インタビュー 『かつくら vol.22 2017春』より

【「かつくら」presents】祝!『カブキブ』テレビアニメ化! 榎田ユウリスペシャルインタビュー
取材・文:「かつくら」編集部
大好きな歌舞伎を部活でやりたい! そんな夢を持って河内山学院高等部に入学したクロこと来栖黒悟が、個性豊かな仲間たちとカブキ部のために大奮闘する『カブキブ!』。
4月からTVアニメの放送も始まり、ますます人気を集めているこの青春歌舞伎物語をクローズアップしたスペシャルロングインタビューをお届けします!
初のテレビアニメ化はワクワク半分、不安も半分
――『カブキブ!』のテレビアニメ化、おめでとうございます!
榎田:ありがとうございます。
――御著作初の映像化ですが、初めてアニメ化の話を聞いたときのお気持ちを聞かせてください。
榎田:これまでもいくつか映像化のお話をいただいたことはありましたが、実現したことはなかったので、「わー、そうなんだ。本当になったらいいな」くらいの気持ちでした。もちろん、うれしかったのですが、ぬか喜びしないように自分を止めるもうひとりの自分もいて。なので、わりと半信半疑的な(笑)。監督さんたちと顔合わせをして、やっと「ああ、本当にアニメ化するのね」と思いました。
――打診があったのはいつ頃でしたか?
榎田:二年ほど前でしょうか。それから「スタッフ陣が決まってきましたよ」というお話になり、初めて顔合わせをしたのがちょうど一年ほど前だと思います。
――「本当になるんだ」と実感したときの心境はいかがでしたか。
榎田:これが漫画だったら絵があるぶんイメージしやすかったと思うんですが、『カブキブ!』は小説なので、どういう感じになるのかまったく想像がつかなくて、ワクワクする気持ちと同じくらい、不安に近い気持ちもありました。なにしろアニメになると思ってませんから、難しい歌舞伎の台詞もあるわけです。高校生の部活、という設定ではありますが、梨園の御曹司キャラもいますので、声優さんたちが大変なんじゃないかなと……。
――設定資料等の確認をしていくなかで、そうしたお気持ちに変化はありましたか?
榎田:そうですね。キャラクターの設定や背景画などが届くようになって、少しずつ具体的な想像ができるようにはなりました。というか、そもそも私はアニメのお仕事をよく知らないので、途中から「私があれこれ考え込んだってお役に立てるわけでもないし、アニメのことはみなさんにお任せして、私は自分のやるべき日々の原稿を粛々としよう」という気持ちに変わりました。あんまり浮かれていると仕事が手につかなくなってしまうので、なるべく平常心を保とうと。いまもそうですし、たぶん、放送開始日もそうじゃないかな。朝から平常心、平常心と言い聞かせ続けて、放送が始まる深夜には疲れ果てていそうな気がします(笑)。
――キャラクターデザイン原案はCLAMP先生です。装画を描かれているイシノアヤ先生のキャラクターとはまたひと味違う魅力がありますね。
榎田:もともとイシノアヤ先生の絵が好きでカバーイラストをお願いしているのですが、アニメは別のデザインになるということは予め聞いていて、それならいっそ小説とは違うタイプの絵にしていただいたほうがいいんだろうなとは思っていました。そうしたらまさかのCLAMP先生で……。非常にビッグネームな方を呼んでいただいたことで、制作陣の意気込みが伝わってきましたし、やりたい方向性も見えました。歌舞伎という題材をポップに演出する方向なんだな、と。私もアニメにするならそのほうがいいだろうと思っていましたし。
――著作がアニメ化されると、「そんなに細かい設定まで決めていなかったよ!」ということまで聞かれて困ったとおっしゃる方も多いですが、制作陣から質問されて驚いたことはありますか?
榎田:そんなことばかりでした。この学校はどんな学校で、制服はどんなデザインなのかとか。一応エンブレムがあることくらいは決めているんですけど、小説はあまり情報過多になると読者さんを混乱させてしまうので、あえて書いていなかったり、細かく決めていなかったりする部分も多いんです。だから、「何も決めていなくてごめんなさい! どうぞいいようにやってください!」って(笑)。いまさら私がひとつひとつ決めていっても、アニメとして統一がとれないと思うので、基本的にお任せしています。
――榎田先生から制作陣にリクエストしたことはありましたか?
