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『小説 すずめの戸締まり』に新海誠監督が込めた想いとは? 「行ってきます」と「ただいま」を告げる物語/原作小説レビュー

『小説 すずめの戸締まり』でもう一度すずめたちに出会う! 新海誠監督が原作小説で描いたものとは……?

現在大ヒット公開中のアニメーション映画『すずめの戸締まり』。それと同時に、登場人物たちを映画とは少し異なる視点で描いた、新海誠監督書き下ろしの原作小説がベストセラーになっている。これまでも『小説 君の名は。』、『小説 天気の子』など、自らの監督作品の原作小説を執筆してきた新海監督が、『小説 すずめの戸締まり』に込めた想いを読み解きながら、小説ならではの魅力を探ってみたい。
※映画をご覧になっていない方はネタバレにご注意ください。

文・構成:河内文博(アンチェイン)


脚が一本欠けた椅子。その生まれた過程は映画と同様に繊細に描かれる。

物語の中に潜む「あたたかな体温」

九州の静かな町で暮らす高校生・すずめが、ある日出会ったのは、“災い”をもたらす扉と、その扉を閉めるために旅をしている青年・草太。しかし、謎の猫・ダイジンの呪いで、草太は椅子の姿に変えられてしまう。すずめは草太とともに、呪いを解くためにダイジンを追いかけ、「戸締まり」の旅に出る。そしてそれは、自分の過去ともう一度向き合う旅でもあった――。
映画『すずめの戸締まり』が、公開以降多くの反響を得ている。このたび、本作の監督、新海誠自身が執筆した原作が角川文庫から刊行され、12月現在で累計50万部を突破するヒット作となっている。
本作の大きな特徴は、すずめの一人称視点であることだろう。すずめが草太と出会い、彼の使命を知り、四国や関西、東京、そして東北とともに旅をする過程が彼女の見方で書き込まれているのだ。本書で発見できるのは「椅子に手を当てて、揺らしてみる。返事がない。でもやっぱりあたたかな体温がある」といったすずめの心の内の描写。椅子(=草太)にしっかり体温があることにあらためて気付かされ、映画の中ですずめが愛おしそうに椅子を抱えていた理由もよりわかる。


すずめが、愛媛で出会った同い年の千果。すずめはみかんの美味しさに感動する。

すずめの食べる「ご飯」

次いで、小説で印象的だったのは、すずめが食べる「ご飯」だ。すずめたちが最初にダイジンを追ってきた地である愛媛。そこで出会う同い年の女子高生・千果の実家は、民宿を営んでいる。すずめは、千果たち家族のもてなしで、ハマチの刺身、麦みそを使ったみそ汁などのご馳走をいただく。太刀魚の塩焼きを食べたすずめは、こう語る。「さっぱりと甘い脂が口いっぱいに広がり、私のすみずみが歓喜していくのが分かる。何を考える間もなく、熱い塊がまた目頭に込み上げる」。
こんなふうに、すずめは、さまざまな土地で人々と出会い、ご飯を食べる。神戸で彼女が食べる「ポテサラ焼きうどん」も、小説では細かく描写されている。前述の椅子の「あたたかさ」同様、すずめは食事の「あたたかさ」で心の孤独を癒やしていったのだと窺い知れるのだ。


すずめが草太の部屋で目撃した古文書に書かれたものとは!?

また、すずめが草太の部屋で見る「閉じ師」伝来の古文書。小説ではその正体が少しだけ明らかにされている。たとえば、小説に出てくる「扶桑國之圖」。これは2018年に発見されニュースにもなった、本州、四国、九州がほぼ欠けることなく残っている最古の地図だが、なぜこれが草太の自宅にあるのか……そんなことに思いを巡らせ、映画の余白を深く味わうことのできるポイントが、随所にちりばめられた一冊となっている。


