもらうことで自分の存在意義を感じて、その気持ちがエスカレートしていく千夏子。このネット社会での承認欲求に象徴されるように、登場人物が抱えている問題がそれぞれ非常に現代的ですね。
宮西: ちょうどストーリーを練っている頃、芸能人の不倫スキャンダルが世を賑わせていました。そこまで一方的にマスコミに批判されなきゃいけないのかと驚く一方、インターネットの世界で一般の人からも叩かれているのを目の当たりにして、ネットって怖いなあ、とも感じました。サスペンスを書くなら、登場人物がぶつかり合う舞台を用意しなければと考えた時に、ネット社会をうまく取り入れられないかと思いつきました。
── : 登場人物それぞれの境遇や悩みがリアルに感じられました。
宮西: 私は昔から友人のなかで愚痴の聞き役、というところがあって。怒って電話してきた友人の話を聞きながらその人以上に怒ってしまうので、話しやすいのかもしれません。婚活している友人も、子育てしている友人も、家族関係で悩んでいる友人も、それぞれ悩みや愚痴を打ち明けて話してくれるので、現代の「生きづらさ」が自然と集まってきて、それらが物語に落とし込まれていった、という感じでしょうか。
── : 登場人物はそれぞれ孤独で、誰にも相談できない。宮西さんのような聞き役がいたら、違う形になっていたかもしれませんね。
宮西: 千夏子はブログを通じて知り合った女性に対する悪意を胸のうちに秘めながら相談に乗っていますが、それでも相談者は救われたと感じている。みんなが生きづらい世の中で、誰かが誰かを意図せず救うこともある、そんな誰かがいたらいいのに、と思いながら書きました。
── : タイトルを初めに見た時には不穏な小説をイメージしましたが、読後感はまったく異なるものでした。
宮西: いわゆるイヤミスにしないというのは最初から決めていました。タイトルにもその気持ちを込めていて、「誰かに見られている」と思うとしんどいけれど、「誰かが見てくれている」と思うと、心強く感じるんじゃないかと考えて。読み終えたあとにタイトルの印象が変わっていたら、嬉しいですね。