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レビュー

文明社会の闇に鋭く切り込んだ告発の書。今年のサイエンス書のトップ3は間違いなし!『砂戦争 知られざる資源争奪戦』

書評家・作家・専門家が《今月の新刊》をご紹介!
本選びにお役立てください。

(評者:竹内 薫 / サイエンス作家)

「砂戦争」……ぼんやりと本の題名を見てイメージしたのは、湾岸戦争みたいな中東のリアルな戦争の歴史読み物だった。しかし、1ページ目から、それが全くの勘違いであったことを思い知らされる。この本は、人間が築き上げてきた文明社会の「闇」に鋭く切り込んだ、環境破壊告発の書なのだ。

 レイチェル・カーソンの『沈黙の春』を読んだことがある人は、ははーん、ああいう感じの本なのかと思われるかもしれない。たしかに作者の意図はカーソンに近いかもしれない。だが、スタイルは全く異なる。

 カーソンの本は、どちらかというと寓話といった趣が強かったが、本書は、(ここは私の個人的な読後感になるが)ルポルタージュとエッセイの中間ではないかと感じた。統計的な数字がたくさん出てくるのだが、そういった環境破壊に関する数字があるにもかかわらず、あるところでは「サイエンス談義」、別のところでは「歴史の薀蓄」といった具合で、緩急のめりはりもあり、とても読みやすい文章なのだ。


書影

石弘之『砂戦争 知られざる資源争奪戦』


 これまで私は地球温暖化を始めとした環境問題には、かなり敏感な方で、いろいろと調べてきたし、発言もしてきた。だが、盲点があった。コンクリートジャングルという言葉があるが、そのコンクリートの正体が「砂」であり、これだけのビルが世界中に建っているということは、どこからか、膨大な量の砂が供給されているはずであり、その供給地に歪みが生じている……恥ずかしながら、サイエンス作家歴30年の私は、これまで「砂」という観点から環境破壊を考えたことが一度もなかったのである。

 川底から大量の砂を取ってしまうと、川の流れが大きく変わり、それまでなかったような大洪水の被害が出るようになる。また、動植物の生態系がずたずたにされてしまう。たとえば、中国の淡水に棲むヨウスコウカワイルカが絶滅の危機に瀕している(すでに絶滅しているのかもしれない)。

 さらには、川から海岸に砂が供給されなくなり、砂浜が消えてゆく。私が幼少時代を過ごした鎌倉でも、稲村ヶ崎の海水浴場は、「波打ち際が部分的に約50メートルも後退」して、もう海水浴場はないし、たしかに由比ガ浜も狭くなり、海が道路へと迫ってきている。

 その他、南太平洋のツバルが地球温暖化による海面上昇で海に沈みそうだ、という言説の疑惑が指摘されていたり、「砂マフィア」によってジャーナリストが殺害されている地域があることが明かされていたりと、これまでの常識が覆る、驚きの連続だ。砂という切り口で見ることにより、これまでの世界の見え方ががらりと変わる。

 私が危惧するのは、こんなに面白く、頭にガツンと来る本でありながら、あまり読者が書店で手に取ってくれないのではないか、という点である。新型コロナで人々の読書量が増えたとはいえ、どう考えても、「砂」というキーワードで人々が本を買うとは考えにくいからである。

 実を言えば、書評を依頼されてから、あまり乗り気でなく、昼飯の後、ソファに寝っ転がってこの本を読み始めたのだが、気がついたら外が暗くなっていた。いつのまにか、この本の面白さに引き込まれ、夢中になって読破してしまったのだ。

 今年、私が読んだサイエンス書のトップ3にまちがいなく入る良書だ。なんとか、より多くの人に読んでもらいたいものである。

石弘之『砂戦争 知られざる資源争奪戦』詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/321912000364/

評者:竹内薫
1960年東京都生まれ。サイエンス作家。YES INTERNATIONAL校長。東京大学理学部物理学科卒業。マギル大学大学院博士課程修了。TBS「ひるおび!」コメンテーターや日経新聞「今週の3冊」の評者も務める。


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