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レビュー

古代の国際交流と移住が、投げかける問い 『渡来人と帰化人』

 私が通っているJR御茶ノ水駅界隈では、欧米系の旅行者と出会うことは珍しくなくなった。明治大学大学院がある校舎(グローバルフロント)に入ると、中国語や朝鮮語が日常的に飛び交う空間である。このように中国・韓国の留学生はきわめて多いが、彼・彼女らが話す言葉でしかわからない場合が多い。ほとんど毎日が、グローバル化した世界にいる。
 昨年は、国会で「出入国管理及び難民認定法」の改定が議論され、「技能実習」の問題で紛糾したことはまだ記憶に新しい。また、ヨーロッパやアメリカでは「移民問題」が深刻化しているが、日本ではきっちりと外国人の受け入れ問題を議論しているとも思えない。こうした移民問題は、近現代に特有なことなのであろうか。
 古代史研究者にはよく知られた問題かと思われるが、平安時代初期に『新撰姓氏録しんせんしょうじろく』という書が出た。現在は、省略された抄録本が残されている。一言でいえば、この書は「畿内の氏族書」である。
 左・右京、山城、大和、摂津、河内、和泉の畿内諸国に居住する一一八二の氏姓について、基本的には皇別(天皇・皇子の子孫)・神別(天つ神・国つ神の子孫)・諸蕃しょばん(朝鮮半島・中国から渡来した移住民)の三種類に区分した系譜集である。このうち諸蕃は三二六氏を数え、氏の割合でいえば約二七・六%となる。つまり一〇人のうち、ほぼ三人が渡来系移住民であった。読者の多くは、「そんなに多いの」という感想をもたれるであろう。
 また、長岡遷都と平安遷都を実施した桓武天皇の生母である高野たかのの新笠にいがさは、百済系移住民のやまと氏出身である。死亡時の伝記に「きさきの先(新笠の先祖)は、百済の武寧王の子純陀太子より出づ」(『続日本紀』延暦九年(七九〇)正月十四日辛亥しんがい条)と記す。そのため桓武は、「百済王たちはが外戚なり」と述べている(同年二月甲午条)。天皇家の血筋には諸蕃の百済王族が関係していた。
 以上のように、列島のグローバル化は皇族・豪族を問わず古代から進んでいたのである。
 さて、「帰化」とは「遠方の人、化をうやまひて内帰するなり」(職員令大宰府条義解)という意味の律令用語であり、王の徳化を慕って来た人が王化に浴することを意味する。『日本書紀』にもしばしば出てくる、中華思想に基づく言葉である。近年の教科書では、「帰化人」に代わって「渡来人」の語を用いて、客観的叙述をめざしているようにみえる。
 しかし、はたして言葉を換えるだけで事の本質が解決できるのか、本書はこの問いに真正面から答えようとした待望の書といえよう。
 著者は、すでに「渡来人」「民族支配」「国際交易」「越境」問題を論じて来た。今回は、著者の渡来人・帰化人解明への並々ならぬ情熱が伝わってくる著作である。
 本書は、Ⅰ「帰化人」か「渡来人か」、Ⅱ中国大陸から倭人の国へ、Ⅲ大王と地域首長と渡来人・渡来文化、Ⅳ支配思想・支配方式の渡来文化、Ⅴ帰化人誕生の国際環境、Ⅵ渡来系氏族の変質と「帰化」の転換、という六章立てである。
 そこでは時系列に論点が整理され、弥生時代から飛鳥時代までの各時期における渡来・帰化問題について、時代的特徴が叙述されている。大陸・半島からの「移動」の視点を重視し、渡来人・渡来系氏族と渡来文化、そして帰化人の問題が、「日本」の〈内〉と〈外〉との枠組みを介して、網羅的に取りあげられている。
 日本列島の文明化に果たした、大陸・半島との交流と渡来系移住民の役割は大きい。現在の外国人問題を考えるうえでも、まずは古代日本における歴史的経験がどのような意味を持ったのか、歴史を振りかえる必要がある。時宜を得た、知的刺激を与えられる一冊である。


書誌情報はこちら>>田中 史生『渡来人と帰化人』


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