今から27年前、1996年に始まった人気シリーズ「空想科学読本」。マンガやアニメで繰り広げられる驚きの現象を科学的に考察しつづけ、シリーズ累計部数は驚異の880万部!
現在も新作が刊行されているのは、2017年に始まった文庫版のシリーズ(角川文庫)と、10周年を迎えたジュニア空想科学読本シリーズ(角川つばさ文庫)で、最新刊はそれぞれ『空想科学読本 「高い高い」で宇宙まで!』と『ジュニア空想科学読本26』です。
各シリーズの編集を担当する二人は、「空想科学読本」と同じころに生まれた、同い年の26歳。2か月連続刊行を記念して、「空想科学読本」に関するアレコレをざっくばらんに対談しました。
担当編集者紹介
編集K:角川文庫「空想科学読本」シリーズ担当者。小さなころは、戦隊ヒーローのごっこ遊びがなによりも好きだった。マンガやアニメは、広く浅くというよりは、好きになったものをとことん楽しむタイプ。
編集W:角川つばさ文庫「ジュニア空想科学読本(通称「ジュニ空」)」シリーズ担当者。遊んでいた怪獣のフィギュア(体長20㎝くらい)が壊れてしまった悲しみが忘れられない。オススメされたマンガやアニメはどれも読みたいし観たいので、休みの日が5倍くらいに増えてほしい。
「空想科学読本」シリーズ担当編集者対談!
小中学生の頃、空想科学読本は読んでいた?
K:読んだことはなかったけど、学校の図書室で見たことはありました。その時は、単行本でサイズの大きなイメージがあって、角川文庫版があるということは担当になるまで知らなかったし、ジュニ空も、私たちの世代よりは、少し後に始まっているじゃないですか。だから知らなくて。今よりもっとSFらしさや重厚感のある、コアな読者に向けたイメージで、こんなに小さい子どもから大人まで楽しめるシリーズになっている、ということは知りませんでした。
W:僕も実は読んできてはいなくて、自分よりも上の世代がハマっていた印象があります。でも、「柳田理科雄先生」という名前は自分も周りの同級生たちも知っていた。存在は知っているけど自分たちは読んでいない、くらいの距離感だったんだと思います。こうして形を変えながらシリーズが続いていると知ったら、10年前や20年前に空想科学読本を読んでいた世代の皆さんは驚くだろうな。
K:カバーや本文イラストも、ジュニ空(2013年より)と角川文庫版(2017年より)は、今までの空想科学読本とかなり印象が変わっていますよね。角川文庫版の本文イラストは近藤ゆたかさんにお願いしているんですが、勢いと分かりやすさがあってすごく好きなんです。このシリーズは、イラストが解説の手助けをしなくちゃいけないんですけど、イラストのおかげで柳田さんの説明がすうっと入ってくる。
W:ジュニ空は今、きっかさんにイラストを描いていただいているけど、きっかさんはとにかくキャラクターも場面も可愛らしく描いてくださる方で、毎回イラストをもらうのが楽しみです。とくにキャラクターが慌てたり頑張ったりしているイラストがかわいくて。
K:解説の手助け、という役割もありますけど、エピソードのなかで印象的なシーンを切り取ってくれるから、文章を読んで全部を理解することはできなくても、イラストを見るだけで出来事のスゴさやおかしさをイメージできるのがいいですよね。
空想科学読本のどんなところがすごい?
