エッセイ漫画の「コマ間を読む」
井上:結局、誰が悪いのか。『キミのお金はどこに消えるのか』で僕がやりたくなかったのは、敵をつくることなんです。財務省が悪いって描いてないんですよ、あんまり。
でも、それがよくないのかもしれない。田中さんが経済漫画を描くなら、敵を設定したほうがいいですよ。敵をつくって、そいつを徹底的に叩く。そのほうが漫画は面白くなる。実はね、最近、小林よしのりさんの昔の『ゴーマニズム宣言』を読んで反省したんです。あの漫画って爽快感があるんです。敵を設定してそれを叩く。これは面白いわ。
田中:エンタメなんですよね。
井上:そうそう。でも、僕はそれが嫌なんです。経済に正解はないから。消費税が世の中をよくする側面もあるんです。消費税が悪なんじゃなくて、いまやるのが悪。でも、財務省を攻撃したほうが簡単だし、要旨がわかりやすくなる。でも、僕はやりたくない。だから田中さんに(笑)。
田中:そんな(笑)。副作用の強いクスリを、効くからってすすめるようなもんじゃないですか! 敵をつくる、とちょっと関係しますけど、面白い漫画にするためには、軸が必要ですよね。『若ゲのいたり』なんかもそうですけど、この人ががんばってゲームがヒットしたんだ、って描くじゃないですか。必ず、アンチが「こいつ、こんないいやつじゃないぜ。裏でこんなこともやってる。なんでそれを描かないの」って批判してくるんですよ。でも、両方描いたら、その人がいいやつか悪いやつかわからなくなる。面白くなくなるんですよ。
井上:よく描くか、悪く描くか、どちらかですよね。『ダーリンは外国人』の小栗左多里さんが言ってたんですけど、エッセイ漫画にできることは「描かない」ことだけ。フィクションの漫画と違って、ねつ造できないじゃないですか。描かないという選択肢しかない。
田中:そうですね。描くところを抽出して、描かないところをそぎ落とすしかない。でも、そうすると「真実を描いてない」みたいな批判を書くやつが必ずいるんですよ。
井上:ようはね、一つの物語を伝えることしかできない。でも、漫画は叙情的な空気を伝える能力がずば抜けてるから、言外の雰囲気まで伝えられる。ふわふわとした何かにかたちを与えることができる。
田中:そうですね。小説は苦手かもしれない。
井上:文章でそれをやる人もいるけど、それはすごく上手い人だけで、ほとんどははっきりと書くしかない。漫画はたいていの文章よりもふわふわとしたものを表現しやすい。でもやり過ぎると、何を言いたいかわからん、となるから、軸をつくって、不要なものをそぎ落とす必要がある。
『若ゲのいたり』は美談ばかり描いているけど、こことここの間に何かあったな、と匂わせているところがある。そういうところが好きですね。漫画のコマとコマの間を読む。この成功譚には描いていない裏のエピソードがあるんじゃないか? エッセイ漫画の面白いところは、隠しきれないところがあるところ。描かないという選択肢はある。でも、描かなくても出ちゃう。
田中:描き手の思惑は、絵柄とか演出ににじみ出たりしますよね。
井上:勘ぐりたくなるんですよね。そういうところをエッセイ漫画は面白く伝えてしまうんですよね。
――最後にお二人のこれからのご予定をお願いします。
井上:ここだけの話ですけど、『キミのお金はどこに消えるのか』は2巻でいったん終わりです。次は(中国人の奥様の)月(ユエ)さんが「なぜ日本はこうなのか」という素朴な疑問に対して、お金という視点から答えていく漫画にしたいと思っています。田中さんはこれからのご予定は?
田中:いま、ちょっと悩んでいるんですよ。ツイッターに漫画を連載してバズらせて売るってことが完全なレッドオーシャンになっちゃって。
井上:田中さんが流行らせた第一人者じゃないですか。
田中:いまはもうみんながやるようになっちゃった。だからいま、別のブルーオーシャンを探しながら動いているところですね。上手く当たったら2,3年はいけそうだな、というところを狙ってます(笑)。
井上:だから経済漫画ですって! タイトルは『敵は財務省』(笑)。
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