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特集

『青くて痛くて脆い』刊行記念! 住野よる担当編集者座談会〈前編〉「衝撃のデビュー作の秘密」

デビュー作『君の膵臓をたべたい』が250万部を突破し、一躍ベストセラー作家の仲間入りを果たした、住野よる。「青春の終わり」を描いた最新作にして最挑戦作『青くて痛くて脆い』の成功により、作家としてさらなる注目を集めているが、その魅力を語る言葉はまだまだ足りない。そこで、4社(双葉社、新潮社、KADOKAWA、幻冬舎)から6名の担当編集者が集まり、住野ワールドの魅力、住野よるという作家の個性をみっちり語り合った。

文芸編集者は新人作家と
どのようにして出会うのか?

――本日は作家・住野よるの魅力、既刊すべてがベストセラーとなっている住野作品の魔力について、ざっくばらんにお話をしていただければと思います。まずは自己紹介がてら住野さんとの出会いについてお話を伺いたいのですが……。

双葉A(双葉社『君の膵臓をたべたい』『また、同じ夢を見ていた』『よるのばけもの』担当):もともと、住野さんが「小説家になろう」という小説投稿サイトに『君の膵臓をたべたい』をアップしていたんですね。それをある日、別の担当作家さんから「『なろう』にすごい作品が載っている」とご紹介いただいたんです。その日の夜にスマホを片手にスクロールして読んでいって。次の日の朝に「本にしたいです!」と、会社の偉い人へ直談判しに行きました。そしてすぐに、住野さんに会いに行ったんですが、その時は、今の「週刊少年ジャンプ」で何が面白いかを話した記憶が残っています。

角川K(KADOKAWA『青くて痛くて脆い』書籍担当):私は映画会社に勤めている友人から、「『なろう』で話題になっている面白い作品がある」と教えてもらったんです。読んでみたら夢中になってしまって。私自身が当時編集部に来たばかりで、どうやってアプローチすればいいか分からず、とりあえず「なろう」のメッセージで住野さんとやり取りをさせて頂きました。当時、作家さんにお声がけしたのも初めてで、上司と一緒にお会いしに行ったんですけれど、ひたすら私は黙り、住野さんも黙り、上司だけが喋っている謎の時間が(苦笑)。

新潮T(新潮社『か「」く「」し「」ご「」と「』連載担当):私は『君の膵臓をたべたい』を運良く発売日に読ませていただいたんです。三省堂書店神保町本店さんへ行ったら、グロテスクなタイトルが目に飛び込んできて。パラッとめくって目に入った一文を読んだところ面白かったので、読み始めたらすぐに「これは大当たりだ」と。双葉社さんにお電話をさせていただいたのですが、その日のうちに住野さんと繋いでくださって。ご本人とお話しして思ったのは、「あぁ、『膵臓』をお書きになった方だな」と。言葉の端々がすごく繊細で、お気遣いのある方だったので「本物!」と嬉しくなりました。

新潮N(新潮社『か「」く「」し「」ご「」と「』書籍担当):私はTに「読んでみて」って猛プッシュされたんです。発売直後から書店でも大々的に展開されていたし、今読んでおかなきゃいけない作品なんだろうなとは思っていたんです。

角川F(KADOKAWA『青くて痛くて脆い』連載担当):私が最初に知ったのは双葉社さんの公式Twitterで、書店員さんのコメントを流していたじゃないですか。これは読まねばと思いながら、読んだ頃にはもうベストセラーになりつつありました。同い年のKがもう声をかけているという情報をキャッチして、打ち合わせに付いていったんです。でも、私もKも緊張していたので、やはり上司だけが喋り(笑)。今でも住野さんはあの頃の話になると、「2人とも借りてきた猫のようでねぇ」とおっしゃられるんですけれども。

幻冬H(幻冬舎「麦本三歩シリーズ」連載担当):私もTwitterで話題になっているのを見かけて、すぐ「なろう」を見に行ったんですが、本の発売が決まって『膵臓』は読めなくなっていたんです。でも、「麦本三歩」というキャラクターの短編が何本か残っていたんですよね。これはもうすごい才能だなと思った。うちの会社は、社内で「早い者勝ち」なんです。この方とは絶対ご一緒したいと思い、当時住野さんはTwitterを始めたばかりだったので、DMでやりとりをさせていただくようになり、無事に社内で一番早く連絡を取ることができました(笑)。ちなみに、今連載をしていただいている作品は、「なろう」で初めて読んだ「麦本三歩」が主人公なんです。