決意の表情のすずめ。彼女が草太のワークブーツを借り、旅立つ先は……。

小説を手にした人だけの「行ってきます」と「ただいま」を

映画を見た方には明らかなように、東日本大震災がすずめの過去に大きな影響を及ぼしている。小説後半、すずめは、ついに自らが過去に出会った「後ろ戸」を探し出し、故郷である東北の実家――いまや草に埋もれた廃墟に帰る。その地で、自分の忘れかけていた過去と対峙するのだが、東日本大震災、3月11日以降のすずめの幼い日々も、映画とは別の視点から克明に描かれ、胸に熱いものが込み上げてくる。
本書には、すずめの心情のみならず、匂いや痛みといった身体感覚も生々しく書かれている。誰もいない草太の部屋の浴室で、足の傷に刺さった小石を抜いて痛みに耐えるすずめの姿は胸に迫る。彼女の育ての親である環のショートカットの中に見た白髪など、身体のディテールが心に与える影響も見逃せない。
新海監督といえば“美しい映像“と言われがちだが、その奥に人間の生々しい感情や日々の営みを描くディテールがある。確かな描写に裏打ちされたからこそ美しい世界観が立ち上がるのだと、これらのテキストから窺える。


すずめの叔母である環。すずめが彼女に抱える、複雑な心境も小説で明かされる。

最後に触れておきたいのは、『小説 すずめの戸締まり』の表紙である。映画のティザービジュアル――すずめが扉の前で椅子を抱えて振り返る姿と、小説の表紙を見比べてほしい。椅子を抱えて、決然と扉の前に歩みゆくすずめの足元は、ティザーのローファーとは異なるワークブーツになっている。さらに並んで歩く猫、ダイジンは、小説や映画を観たあとに見つめ直すと感慨深いものになっている。


小説では、草太たちが戸締まりのシーンで唱える祝詞の意味も、より深くわかる。

新海誠監督が、10年以上のときを越え、東日本大震災という災害と、さまざまな苦悩や葛藤を越え、向き合った本作。すずめのたくましい成長を通して語られるのは、どんな辛い出来事であれ、その過去が自分自身を作っているということ。そして、失われていたかもしれない、何気ない日々の尊さだ。
映画を観た方も、これからの方も、ぜひ、すずめのかけがえのない5日間――そしてその後の物語を『小説 すずめの戸締まり』で体感してほしい。読み終わったあと、この物語が、より愛おしいものになるはずだから。

作品紹介


『すずめの戸締まり』
原作・脚本・監督:新海 誠
キャラクターデザイン:田中将賀
作画監督:土屋堅一/美術監督:丹治 匠
音楽:RADWIMPS 陣内一真
声の出演:原 菜乃華 松村北斗 深津絵里 染谷将太 伊藤沙莉 花瀬琴音 花澤香菜 神木隆之介 松本白鸚 他
配給:東宝

東宝系にて全国公開中
https://suzume-tojimari-movie.jp/

©2022 「すずめの戸締まり」製作委員会

◎映画『すずめの戸締まり』公開記念特設ホームページ
https://kadobun.jp/special/suzume-tojimari/

原作紹介



『小説 すずめの戸締まり』
著者 新海誠
発売中
定価 748円(本体680円 + 税)

九州の静かな港町で叔母と暮らす17歳の少女、岩戸鈴芽。
ある日の登校中、美しい青年とすれ違った鈴芽は、「扉を探してるんだ」という彼を追って、山中の廃墟へと辿りつく。
しかしそこにあったのは、崩壊から取り残されたように、ぽつんとたたずむ古ぼけた白い扉だけ。 何かに引き寄せられるように、鈴芽はその扉に手を伸ばすが……。
やがて、日本各地で次々に開き始める扉。 その向こう側からは災いが訪れてしまうため、開いた扉は閉めなければいけないのだという。
―――星と、夕陽と、朝の空と。 迷い込んだその場所には、すべての時間が溶けあったような、空があった―――
不思議な扉に導かれ、すずめの“戸締まりの旅”がはじまる。 新海誠監督が自ら執筆した、原作小説!
https://www.kadokawa.co.jp/product/322203001170/


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