W:「こんな疑問、検証できないだろう」とか「そんなことを真面目に計算しても仕方がないだろう」と思ってしまうような疑問を、思いがけない切り口で真剣に検証して、答えを出してみたら、それがすごく面白い答えだから読む側も納得してしまうし、笑ってしまう。「パンチの強さは?」みたいなものだけではなくて、みんなが思いつく疑問はだいたい検証してくれるところがすごいです。
K:特撮とかSFだけじゃなくて、昔話や文学なんかもあって、「確かに気になる!」という疑問が多いですよね。「『源氏物語』で、光源氏の涙で枕が浮いたけど、どれだけ泣いたのか?」とか。『走れメロス』の話も楽しいです。
W:メロスは有名ですよね。「太宰治『走れメロス』でメロスが走ったスピードを検証してみた!」というお話。
K:柳田さんの検証によれば、メロスはマッハ11で走るから、380tもの空気抵抗を受けて、服が破れて呼吸もできなくなる。これはもちろん、作品のなかの文学的な表現を「言葉どおり」に受け取って計算した場合なんですけど、実際に作品のなかでもメロスは服が破れて呼吸もできなくなっているから、辻褄があってしまう。
W:「辻褄があってしまう」というのは驚きだし、誰かに話したくなりますよね。ジュニ空26巻で一番好きだったのは「因幡の白兎」で、これも辻褄があってしまう話です。原稿をいただいて感想をお送りしたときに、「これは誰かに話したくなる話ですね!」とメールに書いたんですが、本当に読んでいてあっと驚かされたし、絵本で読んできた「因幡の白兎」のイメージが変わりました。話したいけど、ここでは秘密にしておきます。
K:別のことで例えてくれるわかりやすさもいいですよね。「これはつまり、○○と同じくらいである」みたいな。『空想科学読本 「高い高い」で宇宙まで!』のなかで、絵本『ぐりとぐら』のぐりとぐらが作った大きなカステラの大きさを調べるお話が大好きなんですけど、考察のなかで柳田さんはぐりとぐらの視点で考えを進めていて。
W:野ねずみの視点ですね。
K:そうなんです。2人が運ぶ卵の重さは2.64㎏、と推測したうえで、野ねずみである2人からすれば、「体重50㎏の人が2人で6.6tの大型トラックを運ぼうとするのと同じ」と教えてくれる。そう言われると、「ぐりとぐらにとってはすごいことだ!」と想像できますよね。
W:「リニア新幹線より速い!」とか「一般人が大相撲力士のブチかましをモロに食らうより強烈」とか印象的な表現も多いです。
著者の作品への愛が強すぎる
K:あとは、取り上げている作品の「揚げ足取り」をして批判するのではなくて、大前提として作品への愛がありますよね。だいたいの章が、その作品の面白さの紹介から始まりますし。
W:むしろ、作品への愛のほうが、空想科学的な検証よりも、分量として多いことがある。
K:原稿を読んでいると柳田さんの「好き」があふれていて、書いている柳田さんを好きになってしまいます。
W:ジュニ空26巻に、『帰ってきたウルトラマン』を取り上げた章があるんですけど、読んでいるとほとんどが思い出話なんですよね。「ウルトラの星は肉眼で見えるのか」という空想科学の検証もちゃんとあるけれど、それ以上に、「柳田さんと作品の関係性」がたくさん書かれているんです。柳田さんが5歳でウルトラマンに出会って、毎週テレビで観ていたことだったり。一度放送が途切れてしまったけれど、小学4年生の時に『帰ってきたウルトラマン』が始まったときの嬉しさだったり。最初は作品の新しい世界観への違和感があったけれど、だんだん好きになっていく過程だったり、ストーリー展開に衝撃を受けた思い出だったり。僕は1971年に放送された『帰ってきたウルトラマン』は観ていないし分からないけれど、「むかし大好きだった作品の思い出」というのは、気持ちとしてすごくわかりました。
K:エッセイみたいな読み方もできそうですね。
W:そう。懐かしさというか、「エモさ」というか、「作品を好きになる気持ちってこうだよね」という思いでいっぱいになる。さらにそれが自分自身も好きな作品だったりすると、「わかる!そこいいよね!」となったりすることもあります。
知らない作品に空想科学読本で出会う
K:『帰ってきたウルトラマン』もそうですけど、知らなかった作品と「空想科学読本」を通じて出会う、ということもありますよね。私は、マンガ『Dr.スランプ』を読んだことがなくて、アラレちゃんも知らなかったんですけど、角川文庫版にアラレちゃんがパンチで地球を割ってしまうお話の検証があって。そこに出てくるアラレちゃんの口癖やキャラクターの紹介がすごくかわいいんですよね。だからこそアラレちゃんがやっていることのスケールの大きさとのギャップが面白くて、原作を読んでみたくなりました。
