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特集

【島倉原×森永康平対談】「失われた30年」を取り戻す方法とは? MMTから考える日本経済の未来(後編)

撮影:小嶋 淑子 

2019年ごろから日本でも話題になり始めたMMT(Modern Monetary Theory、現代貨幣理論)。今回の新型コロナウイルスによる経済への打撃を受けて、再び注目が集まっています。前編では、給付金や補償金といった安易な給付政策の危険性に話が及びましたが、今回の後編は「失われた30年」と呼ばれる日本の停滞が始まったタイミングについて、そして将来の打開案についてお二人に話していただきました。


今の経済学は現実に合っているか?


――日本でのMMTの広がりを見ていると、経済学者ではない「在野」の方に支持されているように思います。まさにお二人も実務家ですが、その理由などはどう考えていらっしゃいますか?


森永:なんていうんですかね、良い意味で「当たり前のことを言っているな」という感じがしました。MMTを語る際によく使われる「誰かの赤字は他の誰かの黒字」という文言も、仕事として帳簿を付けたりしている身からすると、違和感なく入ってきます。「財政赤字は悪だ」という主張も正論っぽく聞こえてしまいますけど、会社経営をしている自分としては「じゃあ、その赤字に対応する黒字はどこに行ったんだ?」という発想になります。


島倉:森永さんは、小さいころから主流派経済学に触れられていたとのことですが、違和感はなかったですか?


森永:そうですね、父親(森永卓郎氏・獨協大学教授)の影響もあって、中学校に入る前ぐらいから一般的なマクロ経済学とミクロ経済学の分厚い本を読んでいたと思います。でも、MMTを学ぶにあたり、海外の文献や関連記事などを読んで、ある意味「目から鱗」というか。これが正しい!と盲信したわけではなくて、どっちかというと「なんでこんな当たり前の表現を全然気づかずにいたんだろう」という恥ずかしさがありましたね。政府が先にお金を出して、その中から一部を税金で回収するみたいな発想って、たしかに言われてみればその通りなんですけど、それを僕は全く持っていなかった。



島倉:私も経済学者ではないし、元々大学も経済学部ではないので、理論のための理論よりも「現実と合っているかどうか」が自分の中の基準ですね。そういう意味では、完全に学術的な興味で、というのとは少し違うかもしれません。あくまでも、現実と照らし合わせたときに、どちらの理論が論理的に筋が通っているか、データの裏付けができているか、という点を重視するようにしています。自分の本でもテーマによっては、定義レベルから見直したうえで、MMT以上に突っ込んだ議論を展開したりもしています。

これまでの経済政策ってなんだったんだ問題


森永:僕が生まれてから今日に至るまでの日本経済って、「失われた30年」などと言われていますよね。それが正しいとするならば、「これまでの経済政策ってなんだったの?」って思いますよね。頭のいい経済学者や中央銀行、政府関係者は30年間、何をしていたんだろうって。

これが民間企業だったら絶対に起こらないことだと思うんですよ。自分発案の企画や商品が30年間一切売れないままってなくないですか? 普通だったら、もっと早い段階で違う企画や商品に変更したりしますよね。


島倉:私も経済学の問題として、明らかに両立しない、前提がまるっきり違うような理論がどちらも生き残ってしまっている、という点があるように思います。自然科学であれば、実験や観測などである程度間違いが証明された理論は棄却されていきますよね。でも、経済学は「常識的に考えて、明らかに間違っているでしょ」っていう説も、なぜかいろんな理屈を付けて生き残っていたりするんですよね。



森永:たしかに、アカデミックな方からは「理論上はこうなるはずだ」という意見をぶつけられることがありますが、「いや、でもデータを見ると現実では、そうなってないじゃないですか」と反論することは多いですね。そうすると「理論上は〇〇だけれども、現実は森永君が言うように△△になっている。ということは、現実の方がおかしい」みたいな。


島倉:ありがちな話ですね。


森永:あとは本の中にも書いたのですが、現代に即した新しい経済学が誕生してもいいのかなとも思います。明治大学の飯田泰之先生とカドブンで対談させていただきましたけど、飯田先生は40代半ばくらいで「若手の経済学者」と呼ばれているわけですよね。その時点で他の業界とは明らかに違うなというか。僕はAIやキャッシュレスという比較的新しい分野の会社も経営していますが、これらの業界で40代半ばっていったら、もう古株というか、最年長として扱われちゃいますよ。それを考えると、日本の経済学界全体が時代の波に置いていかれているような気はしますよね。

