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レビュー

中世史から陰謀論へのユニークなアプローチ 『陰謀の日本中世史』

 陰謀論は一種の麻薬である。ものごとの因果関係を単純化して「これが悪い!」と指摘し、世界や歴史の「真実」をわかった気にさせてくれる。その魅力に、われわれはいけないとわかっていても、つい毒されてしまう。フリーメーソンや地震兵器ぐらいならば耐性もあろうが、コミンテルンや反日勢力、また安倍官邸や日本会議となると途端にあやしくなってくるし、代替医療や疑似科学までくればもう目も当てられない。
 本書は、あのベストセラー『応仁の乱』(中公新書)をものした呉座勇一(ござゆういち)が、専門家であれば黙殺するであろうこれらの陰謀論に、あえて取り組んだ注目作である。といっても、社会評論や近代史に転じたわけではない。著者は、あくまで中世史の分野から、ユニークなアプローチをする。陰謀論はしばしば今日の政治対立やイデオロギーと絡まり合って克服しにくいが、遠く離れた中世史の陰謀であれば、われわれは虚心坦懐に陰謀論の法則性を学べ、それへの耐性もつけられるのではないかというのだ。
 なるほどと思って読み進めると、陰謀論のパターンがあまりに変わらないことに驚かされる。たとえば「結果から逆算した陰謀論」。われわれは、最終的な勝者がすべてを見通し、状況をコントロールしていたと思いやすい。そのため、平清盛、源頼朝、足利尊氏、徳川家康らはしばしば、謀略の限りを尽くして政敵を陥れていった、天才策略家のように描き出されてしまう。
 同じようにわれわれは、大きな結果をもたらした大事件には、その結果にみあうだけの大きな原因を求めがちだ。本能寺の変はまさにそうで、天下統一を目前にした「天才」織田信長の非業の死の原因が、「ただの秀才」明智光秀の怨恨だけではなんとも物足りない。きっと裏があるはずだと、「黒幕」探しが盛んになる。朝廷、足利義昭、豊臣秀吉だけではなく、イエズス会までその候補にあがるのだから始末に負えない。
 これにたいし著者は、先行研究を検討し、現存史料を読み解くことで、つまりオーソドックスな歴史学の方法で、丁寧に反論を加えていく。「初の武家政権を樹立することになる頼朝には、手本がなかった。彼は常に試行錯誤を迫られていたのであり、将来を展望することは極めて困難だった」「織田信長の対人間関係構築はお世辞にも上手とは言えない」「勝負というものは、双方が多くの過ちを犯し、より過ちが少ない方が勝利するのである」——。
 そこからは、それなりに優秀で合理的ではあるものの、未来を見通せない人間が、さまざまな利害関係のなかで、運にも左右されながら、必死に思考し行動していたという、生々しい姿が浮かび上がってくる。これは快刀乱麻を断つ英雄譚よりも滋味に富み、うんうんと納得してページをめくらされる。良薬がかならずしも口に苦いとは限らないのだ。
 ただし、本書は「中世史の真実」を示したものではない。著者はかねて自分で考える力を身につけてほしいと述べている。読者の前で陰謀論をひとつずつ解体し、現時点で確からしい仮説を組み立ててみせるのも、歴史学の分析法と思考法を示し、その応用を促すためにほかならない。それゆえ、専門家の見解だからと本書の結論部分を鵜呑みにするのでは、その意図を裏切ることになるだろう。
 もっとも、これは杞憂に終わるにちがいない。本書で示されるさまざまな陰謀論のパターンはたいへん示唆的で、身近な近代史や現代社会の陰謀論についても「これはどうだろう」といつの間にかあてはめて、考えさせられてしまうからだ。
 ちなみに、本書は『応仁の乱』がベストセラーになったので、急いで書かれたと思われるかもしれないが、そうではない。やや拍子抜けするその理由はあとがきで確認してもらうとして、その点もじつに本書らしい。安易な「陰謀論」に陥るなかれと、最後まで教えてくれる一冊である。


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