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レビュー

「思い出の味を再現してほしい」という奇妙な依頼はやがて……。和菓子職人と和菓子のお嬢さまのほっこりラブストーリー『いらっしゃいませ 下町和菓子 栗丸堂』

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(評者:片丘 フミ / カドブンレビュアー)

 子供のころ、お彼岸といえば、おばあちゃんが作ってくれる「ぼたもち」が何よりも楽しみでした。もち米にたっぷりの甘いこし餡。大人になって、売られている粒餡の「ぼたもち」を食べると、何か違うという感覚ともに、「いっぱい食べな~」と優しくお皿に盛りつけてくれたおばあちゃんの「ぼたもち」をまた食べたいなと、思ってしまいます。

いらっしゃいませ 下町和菓子 栗丸堂』は長い間愛され続ける伝統の和菓子の味を、未来へつないでいこうとする若い職人さんたちが主人公です。目次も「太子の蘇」、「わらび餅」、「栗饅頭」と美味しそうな和菓子の名前がズラリ。
 浅草で明治から続く老舗「甘味処栗丸堂」の四代目である栗田仁と、「和菓子のお嬢様」の仇名を持つくらい和菓子に詳しい鳳条葵(ほうじょうあおい)。付き合うことになったばかりの初々しい二人のやりとりで物語が進行していくのですが、二人の距離が縮まりかけると、まるで恋路を阻むかのように和菓子を巡る事件が起こります。例えば、「太子の蘇」では、初めての宿泊旅行先の奈良で、葵のかつてのライバル的な存在、「和菓子の太子様」の異名を持つ上宮暁(うえみやあきら)に出会います。上宮の実家の和菓子屋を偶然訪れた二人は、そこで「死んだはずの恋人から届いた手紙に書いてある思い出の味を再現してほしい」という珍客と鉢合わせます。困っている人をみたら手を差し伸べずにはいられない栗田と葵は、奇妙な手紙の謎解きと「太子の蘇」という創作和菓子の再現に挑むことになるのですが、意外な結末に……。
「わらび餅」、「栗饅頭」も目次名の和菓子が物語の鍵を握っています。そして本作、その描写がとっても美味しそうなのです。というか和菓子の製作過程が書いてあるため、自分でも作れるかも?

「はい、まずは強力粉と薄力粉をふるいにかけ、そこにドライイーストを混ぜて、湯と塩を加えます。そして捏ねたものを一次発酵。やがてイーストのいい香りが漂ってきます。サイズが二倍程度に膨れあがったら小さく切り分けまして、白餡と栗の甘露煮を包んで二次発酵。あとは蒸すだけで、蒸し饅頭のできあがり」(p.268より)

 ただし、手順通りに作っても再現できないものもあります。それは作った人と食べた人の想いです。あくまで個人の主観である味は、それを食べた時の気持ちと強く結びついているのではないでしょうか。「思い出の味をもう一度食べたい」というリクエストに応えることは、腕利きの職人である栗田ですら困難です。だからこそ、栗田や葵、上宮たちは過去の製法を守ることに終始せず、新しく変えていくことで、食べてくれる人がいつまでも変わらず「美味しい」といってくれるような工夫を凝らします。
 作った人と食べた人の間で愛情がつながっていくこと、それが「美味しい」の原点なのだと思わずにはいられない和菓子のストーリーは、味わい深く、品のある優しさがつまっています。


イラスト:わみず


似鳥航一いらっしゃいませ 下町和菓子 栗丸堂 「和」菓子をもって貴しとなす』詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/321912000286/


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