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特集

ミステリ界に予言旋風来たる!? 【特別対談:『予言の島』澤村伊智×『魔眼の匣の殺人』今村昌弘】

撮影:編集部  構成:千街 晶之 

――「予言」が、ミステリの世界で密かな流行を見せていることをご存じだろうか?
 有栖川有栖『インド倶楽部の謎』、阿津川辰海『星詠師の記憶』、辻堂ゆめ『今、死ぬ夢を見ましたか』など、予言や予知夢といった超常的な要素を取り入れ、謎解きに上手く絡めた本格ミステリが、昨年あたりから同時多発的に発表されているのだ。中でも、『屍人荘の殺人』で鮎川哲也賞を受賞し、一気にベストセラー作家となった今村昌弘の第二長篇『魔眼の匣の殺人』と、『ぼぎわんが、来る』で日本ホラー小説大賞を受賞してホラー界の希望の星となった澤村伊智が初めて挑んだ本格ミステリ『予言の島』は、いずれも予言通りに人が死んでゆく展開の注目作だ。
 そこで、いま最も期待される作家であるお二人に、「予言ミステリ」について大いに語っていただいた。まずは、お互いの作品の感想から――。

澤村: もちろん剣崎比留子シリーズ第一作の『屍人荘の殺人』も読んでおりますが、僕は断然『魔眼の匣の殺人』のほうが面白かったですね。特殊設定ミステリのひとつの評価軸である、クローズドサークルから動機からトリックから、あらゆるミステリ的な要素に特殊設定を絡めていく精度が、今回はより高くなっていると感じました。

今村: 『予言の島』を一読して思ったのは、これは勇気だなあと。というのは、このパターンの仕掛けは、僕は怖くて出来ないですね。手掛かりを確実にフェアに残しておきたいけど、サプライズのために隠したいという、そのバランスが難しい仕掛けです。また、これを一回やってしまうと、今後読者に構えて読まれてしまうのが僕は怖くて。そういう僕が避けた部分を、澤村さんが初の本格ミステリでやられたというのは、肝の据わった方なんだなあと衝撃を受けましたね。

澤村: 『魔眼の匣の殺人』は、前作と共通の仕掛けがあったじゃないですか、悔しかったですね(笑)。同じ趣向をより巧妙に使えるというのもシリーズものの強みなんだなあと思いましたね。僕は逆に同じ手を使う勇気がないんで。

今村: 『予言の島』は、前半の部分を、ただの手掛かりを忍ばせる場所にしてしまうと読んでいて面白くなくなってしまうので、そのストーリー展開をホラーと絡めてリーダビリティを落とさないというのは澤村さんのお力があるところなんだろうなと。僕はたくさん事件を起こして、数である程度勝負しなけりゃいけないところがあるので、そこを引っぱれる強さは羨ましいです。

澤村: そう、僕のは事件がなかなか起こらない(笑)。本当は冒頭で人を殺したほうがいいのかなと思いつつ、狡い言い方ですけど「俺、ミステリの人じゃないし」と(笑)。ホラーの人かと言われるとそれも違って、そこに住民票は置いてないし……というのもあるから、臆面もなくこういうのを書けるところがありますね。今村さんはいい意味で、今いろいろ背負っちゃってるじゃないですか。本格ミステリの真ん中にいるというか、いさせられているというか。だからクローズドサークルで人が死ぬこと以外はなかなかやれない状況で、なおかつ前作と同じことをやる、それでより精度を上げてきたのがすごいなあと。

今村: でも、僕からすると澤村さんはホラーの中心にいらっしゃるように思えたのですが、ご自身はそういう意識はないわけですか。

澤村: 自分のルールの話ですが、ジャンル意識を最優先すると腐っちゃうなと。自分はいつも、怖くてびっくりする面白い小説が書きたくて。ホラーもミステリも怪談も好きなんですけど、読者が読みたいのはそれ以前に面白い本でしょう、というのがあって。その面白い本というのを、僕は「怖い」と「びっくりする」の方向で書きたいということなんです。それがホラーかどうかは出版社や読者が決めることで。

――お二人は、今回の作品で予言を扱うことについては、どのように思いつきましたか。

今村: 『屍人荘の殺人』と似通った作品にならないように、ちょっと目先を変えたオカルト的なガジェットを、と考えたんですね。それで、超能力や幽霊といった目に見えないものを使おうと思ったんですが、そこでミステリとして謎に絡める以上、読者が同じ条件のものを想像してくれないと謎解きにならない。例えば幽霊って何をしてくるのかとか、その説明にページを割くと読者にはストレスになっちゃう。それで予言ならばイメージしやすいなと。ただ、インチキ予言者のトリックを暴くみたいな話ではなく、どうしたら予知能力をそのまま使えるか、ということを考えたのと、超能力は見た目のインパクトで前作に劣るため、そこは予言者の老女だけでなく、もうひとり絵で見せる超能力者を登場させることで、ヴィジュアル的なインパクトを持たせようと思いました。