リーマン・コロナ以前に日本経済が終わったタイミング


森永:僕としては、1997年の消費税増税(3%→5%)を実施したあたりから、日本経済はおかしくなってしまったと思うんですよね。これが明らかに愚策だった。島倉さんもおっしゃってましたけど、今回の新型コロナウイルスが経済に及ぼした影響ばかりが取りざたされているのは、少しずれているように思います。


島倉:このグラフを見てもらえば分かると思うのですが、まさに1997年から財政支出が横ばいになるタイミングで、日本の経済成長も止まっています。ところが金融政策に関しては、1995年に日銀が公定歩合を当時としては世界史上最低の0.5%に引き下げたりしていて、既に十分緩和的だったんですね。マネタリーベースだって量的緩和も含めてガンガン拡大してきたけど、結局のところほとんど効果はありませんでした。だから、別にコロナに始まった話じゃないんですよ。



▲日本のGDP/財政支出/マネタリーベース/政策金利の推移


――とっくの昔に行き詰まっていたんですね。


島倉:あと、やっぱり消費税増税のダメージってすごいんですよね。



▲実質民間最終消費支出(季節調整値)の推移(1994年第1四半期~2020年第1四半期)


森永:今回とても面白いデータを本に載せたんですけど、2019年10月の増税のときに、軽減税率として飲食料品と定期購読の新聞だけは消費税が8%で据え置かれましたよね。これらの品目って「日用生活品」なのですが、一般の人って別に経済や税の専門家じゃないですから、軽減税率の対象ってざっくりと認識している程度です。たとえば、シャンプーとか歯磨き粉とかも「日用生活品」だから、これらも税率は8%に据え置きだろう、と。でも、これらは軽減税率の対象外だから10%に値上がりしています。

そこで今回載せたデータなんですが、おそらく人々が「軽減税率の対象じゃない?」と思っているような「日用生活品」の値段を見てみると、多くの商品の価格が下がっているんですよ。


――企業が用心して下げたということですか?


森永:ええ。この20~30年で日本人にはデフレマインドが思いっきり根付いているので、価格にめちゃくちゃ敏感になっているんですよね。だから、値上げしたと思われて買われなくなっちゃったから、増税分を値下げした可能性があるんです。でも、もちろん生産コストが下がったわけではないので、その分をどこが呑んでいるかっていうと、当然企業です。ということは、単純に考えて、業績・利益が落ちる。でも、これも落としたくないので、従業員の給料を減らすか、投資をやめて製造を抑えるか、という話になる。すると、個々の家計も所得が減って買い物をしなくなり、さらに値下げをしないとものが売れなくなる――いわゆるデフレ・スパイラルです。


島倉:そういうスパイラルがもう20年以上続いているのが、日本の現状ですよね。

緊縮マインドの根源


森永:もう一つ、人々に巣くっている認識として「予算を削るほうが楽」というものがあるように思います。政策を実行する人間にとっては、そちらのほうがリスクも無いし、成果も分かりやすい。

たとえば、自分が会社の一部門を任されている部長であり、何かしらの結果を求められていると考えたら分かりやすいと思います。正直「予算を削る」というのは誰でもできるわけです。「残業するな」って言えば、削れます。逆に、予算を取りに行って、投資をしたり開発に注力したりすると、その投資が必ず成功するとは限らないという意味で、リスクを取ることになりますよね。だから、失脚したくない政治家は、特に及び腰になる。でも、国の運営でそれをしたらダメなんです。


島倉:そうですね。経済成長が止まってしまった今は、特にそういうマインドセットが根付いてしまっていると思います。


――いつぐらいから、そういう風潮になってしまったのでしょうか?


島倉:やはり90年代半ばの、いわゆる「構造改革路線」が前面に出てきたころからじゃないでしょうか。具体的には橋本龍太郎政権のあたりですよね。消費税増税とか財政構造改革法とか省庁改革とか、いろいろやってましたから。


森永:メディアの刷り込みもあって、いざ「公共投資をしよう」という話になっても、すぐに「そんな無駄なことに血税を使うな!」と叩かれやすい世の中になっていますよね。

あとは、こういう財政支出を拡大する方向を指して「『小さな政府』から『大きな政府』に」なんて言いますけど、これを聞いて極端に「中国とか北朝鮮みたいになりたいんですか?」と捉える人もいるように思います。はっきり言ってそれは極端なリアクションで、この言葉の含意は「何でもかんでも民営化して競争させるのではなくて、国民にとって必要不可欠な部門に関しては利益重視ではなく国が運営します」くらいのことです。


島倉:そういう意味では現状は、「すべてにおいて民間がやるほうが効率的だ」といった、いかにも主流派経済学的な非現実的な考え方を、生真面目に実行しようとしている感じですね。



長期戦で声を挙げ続けることの大切さ


――最後に、問題含みのこの経済状況を改善するためには、どうすればよいのでしょうか?


