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レビュー

『十二国記』の小野不由美が描く、もう一つの傑作シリーズ。戦慄のミステリ&ホラーが文庫化『ゴーストハント1 旧校舎怪談』

文庫巻末に収録されている「解説」を特別公開!
本選びにお役立てください。

(解説:池澤春菜 / 女優・エッセイスト)

 渋谷サイキックリサーチへようこそ!

 こちらははじめて? それとも以前から? もしかして名前が違った頃からの常連さんでしょうか?

 いずれにせよ、ようこそ。やっぱりこちらにいらした、ということは、怖いお話がお好きなのでしょうか? あ、でも怖い話は嫌いだけど、このシリーズだけは別! って方もたくさんいらっしゃいますし。いやぁ、それも納得の面白さですよねぇ。

 かくいうわたしも……あ、わたしはただの通りすがりで、実はバイトでも何でもなくて……は! 見つかりました! あ、じゃあ後はあちらの、暴力的に顔が良くて壊滅的に性格の悪い所長さんか、めちゃめちゃに感じが悪くて客商売に1000%向いていない助手の方か、あとは一番おすすめの愛想の良い女子高生に引き継ぎますので。

 さぁ、ゴーストハントシリーズ再び、です。

 講談社X文庫ティーンズハートで刊行されたのが1989年~1992年、リライト版が2010年~2011年にかけて。実に30年以上にわたって愛される、これ自体が「事件」とも言える作品。

 ポイントその1は、やっぱり、怖いこと。でも、怖いってどういうことでしょう。知っているものが怖いのか、知らないものが怖いのか。どちらかというと、お化けだって病気だって、知らないものの方が怖い気がします。幽霊の正体見たり枯れ尾花、じゃないけれど、いざ知ってみたら大したことないものが殆ど。じゃあ、知っていると思っていたものが、本当は全然知らないものだったら? わたしは、これが一番怖いんじゃないかと思うのです。

 仲良しだと思っていた人が、実は裏で。

 ヘルシーだと思ってもりもり食べていたものが超高カロリー。

 わたしが聞いた中で一番怖かったのは(以下、本当に本当に怖いので、駄目な人は飛ばして下さい)、海外に住んでいるお友達が、お米を炊いて食べた後によく見たらシラスの炊き込みご飯みたいな目がたくさんあった、というものです。つまり、小さなアレがたくさん……ぞわわ。

 わかったと思った瞬間に裏切られる、大丈夫だと思っていたのに駄目だった、ようやく朝が来たと思って隠れ家から飛び出したら……その時の怖さはピカイチです。本シリーズはその緩急の付け方、裏切られ方が芸術的!

 今回、解説を書くためにゴーストハントを読み返してみて(勢いで全巻)、改めて思いました。やっぱりこのシリーズは、極上に面白くて、極悪に怖いです。

 ポイントその2は、個性豊か、という言葉だけでは収まりきらない登場人物達。

 麻衣まいとナルの出会いから始まる第1巻『旧校舎怪談』。麻衣の言葉を借りれば「とんでもなく偉そうで、自信家の――天上天下唯我独尊的ナルシスト」のナルこと渋谷しぶや一也かずや。そこにわらわらと加わってくる、自称他称の霊能力者達。

 ど派手な見た目にきつい性格なのに、実は巫女さん、松崎まつざき綾子あやこ

 長髪のベーシストに見えて、高野山こうやさんを下山した坊主のぼーさんこと滝川たきがわ法生ほうしょう

 口を開けばめちゃくちゃな関西弁が飛び出す、金髪美少年、エクソシストにして神父のジョン・ブラウン。

 まるで日本人形、おかっぱ着物姿の美少女霊媒師、はら真砂子まさこ

 普通は巻を追うごとに1人ずつ追加されそうなところを、惜しみなく1巻で全員投入する小野さん凄い。誰が主役でもお話が書けちゃいそうだけど、だからこそ、真ん中にいる麻衣が光るのです。そう、このシリーズの魅力は麻衣が担っていると言っても良いのでは?

 怪異に対して、知識もなければ先入観もない麻衣だからこそ、素直に向き合うことができる。アクの強いメンバーに一歩も引かない気の強さ、ナルに対しても容赦のない口の悪さ、でもまっすぐで勝ち気で優しい。とんでもない「普通の女の子」なのです。だからこそ、読んでいるわたしたちは、麻衣の目線を通してこの世界に踏み込んでいくことができる。

 そしてポイント3。登場人物を縦糸とすれば、横糸を担うのが、ミステリの手法で描かれたホラー。わからない恐怖を描くホラーと、わかる面白さを描くミステリは一見相反するように見えるけれど、実はとても相性が良いのです。一つずつの謎を丹念に追いかけ、解明し、そして最後に「一つだけ残っている恐怖」ときたら!

 その謎の解明方法が、登場人物それぞれで違うのが面白い。言うなれば、麻衣をワトソンにした、名探偵大集合。徹底した証拠主義もいれば、動機から探るタイプ、ほぼ勘で推し進めるタイプ(それぞれが自信満々で謎を解こうとした結果、むしろかえって謎が深まっている気もしますが)。各違ったメソッドで謎を追いかけ、最後にナルがそれをまとめて、怪異を解明する。そのプロセスはしっかり科学的で論理的。どちらかというとわたしはSFの人なので、わからないものが気持ち悪いのです。『旧校舎怪談』で言えば、黒田くろだ女史タイプが苦手。でも、ゴーストハントの面々は、いずれも明快で、どちらかというと理屈っぽい。データ至上主義のナルを始め、実証を重んじ、「何故」をきちんと解きほぐしていく。この過程があるからこそ、最後に残った真相の怖さが際立つわけです。

 本書で集結した面々は、続く巻でますます深く、恐ろしく、そして危険になる謎に挑みます。

 古い洋館、西洋人形、子どもにまつわる呪いを描いた恐ろしくも悲しい第二巻『ゴーストハント2 人形の檻』。

 とある女子校で同時多発した怪異、そして超能力を使えると噂の女生徒、学校にまつわる呪詛じゅそとは。第三巻『ゴーストハント3 乙女ノ祈リ』。

 第四巻『ゴーストハント4 死霊遊戯』で一同が追うのは、ヲリキリさまという謎の遊戯、頻発する怪現象。ここから加わる新メンバー、安原君が良いキャラなのです。

 そしてシリーズ最恐とわたしが思う第五巻『ゴーストハント5 鮮血の迷宮』。増改築を繰り返した異様な建物で起きる失踪事件。この巻は怖い、本当に怖いです。

 さらに違った種類の怖さの第六巻『ゴーストハント6 海からくるもの』。前回が洋風物理的に殴られる恐怖なら、これは和風じっとりからめ手恐怖。能登半島にある老舗旅館、代替わりの度に大量の人死が出る。ついにナルまでもが悪霊に取り憑かれて戦線離脱。

 全ての謎が解明される第七巻『ゴーストハント7 扉を開けて』。ここまで共に歩んできたこのメンバーだから、そして麻衣だからこそ見いだせた解決と決断。

 いずれも極上で極悪、ここから始まる物語をどうぞお楽しみに。



小野不由美『ゴーストハント』特設サイト


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