(※この対談は2019年8月に行われたものです)
投資に関連する税金の知識を持つことが大切
飯田:投資を始めて次に気づくことは、税金の大切さです。投資の前に税務の本を読むべきだという人は少なくないでしょう。例えばiDeCo(個人型確定拠出年金)の掛金は、全額が所得控除の対象となり、「所得税」と「住民税」が軽減される。年収600万~700万円の世帯なら投資額の20%の節税効果が得られます。言い換えれば確実に20%の利回りが得られるということ。それを知らないから、iDeCoの有効活用ができていない。
森永:そういうふうに税金の発想を持って制度を使わないと、使い方を間違えます。あるFPさんは、長期投資目的ならNISA(少額投資非課税制度)口座の中で分散投資をしてリスクを抑えましょう、個別株はNISAの枠外でやりましょうとアドバイスしています。僕はそれはおかしいと思っていて、NISA口座内で出た利益は青天井で非課税になるのだから、むしろ期待リターンの高い投資にNISA口座を使うべき。期待リターンの低い長期投資は枠外でいい。税金の勉強をする機会がほとんどないので、税金の発想を持つべきと言っても難しいのですが。
飯田:自分の投資に関係する税金だけを勉強すればいいのです。税理士を目指すわけではないのですから体系的に学ぶ必要はない。自分の税金を理解して、その次にやっと企業情報の読み方やマクロ経済の勉強をする。
森永:将来を事前に知ることはできませんが、分かる範囲内で分析して、そのシナリオ内で投資をしている限り、リスクは抑えられると思っています。例えば、ほとんどの専門家は「日経平均の下値は2万円前後」と言っています。 2万円前後 はPBR(株価純資産倍率)が1倍(日経平均株価構成銘柄の純資産の合計が時価総額の合計と同じ)になるところだから、これより下は理論上では売られ過ぎ。そこで買い戻されるので、レバレッジのコントロールさえしておけば、大負けすることは余り考えられない。
飯田:そういうことを「株式投資講座全10回」で話しても全然響かない(笑)。実際に相場をはって、びっくりするほど固い床(下値)とか、なぜか抜けない天井(上値)があると感じることがある。そういうことか、売ってしまって残念、買いそびれて惜しいことをしたという記憶が残る。そういった体験とリンクしてくると理論の重要さがわかるし、理解もできるようになるのです。
株価が下がることが見込める今が投資のチャンス?
森永:消費増税で企業業績が悪化すれば、株価は下がるでしょう。だからこそ株式投資は今から始めたほうがいい。下がるのを待ってから始めるのではなく、あまり投資額が大きくないうちに、早めに下がる体験をすること、危機を経験するのが大事だと思います。日本は長期投資の文化が芽生えず、一方で米国では芽生えているのは株価指数の質に1つの原因があると考えています。米国の株価指数「S&P500」とか「NYダウ」は40年のスパンで見ると、何度も大きな危機が起きてその度に大きく下落しているものの長期的には右肩上がりで上がっている。日経平均株価はバブルが崩壊して以降、30年かけてやっと半値ぐらいまで戻った。これでは「危機が終わると上がります」というセールストークが効かない。指数を変えたほうがいいと思う。
飯田:具体的な投資商品としては、海外株中心の投資信託なども候補になりますね。あとは米株インデックスファンドかな。
森永:僕も同じ意見です。エンジニア向けのセミナーをやったときのこと。彼らの多くは米国発のサービスを使っているので、米株インデックスを勧めたのです。すると参加者から「講演では分散投資をしなさいと言いましたよね」と指摘された。米株インデックスだと米国という単一国への投資になっていて、思いっきりカントリーリスクを負っていると。そこで米株インデックスに入っている企業の地域別売上高を見せて説明をしました。アップル、マイクロソフト、セールスフォース・ドットコムしかり、上場市場は米国だけど、ほとんどの売上は米国外のマーケットであげていると。参加者は理解してくれました。
飯田:投資でだまされるのは、みんな安全確実で高利回りの商品が欲しいと思っていること。あり得ないのに、あると手を出してしまう。
森永:詐欺ではないですが、毎月分配型投信がそうですね。「毎月9%の金利がもらえますよ」と私の祖母の家にも営業が来たそうです。あくまで毎月振り込まれる配当金の額と投資元本で割り算をしただけの利回りであって、実態は元本を食っている(自分が投資した資金が還元されている)ことまでは説明しない。合法的詐欺とでもいいましょうか。
飯田:毎月分配型という仕組み自体が非常に馬鹿馬鹿しい。複利で増えることがキモの投資の世界で、再投資をせず分配してしまうのだから。いちばんのうま味を捨てている。
森永:ところで、うちの父親(森永卓郎)はこの頃、僕に「マイホームを買え」という圧力をかけてくるのです(笑)。マイホームも投資という考え方なのでしょう。
飯田:「持ち家は時代遅れ」と指摘する著名な評論家は多いですよね。ただ、当人は住居の一部をを事務所扱いにすることで家賃を経費として認められるからいいけれど、サラリーマンには関係のない話でしょ。持ち家を買うための住宅ローンなら「住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)」が適用されるし、ほぼ必ず団体信用生命保険(団信)に加入するので、万が一死亡した時にはローンの支払いが免除される。家を買うことは、サラリーマンができる数少ない節税手段です。そもそも数千万の借金をできる、つまりはレバレッジをかけられる数少ない機会でもありますからね。それに賃貸住宅は一定年齢を超えると借りづらくなりますよ。
森永:僕の知人は都心に買った家を買い値以上の値段で売りました。彼にとってマイホームは投資だったのでしょうが、住宅ローン金利もゼロに近いとはいえ、僕はサラリーマンではない。経済アナリストのオヤジはそこを理解していないようです(笑)。ありがとうございました。
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