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特集

有栖川有栖さんや久坂部羊さんらが絶賛! 医療系本格ミステリ『誰そ彼の殺人』著者・小松亜由美さんインタビュー

取材・文:小説 野性時代編集部 

この本に注目!

有栖川有栖さんや久坂部羊さんらの大推薦を受けた医療系本格ミステリ『誰そ彼の殺人』(幻冬舎)で、鮮烈なデビューを飾った小松亜由美さん。
本作について、お話をうかがいました。



――デビューの経緯を教えていただけますか。

小松:法医学教室に勤めながら、ミステリで作家デビューするのが人生の目標でした。十代の頃から小説を書き続けていて、別の筆名で「幽」怪談文学賞短編部門の最終選考に残ったこともあります。
 本作刊行のきっかけは、大ファンである有栖川有栖先生が塾長を務める創作塾の一期生になったことです。そこで作品を読んでいただくうちに、「一人でもう書けそうだから」と担当編集者を紹介していただき、短編を書きためていって、この度、書籍化しました。


――本作は仙台の国立大学の医学部法医学教室の解剖技官・梨木なしきかえでが、上司である准教授・今宮いまみや貴継たかつぐとともに、警察により運び込まれる死体から事件の謎を解くという筋書きです。ご自身のキャリアや趣味も、主人公の楓に投影されているのでしょうか。

小松:はい。楓が横溝正史の『獄門島』に出会って推理小説にはまり、法医学や科学捜査に興味を持ったことで解剖技官になったという経緯は私と同じです。小学生の頃にテレビドラマをて読んだ小説でした。それからミステリばかり読みあさるようになって、法医学を知り、自分も法医学教室で働けたらと思うようになりました。


――主人公が直面するのは、温泉旅館で不審死した編集者、顔面を破壊され手足が切断された沼の中の死体など、どれも特殊な遺体です。ご自身がお仕事をされる中で、このような事件に遭遇することもありますか?

小松:大事件は実際には多くなく、独居老人の孤独死などが多いです。看取る人がいないことが社会問題になっていますが、そのような状況で亡くなられると解剖することになります。他には通報遅延という、家族がいるのにご遺体を放置している場合の解剖も多いです。極度の貧困で葬儀が出せない、認知症や精神疾患で家族が亡くなっていることに気が付かない、年金詐取のため死亡届をわざと出さないなどの理由があります。
 大事件は、そのような日々の業務の合間に起こります。現実の事件からヒントを得ることはありますが、それをそのまま書くことはありません。


――四つの事件の意外な結末とともに、謎解きの際に解剖学以外の知識が多岐にわたって出てくることも印象的でした。どのように結末を考えていらっしゃるのでしょうか。

小松:結末は書きながら浮かぶ場合と、最初に思い浮かべる場合、両方あります。犯人も、途中で意外性がないと思えば、やっぱり違う人にしようと変えることもあります。
 収録作に出てきた天候の知識は、仙台にいた時に生活の中で知ったものですし、農薬は業務で知ったものです。ご遺体の死因を、置かれた状況や薬の影響や既往歴も踏まえて割り出すというのは執刀医に常に求められることですので、私も日々、知識をアップデートしていて、それが創作のヒントにつながることもあります。


――登場人物が魅力的で、会話でのやりとりや関係性も楽しめる作品です。このキャラクターはどのように生まれたのですか?

小松:各キャラクターに自己投影をしている部分もありますし、今まで出会った警察官や法医学者の面白いなという記憶やエピソードをピックアップし、組み合わせて作ることも多いです。特殊な世界のせいか、警察や法医学の分野にはあくの強い人が多くて、助けられています。私を知る周りの人からは、主人公は私そっくりだと言われています。驚くと「えっ!」と声を上げる癖は私と同じです。が、内面は楓の方が繊細で女性らしいかなと思っています。
 作中の会話は、過去のいろんな方とのやりとりが頭に浮かび、そのセリフをもらうことがあります。真面目すぎると堅苦しくなり、ふざけすぎてもよくないと思い、バランスを取るようにしています。


――他にこんなものを書いてみたい、という構想はありますか?

小松:横溝正史の影響で、村や絶海の孤島で事件が起きるものを書きたいです。生まれが秋田で東北大学にいたので、その影響もあります。
 本作は仙台を舞台にしましたが、東日本大震災の時、医師免許がある先生は現地に行けたのに、解剖技官は待つことしかできなかったので、東北を舞台にして個人的に盛り上げたいなという気持ちがありました。


――今後のご予定は?

小松:本シリーズ続編の長編を執筆中です。本作の最後に楓が夏休みを取ると言う場面がありますが、その旅先で事件が起こるという内容です。年内に書き上げることを目指しています。

小松亜由美(こまつ・あゆみ)
秋田県大仙市生まれ。東北大学医療技術短期大学部衛生技術学科を卒業し、臨床検査技師免許取得。『誰そ彼の殺人』が単行本デビュー作。


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