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特集

【同世代対談 岡崎琢磨×深緑野分】こじらせ系青春ミステリ『さよなら僕らのスツールハウス』を語り合う

撮影:野口 彈  取材・文:高倉 優子 

デビューシリーズ「珈琲店タレーランの事件簿」が累計200万部を突破し、一躍人気作家となった岡崎琢磨さんと、二作目の長編『戦場のコックたち』が直木賞と大藪賞の候補となった実力派作家の深緑野分さん。ともに1980年代生まれの同世代であるお二人は、普段から親しくお話する作家仲間だそう。まるで幼なじみ、もしくは姉と弟のような息のあったやりとりの一方、意外にも、お互いの作品についての話はしたことがないのだとか。
今回は、岡崎琢磨さんの最新単行本『さよなら僕らのスツールハウス』を中心に、お互いの創作についてから、気になる岡崎さんの「こじらせた恋愛観」についてまで、じっくり語って頂きました。

普段、仕事の話はまったくしない

――おふたりは、もともと親交があったそうですが、出会ったきっかけは?

岡崎: 某文学賞のパーティの二次会だったよね。席は遠かったんだけど。

深緑: アツアツの鉄板料理を食べようと四苦八苦しているところを見られてて、しゃべったことさえなかったのに、笑われたという(笑)。

岡崎: うん、遠くから「面白い動きをしている人がいるな」と思って見てた。その後、ある読書会で再会して、仲良くなったんだよね。

深緑: 「仲良く」はなってないけどね。

岡崎: もう、いつもそう言うよね。僕は仲がいいと思ってるんだけど!(笑)。

――ほかの作家さんとも、交流はあるんですか?

岡崎: 僕はけっこうありますね。とくに仲がいい友井羊さんや青崎有吾さんとは、プライベートだけじゃなく、仕事上の対談なども入れると週一くらいで会ってるんじゃないかな。

深緑: 私は作家さんとの交流はほとんどないな。友だちは一般人ばかりで、たまにパーティとかに出席しても二次会の前に帰っちゃうし。岡崎さん、皆さんとはどんな話をしてるの?

岡崎: 「書いていて行き詰まったらどうする?」とか、まあ、創作についての話が多いよね。ひとり暮らしの独身で専業作家だと一日誰ともしゃべらなかったりするから助かるよ。僕らの場合は、仕事の話なんてまったくしないよね。だいたい深緑さんが好きなことを話して、僕が聞いているってことが多い。

深緑: そうかな? でも割と振り回してるかもね。前さ、出版社のパーティで、岡崎さんがお寿司を食べてるときに、ジーッと目を見続けていたら、「わかったよ。取ってくるよ」って私の分までお寿司を運んできてくれたことがあったよね?(笑)

岡崎: あはは、そんなこともあったね。

青春の象徴としてのシェアハウス

――岡崎さんの最新刊『さよなら僕らのスツールハウス』は、河岸に建つ一軒家のシェアハウスを舞台にした連作短編集です。深緑さんにも事前に読んでいただきました。

岡崎: おお、読んでくれたんだ! それはありがとうございます。思えばこれまで面と向かってそれぞれの作品の感想を語り合うことなかったよね。

深緑: ないよね(笑)。で、さっそく感想なんだけど、岡崎さんって無様な人間を書くのが得意だよね。私、三話目の「陰の花」が好きだったんだけど、主人公の男の子の無様さがよかったし、この二人のことを応援したくなったよ。そもそもこの作品を書いたきっかけは?

岡崎: 当時、ドラマをやっていた影響もあってシェアハウスをテーマにしたいと思ったんです。テーマは「振り返る青春」。青春時代を過ぎた人に自分の青春と照らし合わせながら読んで懐かしんでほしいなと。そのテーマを描くための舞台装置としてシェアハウスはありなんじゃないかと思ったんだ。しかも、現在進行形で住んでいる人ではなく、出た人たちのことが描きたくて。

深緑: シェアハウスから出た後という発想がいいよね。もし私が同じテーマで書くなら、時間の堆積というか、やっぱり人間よりも「館」(=シェアハウス)自体の話を書くと思うから。でもそれって「館もの」の常套。だからこそ人物に焦点を当てて、しかも割と長い年月を描いているところが面白いと思いました。

岡崎: 詳細には書いてないんだけど、年代は二〇〇一年から二〇三〇年くらいまでの約三十年をイメージして書いたよ。

深緑: 私、じつは調べたんだ! 連作の各話が細かく複雑にリンクしてるじゃない? だから年代を書き出しながら読んだの。最終章の設定は近未来じゃないとあり得ないし、そもそも一話目「メッセージ・イン・ア・フォト」の中ですでに携帯電話が存在していて、さらに結婚式のムービーをパソコンで作っているから、逆算するといつからいつまでなんだろう……と。私の計算だと二七年くらいだった!

