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特集

BiSHのモモコグミカンパニーが、今一番会いたかった作家の頭の中を大解剖! 村田沙耶香『丸の内魔法少女ミラクリーナ』刊行記念スペシャルインタビュー【前編】

撮影:佐山 順丸 インタビュアー:モモコグミカンパニー  構成:吉田 大助 

2016年に芥川賞を受賞した『コンビニ人間』が30ヶ国で翻訳されるなど、世界的に注目を集める作家・村田沙耶香さん。全4編収録の最新短編集『丸の内魔法少女ミラクリーナ』が2月29日に刊行されることを記念して、楽器を持たないパンクバンドBiSHのモモコグミカンパニーさんとの初対面&初対談が実現しました。グループの楽曲の作詞を手掛けエッセイ本も出版しているモモコさんは、村田さんの大ファン。村田作品への愛をご本人にグイグイぶつけていただきました。
【追記. 表題作の試し読みができます】※リンクはページ下部「おすすめ記事」にもございます。
村田沙耶香最新刊試し読み! ストレスフルな毎日をキュートな妄想でやり過ごせ!『丸の内魔法少女ミラクリーナ』①

村田さんの小説は、自分の代わりに、
誰かを殴ってもらえるような気持ちになるんです。(モモコ)


モモコ:私はBiSHというグループで活動をしているんですけど、ステージにいる時の自分は本当の自分じゃないような気がしています(笑)。普段は本を読んだり、文章を書いたり、静かにじっとしているほうが好きなタイプなんです。村田さんの本もすごく好きでいろいろ読ませていただいているんですが、「このお話を書いた人に会ってみたい」って、人生でほぼ初めて思いました。他の小説を読んでいる時は、作品は作品だし、書いている人自体にはそこまで興味を惹かれることはないんです。でも、「村田さんってどういう人なんだろう、頭の中はどうなってるの?」とずっと気になってしまっていたので、今日はお会いできて本当に嬉しいです。


村田:私もお会いできて嬉しいです。ありがとうございます。


モモコ:お会いしたらめちゃくちゃきれいな人だから、感動しています。男性目線な感じで見てしまって、すみません!


村田:いえいえ、本を手に取っていただけて本当に光栄です。最初は、何を読んでくださったんでしょう。


モモコ:『消滅世界』です。芥川賞を受賞した『コンビニ人間』も好きだったんですが、一番印象に残っているのは『地球星人』。あまりに衝撃的で、面白いから読み進めたいのに、読めない。読んでいるこちらの心も体も痛くなってきて、何度も本を閉じたくなりました。


モモコグミカンパニーさん

モモコグミカンパニーさん


村田:わかります。私も『地球星人』を書いている時は、辛くて何度も書くのをやめたくなりました(笑)。


モモコ:今度の新刊も読ませていただいたんですが、性別を表に出すことが禁止されている「無性教室」は、『消滅世界』とちょっと繋がっているのかな、と思いました。


村田:そうですね。この本に入っている4本の短編の中で、一番古いものは「丸の内魔法少女ミラクリーナ」で2013年の夏、一番新しいものは最後に収録した「変容」で、去年の夏に発表したんです。1冊の本にまとめるまで間が6年あいてしまったんですが、そのおかげで、自分はずっと同じようなことを考え続けているんだなって気付けましたね。


モモコ:「丸の内魔法少女ミラクリーナ」は『地球星人』とちょっと繋がっている部分がありますよね。でも、最後まで本を閉じようとする気持ちにならず、楽しく読めました(笑)。主人公は33歳になっても魔法のコンパクトで魔法少女に変身して、会社の残業とかをやっつけるじゃないですか。こういう丸の内のOLさん、結構いそうだなって思いました。現実の自分を保つための「変身」ですもんね。現実で笑顔でいるために、現実とは違う自分の世界を持っている。ちゃんとした人だなって思います、ミラクリーナは。


