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特集

アニメ映画『四畳半タイムマシンブルース』(「私」役)浅沼晋太郎インタビュー “僕は「私」には成長していて欲しくなかったんです”

アニメ映画『四畳半タイムマシンブルース』(「私」役)浅沼晋太郎インタビュー

森見登美彦の原作で、2010年にアニメ化された「四畳半神話大系」。京都の大学生「私」の日々を描いた本作は、彼が入学後に入るサークルに始まり、何を選択するかで未来が変わる並行世界を描いた青春ストーリーだった。
この作品への出演が自身の声優業のターニング・ポイントだと語るのは、「私」を演じた浅沼晋太郎。12年を経て、新作アニメーション映画として公開される『四畳半タイムマシンブルース』に、浅沼はどう臨んだのか。



「私」のこじれた感じが、ノスタルジック


――『四畳半タイムマシンブルース』への出演が正式に決まった際は、どのようなお気持ちになりましたか。

浅沼晋太郎さん(以下浅沼):純粋に嬉しかったです。12年も経って同じ役をやらせていただくなんて、そうそうあることではないですから。「四畳半神話大系」は、いろんな方に観ていただいた、僕にとってターニングポイントになった作品でもあるので、喜びもひとしおでした。


――どのような経験が、ご自身の転機だという実感に繋がっていますか。

浅沼:まず、僕は声優業とは全く違う畑からこの世界に入った人間だったんです。たまたま声優として出演した作品があって、それから10年ほどは“自分は来年にはこの世界にいないだろう”と思って活動していました。そもそも声優としての勉強をしてこなかった人間なので、下手くそでしたし、酷評されてましたから。来年にはいないと思っているからこそ必死に、悔いの残らないようにやっていたんです。結果、仕事を続けさせていただいて今に至るんですが、「四畳半神話大系」は自分が“もうこれ以上できない!”と思えるところまで振り切って挑んだ作品であり、 普段アニメを観ない方々にも観ていただけました。のちに国内外で賞をいただいたりもして、“もう少しこの世界にいたいな”という、ある種の欲みたいな気持ちが芽生えた作品なので、思い入れが深いんです。


――「四畳半神話大系」は映像やお芝居も含め、異色作で独特の世界観ながら、引き寄せられてしまう作品ですね。

浅沼:森見先生の文体というのが、まさにそうだと思うんです。作品全体に昭和の文豪が書いた作品を彷彿とさせるインテリジェンスがありますよね。そして、「私」という人物像のこじれた感じが、ノスタルジック(笑)。でも、いまの時代の若い人たちには逆に新しく映るんじゃないでしょうか。「私」っていまの言葉で言ったら、「中2病」とかに置き換えられてしまうと思うのですが、そこが“こういう人っているよね”という親しみやすさを生んだりもするのかな、と。


――もし、浅沼さんが「私」と同級生だったら、友達になれますか。

浅沼:なれないと思います(笑)。僕の手には負えないめんどくささをお持ちなので(笑)。


――(笑)。ところで、最初に今作の台本を読まれた際の印象は?

浅沼:“これぞ「四畳半」の世界だな”というセリフ量でした(笑)。僕は12年前も、台本を2冊ずついただいていたんですよね。普通、台本の次のページにセリフが跨っていたら、2、3行なら前のページに書き写すんです。だけど、この作品では膨大な量のセリフが次のページにもあるんです。しかも、そのページもまるまる「私」のセリフだったりするので、台本をめくるタイミングが非常に難しい。それを息継ぎできないぐらいの速さで読んでいたので、譜面台にもう1冊、次のページを開いた状態で収録に臨んでいたんです。 今回の映画の台本が2冊ずつ送られてきた時に、その記憶が蘇りました(笑)。


――それはすごいですね。お話の内容は、どんなところが魅力だと思われますか。

浅沼:僕は、もともと『サマータイムマシン・ブルース』を実写映画で観ていて、ヨーロッパ企画さんがどう舞台で表現していたのか気になっていたんです。それが「四畳半神話大系」とフュージョンした今作の台本を読んで、“こんなに親和性が高いものだったのか!”と驚きましたね。
ただ、よく考えてみると、共通点が多いんです。タイムトラベルや並行世界というギミックをしょうもないことに使うのが一緒ですし(笑)。大学生ってことや、サークル活動をしていること、ダメなキャラクターが出てくるところも似てるんです(笑)。たとえば、別々の食べ物を一緒に食べて、美味しかった時に近い感覚がありました。


――よくわかります。それでいて、森見先生独自の世界観が今作でも発揮されてますよね。

浅沼:どうしようもないダメ人間をこんなに愛らしく描けるなんて、森見さんも脚本の上田誠さんも本当にすごいと思います。しかもそれが、同情的ではないし、可愛らしさがある。それが一人でなく、たくさんいるじゃないですか。樋口師匠も城ヶ崎先輩も小津もダメ人間だし、もちろん「私」もダメ人間。「私」が恋心を寄せる明石さんも作っている映画がダメですよね(笑)。


――そう言われるとそうですね(笑)。ただ、彼らはいまの状況をすごく楽しんで生きているのも魅力です。

浅沼:多分、「私」だけは現状に対して“自分の人生がこんなにしょうもないわけがない”とずっと信じているんです。彼の諦めの悪さゆえに、自分の現実を受け入れられないから大学の1回生をずっと繰り返してる物語が、「四畳半神話大系」だと思うんです。その諦めの悪さが『四畳半タイムマシンブルース』では、良い方向に働いているんじゃないかなと思います(笑)。



――冷静に状況を分析しているのが、ほぼ「私」と明石さんだけですからね。収録では、「私」にすぐ戻ることができましたか?

