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レビュー

蛭子能収71歳、はじめて終活を考えた。でも、やっぱり『死にたくない』。

書評家・作家・専門家が《今月の新刊》をご紹介!
本選びにお役立てください。

(評者:菊池良 / 作家)

「蛭子能収」という人物は不思議な存在だ。タレントとしてバラエティ番組に出演しては天然な振る舞いで視聴者を笑わせる。そういった親しみやすい面を見せる一方で、本業の漫画で描くのはシュールでよくわからない内容。特に初期作品はバイオレンスな要素も多く、テレビで見せる顔とのギャップがすごい。
 そんな蛭子さんのエピソードで有名なのは、葬式に出ると笑いが止まらなくなってしまうというもの。理由は本人もわからず、我慢しようとすればするほど笑ってしまうので、葬式に出席したくないそうだ。「死」と接したときに笑ってしまうのは、蛭子さんの一筋縄ではいかない内面を象徴したエピソードである。そんな蛭子さんが「死」と真正面から向き合った本を書いた。タイトルは『死にたくない』。
 本書は蛭子さんが「幸せで楽しい人生」を送るためになにをやっているのかを書いた本だ。この本が蛭子能収という人間の「総決算」であり、「人生の結論」を出すとまで言う。
 蛭子さんをテレビで見ている限りでは、とても元気なように思える。旅番組でロケに出るし、バラエティではいじられて笑いを取る。しかし、そんな蛭子さんがもう71歳というから驚きだ。あと四年で後期高齢者である。会社員だったらとっくに定年退職している年齢。テレビ番組の企画で、医者に「軽度認知障害」と診断されたこともあると明かす。だが、それでもタレント活動をつづけ、マンガを描くこともやめない。マネージャーには「ねえ、仕事ある?」と言うのが口癖だという。十分働いたのだから、もう隠居してもいいのではないだろうか? なぜ71歳になっても働いているかというと、それも「死にたくない」からだそうである。そして、それが結果的に日々の活力になっているという。
 蛭子さんが語る処世術、哲学はとてもあっけらかんとしていて、だからこそ本質的な気がしてくる。「死」なんてとても複雑な事柄なのに、著者の言葉はどれも率直だ。墓のことや財産のこと、弔いの仕方など「死」には考えなきゃいけないことがたくさんある。それらについて蛭子さんは「死んだあとのことは、本当にどうでもいい」と言い切る。読んでいるこっちがびっくりするほど率直だ。ほかにも本書には「えっ」と驚くような言い切りが随所にある。
 本書のなかにも出てくるが、昨今は「人生100年時代」とよく言われる。人間の寿命が伸びて、もうすぐ100歳まで生きるのが当たり前の時代になる。そのとき、今までのような生き方だと、人生の後半がだいぶ長くなってしまう。なので、100年生きることを見据えたライフプランを考えようというものだ。そんな時代の人生戦略が書かれた書籍『LIFE SHIFT』は大ヒットし、話題になった。ロンドン・ビジネススクール教授のリンダ・グラットンとアンドリュー・スコットの二人による同書は経営論的な視点で書かれていたが、『死にたくない』はいわば蛭子能収版の『LIFE SHIFT』と言えるかもしれない。シフトさせられてしまうのは、読者の人生観である。
 蛭子さんはいつも飄々としていて、あまり苦労なく人生を過ごしている印象がある。実際、本書でも「ストレスはほとんどない」と明かす。なぜそんな生き方ができるのか? その秘訣も明かされる。本書のターゲットは中高年だが、これからストレスのない人生を送りたいと考えている若者世代にもヒントとなる内容だ。著者はこの本が「高齢者総蛭子化計画」であると宣言しているが、「高齢者」だけでなく、「人類総蛭子化計画」も可能かもしれない。筆者も蛭子さんの生き方に憧れている一人。まずは「死にたくない」と口にするところから始めたいと思う。

ご購入&試し読みはこちら▶蛭子能収『死にたくない 一億総終活時代の人生観』| KADOKAWA


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