村田:あの短編は雑誌の「ヒーロー特集」で書いて欲しい、という依頼だったんです。ヒーローというかヒロインが、自分の空想世界を誠実に愛していて、ちゃんと人を救うような小説にしようと思って書いたものなので、『地球星人』の地獄みたいな展開には行かずに済みました(笑)。


モモコ:私は普段小説を読む時は、主人公の気持ちに自分を寄り添わせて、「この小説の主人公が頑張っているから、私も頑張ろう」とか思ったりするんですけど、村田さんの小説だけはちょっと位置付けが違うんですよね。ガツンと殴られる、みたいな。同時に、自分の代わりに、誰かを殴ってもらえるような気持ちにもなるんです。

怒りや違和感だったものは、形を変えて、
自分の中に全部冷凍保存されているんです。(村田)


モモコ:村田さんの小説を読むと、ちょっとラクになれるんですよ。自分の人生は、自分で歩いていくものじゃないですか。何が幸せかなんて自分にしか分からないはずなのに、他人に人生の価値を決められて、それにしがみついてしまう自分もどこかにいたんですよね。ちゃんと結婚して、子どもを産んで、それが「普通」の「幸せ」だよね、みたいな。でも、村田さんの小説を読むと、「自分は自分でいいや」って吹っ切れる感覚になるんです。日常の中で感じる、ぶつけようのない怒りがちょっと晴らされる、というか。


村田:それは私が、違和感と呼んでいるものかもしれません。むしろ怒りって私、感じない感情なんです。あると思うんですけど、幼少期に壊してしまって。


村田沙耶香さん

村田沙耶香さん


モモコ:壊してしまった?


村田:そうなんです。幼少期に「いい子じゃないといけない」とか、「神さまが頭の中を見てる」と思いながら過ごしてきたので、怒りとかネガティブな感情を持っていると、罰が当たると思ったんですね。例えば何か怒りを感じた時も、その感情を分析して分析して、分析しまくると、怒りじゃない別のものになる。そうする癖がついちゃったんです。


モモコ:すごい!


村田:でも、怒りや違和感だったものは、なかなか簡単に消えるようなものじゃないみたいで。解剖したつもりでも、形を変えて、自分の中に全部冷凍保存されているんですよね。小説を書くと、それがどんどん解凍されて出てくるんです。私自身は怒っている感覚はまったくないけれど、小説を読んだ方からは「世界を恨んでいる村田沙耶香さん」みたいに思われることがよくあります。新聞の記者さんとかに、「世界に恨みを持ち、怒りを抱えている村田さんとしては、どう思われますか?」と聞かれたり(笑)。


モモコ:今のお話、めちゃくちゃ意外です。「変容」という短編は、世の中から怒りという感情がなくなっていることにある日突然気づいた主婦が主人公でしたよね。村田さんは怒りという感情は大切だと思っている側、主人公の側に感情移入して書かれたのかなと思っていたんですけど、もしかしたら……。


村田:どちらかというと、怒りをなくしちゃった、新しい世代の側に感情移入して書いていましたね。


モモコ:それは、今日話さないと全然わからなかった! 私が感情移入していたのは、「怒りが大切だ」ってわめいてる主人公の女性のほうだったんです。村田さんも絶対同じように考えているはずだって、勝手に思っちゃっていました。じゃあ、普段もあんまり怒らないってことですか?


村田:そうなんです。怒りとかもよくわからないし、昔から嫌いな人もいなくて。でも、20代前半の頃に意地悪なことをすごく言ってくる人の前で、気絶したことがあるんです。その人のこと、全然嫌いじゃないんですよ。なんで意地悪なこと言うのかなとか、全部調べ上げて頭では理解しているから、嫌いではないんです。ただ、体が拒否反応を起こしちゃったみたいで。もしかしたらこれが嫌いっていうことなのかもしれないなって、その時思いました。


モモコ:私は普段、全然怒らないんですけど、めちゃくちゃ怒りは感じるタイプなんですよね。でも、表にはあんまり出せないというか、出さないというか。それで、書くという行為になったりしているんです。エッセイとかなんですけど。前に小説も一回、書こうとしたことがあるんですけど、全然うまくいかなかったです。



