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特集

中川大志×タムラコータロー「クリスマスに、大切な人と一緒に観てもらえたら」 アニメ映画「ジョゼと虎と魚たち」公開記念対談

撮影:小嶋 淑子  取材・文:高倉 優子 

青春恋愛小説の金字塔とうたわれる、田辺聖子さんの短編「ジョゼと虎と魚たち」が劇場アニメ化されました。原作や、2003年に公開された実写映画とも設定が異なり、令和の現在を舞台にした物語です。海洋生物学を専攻する大学生の恒夫と、車椅子のジョゼがひょんなことから出会い、お互い影響を与え合っていく……。夢を抱く若者たちの青春模様と純愛を圧倒的な映像美で紡いだタムラコータロー監督と、声優として恒夫を好演した中川大志さんに今作の魅力や見所について語り合っていただきました。



悩みまくった恒夫のキャラクター


――原作の魅力や、アニメ映画化することになったきっかけを教えてください。


タムラ:まず、タイトルが印象的でしたね。カタカナの「ジョゼ」という言葉がかっこいいし、田辺さんの作品の中でもこれほど特徴的なタイトルはないんじゃないかと思って惹かれました。しかも、こんなに素敵なタイトルの小説が36年前に世に出ていたなんて、と驚きながら読んでみたら、キャラクターが爽やかで非常によかった。ただし短編なので「面白い」と思ったところで終わってしまったんです。続きが気になるし、ふたりの行く末が見てみたいと思ったのが映像化のきっかけでした。


中川:歴史ある原作ですし、実写化もされている作品なので、今という時代に置き換えたときにどんな物語になるんだろう……と、僕は楽しみで仕方なかったですね。


写真

中川大志さん


タムラ:確かにアニメ映画化するにあたって、36年前の作品をいかにチューンアップして、自然に見せるかということが一番の挑戦で、苦労したところかもしれない。原作にない部分が不自然なドラマに見えてはいけないし、オリジナルになった瞬間に失速してしまうのはいけない。とにかく原作に恥じない作品にしなければいけないと思ったんです。

 ジョゼはキャラクターが立っているので原作からそんなに変えてはいないのですが、恒夫は本当に難しかった。デザインも悩んだし、どんなことをしている人物かという設定も迷った。一体どういうやつなんだろう……と(笑)。中川くんに声を入れてもらってはじめて、「現代版の恒夫はこれでいいんだ!」と確信が持てました。

役を作り込まず自然体で演じた


中川:最初に台本を読んだとき、「恒夫はいつもジョゼに振りまわされていて……」といった具合に、キャラクターを分析して、しっかり作りこんで演じようとしていたんです。でも監督から「彼は鈍感さや自分の世界観を持ったピュアなキャラクターにしたい」という話を聞いて、「そっか、自然体でいればいいんだ」と気づきました。


©2020 Seiko Tanabe/ KADOKAWA/ Josee Project


タムラ:恒夫と中川くんは年齢も近いしね。


中川:そう、ドンピシャで同世代です。恒夫は自分の好きなことが明確にあって、夢に向かって努力を重ねている。その意志の強さや行動力は尊敬しますね。なかなかこんな人はいないんじゃないかな、と。でもいざ恋愛のこととなると鈍感で……というギャップがいいですよね。それが恒夫の持ち味なんじゃないかと思います。


タムラ:そうそう。確かにそれはあるよね。意志の強さや行動力は中川くんともリンクするんだけど。


中川:いえいえ、とんでもない(笑)。


タムラ:僕がとくに印象に残ったシーンは、恒夫がジョゼを海に連れていくところ。外の世界を怖がっていたジョゼの背中を押すわけだけど、そこまで強引じゃなく、でもしっかりリードしているバランスが絶妙でした。いやらしさや計算がまったくなくて、自然と紳士的にふるまっていて。もっと弱い感じだったら、ジョゼは「だったら、ええわ!」と強がったり、遠慮したりしたかもしれない。本当によかった。あのシーンのおかげで、恒夫が魅力的に見えます。


中川:それはよかった。自分としても、すごく自然に演じることができたシーンなので嬉しいです。

夢と出合った瞬間を忘れないでいること


――他にも中川さんのお気に入りのシーンはありますか?


中川:恒夫がジョゼにクラリオンエンゼルの話をするシーンですね。それは彼の夢が生まれた瞬間の話なんです。そこがすごく好きでした。大人になっていくにつれ、夢を抱いたときの純粋な気持ちは薄れ、達成することが目的になってしまったりする。でも恒夫はずっと夢と出合った瞬間を忘れずにいて、大切にしているんです。素敵だと思ったし、僕自身もハッとさせられました。


タムラ:ジョゼと一緒に行った水族館で、魚について説明するシーンもいいよね。恒夫のちょっと抜けている部分を描きたいというか、周りが見えなくなって猪突猛進になっている姿が描きたくて入れたんだけど。観ている方たちが思わずクスッと笑ってしまうようなシーンになったんじゃないかと思います。


©2020 Seiko Tanabe/ KADOKAWA/ Josee Project


中川:そのシーンの収録は本当に大変でした。膨大な魚の情報をつらつらと説明しなくちゃいけないのに、全然、時間が足りなくて(笑)。


タムラ:難しい用語がたくさんあると役者さんは丁寧に読みたくなるものだけど、自分の好きなものについて語り出したら止まらなくなる感じを出したかったんです。常に頭の中にあるものが一気に出ている感じを出してもらいたくて、早口で淡々としゃべってもらったんだよね。ごめんね(笑)。


