KADOKAWA Group
menu
menu

特集

デビュー作にして、三冠。先人の徹底的研究で到達したのは、全く新しい密室トリック!?『屍人荘の殺人』(東京創元社)

鮎川哲也賞受賞の初単行本が『このミス』を始めとするミステリランキングで三冠を獲得し、本屋大賞にもノミネートされた今村昌弘さん。本格ミステリ界に現れた新星にお話を伺いました。

── : ミステリ作品を学生の頃から読まれていたのでしょうか?

今村: 高校生の頃は『氷菓』(米澤穂信)『戦略拠点32098 楽園』(長谷敏司)など、ミステリやSFの要素が入ったライトノベルを読んでいました。その後、米澤さんのブログを拝見していて連城三紀彦さんを知り、なんだこれ、どれを読んでも騙されると興奮しながら読みました。自分の中でミステリを読もうと意識したわけではなく、面白いから読んでいたのが米澤さんと連城さんでした。

── : 小説はいつ頃から書き始めたのでしょうか?

今村: 大学卒業前の国家試験の勉強中に現実逃避として書き始めました。その後も仕事をしながら書きためて、宝くじを買うような感覚で文学賞に応募していました。電撃小説大賞の短編部門で二次選考まで進み、全く可能性がないわけじゃないと思い、もっと作品を良くしたいと思うようになりました。仕事を続けながらだと難しかったので、二十九歳のときに思い切って仕事をやめて、やりたいことに集中することにしました。

── : 本格ミステリというジャンルを選ばれたのはなぜですか?

今村: 仕事をやめて執筆活動に専念すると決めたときに、ミステリの構成手法はどのジャンルにも活かせるだろうと思い、ミステリ作品を分析しはじめました。全体像を掴むために、組織ミステリ、どんでん返し、叙述トリック物と読むなかで、腹に落ちたのが本格ミステリでした。ミステリに挑戦するなら、犯人を論理立てて当てるものが書きたいと思いました。

── : 受賞作はどのように生まれたのでしょう?

今村: 前年の「ミステリーズ! 新人賞」で最終選考まで残って選考委員の方から選評をいただき、そこから三ヶ月弱で書き上げたのが受賞作です。選評を受けて、他の先生の作品を改めて研究しようと思い、アイディアノートの前の方のページに有栖川有栖さんと綾辻行人さんの作品の分析を書きました。

── : それはどのような分析ですか?

今村: 作品を読みながらこの後この話はどう展開するのかという予測と、第何章の何ページで何が起きたかということをノートにメモしていました。結末がどうなるかわからない状態で、その時点での予測を書きとめながら読むという読み方です。上手く騙されている場合、何かが起きていても全然気づかないで、そのまま読み流してしまう。読み終わったときに、自分がどう考えながら読んでいたのかを振り返り、仕掛けや手がかりの提示の仕方を勉強しました。

── : 本作の状況設定はどうやって考えられたものですか?

今村: 新しい密室トリックを造ろうと試行錯誤していて閃きました。密室トリックは出尽くしている感もありますので、密室状況そのものを新しくしなければと考えるなかで、映画などでは、よく〝例のもの〟に人々が囲まれていますよね(笑)。パニックホラー映画によくある、あの状況の下で事件を起こそうというのが第一です。

── : 本格ミステリという形式について意識的な作品と感じます。

今村: ミステリを読む読者の目線でこうした方が面白いんじゃないか、というふうに考えたことを盛り込んでいます。自分が本格ミステリを読んできた中で、謎解きの魅力というのが読者に十分に伝わっていない理由として、登場人物が多すぎて名前が覚えきれなかったり、状況がややこしすぎたり、ページを戻ってアリバイを確認したりするのが大変だったり、ということがあるのではと思い、読者に極力わかりやすく、魅力が伝わるようにしようと思いました。一方で、例えば探偵物だとすると、読者はこの名探偵が謎を解くのだろうと思っている。それをちょっと裏切ってみたいという意地悪な部分もあったりします。今、この作品は本格ミステリファン以外の方にも読んでいただけており本当に嬉しいです。この作品で本格ミステリが面白いことに気付いていただけたのであれば、他の作品も読んでみて欲しいです。

── : デビュー作でミステリ三冠ということで、注目度もすごいです。

今村: 綾辻さんのデビューから始まった新本格ミステリの三十周年とタイミングがあったことで注目されている部分もあると思います。

── : 次作の構想は?

今村: 今回の続編を考えています。班目機関の話になると思います。


今村 昌弘

1985年生まれ。兵庫県在住。2017年『屍人荘の殺人』で第27回鮎川哲也賞を受賞しデビュー。同作が、年末のミステリランキングで三冠を獲得し、注目を集めている。

紹介した書籍

MAGAZINES

小説 野性時代

最新号
2024年5月号

4月25日 発売

ダ・ヴィンチ

最新号
2024年6月号

5月7日 発売

怪と幽

最新号
Vol.016

4月23日 発売

ランキング

書籍週間ランキング

1

気になってる人が男じゃなかった VOL.2

著者 新井すみこ

2

気になってる人が男じゃなかった VOL.1

著者 新井すみこ

3

ニンゲンの飼い方

著者 ぴえ太

4

人間標本

著者 湊かなえ

5

怪と幽 vol.016 2024年5月

著者 京極夏彦 著者 小野不由美 著者 有栖川有栖 著者 岩井志麻子 著者 澤村伊智 著者 諸星大二郎 著者 高橋葉介 著者 押切蓮介 著者 荒俣宏 著者 小松和彦 著者 東雅夫

6

家族解散まで千キロメートル

著者 浅倉秋成

2024年5月6日 - 2024年5月12日 紀伊國屋書店調べ

もっとみる

アクセスランキング

TOP