岡崎: そうそう。だいたいそれくらいだったと思う。すごいね(笑)。本にまとめるときに、改めて表を作ったんですよ。たとえば連載時には「メッセージ・イン・ア・フォト」の登場人物がロースクールに行ってたんだけど、二〇〇一年ごろにはロースクールの制度がなかったから削ったりして。そんなに厳密にやらなくてもよかったんだろうけど、きちんと整えました。

深緑: 時間の経過とともに館が老朽化していくという話じゃなく、時代も人物も描き方がフラット。これってシェアハウスに住み続ける中心人物の女性の時間が止まっているような効果を生んでいるよね。

岡崎: この話を書こうと思ったとき、最初に思いついたのは「シェアハウスに住み続けている人」のこと。つまり彼女のことだったんだ。最初はもっと含蓄のあることを言う人というイメージだったんだけど、書き進めるうちに、むしろ口数が少ない人なのかもしれないと思うようになって。ちょっとミステリアスな雰囲気の女性になったと思う。

深緑: 今作って、これまでの作品と手触りが違うんだよね。これまでだと悪いことをした人が「ざまあみろ」じゃないけど、主人公と関係が断たれるような話が多かったけど、今作は、その一歩先まで描かれてる。関係を断つことなく、みんなどうにかして融和していこうとするじゃない? 岡崎さんの作品のなかでは明るい話だと思った。『病弱探偵 謎は彼女の特効薬』(講談社)も明るいけど、種類が違う。

岡崎: そうだね。『病弱探偵  謎は彼女の特効薬』はビビッドに明るいんだけど、全体的には暗い話が多いから。今作はほんのり温かいのかもね。

深緑: 「底に眠っている希望の光」だね。そういう着地点の物語はすごく好き。

岡崎: ありがとう。嬉しいよ。僕もけっこう気に入ってるんだ。この作品を連載していたのはデビュー直後の二〇一四年くらいなんだけど、それまでの僕は、ライトミステリというジャンルを意識して、キャラクターを立たせた物語ばかり書いていた。でも今作は各話で主人公が違っていて、明らかにキャラクターものではない。そういうチャレンジングな作品をデビュー直後に書かせてもらえたということは今に生きている気がします。

僕は恋愛をこじらせている

――登場する作家が、物語を書く大変さについて語っています。それはご自分の実感だったりしますか?

岡崎: そうですね。いつも「この先、この仕事をどれだけ続けていけるだろうか」とか、「話を考え続けていけるか」という不安は抱えながら執筆しているので。そういう気持ちが最終話に反映されているかもしれません。

深緑: 以前、ツイッターに「書くことはできるけど、話が思い付かない」みたいなことを書いてたよね。

岡崎: 確かに僕は、仕事として成立させるために小説を書いているから、「どうしてもこのことについて書きたい!」とか、「内側からテーマがあふれ出してくる!」ということはないわけですよ。文章は書けるんだけど、話を考えるのがすごく大変で。

深緑: 私は逆なんだよね。お話はどれだけでも思い付くんだけど、筆が追いつかない。早く実現させたいのに、一行書いて「うーん」みたいな。でも岡崎さんは書けてるじゃん。

岡崎: これまではなんとかね。『さよなら僕らのスツールハウス』で十冊目か。

深緑: すごいよね。大丈夫よ、私なんてまだ三冊だよ。

岡崎: それは……もっと出せよ!(笑)

深緑: 書いてはいるんだけどね。

岡崎: 作家としては、納得いくものを世に出したいわけだけど、コンスタントに出していくことも大切だし。別の作家さんは保留にしたりするけど、僕は「出しちゃえ!」って思う。いろんな人とこの話をするんだけど、「毎回傑作を出そうとしなくていいと思うよ」って言われたりする。

深緑: 岡崎さん、マジメなんだよ。私、あんまり気が乗らないものとか、全然やりたくないもん。うーん、あんまりいいアドバイスができない……。なんか、ごめんな!(笑)

