伊東潤の最新作『家康謀殺』は戦国時代の合戦や主要事件を網羅した珠玉の戦国小説集。今回、『家康謀殺』でロック・バンドの金属恵比須と再びコラボレーションすることになった。両者はなぜ再びタッグを組むことになったのか? 『家康謀殺』の魅力や戦国時代とロックのコラボレーションについて大いに語っていただいた。
「戦国時代」×「ロック」=ミスマッチ?
伊東:昨年は私のデビュー作である『武田家滅亡』という作品でコラボさせていただいて、ありがとうございました。
高木:こちらこそありがとうございました。
伊東:アルバム『武田家滅亡』はプログレッシヴ・ロックの全ての要素を盛り込んだ素晴らしい作品だと思います。しかも何曲か、作詞でも参加させていただき感無量です。
高木:アルバム『武田家滅亡』の反響は凄まじいものでした。文芸路線のロックを奏でる金属恵比須にとって、小説家とコラボしたことで説得力が増しました。
――今回2回目のコラボをすると聞きましたが、コラボするに至った経緯を教えてください。
高木:前回、『武田家滅亡』でコラボをしたことの一番の収穫は、戦国時代とロックの音楽がミスマッチのように思えて滅茶苦茶合うことが分かったことです。
伊東:これが妙に合うんですよ!!
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高木:これは意外でした。だから、伊東先生が戦国時代歴史小説『家康謀殺』を出版されると聞き、真っ先に「再びコラボしましょう!」と手を挙げたわけです。
『家康謀殺』のテーマは「雑説に惑わされる男たち」
――『家康謀殺』とはどのような作品なのでしょうか?
伊東:『家康謀殺』というのは、戦国時代の武将たちの様々な生きざまと死にざまを描いた連作短編集です。最初は「権謀術数渦巻く戦国時代を脇役的武将の視点で描いていく」というコンセプトで書き始めたんです。というのも掲載誌の事情で、1年に1作ずつ短編を連載していくプランだったので。当初は、あまり連作短編の縛りを設けずに自由な感じで描いていこうと思ったんです。でも最終的には、「雑説(情報)に惑わされる男たち」という現代社会にも通底するテーマが浮かび上がってきました。
――高木さんは『家康謀殺』はもう読まれたんですか?
高木:読みました。素晴らしい作品でした!! 織田信長、豊臣秀吉、徳川家康といった戦国時代のヒーローたちを間接的に描いているという点がグッときました。特に表題作「家康謀殺」はミステリー調だったのがすごく面白くて、大好きな横溝正史と江戸川乱歩の探偵小説を彷彿とさせ、具体的に言うと……(以下、具体的なネタバレを熱く語る)。
伊東:ありがとうございます。でも、高木君、完全にネタバレしちゃっているよ(笑)。
高木:すみません(笑)。ただ、この作品はミステリーとしての衝撃度も大きくて、ミステリーファンにも是非とも読んでもらいたいんです!!
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伝奇ロマン「ルシファー・ストーン」の魅力とは
――今回『家康謀殺』は電子版でも発売され、短編小説「ルシファー・ストーン」が特典ですね。どのような物語でしょうか。
伊東:電子書籍だけのボーナストラックとして収録した一作「ルシファー・ストーン」は一言で言うと伝奇ロマンです。ある意味、私には珍しいぶっとんだ作品です。オープニングシーンがバチカンから始まるというだけで「おっ」となるのではないかと思いますが、若き異端審問官がルシファーの念が籠もった石を探しに日本まで行き……、という展開ですから、もう何でもありなのは想像できると思います(笑)。
本作は短編ということもあり、今まで私が書いてきた個性的な主人公や脇役たちを総出演させることができました。ある意味「伝奇ロマン」だからできたんです。織田信雄は以前に書いた『虚けの舞』のキャラクターそのままですが、弥助は『王になろうとした男』で登場した弥助とは微妙に変えて、ブラックな一面を出しました。そして私の作品には欠かせない千利休というキャラクターも出てきます。こういったメンバーが特別出演的に出てきて、昔の映画でいうと『名探偵登場』のような非常に華やかな作品となっています。そして最後には、あの方も出てきます(笑)。
高木:「ルパン対ホームズ」のようなオールスター出演でしたね。
――金属恵比須は「ルシファー・ストーン」にインスパイアされ、戦国小説集『家康謀殺』のテーマソングをつくりあげました。実際に聴いてどう思われましたか?
