menu
menu

特集

初恋から小説まで、BiSHのモモコグミカンパニーが憧れの作家ととことん語ります! 村田沙耶香『丸の内魔法少女ミラクリーナ』刊行記念スペシャルインタビュー【後編】

撮影:佐山 順丸 インタビュアー:モモコグミカンパニー  構成:吉田 大助 

世界的に注目を集める作家・村田沙耶香さんの最新短編集『丸の内魔法少女ミラクリーナ』が2月29日に刊行されることを記念して、楽器を持たないパンクバンドBiSHのモモコグミカンパニーさんとの初対面&初対談が実現しました。グループの楽曲の作詞を手掛けエッセイ本も出版しているモモコさんは、村田さんの大ファン。後編では一筋縄ではいかない恋愛話や作品への愛を、お二人でたっぷり語っていただきました。
【前編】BiSHのモモコグミカンパニーが、今一番会いたかった作家の頭の中を大解剖!

初恋相手もBiSHも、幻想を持たれやすい存在。
「幻想を爆破」するのも、ちょっとかわいそうだなって……。(モモコ)


モモコ:実は、今回の本の中では2編目の「秘密の花園」という作品が、読んでいてものすごくすっきりしました。「私の代わりに、殴ってくれた!」みたいな。


村田:大学生の女の子が、小学生の時からずっと好きな初恋の人を、部屋に監禁してしまう話ですね。


モモコ:私も昔、小学校低学年から中3まで、6年間ぐらいずっと好きな人がいて。思いを伝えなかったというのも大きかったかもしれないんですけど、頭の中でその人が美化されていく経験をしたことがあったんです。でも、久しぶりに会ったら全然かっこよくなくなっていて、自分の思い描いていた王子様では全然なくなっていた。その人に対して、「自分の好きな人を殺された。ふざけんな」って気分になったんです(笑)。「秘密の花園」の主人公みたいに、殺したい、とまでは思わなかったけど、結構重なっているなって感じました。


村田:初恋の人って、美化されやすいですよね。私も小学校の頃からずっと好きだった人がいて、高1の時に急に気持ちのピークが来たんです。それまでも他の人のことを好きになったりしていたんですが、デートっぽいことをして急に手を握られて怖くなった時に、自分を浄化する存在として、初恋の人のことを思い浮かべたりしていたんですね。小学生の頃に芽生えた恋愛感情だし、中学になってからは校舎も違って会話もしていないから、その人の存在がいつまでもキレイなままなんです。高1の時にダメだ、どうしてもその人が好きだと思ったし、実在なのに架空なその人がいつまでも自分の中にいることにモヤモヤして、気持ちを書きなぐったラブレターを送ったんです。そうしたらすごくすっきりして、すぐその後に恋人を作ってからは、恋愛もうまくできるようになりました。


村田沙耶香さん

村田沙耶香さん


モモコ:すごく共感できます。その幻想をちゃんと殺しておかないと、次に行けないというか、誰も超えられない存在になってしまう。それを、小説の中だからできるやり方で、これでもかというぐらいスッキリ殺してくれるじゃないですか。絶対に現実ではできないことを、村田さんの小説の主人公はやってくれるんです。


村田:確かに、現実ではできない、しちゃいけないって言われることばっかりしています(笑)。


モモコ:私が所属しているBiSHは一応、女の子6人組のグループなんですね。BiSHも、美化されやすいというか、ファンの人から幻想を抱かれやすいんです。


村田:私、アイドルのことはぜんぜん詳しくないんですが、小学校の頃は柴田恭兵さんが大好きでした。幻想もいっぱい抱いてたんだろうなと思います。


モモコ:私はよくエゴサをするんですけど、私の知らない、いろんなモモコグミカンパニーがいるんですよ。男性のファンが多いんですけど、モモコはお酒なんか全然飲めないでしょ、みたいな。いや、普通に飲めるし、飲むし! 私は147センチしかなくてちっちゃいので、「子どもみたいでかわいいモモコグミカンパニー」というイメージを持たれがちで。実際の自分はどんな発言をしたらいいんだろうとか、悩んじゃうこともあるんです。


村田:それを背負うのって大変ですか。


モモコ:そうですね。ちゃんとかわいくしなきゃみたいな、ちょっとドジしたら好かれるかなとか常に頭のどこかで考えていると疲れるというか、「本当の自分は何なんだ?」ってなりがちです(笑)。


村田:相手が好いてくれればくれるほど、愛情ってプレッシャーにもなりやすいですよね。好いてくれる人ほど裏切りにくいというか、がっかりさせたくないとか思っちゃうと、だんだん「相手が思う自分」像に合わせてしまうというか。