岡崎: わあ、謝られた(笑)。僕、すごく興味があることとかがないのが悩み。「これ!」ってものを作品にしていけたらいいのにって思う。

深緑: 恋愛ものは? 岡崎さんが書く、純度の高い恋愛小説が読んでみたい! これまでの作品って、恋愛をこじらせている人が多かったでしょう。恋愛恐怖症ぎみというか。さらに登場人物に必ず足かせをかけるじゃない? それってなんでなんだろうね。

岡崎: それは……僕が恋愛をこじらせてるからだと思う(笑)。恋愛に対しては敗北感しかないから。

深緑: 確かに、敗北感がにじみ出てる。「ウェイ系のくせに!」って思っちゃう(笑)

岡崎: ウェイ系じゃないから(笑)。裏切られた経験があるわけじゃないけど、幸せな恋愛をしてこなかったんだよね。だからそういう幸せな恋愛に憧れつつも、信じていない自分がいて。登場人物の感情を描くとき、やっぱり自分の中から引っ張ってきている感じがあるし、自分が考えたり感じたりしたことを登場人物に語らせることも多い気がするよ。

深緑: こじらせているのに恋愛を書いちゃう、みたいな?

岡崎: まあ、好きなんだろうね。でも憎たらしいものでもあって。恋愛ものを書くことで、過去の恋愛と決別しているのかもしれない。自分の中にある何かが成仏していくというか。 先日出した『病弱探偵 謎は彼女の特効薬』ではハッピーエンドを描いたら、周りからすごく驚かれた。「おまえがそんなことをするなんて!」と(笑)。

いつか純文学風の恋愛小説を

深緑: 岡崎さんって、すごく現代的な話を書いているんだけど、恋愛観が明治・大正・昭和初期っぽいんだよね。そういえば以前、「文豪の時代に生まれたかった」「生まれる時代を間違えた」と言ってたし。

岡崎: 文豪が書いた小説って、もちろんエンタメ要素もあるんだけど、毒にも薬にもならないような考えをぐちゃぐちゃ書いてあることも多いじゃない? だったら俺も書きたいよ、と。連城三紀彦さんの短編集『恋文』が好きって言ったら、友人からは「ひねくれている」と。世の中は受け入れてくれないの(笑)。

深緑: 岡崎さんが書く、三歳くらいで出会った男女が百歳になるまでの物語とか、読んでみたいな。二段組みの大河ロマン。よぼよぼのふたりがデートしたり、どっちが先に死ぬかハラハラしてみたり(笑)。

岡崎: ははは。それいいね。僕ね、自分ではいろんなものを書いてるつもりなんだけど、「恋愛ものを書いてほしい」って、よく言われるんだよね。

深緑: やっぱり。さっきも言ったけど、恋愛要素の純度を高めたものを読んでみたいのよ。これまでの恋愛の描き方って制約が多いよね。連作だからかな。たとえば今作なら「陰の花」のふたりの話だけ長編で読んでみたいと思ったもん。

岡崎: 『季節はうつる、メリーゴーランドのように』(角川文庫)を読んで気に入ってくれた友だちから「各章の謎が邪魔」と言われたんだ。でもそういう読み方をする人がいるってことは、恋愛の部分を評価してくれているってことなんでしょうか。僕、ミステリの手法しかわかってないから、その要素を入れずに小説を書くのが不安で仕方ないんだけど。

深緑: 大丈夫。ぜひ、純文みたいなものを!

岡崎: そうだね、物事をこねくりまわして考えるのが得意だからね。最近、近年の宮部みゆきさんの作品が好きなんです。もちろんストーリーも面白いけれど、文章のひとつひとつにいろんな配慮がなされている。ああいう文章が書きたいと思うし、ときどき真似してみたりしてる(笑)。今後はストーリーで牽引できる物語を書きたいというのが自分の中でテーマになりつつあります。深緑さんは今後どんなお話を書きたい?

深緑: いま書いているのは戦後ドイツが舞台。女の子が徒歩で、ある人が殺されたことを甥に伝えに行くお話です。たぶん来年早々に出せると思います。テーマとして一番関心あるのは歴史に関わること。たとえば第二次世界大戦とか。今後はそういうものを書いていく予定です。あとはファンタジーや、女子高生のバディものの企画もあるし。あっちゃこっちゃ手を出してる!(笑)

岡崎: ほんと、範囲が広いよね。突き抜けてる。今はまだ「深緑野分はこういう作風です」って表現する言葉が見つからないけど、今後、武器にするものが見えてくると思うと読者としても楽しみです。


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