澤村: 僕は『ルパン三世』や『金田一少年の事件簿』みたいな有名人の孫を出そうという発想です。僕の子供の頃は宜保愛子という有名な霊能者がいたので、そんな人の孫がミステリ的な事件に巻き込まれたら面白いんじゃないかと。それと、もうひとつは横溝正史の『獄門島』みたいなのもやりたいなと。あれは、ある妄執にとりつかれた人の言葉を、理性のある人たちが真に受けちゃって、いろいろ条件が揃った結果「殺すしかない」と思っちゃった話ですよね。それで、霊能者の言葉に引っぱられて人々がおかしくなっちゃうミステリというのが導き出された感じですね。

今村: 僕の場合は、先ほど言ったようにガジェットを探すところから入ったのでスタート地点は違いますが、予言が本当か嘘か、あたるか外れるかはどうでもよくて、それがあることによって登場人物たちが行動を起こしてしまうのは共通していますね。僕はミステリ寄りの人間なので、きっと誰かが仕組んで起こしたんでしょうと思われたら困るし、澤村さんはホラーでデビューされたので、超能力がずっと本物だと思われて読まれると困るという。

澤村: お化けがいる感じもするけどいない感じもするというのは、やっておかなければならないことだったんで。

今村: その部分を読者はわくわくしながら読んだと思うんですね。澤村さんはミステリという畑で何をしてくるかわからないから。もしかしたらこれまで通りお化けが出てくるのかもしれないし、という。

――両作品は、クローズドサークルが舞台で、しかも予言にタイムリミットがあるという共通点があります。

澤村: 完全に自分ルールなんですが、携帯電話をどうしようかは悩みますね。携帯が使えないことにするのもいいんですけど、台風を来させてタイムリミットを短くしたほうが僕の中では筋が通った感じなんです。

今村: 僕の場合、これは自分で蒔いた種ですが、主人公の比留子が事件に巻き込まれる体質という設定を作っちゃったんで、そんな閉じ込められそうなところにうかうか行くんじゃないよと(笑)。なので、なるべく閉じ込められそうにないところで閉じ込められるロジックを作らなければならないのは『魔眼の匣の殺人』でも苦労しましたね。結果的には橋が燃え落ちるんですけど、事故とか嵐じゃなくて、予言と絡めた理由を考えないと駄目だなと。

澤村: 『魔眼の匣の殺人』は、物理的に隔離された要因が予言と関わっている点が、特殊設定ミステリのツカミとして完璧だと思いましたね。

今村: やっぱり予言を使っちゃったら、物語的にも期限を設けないと締まりがなくなるのでタイムリミットを決めた気がしますね。例えば、嵐の中で何かが起こるという予言なら嵐を避けられれば元も子もなくなるので、何日以内に起きて、そこから逃げられないという設定にしないと予言は生かしづらいかなと。

――共通点の多い両作品ですが、『魔眼の匣の殺人』に出てくる予言はストレートなもので、『予言の島』の場合はいろいろな意味に解釈できるノストラダムス風の予言という違いもあります。

澤村: 『予言の島』は「振り」としてそんなものがあるわけないというところからやっておかなけれな成立しない話です。作中で幾らでも解釈できるし、霊能者の孫ですら信じていないという扱いなので、それでノストラダムス的な感じにしています。

今村: 僕の場合は推理の中に盛り込まないといけないので、ストレートにしないとそこにいろんな解釈が成立してしまうという懸念があったのと、班目機関というオカルト的なものを研究している組織がシリーズの前提として出てくるので、ノストラダムス的な幾つもの解釈が可能な予言にしてしまうと、その機関で検証できたと言えなくなってしまうため、わりとはっきりした予言にしました。だからこそ、この先何が起きるのかも読者が思い浮かべて推理に生かせるという、本格ミステリのロジックの部分を重視しました。

――『魔眼の匣の殺人』の幕切れでは、次作で扱われる予定の事件について言及されていますが。

今村: 驚くべきことに、内容は何も決まっていません(笑)。取り敢えず二作目の結末優先で締めはこうしておくか、あとは知らん、みたいな感じで(笑)。澤村さんはノン・シリーズのミステリは今後も書かれますか。

澤村: アイディアもあるにはあるんですが、ちゃんとしたミステリも書きたいですね。僕が素でミステリを書くと、『十角館の殺人』のブラックなパロディみたいな話になると思います。登場人物は全員、陰湿で身勝手なタイプのミステリおたくで、殺人が起きても救援を呼ばないのはお互いにマウンティングに必死だからとか(笑)。でもミステリでそれをやっていいのかというのもあって、現実の不合理さが嫌でミステリを読む人っていっぱいいるじゃないですか。人物を造形するにあたって現実に存在するような愚かな人をミステリにも登場させるのはミステリ読者に不誠実ではないかと思うし、かといってミステリ脳の人ばかり出すのも……というジレンマはありますね。読むぶんには好きなんですけどね、『魔眼の匣の殺人』だってミステリ的な思考をする人がいっぱい出てくるわけで。でも自分で書くとなると足踏みしちゃうんですね。そのジレンマをクリアしてからなので、だいぶ先になると思いますね。

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