島倉:そうした質問は講演や、政治家が参加するような勉強会でもよく聞かれるのですが、私自身はシンプルに「この二十数年やってきたことと、逆のことをやればいいだけです」と答えるようにしています。別に、何か斬新なことや奇をてらったことをやる必要はない。そう言うと、「そんなこと言っても、それではすぐ良くならないじゃないですか」みたいな話が出ます。でも、先ほどから言っているように、長きにわたって間違った政策を行ってきた結果今があるわけですから、それを急に良くしようと考えること自体、そもそも無理があるんです。


――具体的には、どのようなことが考えられるのでしょうか?


島倉:まず、消費税は廃止か減税。それから、先ほども述べたように、土木以外も含めた公共事業の拡大です。

公共事業については、私自身、決して政策の現場に精通しているわけではないので、あまり具体的なことまでは言うべきではないと思いますが、たとえば今回のコロナでは、欧米諸国に比べて重症者・死亡者の数がはるかに少ないにもかかわらず、医療現場のひっ迫が報じられましたよね。この背景には、ヨーロッパ諸国では医療が基本的には公営であるのに対して、日本の医療機関の大半は民営、つまり営利事業であることを前提に運営されているため、今回のような非常時の受け皿としては機能しづらいという構造があります。

そもそも、売り手である医師の権威が極めて強く、しかも患者の自己負担が少ない公定価格で運営される医療サービスは、営利事業として運営されると不必要に高額な治療を行うインセンティブもはたらきやすく、民間中心に運営することが社会全体として適正ではない分野と言えるでしょう。ですから、感染症対策の強化とともに、公共事業拡大の一環という意味も含め、医療の公営化を進めることが考えられると思います。また、少子化問題への対応という意味でも、産婦人科の充実や、妊娠・子育てをしている人へのサポート強化も重要ではないでしょうか。

他にも、郵便や公共交通、あるいは水道・電気・通信といったライフラインの中には、民営が適正ではないものがいろいろとあるはずで、そうしたものは公営を中心とすべきでしょう。緊縮財政がしみついた日本で全てを一気に変えるのは難しいでしょうから、コンセンサスを得やすいものから、じっくり取り組んでいく必要があると思います。



森永:個人レベルで言うと、よく言われることですが、政府の方針に対して声を挙げることは大事だと僕も思っています。でも、その時に、間違った知識とか理論に基づいて行動を起こしてしまうのは、危険なことだと思います。複眼思考じゃないですけど、観点をいくつか持っておいて、それを基に自分の頭で考えるということが大事なんだと思いますね。特に若い人たちにとっては、最初からアカデミックな観点から厳密さを求めてしまうと「興味持ったけど、やっぱ難しいからいいや」となってしまいます。今回の本のスタンスも、緩く・粗くでもいいから、MMTのエッセンスに触れられるように書き上げたつもりです。


島倉:声を挙げる、というのは全くその通りですね。結局のところ、あらゆることを最終的に決めるのは政治ですが、国の運営というのは国民全員が関わっている一つの「事業」なわけですから、「参加する」「意見を伝える」ということが、当たり前のようで大切なことだと思います。

最近では、与野党あるいはイデオロギーを問わず「今の緊縮財政ではダメなんじゃないか」という政治家も出てきていて、それは良い兆候だと思います。もちろん、世界恐慌が起きた1930年代にいち早く国内経済を回復させた政権の一つが実はナチス・ドイツだったという話もあって、景気回復さえしてくれれば良いというわけでもないのですが。


――一人一人が長い目で自分の考えを伝えていくことが大切ですね。今日はありがとうございました!

関連書籍

島倉原『MMT〈現代貨幣理論〉とは何か 日本を救う反緊縮理論』(角川新書)
https://www.kadokawa.co.jp/product/321905000085/

森永康平『MMTが日本を救う』(宝島社新書)
https://store.tkj.jp/shopdetail/000000011360/

ランダル・レイ『MMT 現代貨幣理論入門』(島倉原監訳、鈴木正徳訳、東洋経済新報社)
https://str.toyokeizai.net/books/9784492654880/

島倉原『積極財政宣言 なぜ、アベノミクスでは豊かになれないのか』(新評論)
https://www.shinhyoron.co.jp/978-4-7948-1006-9.html

森永卓郎・森永康平『親子ゼニ問答』(角川新書)
https://www.kadokawa.co.jp/product/321903000122/


島倉 原

経済評論家、株式会社クレディセゾン主任研究員

森永 康平

経済アナリスト、株式会社マネネCEO

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