モモコ:でも、村田さんの小説の主人公みたいに「幻想を爆破」するのも、ちょっとかわいそうだなって思ったりします。なるべく笑顔でいた方がいいのかな、とか。でも、やっぱり「無理!」ってなる時があるんですよ。私はそういう時に本を読んだり、文章を書いたりするんです。絶対的に、自分のためだけに使える時間じゃないですか。自分の人生を生きてるなあって、実感が湧くんです。


モモコグミカンパニーさん

モモコグミカンパニーさん


なりたい自分があって、憧れがあって、それを叶えている人を
うらやましいと思ってメラメラするって、すごくきれいな感情。(村田)


モモコ:村田さんの『変半身(かわりみ)』の中に、好きなフレーズがあったんです。「恋に失敗した人間はね、どんな手を使っても、嘘をついてでも、呪いの中で生き延びていくしかないがちゃ」。


村田:ちゃんと語尾まで拾ってくださるのはすごく嬉しい(笑)。


モモコ:村田さんって、男女のお話が多いですよね。性やジェンダーをテーマにされていることが多いと思うんですけど、ご自身はどういう恋愛をされてきたんですか。いい恋愛をしてきたのか、そうでもなかったのか。


村田:すごく幸福か最悪の事態か、どっちかだったような気がします。すごくいい恋愛をする機会は、大人になるにつれて増えた気がします。でも、高校生の時にもいい恋愛をしたかな。大学生ぐらいの時が大変でした。それこそ「幻想」を抱かれてしまって、「彼女に白いエプロンを付けて三食料理を作ってもらいたい、ほっぺにキスをして毎朝起こしてほしい」と言われて、エプロンをプレゼントされたりとか。


モモコ:げっ(笑)。


村田:なぜかそういう人にばかり好かれていた時期が、大学生ぐらいの時にありました。その幻想を壊すのが怖くて、でも全部従っていたらおかしくなりそうになって、それでデビュー作の『授乳』という小説を書いたんです。「このままだと、主人公の母親みたいになるぞ!」って思いながら、恋人が寝ている間にこっそりと。


モモコ:確かに今日お会いしてみて、村田さんはおとなしそうで、また、おしとやかだし、すごく優しいから、その男の人にとって癒やしの女神様みたいなイメージだったんでしょうね。でも、その男の人のことも、嫌いにはならなかった?


村田:嫌いにはならなかったですね。私に対して、すごく優しい人ではあったんですよ。結局、別れてしまいましたけど。



モモコ:村田さんの『きれいなシワの作り方』も読ませていただいたんですけど、「iPodのプレイリストに、恥ずかしいタイトルの付いたやつがいっぱいある」と書かれていて、めちゃくちゃ共感したんです。私も、人に見られたくないプレイリストが30個ぐらいあるんですよ。例えば、「あいつを殺す」っていうタイトルのやつ。その人を好きだった時に聞いていた曲を入れていますね。それを聞いて、「あいつ死ね!」ってなるという。


村田:面白いですね(笑)。どうしてそのプレイリストを作って、聞こうと思ったんですか?


モモコ:なんだろう……自分がこの先生きるために、憎しみを忘れたくないんですよね。憎しみって、時間が経つとまあいいかって変わってしまうじゃないですか。それがイヤなんです。


村田:そういう気持ちもちゃんと大事にしているって、素敵なことですね。


モモコ:基本は綺麗な気分でずっといたいけど、汚い気持ちとかも大切に持っておきたいんです。その汚いところから、綺麗な言葉とか感情が生まれることもあるかもしれないなって思うので。


村田:私もそう思います。汚いって呼ばれている感情って、ドロドロになって出てくるものに目がいきがちだけど、その奧には本当にきれいな、純粋なものが眠っている気がします。例えば、友達が「愚痴ってごめんね」とか言いながら、誰かの悪口とか、嫉妬してこういうことを思っちゃうんだって真剣に喋っている姿って、私にはキラキラして見えるんですよ。なりたい自分があって、憧れがあって、それを叶えている人をうらやましいと思ってメラメラするって、すごく無垢で、きれいな感情に私には思えるんです。


モモコ:「こういう気持ちになろう」としても、得られるような感情ではないですもんね。楽しいとか悲しいという感情だったら、小説を読んだり音楽を聴いたりすることで得られるものですけど。


村田:そうなんです。だから自分の中にあるそういう感情も、好きだしすごく大切なものだと思っているし、そういう感情を私に吐き出してくれている友達を見ると、本当に素敵だなって思うんです。


モモコ:村田さんは、他の人と競争してるとか、そういう気持ちはないですか?