村田:私は子供の頃から小説を書いて、自分の中にある何かしらのものを発散するタイプだったので、エッセイを書くのが最初は苦手でした。私は小説を書く時、最初に登場人物の似顔絵を描くんですけど、設定をつくっていくと、あるときから、女の子なり男の子なりが彼らの言葉で喋り出すんですよね。勝手に喋り出して勝手に動き出していったものを、ひたすら書いていく感覚なんです。エッセイだと顔を思い浮かべる「誰か」がいないから、何を書いたらいいかわからなくてずっと苦手でした。一回全部ぶちまけたエッセイを書いたらすっきりして、それから書けるようになったんですけど(笑)。

覚醒している意識の世界よりもずっとずっと広い、
無意識の世界から言葉が出てくる。それが楽しい。(村田)


モモコ:今のお話も意外でした。村田さんの小説は、村田さん自身が感じたりこうじゃないかって考えたことを、物語とか登場人物を通して伝えているのかなと勝手に思っていました。テーマというか、メッセージがすごくはっきりしているものが多いじゃないですか。


村田:書き出す時は真っ白で、何を書くかは決めないことにしています。でも、私の主人公たちってものすごい感情的で饒舌だから、書いていると勝手にメッセージを発してしまう。それは私の中に眠っているものなのかもしれないですけど、無意識の中にあるものであって、普段の私自身はあまり考えてないことなんです。だから自分でも書いていて「この人はこんなことを言い出すのか」と、びっくりすることのほうが多いんですよ。



モモコ:私も今、めちゃくちゃびっくりしました!


村田:ちょっとヘンな話をしちゃうかもしれないんですけど……。最近、ぬいぐるみを飼い始めたんです。


モモコ:何のぬいぐるみですか?


村田:ハリネズミです。『地球星人』を書く時、取材用に買ったぬいぐるみなんですけど、山田って名前をつけて可愛がっているうちにどんどん愛着が湧いてきて。ぬいぐるみが好きな人って、よく「ぬいぐるみは喋る」って言うじゃないですか。山田も、なんか喋ってるなぁというのがわかるようになってきたんですね。「村田は、締め切りがもうすぐあるのに、寝てていいのかな?」とか。そういうことを言われるのが、すごく楽しいんです。ぬいぐるみとの関係は人それぞれですが、私の場合は、自分の無意識で思っていることなのかもしれません。でも、覚醒している意識の世界よりもずっとずっと広い無意識の世界があり、小説を書くことやぬいぐるみを通して、自分の無意識の世界から言葉が出てくる。それが楽しい、という感覚が、私の中に常にあるのかもしれません。

▶▶初恋から小説まで、BiSHのモモコグミカンパニーが憧れの作家ととことん語ります! 村田沙耶香『丸の内魔法少女ミラクリーナ』刊行記念スペシャルインタビュー【後編】


書影

村田沙耶香『丸の内魔法少女ミラクリーナ』


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発売前試し読み▷ストレスフルな毎日をキュートな妄想でやり過ごせ!『丸の内魔法少女ミラクリーナ』



村田 沙耶香

1979年千葉県生まれ。2003年に『授乳』で群像新人文学賞優秀作、09年『ギンイロノウタ』で野間文芸新人賞、13年『しろいろの街の、その骨の体温の』で三島由紀夫賞とフラウ文芸大賞、16年「コンビニ人間」で芥川賞を受賞。他の著書に『殺人出産』『消滅世界』『地球星人』『となりの脳世界』『私が食べた本』『生命式』『変半身』など。

モモコグミカンパニー

2015年に結成された“楽器を持たないパンクバンド” BiSHのメンバー。多数の作詞を手掛けるほか、自他ともに認める読書家で、2018年にグループの歩みを綴った初著作『目を合わせるということ』が現在第12版の大ヒット。

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