榎田:『カブキブ!』は私が歌舞伎を好きで書きはじめた作品なので、歌舞伎の部分はしっかり描きだしてほしいというのはお願いしました。でも、そのくらいだと思います。脚本は原作に基づいた形にしてくださってますし、あとはもう、うちの子をヨロシクとお任せする感じで。
――アフレコには立ち会われたのでしょうか。
榎田:初回はご挨拶に伺いました。アニメのアフレコに立ち会うのは初めてだったので、いろいろ新鮮でおもしろかったです。収録を拝見したことで、自分のなかの「本当にアニメになるんだ」度がようやく九割くらいまで到達したように思います。
――その段階でも九割ですか(笑)。
榎田:ビクビクしてたんですね(笑)。歌舞伎は大変だからやっぱりやめます、って言われたらどうしよう、とか。
――確かに歌舞伎のシーンは大変でしょうね。特にキャストさんは相当苦労されているのではないかと。
榎田:歌舞伎俳優の先生がご指導してくださっているのですが、それでも一朝一夕にできるものではないでしょうし、そもそも発声方法からして、声優さんと歌舞伎俳優さんでは違うんですよね。本当にご苦労かけていると思います。小説の二巻で阿久津がおもむろに勧進帳の弁慶の台詞をいうところがあるんですけど、あの台詞、ものすごく難しいんですよ。実のところ、ストーリー的には勧進帳である必要はなくて、ほかの台詞でもよかったんですが、まさかアニメになるとは思わなかったから自分の好きな台詞を書いてしまっていて……。声優さんには本当にごめんなさい!って思いました。でも、みなさんとてもがんばってくださっているので、歌舞伎のシーンは見応えあるものになるはずです。声優さんのファンの皆様にも、楽しんでいただけるといいなと思っています。
――アニメについて特に期待していること、楽しみにしていることを聞かせてください。
榎田:視聴者のみなさんに楽しんでいただけることが一番ですね。私自身は、どうしても楽しむより緊張が勝ってしまうので(笑)。子どもの発表会を見る母親のような気持ちになるというか。冷静に見られるようになるのは、ある程度時間が経ってからだと思います。とにかくまず、みなさんに楽しんでほしくて、そうなったら私もとてもうれしい。これは小説も同じなんですよ。書いているときは自分の作品を客観的に見ることはできなくて、発売後、読者さんの感想を通してしか良し悪しを判断できないんです。しかも今回の場合、私は原作を書いただけで、ほかの大勢の人たちのお力で作られているものなので、作品との距離感までもが新鮮な体験ですね。いずれにしても、せっかく素晴らしい機会をいただいたので、これまで歌舞伎に興味がなかった人にも、『カブキブ!』のアニメを通して、歌舞伎っておもしろいんだな、ちょっと見てみようかなと思っていただけたらうれしいです。
歌舞伎の楽しさを伝えるなら、若い主人公がいい
――榎田先生は歌舞伎に限らず舞台がお好きだということで、バレエを題材にした青春BLも書いていらっしゃいますが、以前からいつか歌舞伎ものもやりたいと考えていたのでしょうか。
榎田:そうですね、だいぶ前から考えていました。ただ、そもそも私は歌舞伎よりも前に狂言が好きで、最初は狂言役者さんのお話を書きたいなと思っていたんです。だけど、狂言は一般的に、歌舞伎よりもっとイメージしにくいというか……商業小説で書くとなると、まだ私の手には負えないなというのがあって。そのうちに狂言だけでなく歌舞伎も見にいくようになり、歌舞伎ならコミックの題材にもなっているし、小説でも受け入れてもらえるんじゃないかと思ってお話を考えはじめました。
――そこでプロの歌舞伎役者のお話という発想はなかったのでしょうか。
榎田:私自身が歌舞伎を見はじめてからそれほど経っていませんでしたから、プロの歌舞伎役者さんを書くのはハードルが高いなと。逆に、歌舞伎のことをよく知らない自分でも好きになった、そういう歌舞伎の楽しさを伝えるのなら、若い主人公たちがいいんじゃないかなと思って、部活で歌舞伎をするというアイディアが出てきました。でも担当さんにそれとなくいったら、それとなく却下されたんですよ(笑)。
――あらら(笑)。
榎田:当時は角川ビーンズ文庫で書いていたので、ビーンズ文庫では難しいといわれてしまって。でも諦めていなかったんですよね(笑)。しばらくは歌舞伎をたくさん見たり本を読んだりして知識をためながら、話の輪郭をぼやーと考えていました。それで、ビーンズ文庫ではなく角川文庫のほうで書くことになったときに、「歌舞伎はどうですかね」ともう一度聞いたら、「そんなにやりたいなら……」という感じでOKをいただいたんです。
――大学のサークルでもなく高校の部活になったのは、より若いほうがいいという考えから?