写真

タムラコータロー監督


――恋愛映画の醍醐味である、キュンキュンするシーンもちりばめられていますね。ジョゼが車椅子から恒夫を見上げるシーンなど、ジョゼのかわいらしさが全開でした。


中川:僕がキュンとしたのは、海から帰ってきておばあちゃんに怒られたあと、ふたりが秘密を共有するシーンですね。「おばあちゃん、何時から何時までは昼寝をしているんだ」といった感じでジョゼが内緒話をしてくれる。ふたりの距離が縮まった瞬間にドキッとしました。


タムラ:ああ、確かにあのシーンはいいよね。


©2020 Seiko Tanabe/ KADOKAWA/ Josee Project

原作とは違うラストシーンを見届けて


――それでは最後に、読者へメッセージをお願いします。


タムラ:原作のジョゼと恒夫が現代にいたら彼らの目に世界はどう映るか……と、考えてみた作品です。彼らにしっかりドラマを背負わせてみたら物語に広がりが出るんじゃないかと思いながら作りました。原作とは別物ではあるけれど、芯の部分では意志を継いでいるつもりです。原作では描かれていない僕らなりのラストシーンを、ぜひ見届けてほしいですね。観終わってから原作を読むと、また新たな発見があると思います。


中川:この作品は色や空気感が温かいので、観終えたあときっと優しい気持ちになれるはずです。何より映像や世界観が美しい。キラキラしています。いつもの見慣れた町の風景や、何気ない一瞬がジョゼという女の子の目を通して見るとこんな風にきれいに見えるんだということを、ぜひ皆さんにも味わってもらいたいです。ちなみに、クリスマスに公開されるので、恋人はもちろん、友人や家族など大切な人と一緒に劇場で観てもらえたら嬉しいです。

アニメ映画「ジョゼと虎と魚たち」



中川大志 清原果耶
宮本侑芽 興津和幸 Lynn 松寺千恵美
盛山晋太郎(見取り図) リリー(見取り図)

監督:タムラコータロー
脚本:桑村さや香
キャラクター原案・コミカライズ:絵本奈央
キャラクターデザイン・総作画監督:飯塚晴子
コンセプトデザイン:loundraw (FLAT STUDIO)
主題歌・挿入歌:Eve「蒼のワルツ」/「心海」(TOY'S FACTORY)
アニメーション制作:ボンズ

配給:松竹/KADOKAWA
製作:『ジョゼと虎と魚たち』製作委員会
©2020 Seiko Tanabe/ KADOKAWA/ Josee Project
公式サイト:https://joseetora.jp/

あらすじ

趣味の絵と本と想像の中で、自分の世界を生きるジョゼ(山村クミ子)。幼い頃から車椅子の彼女は、ある日、危うく坂道で転げ落ちそうになったところを、バイト帰りの大学生・鈴川恒夫に助けられる。海洋生物学を専攻する恒夫は、メキシコにしか生息しない幻の魚の群れをいつかその目で見るという夢を追いかけながら、バイトに明け暮れる勤労学生だった。クミ子は恒夫に、自分の事は〈ジョゼ〉と呼べと言う。愛らしい容姿だが口も態度も悪いジョゼに、閉口する恒夫。
そんな恒夫に、ジョゼと暮らす祖母・チヅが、あるバイトを持ち掛ける。それはジョゼの注文を聞いて、彼女の相手をすること。ひねくれ者のジョゼは恒夫に辛辣に当たり、だが恒夫もジョゼに遠慮することなくぶつかっていく。衝突しながらも見え隠れする互いの心の内に気付き、縮まっていくふたりの距離。恒夫との交流の中で、ジョゼは意を決して夢見た外の世界へと飛び出すことを決意するのだが……。

原作情報


書影

『ジョゼと虎と魚たち』(角川文庫)


著者:田辺聖子
定価:660円(本体600円+税)
ISBN:9784041314180
https://www.kadokawa.co.jp/product/199999131418/

足が悪いジョゼは、車椅子がないと動けない。世間から身を隠すように暮らし、ほとんど外出したことのない、市松人形のようなジョゼと、“管理人”として同棲中の、大学を出たばかりの恒夫。どこかあやうくて、不思議にエロティックな関係を描く表題作「ジョゼと虎と魚たち」ほか、さまざまな愛と別れを描いて、素敵に胸おどる短篇8篇を収録した珠玉の作品集。



タムラコータロー

福岡県出身。アニメーション演出家として「GOSICK-ゴシック-」「文豪ストレイドッグス」「宝石の国」他多数作品の絵コンテ、演出を担当。映画「おおかみこどもの雨と雪」で助監督を、TVシリーズ「ノラガミ」「ノラガミARAGOTO」で監督を務める。

中川 大志

1998年6月14日生まれ、東京都出身。2009年より俳優活動を開始、2011年にTVドラマ「家政婦のミタ」で注目を集め、以後NHK大河ドラマ「真田丸」をはじめとする数々の映画・ドラマに出演。近年の出演作は、映画「坂道のアポロン」、「虹色デイズ」、NHK連続テレビ小説「なつぞら」など。2021年には映画「砕け散るところを見せてあげる」(主演)、「犬部!」の公開が控える。声の出演作としては「ちびまる子ちゃん イタリアから来た少年」、日本語吹き替えを務めた「パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊」、「ソニック・ザ・ムービー」がある。

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