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特集

【今月のおすすめ文庫】神社と神様の小説 椰月美智子が語る、自分のために時間を使うことの大切さ

毎号さまざまなテーマをもとに、おすすめの文庫作品を紹介する「今月のおすすめ文庫」。
今月のテーマは、神社と神様!
お参りや祭りなどを通じて感じる、日々の生活に溶け込んでいる身近な神様たち。時に試練を与え、時にご利益を授け……知っているようで知らない神様の世界に、あなたも足を踏み入れてみませんか?
また、2025年2月25日に発売された『ご利益ごはん』の著者である椰月美智子さんに、本作について、また家庭や仕事の両立に悩む50代に伝えたい、「自分のために時間を使う」ことの大切さについて伺いました。

取材・選・文:皆川ちか

今月のおすすめ文庫 神社と神様の小説

『ご利益ごはん』(角川文庫)椰月美智子



「全員皆殺しっ」そんな言葉を吐きながら毎朝起床する早智子(48)。高校生の娘と中学生の双子の息子はまだ手がかかり、夫はかなり頼りにならない。姉の奈緒子に誘われて三嶋大社へ行ってみると、ふしぎと心がすーっとなって……。神さま詣でとおいしいごはんで生きるパワーをチャージする、アラフィフからの人生指南小説。

『神様の御用人』(メディアワークス文庫)浅葉なつ



フリーターの良彦は、狐神の黄金から神様たちの御用を聞いてまわる人間、御用人となるよう言い渡される。神々の願いはときに切実でユーモラス、そして重い。彼らの悩みを解決するなかで、人生に迷っていた良彦自身も自分の道を見つけてゆく――。人と神の交流を通して「信仰」の意味を問いかける、大人気和風ファンタジー。

『神去なあなあ日常』(徳間文庫)三浦しをん



高校卒業と同時に、三重県の神去村で林業に携わることになった勇気。過酷な山仕事に何度もへこたれそうになるけれど、次第に雄大な自然に魅せられていく。そして48年ごとに行われる神事に、自分も参加することに……。神社と関わりの深い林業をテーマに、神とともに生きる山村文化の美しさとひとりの青年の成長を描く。

『RDG レッドデータガール はじめてのお使い』(角川文庫)荻原規子



熊野の神社で育った内気な少女・泉水子は、電子機器にふれると壊してしまう体質を持ち、やがて自分が「姫神」と呼ばれる特別な存在の依代であることを知る。幼なじみの深行と共に東京の鳳城学園高等部に進学し、超常的な陰謀や対立に巻き込まれていく……。和風ファンタジーと学園ドラマ、そしてひとりの少女の成長譚。

『わたしの美しい庭』(ポプラ文庫)凪良ゆう



屋上庭園に「縁切り神社」があるマンション。そこの神主兼大家である統理は、亡くなった元妻と再婚相手の娘・百音(10歳)と暮らしている。この風変わりな“親子”に好奇の目を向ける人もいるけれど、二人は楽しく生きている――。縁切りを軸として、さまざまな生きづらさを抱える人々の再生をやさしく見つめる短編集。

『ご利益ごはん』椰月美智子さんインタビュー



児童文学から出発して青春小説に恋愛小説、夫婦・家族小説と、さまざまなテイストで人間模様を描く椰月美智子さん。新刊『ご利益ごはん』は、ままならない日々のイライラの切り抜け方を「神さま仏さま詣で」という切り口から見つめた快作。ご自身の経験を落とし込み、神社仏閣の魅力を伝えたくて取り組んだという思いを伺いました。

――神社仏閣とおいしい食事という組み合わせのアイディアは、どこから生まれたのでしょう?

私は元々神社仏閣が好きなのですが、特にこの数年は、どこかへ行くなら神社やお寺だけでいいです、というくらい関心が深まってきまして。それをよくご存じの担当編集さんから、神社仏閣を絡めて「角川ごちそう文庫」で書いてみませんかとお声がけいただきました。少し前には御朱印ブームがありましたし、かつてよりも神社やお寺に目を向ける人が増えている感じがします。この機運に乗って、神社仏閣には本当にご利益があるんですよ! と知らしめたい気持ちで臨みました。

――主人公の早智子は50代手前の女性で、家事に育児に仕事に目まぐるしい日々を送っています。そんな彼女が姉の奈緒子に誘われて神社仏閣巡りをするストーリーです。

登場人物の2人を、たとえば親友ではなく姉妹の設定にしたのは、この年齢になると友だちよりも、身内と出かけるほうが気兼ねなく過ごせるだろうと考えたためです。私には姉がいるのですが、実際に五十歳を過ぎてから、一緒に旅行に行くようになりました。今まで姉妹で遊ぶことなんて全然しなかったのに。それがふしぎなことに、とても気楽なんですよ。

――早智子は旅をしながら家庭の不満や愚痴を、姉・奈緒子に聞いてもらいます。

親の介護も目前に迫ってきた年齢なので、そういう話題も姉妹同士だと自然にできますよね。早智子の4つ年上ということで、姉にはなんでも言いやすいのかなと思い、家庭のことや更年期の悩みも打ち明けられる関係にしました。