◎第1作『君の膵臓をたべたい』(双葉社)
人に興味がない図書委員の「僕」はある日、クラスメイトの山内桜良が落とした日記「共病文庫」を拾う。膵臓の病気により余命が限られている――秘密を共有したふたりは、桜良が「僕」をむりやり引っ張り回すかたちで、ありふれた高校生活を共に楽しむ。「僕」は天真爛漫な桜良に影響を受け、心を開き始める。だが……。読後必ず、タイトルの意味に涙する。
http://www.futabasha.co.jp/introduction/2015/kimisui/

「読後、きっとこのタイトルに涙する」
『膵臓』の名コピーは、編集者の実感から

——出会い方はそれぞれ異なりますが、『膵臓』に大きな衝撃を受けたという体験は共通しているのかなと思います。『膵臓』で受けたファーストインパクトの中身について、詳しくお伺いできればと思います。

双葉A:作品を読み終わった後に一番感じたことは、読み始めた時には禍々しいと思っていた「君の膵臓をたべたい」という言葉が、「めっちゃいい言葉じゃん!」と変化したことです。物語に感動したのはもちろん、言葉の印象ががらりと変わる読書体験、それが本当に素晴らしいものだなと思いました。これは自分の考える、住野さんの一番いいところでもあるんですが、たった一言とか一行で世界をがらりと変える、パワーワードを作られる作家さんなんですよね。『膵臓』であれば、タイトルもそうですが、主人公とヒロインの桜良が福岡とおぼしき場所へ旅行に行く場面で、今までずっと明るく振る舞っていた桜良が自分の病気についての感情を吐露しますよね。その一言が出てきた時、寝転がって読んでいたベッドから「わーー!」って飛び起きました。

新潮N:本が出た時のキャッチコピーは「読後、きっとこのタイトルに涙する」でしたよね。私はその帯を見て最初、「そう言われたら私は泣かないぞ!」って。

一同:(笑)

新潮N:編集者の病ですよね。でも、結果的にボロボロと泣きました。疑ってごめんなさい、という気持ちになりました。

双葉A:本を作る時に、「校正ゲラ」(本の仕様で印字された原稿)を何回か読むじゃないですか。そのたびに泣いているんですよ。去年文庫を出したんですが、その時も。このコピーは、誇大広告ではなかったんじゃないかなと思っています(笑)。

角川K:私もわんわん泣いたんですけれど、すごいなって思うのは、住野さんは泣かせにかかってるわけじゃないじゃないですか。

双葉A:ああ、確かに。

角川K:「こうしたら泣くんだろう?」みたいな発想の仕方、書き方はされていない。「こういうキャラを出したらみんな好きなんだろう?」とか。読者ファーストでありながら、読者を絶対バカにしていない、作家としての誠実さを『膵臓』の段階で感じました。

幻冬H:私が一番いいなと思ったのは、これは『膵臓』以外の作品もそうだと思うんですけれども、男女が出てきた時に、恋愛感情だけじゃない人間関係が鮮やかに描かれているところなんです。だいたい小説の中で10代の男の子と女の子が出てきたら、キャッキャウフフした「選択肢は恋しかない!」って状況になりがちだと思うんですね。でも、そういう感情が2人の間にないわけではないんだけれども、友情もあるし、隣人愛もある。ひとつの感情では捉えられない関係を描かれている。

新潮T:確かにどの作品でも、そうですよね。

角川F:私は、人間関係に対する希望みたいなものを強く感じるんですよ。『青くて痛くて脆い』にも如実に出ていると思うんですけれども、人間関係は怖いだとか相手とどう距離を測ったらいいか分からない、という疑いがまず前提として描かれているように思うんです。でも、同時に、素敵な出会いがどこかにきっとある、と信じている感じがしていて。単なる明るい希望じゃなくて、疑いと表裏一体の希望を描いているからこそ、読者も素直に受け入れられるんじゃないかなと思うんですよ。

新潮T:私がお声掛けしたいなと思った理由のひとつは、名前の謎に惹かれたからなんです。主人公の名前が全部【】に入っていて、読者には分からない。伏せられた名前の謎を知りたくて先が読みたいなと思う気持ちが高まるし、その答えが最後で物語と合わさってくるじゃないですか。美しい構成だと思いました。それと、もうひとつは、セリフ回しの巧さなんですよね。ストーリーがなくても会話だけでもいいんじゃないかって思うくらい、抜群に巧いです。その印象から「日常ミステリーで、会話が多めのお話がいいです」とお願いしたことが、『か「」く「」し「」ご「」と「』に繋がったんですよ。

(文:吉田大助)


>>【中編】「パワーワード」を生み出す作家


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