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レビュー

奇想が時を翔けるプリズン・ミステリー 『時喰監獄』

書評家・作家・専門家が《今月の新刊》をご紹介!
本選びにお役立てください。

(解説者:大矢博子 / 文芸評論家)

 大学生ふたりのふんわりしたミステリだと思っていたら、最後はとんでもないところまで連れて行かれたデビュー作『夜の床屋』(創元推理文庫)。
 個性的な海賊集団〈南十字星〉が登場し、エキサイティングな海洋冒険エンタメだと思っていたら、孤島での連続殺人事件へとなだれ込む『海賊島の殺人』(同)。
 週末だけ探偵の仕事をする男性コンビが挑むささやかな日常の謎……と思っていたら、予想外に大きな事件へ発展する『週末探偵』(文藝春秋)。
 作品数はまだ少ないが、沢村さわむら浩輔こうすけのミステリは常に予想を裏切ってくる。いや、そもそもミステリとは予想を裏切ってナンボのものなのだが、沢村浩輔は「◯◯と思っていたら××だった」というのを、謎解きの時点ではなく構成で仕掛けてくるのだ。だから、犯人やトリックの前に「何が起きているのか」に惹きつけられる。
 新作時喰じくう監獄』でも、その構成の巧さは遺憾無く発揮された。こと「何が起きているのか」にかけては既刊随一だろう。
 舞台は明治時代、北海道の原生林の中にそびえる第六十二番監獄だ。収監されたら二度と出られないと噂されるこの監獄から、囚人の赤柿あかかきが脱走を試みる。ところが彼の前にいきなり謎の男が現れ、予定が狂った赤柿は脱獄に失敗。ケガをした謎の男も監獄の診療棟に収容されてしまう。
 続いて登場するのは、新たに収監されることになったふたりの人物だ。主人公と言っていいだろう北浦きたうらと、帝都の私立探偵を自称する青年・御鷹。御鷹みたかはどうも何らかの目的を持ってこの監獄にやってきたらしい。
 さらにここまでの中で、この監獄に内務省の捜査官や警察の密偵が潜入していること、典獄(旧制監獄の長)が何やら悪事に手を染めているらしいことなどが読者に提示される。
 脱獄未遂犯、探偵、潜入捜査官、密偵、典獄の息のかかった側近や囚人、そして典獄に反感を抱く看守長。それぞれの思惑が絡み合う中、北浦はいつしか事件の中心へ押し出されていくことになる——。
 と書くと時代ミステリのように思えるが、九十ページほど読み進めたところで物語は意外な展開を見せる。全体の約三分の一のところでいきなり読者は「◯◯と思っていたら××だった」を体験することになるのだ。
 うーん、どこまで明かすべきか。本書は単なる時代ミステリではなく、実は「時間」にまつわるSFミステリである、というところまでは言ってもいいだろう。
 ここからは一気呵成だ。新たな推理の足がかりを与えられたことで、読者の脳裏にはいくつかの筋が浮かぶはず。だがまだ先がある。「そういうことか」と読者がぼんやり見当をつけた頃合いを見計らって、著者は二の矢三の矢を放ってくるから侮れない。何が起きているのか、いくつものパーツがつながりそうでつながらない、その焦れったさと言ったら!
 それにしても、見事な構成だ。「時間」というヒントが与えられた途端、監獄という閉鎖空間の物語が、時間という無限の広がりを持つ舞台へと変化するのだから。
 場所と時間——しかも、限られた場所と可変の時間という相反するふたつの要素が何を生み出すか、想像していただきたい。閉鎖空間ならではの限られた人物・限られた手段が生み出すスリルと、縦横無尽な「時間」の世界が生み出すスペクタクル。それぞれを味わえるだけではなく、それらが絡み合って生まれる〈真相〉をも堪能できるのだ。一石二鳥というか一挙両得というか、実にトリッキーにしてスケールの大きなミステリなのである。終盤は興奮と納得の連続。怒涛のカタルシスに大満足の一冊だ。
 なお、気になるのは帝都の探偵・御鷹である。飄々とした、とても魅力的な人物である上に、彼の持つ〈設定〉が一度限りというのはもったいないにもほどがある。別作品での再登場、いや、シリーズ化を熱望する!

ご購入はこちら▶沢村浩輔『時喰監獄』| KADOKAWA


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