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特集

【対談 河野通和×辻山良雄 後編】「宇宙」と「日常」を結びつけるために

撮影:渡辺 愛理  構成:平松 梨沙 

元「考える人」編集長・河野通和さんと、荻窪の書店「Title」店主、辻山良雄さんの対談。中央公論新社を飛び出した後、現在作家としても活躍する松家仁之さんから編集長のバトンを引き継いだ河野通和さん。編集長業とメールマガジン配信を続けることで見えてきた、「考える人」が出版界で果たした役割とは? 河野さんが「ほぼ日」でやりたいこと、そして辻山さんとともになしとげたいことも語られた、最終回です。(Titleにて開催されたイベント内容を再構成したものです)

<<【前編】 本が教えてくれたこと
<<【中編】「交換可能」ではない文章を生み出す

辻山: 河野さんは、「考える人」が残したものについて、どうお考えですか?

河野: 「やさしく面白くわかりやすく」というところに心を砕いた点は、ある程度伝わったのではないかな、と思います。普段縁がなさそうに思っている「数学」や「宇宙」、あるいは気に留めていなかった「歩く」とか「笑う」といった日常の基本的な動作。そういうことを改めて考えてみると、こんなゆたかな世界が広がっていたのか、というところなどですね。

辻山: はい。

河野: 「楽しんで親しめる教養雑誌」という意識で編集していました。まだまだやり残したことの方が多いんですけども、僕らのやっていた方向性を求めていた読者がいたのもたしかです。「考える人」の休刊が決まったときに何よりも残念だったのは、そうした読者との接点がなくなること、学芸の世界への入り口となる拠点が失われてしまうということですね。毎号2万部を発行していましたし、雑誌連載から生まれた書籍のほとんどが重版して、ロングセラーになり、若い書き手もどんどん生まれていましたから。

辻山: 今いろいろな場所で活躍されている数学者の森田真生さんも、「考える人」から出ていらっしゃいましたよね。

河野: 若い書き手の方に機会を作っていくことも、出版社の大事な仕事だと思っています。休刊になったときには、ずいぶんいろいろな方に怒られて。ある書店主からは、「ちゃんと読者増えてますよ」「毎号買いに来てくれる読者の方がちゃんといらっしゃるのに、なんでやめるんですか」「何を考えているんですか!」……と(笑)。

辻山: 河野さんが決めたわけじゃないんですけどね(笑)。

河野: 復刊を願うお手紙をいただくこともありました。私はもう会社を辞めましたが、「考える人」にかかわった編集者は今も残っているわけですから、捲土重来(けんどちょうらい)、「やってみ!」と思っています(笑)。いきなり季刊で始めなくても、「臨時増刊 考える人」とかそういうかたちでの再チャレンジもありますよね。ここまで築いてきたものが、また新たに広がる機会があるといいなと思っています。

「ほぼ日」で、河野通和が働く意味

辻山: もうご存じの方も多いでしょうが、河野さんは新潮社を退職し、現在「ほぼ日」で勤務されているんですよね。私からすると、「あれっ?」という感じなんですが(笑)。

河野: 私も「あれっ?」という感じですよ(笑)。ただ、糸井重里さんとの付き合いは長いんです。編集長が替わって何号か経ったときも、ツイッターで「今回の『考える人』の編集長交代は見事である」「松家さんから河野さんに替わったということが一切わからない」ということを発信してくださいまして。それはとてもありがたいと思いました。  僕自身、いろいろな媒体で編集長交代を経験してきましたが、いつでもなかなか難しいものでした。とくに「考える人」の場合は、松家さんがやってきた「考える人」のファンが多かったし、松家さんを中心としたチームがあるわけです。編集長が替わったからといって、いきなり腕まくりして「よし、俺の風を吹かすぞ」というようなことは一切せず、なるべく何も足さず、何も引かず……そのなかで否が応でも自分の個性が出てくるだろうなと考えていました。なので、糸井さんのツイートには「我が意を得たり」という感じでした。

辻山: 糸井さんはメールマガジンも読んでいらしたんですよね?

