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特集

出版社の垣根を越えた「松岡圭祐 夏の共同フェア“ 戦争の真実をみつめる感動の2冊 ”」書店展開中!

佐藤 優氏(作家・元外務省主任分析官)も「圧倒的面白さから伝わる歴史のリアル!」と推薦する2冊が、出版社の垣根を越えて共通帯でフェア展開中! エンターテインメント作品としての魅力も十二分に備えた傑作です。今一度、あの戦争を見つめなおすきっかけとしても超おすすめです!

人としてどう生きるべきかを問う二作

さわや書店フェザン店 長江貴士

 戦争の物語だ。だから、不謹慎かもしれない。でも、こう言いたい。「面白かった」と。
 戦争の物語だ。けれど、今読むべき物語でもある。何故ならこの二作は、「人としてどう生きるべきか」を強く問う物語だからだ。

「戦争」というのは、僕にはとても遠いものに感じられる。もちろん、世界中のどこかで常に戦争が行われていることは、情報として知っている。瓦礫の山で暮らす人々や、難民キャンプで飢えている子供たちの姿も映像で見る機会はある。けれどそれらは、僕の「生活」に入り込んではこない。知らなくても、無視しても、生きていける。生きていけてしまう。

 もっと言えば、自分の「日常」こそが「戦場」なんだ、と感じている人もいるだろう。ブラック企業での就労、わが子の保育園への入園、奨学金の返済……。ただ目の前の現実を生きていくだけで精一杯なんだ。そんな実感の持てない「戦争」のことなんか構っていられない、と思いながら歯を食いしばって生きている人もたくさんいるはずだ。

 僕も同じだ。今、僕は岩手県に住んでいる。東日本大震災で甚大な被害を受けた地域からも距離的に近い場所だ。しかし震災時、僕は神奈川県に住んでいた。その当時、酷いことが起こった、と確かに思った。けれど、やはり被災地の現実は、僕の「生活」に入り込んではこなかった。間接的な影響――例えば計画停電、あるいは、勤めていた書店での荷物の配送手続きの変更など――の方が、僕にとっては重要な問題だった。

 そんなわけで、僕はこの二作を、どうしても実感が遠のく「戦争」を扱った物語として紹介するつもりはない。

 生きている限り、僕らの「生活」には、常に制約がある。属している集団による制約だ。学校、会社、ご近所、都道府県、国など、僕らは否が応でも何らかの集団の中に属さざるを得ない。そして、その集団による有形無形の圧力にどう反応するのかを、常に選択しなければならない。

 集団が間違った方向に向かっている時、人はどう振る舞うべきか――。
 この二作はそのことを教えてくれる作品だ。
 どちらも、二つの物語が並行して展開され、それらが中盤で絡まり合っていく構成だ。

八月十五日に吹く風』では、「キスカ島の救出作戦」と「米軍の日本語通訳者の葛藤」が描かれる。ベーリング海にある島で孤立した5000人を超える日本兵を救出する無謀とも思える作戦と、『源氏物語』を読んで日本に魅せられ、後に日本に帰化することになるアメリカ人の若者の奮闘が両軸として展開される。そしてその二つの物語から、日本の終戦に関する大きな疑問を解き明かす流れが生み出されていく。終戦直前に原爆を投下するという無慈悲さにさらされながら、何故日本は比較的平穏な終戦を迎えることが出来たのか――この疑問に答える物語なのだ。

ヒトラーの試写室』では、「宣伝に力を入れていたヒトラーの元で映画を作る者たち」と「円谷英二の元で特殊撮影技術を学ぶ男」が描かれる。大衆心理を誘導するために映画を有効活用しようと模索するゲッベルス宣伝大臣は、イギリスの豪華客船「タイタニック」の沈没を描く映画の撮影を決定する。一方、GHQが「本物だ」と信じるほどの真珠湾攻撃の映像を撮影した円谷英二の元で、あらゆる創意工夫を駆使して不可能を可能にする手伝いをしていた男は、戦時中、ヒトラーに請われてドイツへと向かう。彼らが邂逅したことで生まれた、特殊な技術により「本物」を見失った者たちが手を染めたとある「事件」が、歴史の流れを一変させたかもしれないと想像させ得る物語だ。

「戦争」というのは、集団の圧力として最たるものだ。国家が一丸となって取り組まなければならないとされる事柄であり、集団の進む方向に異議を唱えることは非常に困難だろう。しかし、そういう中にあっても「正しい決断」を貫いた者がいる、という事実を知ることは、僕らの勇気になる。

「正しさ」というのは、同時代には判断出来ないことも多い。外務省の意向を無視し、無断で難民たちにビザを発行し続けた杉原千畝の行動のように、後からしか評価し得ないものも多い。だからこそ僕らは、「正しさ」を貫くために勇気を発揮する覚悟を持たなければならないのだ。

 僕らは知っている。財務省が森友文書を改ざんした、という事実を。そこにどんな力が働いていたか、もちろんそれは分からない。しかし、個人が個人の意志だけで成したことではない、と誰もが感じていることだろう。そこには、何らかの形で集団が関わっている。同じだ。この二作で登場人物たちが立ち向かわなければならなかった現実と同じ事態に、僕らはいつだってぶつかる可能性があるのだ。

 集団の力が強くなる時、僕らは「守るべきもの」を見失いがちだ。本当に「守るべきもの」を蔑ろにして、集団の圧力に屈してしまうこともある。そうやって、「守るべきもの」を手放してしまった後悔に苦しんでいる人も、たくさんいるのではないか。

 僕らは生まれてくる時代を選ぶことは出来ない。それでも僕らは、この二作を通じて知るだろう。どれだけ正しくない時代に生きていても、人として正しく生きていくことは出来るのだ、と。


松岡圭祐(まつおか・けいすけ)
千里眼」「万能鑑定士Q」 「探偵の探偵」 など大人気シリーズを多数持つベストセラー作家。 『黄砂の籠城』 『黄砂の進撃』『『生きている理由』ほか著書多数。


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