W:僕の場合は『うる星やつら』かな。最近、再アニメ化されて話題になったけど、ストーリーはほとんど知らなくて。「あたるはラムちゃんの電撃を浴びていたけど大丈夫?」というのがジュニ空に書かれている疑問だけど、ストーリーは知らなくても、疑問の答えが気になって読みはじめるから誰でも楽しめるし、疑問の切り口が印象的だから、読んだ後も忘れない。ジュニ空を読んだあとで、本屋に行ったり誰かとその作品の話をしたりしたら、「読もうかな」「観ようかな」という気持ちになるんじゃないかと思います。
K:空想科学読本を読んでマンガやアニメの原作を知る、というのはありですよね。だからこそ、(空想科学読本の)目次を開いたときに知らない作品がいくつかあっても、「これから原作を読もうかな」くらいの気持ちで手に取ってほしいです。
W:どの章を読んでも、いきなり検証が始まるんじゃなくて、「こんな面白い作品があってこんな話なんだけど、今回はここを検証するよ」という丁寧なあらすじを柳田さんが書いてくれるから、安心してほしいですね。
これからの空想科学読本
W:こうして話をしながら、「次はどんな作品の検証が届くんだろう」とワクワクしてきました。毎回、話題になっている新しい作品の検証をしてくれるし、実はまだ検証していない有名な作品もいっぱいあるはず。
K:そうなんですよね。調べてみると、意外とあります。
W:実は『ジュニア空想科学読本27』の制作が始まっていて、柳田さんからの原稿も届き始めています。今年中には本屋さんに並ぶので、楽しみにしていてほしいです。きっかさんからのカバーイラストも届いたのですが、26巻とはまた違った世界観で、今回もかわいらしく、奥行きがあります。
K:角川文庫版も次巻の話し合いの真っ最中なので、どんな作品が収録されるか、予想しながら待っていていただけると嬉しいです。
W:角川文庫版とジュニア版が同時に出ていることはすごくいいなと思っていて、大人から子どもまで、誰でも読める状態だからこそ、世代を超えた話題のきっかけになってほしいと思います。お父さんお母さんが子どもだった頃のマンガやアニメを、子どもがいま見つけて楽しめるし、空想科学読本で見つけた昔のマンガの話を大人にしたら、大人のほうは子どもに当時の話を教えてくれるかもしれない。
K:同じ「空想科学読本」シリーズだけど、書店では「角川文庫」の棚と「角川つばさ文庫」の棚の両方にある、というのも、読書の幅を広げるきっかけになるといいなと思います。空想科学読本を読んで、登場したアニメやマンガに触れるのももちろん素敵なことですが、ジュニ空を読んだら児童文庫のほかの本も気になるかもしれないし、角川文庫版を読んだら周りに並んでいる小説を読んでみたくなるかもしれない。
W:ジュニ空や空想科学読本を1冊読破できる人なら、読める本はたくさんあるはずだから、このシリーズが他のいろんな作品への入り口になると嬉しいです。
K:小説なら、『走れメロス』でもいいですね。
W:確かに。空想科学読本を読んでから『走れメロス』の原作に出会ったら、また読み心地が違うんだろうな。
K:羨ましいですね。私たちはもうその経験はできないから。読む順番は一度きりなので。それから、空想科学読本シリーズは一編一編が数分で読めるので、忙しい大人でも、短い時間でぱっと読んで息抜きにしてくれると良いなと思います。
W:ですね。そろそろおしまいにしますが、最後に一言ありますか?
K:ひとこと……。空想科学読本を、これからもお楽しみに!
書籍紹介
空想科学読本 「高い高い」で宇宙まで!
著者 柳田 理科雄、イラスト 近藤 ゆたか
発売日:2023年06月13日
夢を破ってベストセラー!大人気シリーズの角川文庫版、第4弾が登場!
マンガやアニメには、魔法のような現象や驚異的なアイテムが登場する。名探偵コナンの「蝶ネクタイ型変声機」の仕組みは? ぐりとぐらが作った大きなカステラ、実際のサイズとは!?
気になるあれこれを科学的に徹底検証。誰もが夢中になること間違いなしの、大人気シリーズ第4弾!
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322302000987/
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ジュニア空想科学読本26
著者 柳田 理科雄、絵 きっか
発売日:2023年07月12日
マンガやアニメを科学する、大人気シリーズ第26弾!
お馴染みの童話や大人気マンガ、アニメの疑問を科学的に解説!
「どうしたら人の心は読めるの?」
「体からチェンソーが出てきて大丈夫?」
「四角いブロックの世界で生きていける?」
「『因幡の白兎』はほんとうに海を渡ったの?」
『ジュニア空想科学読本』なら、そんな疑問に答えます。
読んだら誰かに話したくなる、大好きな物語がますます面白くなる、爆笑と感動のシリーズ第26弾。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322302001500/
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