――早智子は作中で、自分でも戸惑うほど情緒が乱れています。更年期障害の詳細な描写には引き込まれました。こういうことを描いた小説は、ありそうでなかったですね。

そこもしっかり書きたかったことの一つです。「角川ごちそう文庫」の主な読者層である中高年の女性の方がたに共感してもらいたかった。私は40代後半の時期に、強いイライラと不安感に悩まされました。早智子みたいに朝起きるなり「みんな死んじゃえ!」と頭のなかで叫んでいたんですよ。あとから振り返ると、あの時の自分は今までの自分じゃないみたいでした。

――ご自身の実体験に基づいていたのですね。

更年期のつらさって男性にはもちろん、同性間でもあまり重要視されていないところがありますね。個人差があるし、若い方にはなかなか自分ごととして受けとめづらい。あの時期、私はそれこそ神社仏閣に通うことで、ずいぶん救われました。神社仏閣特有の静かで清浄な空間に身を置くと、心がすーっと軽くなったんです。いろんな辛さが自分の中から消えて、心が落ち着きました。あのふしぎな感覚を早智子にも体験させてあげたかった。

――早智子が三嶋大社の神さまに手を合わせて、涙がじんわり浮かんでくるところは印象に残りました。そのあとで食べるうなぎが、なんともおいしそう。

三島はうなぎが有名なんです。水がきれいなので、おいしいうなぎ屋さんがいくつもある。神社と食べものの組み合わせはストレートに有名どころ、王道を狙いました。この神社へ行けば、あれが食べられる、という具合に。伊勢神宮の伊勢うどんに、豊川稲荷のおいなりさん。

――特に印象に残った食べ物は?

豊川稲荷のお話の最後に出てくる「大あんまき」です。豊橋駅の構内で買えるのですが、懐かしい味でおいしくて、豊川稲荷へ行くたびに買って帰ります。

――帰りの新幹線の中で、奈緒子が我慢できなくて食べちゃうのがいいですね。

メインのごちそうだけで終わらせるのは物足りなくて、こうしたプラスαも入れたいと思いました。アラフィフの旅にはカフェとスイーツが必須です(笑)

――神社やお寺の選定はどのように?

早智子は神奈川県西部に住んでいる設定でして、そこからアクセスしやすい場所と、各神社の特徴とご利益などから選びました。三嶋大社と寒川神社は早智子の家から行きやすいんです。だけど近場だけじゃなく、遠方の神社も入れて広がりをもたせたい。それで三重の伊勢神宮、京都の北野天満宮、愛知の豊川稲荷を入れました。各話の内容と関連性のある神社やお寺にすることと、神奈川から日帰りで行ける場所であること。

――その2つを充たす神社を選ぶのは難しそうです。

たとえば第4話「北野天満宮と京漬物」のときは、作中で息子たちが高校受験を控えているので、菅原道真が祀られる神社にしようと考えました。ただ太宰府天満宮は福岡にあるので、日帰りするには遠すぎる。なら、京都の北野天満宮だったら、なんとか日帰りできる……というふうに。ちなみに私も息子の大学受験のとき、北野天満宮さんにはお世話になりました。本人に一番合う、将来が拓けるところへいけますように、とお願いしたら、見事に叶えてくださったんです。息子本人は自分の実力だ! と言ってますが(笑)。

――そのエピソード、まさに本編に落とし込まれていますね。

勉強関係なら天満宮、商売・金運に関することならお稲荷さまと、目的に適った神社仏閣へ行くことと、お願いの仕方・作法なども、できるだけ詳しく書きました。読んだ方が神社やお寺に興味を持ってくださり、ちょっと行ってみようかな、と思ってくれたら嬉しいですね。

――家事や育児に忙殺され、自分のことは後まわしにせざるを得ない早智子にとって、神社巡りという楽しさを見つけたことは癒やし以上のものになると感じました。

実際、家庭を運営する主婦にとって丸一日外出するのは難しいこと。せっかく遊びに出かけても、家族の夕食が気になってしまったり。そうやって、どんどん意識が内にこもってしまう。早智子は姉に誘われたことがきっかけで、外の世界へ目を向けられるようになりました。そんなふうに自分のために時間を使って、おいしいものを食べたり、趣味や好きなことを楽しむのって本当に大切なことだと思います。特に家族のために一所懸命やっている女性たちには。

――主人公が自分をいたわる方法を見つけていくという意味で、セルフケア小説でもありますね。

そうかもしれませんね。早智子にはいずれ泊まりで旅行を……いえ、いっそのこと奈緒子と海外のパワースポット巡りまでしてほしいですね。もっともっと世界を広げて楽しく生きてほしい。これに尽きます。

プロフィール

椰月美智子(やづき・みちこ)
神奈川県出身、在住。2001年『十二歳』で講談社児童文学新人賞を受賞。『しずかな日々』で野間児童文芸賞と坪田譲治文学賞をW受賞。映画化された『明日の食卓』、ドラマ化された『昔はおれと同い年だった田中さんとの友情』をはじめ著書多数。


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