村田:そう言われると、誰かと競争しているという感情は、まったく持ったことがないかもしれない。基本的に、誰かに勝つという経験が子どもの頃からなかったからかもしれません。足とかもめちゃめちゃ遅かったし、勉強も全然できるほうじゃないし、単純によくわからないんだと思います。ただ、母が教育ママで、「受験に勝つ」みたいな考え方への反発はあったのかもしれません。勝ち負けじゃない世界に憧れて、小説を書いたというところもあると思うんです。


モモコ:私も、村田さんみたいに穏やかな人になりたいです。私は競争心というか、劣等感が人一倍強い人間で。学生時代に塾へ行っていた時も、上のクラスに行きたくて勉強をめちゃくちゃ頑張ったり、模試の順位で気分がすごく上下したり……。BiSHとして活動している時も、他のメンバーにできて自分にはできないことは何かとか、意外と考えちゃってます。


村田:お話ししていると、モモコさんの優しさと、真面目だから頑張ってしまうという感じがびんびん伝わってきます。


モモコ:……私、もしも村田さんが友達だったら、自分の中にある黒い部分とかもなんでも話しちゃいそうです。きっと受け止めてくれるって、勝手に思っちゃう気がする(笑)。


『地球星人』は、最初の一冊としては衝撃的すぎる(笑)。
『丸の内魔法少女ミラクリーナ』から始めるのがオススメです。(モモコ)


モモコ:小説を読んで勝手に、村田さんはもっとメラメラ燃えてる感じの人かなって想像していたんですけど、めちゃくちゃ落ち着いていて、柔らか過ぎるぐらい柔らかくて、すごく大人で。村田さんみたいな女性になれたら嬉しいなって、今日お会いして思いました。


村田:なんて光栄な! でも、確かに小説を読んでくださった人から、ものすごくパンクで、洋服にチェーンとかジャラジャラ付けて、モヒカンとかだと思ってましたって言われることはたまにあります(笑)。「会ってみたら、普通の人でした」って。


モモコ:小説を読んで勝手に想像した姿とご本人の姿が違ったからといって、読み方が変わるとか、イメージが壊れるとかはなかったです。むしろ、村田さんはこういう方だから、ああいう村田さんの小説ができあがるんだなって思いました。村田さんの作品は「自分だけのものにしたい」というよりは、「みんなが読んでほしい」。みんなが読んでくれれば、世の中もっとよくなるし、自由な人が増えてきそうだなって思うんです。特に『丸の内魔法少女ミラクリーナ』は、人にオススメしやすい気がします。この一冊から『コンビニ人間』や『消滅世界』に入っていくのは、スムーズかもしれない。やっぱり『地球星人』は、最初の一冊として衝撃的すぎると思うので(笑)。


村田:そうですね(笑)。今日お会いして、モモコさんが紡いだ言葉を読んでみたいなとすごく思いました。ライブにも、いつか行ってみていいですか?


モモコ:ぜひ! その時は、村田さんが私たちのライブを観てどんなことを思ったのか、何を感じてくださったのか……あとでこっそりでいいので、伺わせていただけたら嬉しいです(笑)。


村田沙耶香『丸の内魔法少女ミラクリーナ』

村田沙耶香『丸の内魔法少女ミラクリーナ』


詳細はこちら▷『丸の内魔法少女ミラクリーナ
https://www.kadokawa.co.jp/product/321903000373/
【関連記事】
村田沙耶香最新刊試し読み! ストレスフルな毎日をキュートな妄想でやり過ごせ!『丸の内魔法少女ミラクリーナ』①



村田 沙耶香

1979年千葉県生まれ。2003年に『授乳』で群像新人文学賞優秀作、09年『ギンイロノウタ』で野間文芸新人賞、13年『しろいろの街の、その骨の体温の』で三島由紀夫賞とフラウ文芸大賞、16年「コンビニ人間」で芥川賞を受賞。他の著書に『殺人出産』『消滅世界』『地球星人』『となりの脳世界』『私が食べた本』『生命式』『変半身』など。

モモコグミカンパニー

2015年に結成された“楽器を持たないパンクバンド” BiSHのメンバー。多数の作詞を手掛けるほか、自他ともに認める読書家で、2018年にグループの歩みを綴った初著作『目を合わせるということ』が現在第12版の大ヒット。

紹介した書籍

MAGAZINES

カドブンノベル

最新号
2020年8月号

7月10日 配信

怪と幽

最新号
Vol.004

4月28日 発売

小説 野性時代

第201号
2020年8月号

7月13日 発売

ランキング

書籍週間ランキング

1

四畳半タイムマシンブルース

著者 森見登美彦 原案 上田誠

2

崎義一の優雅なる生活 太陽の石

著者 ごとうしのぶ

3

心霊探偵八雲12 魂の深淵

著者 神永学 イラスト 加藤アカツキ

4

村上世彰、高校生に投資を教える。

著者 村上世彰

5

虜囚の犬

著者 櫛木理宇

6

女だてら

著者 諸田玲子

7/27~ 8/2 紀伊國屋書店調べ

もっとみる

アクセスランキング

TOP