榎田:そういえば、なぜか大学生は考えませんでした。恐らく大学生だと私のなかではちょっと大人すぎたんだと思います。十五、六歳のほうが無謀なことに挑戦できると思って、高校生の部活にしたんでしょうね。
――最初に生まれたキャラクターはやはり歌舞伎好きの主人公であるクロでしょうか。
榎田:クロです。まずは歌舞伎好きの男子高校生が部活を立ち上げる話という大枠があって、主人公が裏方を担うこともはじめから決まっていました。スーパースターを主人公にしたくなかったんです。天才型のスターには阿久津がいて……頭は悪いんですけど(笑)、それをプロデュースしていく、まさに黒衣の役回りをする主人公を書きたいと思いました。そのほうが歌舞伎を知らない人にも読んでもらいやすいかなという気持ちもあったと思います。あとの同好会メンバーはほとんどみんな同時に出てきましたね。女の子を入れることも最初から考えていました。
――芳先輩は『宮廷神官物語』の櫻嵐にも負けない、女子にモテモテの女の子です。
榎田:はい(笑)。私は本当にこういうキャラが好きだなと思いながら書きました。同好会メンバーはキャラが立てやすかったですね。元気のいい少し小柄な男の子の横にクール系のメガネがいるっていう感じで、トンボは当たり前のようにクロの隣にいましたし、キラキラした芳先輩がいて、丸ちゃんはなぜか最初から赤い縁のメガネをかけていて。すべての作品がそうではないんですが、『カブキブ!』の場合はわりとビジュアルも含めて思い浮かびました。
――同好会メンバーではありませんが、梨園の御曹司である蛯原はいかがでしたか? ご贔屓の役者さんのイメージを取り入れたりされたのでしょうか。
榎田:私、歌舞伎に関してはあまりご贔屓さんが決まっていないんですよ。演目ごとに、この役ならこの方が一番好きだなというのはあるんですけど、特別にこの方のファンというのはなくて。だからなのか、蛯原はビジュアルのイメージが固まるまでに少し時間がかかりました。小説は必ずしも外見について細かく書く必要はありませんから、髪型なんかもぼや~としてましたね。品行方正だけれど心から笑っていない感じの御曹司っていう、キャラクターの中身はスルッと出てきたんですけど、外見は曖昧なイメージのまま書いていました。
――作品を練っている段階で、もっとも力を入れたところを教えてください。
榎田:それはやっぱり歌舞伎の部分です。みんながどういうふうに歌舞伎の公演を実現させるのか。エンタメ小説なので、あまり現実的すぎてもおもしろみに欠けるでしょうし、かといってご都合主義になりすぎてもいけないですし。そのあたりのバランスですね。こんな都合のいいメンツが揃うわけがないと思われるでしょうけど。
――日舞ができたり、芝居ができたり、スター性があったり。
榎田:それに衣裳が作れたり。現実ではこんなにうまくいかないでしょうけど、架空の物語ではそういう楽しさがほしい。フィクション的なおもしろさを前面に出しながら、歌舞伎をするうえで出てくるトラブルや悩みをどう組み合わせていくか、というところに一番気を遣いました。
このロングインタビューの続きは「かつくら2017年春号」でお楽しみ下さい。
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