浅沼:気持ちはそうですが、やっぱり「四畳半筋」が衰えているのを感じました(笑)。かつてのあのスピードでできるだろうかという心配もありましたし、独特な節回しで、難解な単語がたくさんあるナレーションも12年ぶりで、不安はすごくありました。


――実際にアフレコしてみていかがでしたか。

浅沼:自分の中で「私」というキャラクターに特別な思い入れを持ち過ぎていたんでしょうね。だから、本来の間尺より何秒も早く読んでしまったりして。 その後、「もっとゆっくりでいいよ」と演出がありました。あとは、「私」の成長度。僕は「私」には成長していて欲しくなかったんです。そのあたりを自分の中で納得して落とし込むために、夏目監督とディスカッションして、ナレーションをまた録り直したりもしましたね。


――この作品では、ナレーションが他の作品以上に意味を持っていますし、物語の仕掛けにも関わっていますよね。

浅沼:そうですね。実は上田さんも、ご自分で書いたセリフの多さに驚いたとおっしゃっていました(笑)。ただ今回のナレーションは、とにかく状況の解説などが大事になってくるわけで、すごく丁寧な収録をしていただきました。



大人になって、父と会話をしてみたかった


――作品にちなんでお聞きしますが、浅沼さんは学生時代の夏の思い出はありますか。

浅沼:美大で映像を専攻していたので、夏休みもずっと映画を作っていた記憶しかないですね。だから、いわゆる青春の思い出みたいなものは一つもないかもしれません。僕は海もあまり好きじゃなかったですし、華々しいキャンパスライフを送っていないので、もうちょっと遊べばよかったかなと思ってます(笑)。


――映画作りは青春の思い出では?

浅沼:そんな綺麗なものじゃないんですよね(笑)。だから、本作で描かれているような、明石さんの撮る大掛かりな映画って羨ましいです。僕らの場合、2、3人で作っていたし、音響スタッフと照明スタッフが別でいるなんてあり得なかったですしね。本当に映画作りとアルバイトの日々でした。



――苦労して映画作りをされていたからこそ、上映に漕ぎ着けたときの喜びはひとしおだったのではないでしょうか。

浅沼:いや、うまくいかないことばかりだったと思います。喜びどころか、“間に合った!”しかなかったんじゃないかな(笑)。それに、自分が納得いくものは作れていなかった気がしますね。あの当時、人に胸張って見せられるものなんて、一つも作れていなかったと思いますよ。


――お話を聞いていると、舞台脚本や演出など多岐に渡り活躍されている浅沼さんの作品作りのベースが、その経験で培われているのではないか、と想像してしまいます。ところで、今作ではタイムマシンが出てきますが、実際にあったらやってみたいことはありますか。

浅沼:やらなくて後悔していることって、誰しもたくさんあると思うんです。時間を超えられたら、それをなんとか実現したい。“あのコンサートに行きたかったな”とか、『笑っていいとも!』のテレフォンショッキングに出てみたかったなとか(笑)。あとは、僕は小さい頃に親父が亡くなっているので、人生を巻き戻して、大人になった状態で父と会話をしてみたいですね。


――最後に、今作を楽しみにしているファンの方、あるいは前作を観たことがないけれど気になっている方に、メッセージをお願いします。

浅沼:本作は、宇宙戦争が起きたり、誰かの命を救ったり、そういった大きなことは全く起こらない、宇宙で一番ミニマムなSFです(笑)。ただ、あなたの人生に少しだけ寄り添ってくれるような素敵な作品だと思うので、ぜひ劇場に足を運んで、楽しんでいただきたいです。…そして、とてつもなく細かい伏線もたくさん貼られているので、劇場や配信で何度も観返していただけたら嬉しいです。

プロフィール



浅沼晋太郎
岩手県出身。06年に声優デビュー。所属するエンターテイメント・ユニット『bpm』では演出、脚本、出演を担当し、07年より活動している。声優としての代表作に『東京喰種トーキョーグール』(西尾錦)、『ツルネ -風舞高校弓道部-』(滝川雅貴)、『あんさんぶるスターズ!』(月永レオ)、『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-』(碧棺左馬刻)などがある。

作品情報



『四畳半タイムマシンブルース』
9月30日(金)より3週間限定全国公開
ディズニープラスにて独占配信中(配信限定エピソード含む全6話順次配信)

原作:「四畳半タイムマシンブルース」森見登美彦著、上田 誠原案(角川文庫/KADOKAWA刊)
監督:夏目真悟
脚本:上田 誠(ヨーロッパ企画)
キャラクター原案:中村佑介    
音楽:大島ミチル
主題歌:ASIAN KUNG-FU GENERATION 「出町柳パラレルユニバース」(Ki/oon Music)    
アニメーション制作:サイエンスSARU
キャスト:浅沼晋太郎 坂本真綾 吉野裕行 中井和哉 諏訪部順一 甲斐田裕子 佐藤せつじ 本多 力(ヨーロッパ企画)
配給:KADOKAWA/アスミック・エース    

公式ホームページ
https://yojohan-timemachine.asmik-ace.co.jp/

公式Twitter
https://twitter.com/4andahalf_tmb

(C)2022 森見登美彦・上田誠・KADOKAWA/「四畳半タイムマシンブルース」製作委員会

原作書籍情報



『四畳半タイムマシンブルース』(角川文庫)
著:森見登美彦
原案:上田 誠
カバーイラスト:中村佑介
定価: 704円(本体640円+税)
原作公式サイト:https://kadobun.jp/special/yojohan-timemachine/


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