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レビュー

正反対の哲学をもつ二人の医師が絶望の中に隠れた希望を探し出す 『最後の医者は雨上がりの空に君を願う』

 リアル版「ハチクロ」と話題を呼んだノンフィクション『最後の秘境 東京藝大:天才たちのカオスな日常』の著者・二宮敦人(にのみやあつと)は、フィクションの作り手でもある。一昨年刊行の文庫書き下ろし『最後の医者は桜を見上げて君を想う』は、ノンフィクションで培った取材力を医療の世界で発揮しつつ、作家ならではの想像力で「極端」を導き出しキャラクターへと転化してみせた。積極的に余命宣告を行い、患者に死を受け入れよと歯に衣着せぬ物言いで促す医師、桐子(きりこ)。奇跡の到来を信じ最後まで絶対に治療を諦めない、患者にも生を絶対に諦めさせない医師、福原(ふくはら)。東京の武蔵野七十字(むさしのしちじゅうじ)病院に勤める二人の「極端」な哲学を持つ医師が、互いの意見をぶつけ合い、時に手を結ぶ。
 シリーズ第二弾『最後の医者は雨上がりの空に君を願う』は、前作の「事件」がもたらした結末から始まる。院長である父から厳しい叱責(しっせき)を受けた福原は、院内で閑職に追いやられた。一方、病院を放逐された桐子は、雑居ビルの一室で無認可の診療所を開いていた。文字通り離ればなれになった二人の医師が、運命に引き寄せられるように、患者を介して再会を果たす。
 上下巻にわたって(つづ)られる全三章は前作同様、「とある○○の死」という題が付けられ、「○○」の中に入る患者が必ず死ぬ。ハートウォーミングな物語を求めた人にとっては、劇薬だと感じられるかもしれない。特に、第一章「とあるチャラ男の死」はダークさの極みだ。バーで働く遊び人の駿太(しゅんた)が、同棲中の恋人・美穂(みほ)から別れと共に、HIV陽性だったと告げられる。一人称多視点が採用され、駿太と美穂の視点をスイッチしながら進んでいく物語には、医師として二人と出会う桐子と福原の視点も要所要所で挿入されていく。
 美穂は自ら情報を集めて福原の元へと辿り着き、治療のための正しい知識を得て、希望の礎を切り開いた。だが、駿太は現実から逃げ、自分に都合のいい屁理屈をこね回し、病気と向き合おうとしなかった。対照的な行動を取る二人の運命の記述は、日本の医療における「情報格差」の問題を照射する。財産の多寡ではなく、勇気をもって自ら手に入れようとする情報の多寡こそが、この社会において絶望と希望の強烈なコントラストを発生させるのだ。それをより濃く色付けるのが、桐子と福原、二人の医師の存在だった。
 第二章「とある母親の死」、第三章「とある医者の死」は、桐子と福原がそれぞれの哲学を培った経緯にまつわる過去編だ。病気によって人生が大きく変わるのは、本人だけではない。家族や、その人物に愛情をもって接する人々もまた、変わる。例えば、「僕の体は、この世界のこと全部、嫌いなんだ」と言っていた少年が、上巻のラストで予期せぬ行動を起こす。その行動が、下巻の序盤である人物のこんな言葉を引き出す。「あなたの中に希望がないなら、そばにいる誰かの中に、希望はこっそり隠れてる」。
 その頃にはもう、劇薬的で、ダークな印象は消えているだろう。このシリーズは、桐子と福原という正反対のアプローチを試みる二人が船頭となり、絶望の中に隠れた希望を探し出す物語なのだ。

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