伊東:素晴らしかったです!! ブラック・サバスとアイアン・メイデンを足したようなヘヴィでクールな曲に仕上がりましたね。
高木:そうですね。今回はプログレッシヴ・ロックではなく、ヘヴィ・メタルに軸を振ってみました。
「ミスマッチ」から生まれた「ベストマッチ」
――小説を曲として形にしていく苦労はありましたか?
高木:今回意識したのは、ロックやヘヴィ・メタルと切っても切り離せない、西洋文化、特にキリスト教文化です。今までの金属恵比須は、あえて西洋文化をテーマにせず、日本文化や日本文学を題材にし、ミスマッチを意識して作曲してきました。しかし「ルシファー・ストーン」を読んだ途端、新たなコンセプトがひらめいたのです。西洋文化が戦国時代の日本に描かれている――これだったら西洋文化を基調としたロックも堂々とできる、と。だから、今回はいわゆる「ゴシック調」の曲作りをしてみました。
伊東:小説ではラストシーンでルシファーが戦う場面があるのですが、ゴシック調だと決戦場面には教会があって、雷鳴がとどろき、閃光が走り、雨が降ってきて、というようなイメージがあると思うんですけど、それを大徳寺の山門をバックにして、同じような情景を描けないかと思いました。そういう意味で、高木君のイメージとジャストに合ったので、これはイケルと思いました。
高木:大徳寺でルシファーが戦うというのはとても面白いですね。あまり見たことがない設定ですよね。
伊東:あまり見たことがないというか、あり得ない設定ですよね。いかにも教会で行われていそうなことを大徳寺でやっているのがこの短編の面白さだと思いますね。
高木:今話を聞いて、そのミスマッチ感を感じ取って曲が自然と出来上がっていったんだと思います。実は、曲の途中でエレクトリック・ピアノによるジャズ調の間奏があるんですが、それは黒人音楽にルーツを持つジャズによって弥助を表現しています。金属恵比須が禁じ手としていた、ゴシック調の音楽やジャズといった音楽を『ルシファー・ストーン』を通して表現させていただきました。
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――伊東先生は前回と同様に作詞もされていますが、いかがでしたか?
伊東:前回と同様にカラオケボックスで作詞をしました(笑)。
高木:前回と同様に最初からビールを飲んでました(笑)。
伊東:ただ、今回はルシファーの怒りとか、怨念とか、憎悪とかを表現したかったんですが、なかなかインパクトのある言葉が出てこなくて、前回に比べて苦労しました。しかし、最後は壁を越えることができましたね。
――前回にも増して小説と曲がマッチしていると感じました。
伊東:ラストシーンは是非曲を聴きながら読んでほしいですね。
高木:ラストシーンがまた衝撃的なんですよね!!
伊東:もちろん、あの方に登場してもらわないとね(笑)。
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――今後の展開を教えていただけますか?
高木:7月6日(土)に『家康謀殺』刊行記念ライヴを開催します(https://eplus.jp/sf/detail/2951250001-P0030001P021001?P1=0175)。書店ではよくやっている小説家のサイン会をライヴハウスでやるというミスマッチ(笑)。まるで「ルシファー・ストーン」の大徳寺のミスマッチ感を彷彿とさせます(笑)。伊東先生にも登場いただき、出版記念講演会をライヴでやります。そして、来場いただいた方全員に、電子版限定の特典短編「ルシファー・ストーン」を印刷した小冊子をプレゼントいたします。さらに会場で『家康謀殺』をご購入いただいた方に伊東先生がサインをしてくださるサイン会が実施されます。
――『ルシファー・ストーン』はどのような形で聴けるんですか。
高木:YouTubeの「角川書店ブックチャンネル」で無料で聴けます(https://youtu.be/9jvVBIpfi3I)。ファンの皆さまへのサービスです。しかも、7月6日のライヴに来ていただき、『家康謀殺』ご購入の方には新曲『ルシファー・ストーン』を収録したCD-Rを限定40名様にプレゼントしちゃいます。ライヴでは当日限定の特典が盛り沢山なんです!!
伊東:金属恵比須の人気の起爆剤になるような曲だから、できるだけ多くの人に聴いてもらいたいですね。
高木:7月6日はもちろん『ルシファー・ストーン』も演奏します!! とにかくKADOKAWAといえば「メディアミックス」。キャッチフレーズはもちろん「読んでから聴くか。聴いてから読むか。」です(笑)。
伊東:日本のプログレッシヴ・ロックを背負う金属恵比須の新曲『ルシファー・ストーン』を是非皆さま聴いてください!!
高木:音楽雑誌みたいなオチになっちゃいましたね(笑)。
ご購入&試し読みはこちら▶伊東潤『家康謀殺』
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