河野: はい。メルマガについても、糸井さんは積極的に何度も「読むといい」「読め!」とツイートしてくださって、精神的に大変ありがたい応援団でした。それでも僕は雑誌をやっていて、糸井さんはウェブをやっていて、間には川が流れていると思っていたんですね。でも、糸井さんが「『ほぼ日』でやってみては」と声をかけてくれた提案は魅力的でした。それならお手伝いできるんじゃないかと。

辻山: それはいつごろでしょう?

河野: 新潮社をやめてからですよ。4月の初めにその話をうかがって、4月14日には入社しました。なんと軽率な63歳。誘うほうも誘うほうだと思いますが(笑)。でも、迷うヒマなんてない、おもしろいことだと思ったんです。

辻山: 糸井さんは河野さんにどういうことをお話しされたんですか?

河野: 糸井さんは、「ほぼ日」で学校をやりたいと言うんですね。糸井さんご自身は大学を中退していますし、学校に必ずしもいい思い出を持っていないそうです。そんな糸井さんが、「学び損ねた『古典』がたくさんある。そう思っている人は自分以外にもたくさんいるはずだ。改めて古典を勉強できる場をつくりたい」と話したんです。たしかに、古典というのは、きっかけがないとなかなか学べるものではありません。「ほぼ日」なら人が集まりますし、そこで本当におもしろい授業をやって、学校や勉強に対していい思い出のない人たちに目をひらいてもらうのは、非常に価値のあることだと感じました。

替えのきかないものを、生み出していくには

辻山: 先ほども話しましたとおり、「交換可能」なものはこれから淘汰されていくんじゃないかと私も思っています。古典のように、ずっと残っていくものをどう生み出していくかというのを考えるのは、これからの編集者にも必要なことですね。

河野: 単純な教養としてではなく、「人間の原型」のようなものが古典にはしっかりと書きこまれていますからね。いい本をいい形で誰かと一緒に読んでいく……ということをやるだけでも、おいしいしっかりとした栄養を得られるんじゃないかな。まだ何にも具体的なアイデアはまとまっていませんが、糸井さんからは10月にはスタートしたいと言われています。

辻山: もうすぐですよね?(笑)

河野: なので、バタバタしています(笑)。

辻山: 楽しみですね。昔は「書く人」「読む人」というふうに分かれていたのが、SNSを通じてどんどんフラットになっていますよね。それが「学校」という場で起きても、おもしろそうですよね。

河野: そうそう。辻山さんも著書のなかで、本の世界を決まったやりかたで眺めるだけじゃなく人が集まる「場」のなかで立体化していきたいということを、書かれていましたよね。僕も編集者として、僕なりのやり方で、「本まみれの世界」を作ってみたいなと思っているんです。

辻山: 「編集者として」という話が出ましたが、編集者という仕事も、どんどんイメージが変化していますよね。中央公論社に入られた40年ほど前と現在とで、違いを感じることは多いですか?

河野: 基本的に編集者は「黒子」だというのは変わらないし、私自身、その姿勢はこれからも守りたいと思っています。しかし、陰に隠れていればいいということではない。本の魅力を伝えるやり方は、時代によってどんどん変わってきたなと感じます。こうやってトークイベントに登壇するというのもいい例です。編集会議ひとつとってもそうですよ。編集長の号令一下で編集部員が動くことはありません(笑)。ちゃんと説明をしないといけないし、なにかやってもらおうと思ったら、助走路が必要です。いろいろ変わってきていると思います。

辻山: とにかくたくさん本が出ているので、きちんとその本の魅力を伝えないと、なかなか買ってもらえないですよね。そして、その本の魅力をいちばん知っているのは、編集者ですから。うちで売りたい本を僕が毎日紹介するというのはやっていますけれど、編集者の方にもどんどん声を出していただきたいなと感じます。それが響く人は昔ほど多くはないかもしれませんが、ちゃんと届く人に届けばそこで経済が回っていきますから。

河野: 本当に。

辻山: 書店にいるとすごくよくわかるんですけど、本屋があるからというだけで店内にふらっと入る人は、昔に比べて相当減っています。それでも、こういう場所を探している人はいるし、これからもゼロにはならないと思います。  これから、本の世界はどうなると思いますか?

河野: 市場規模は小さくなっていくと思います。それでも、本を読む喜びとともにある人はこれからもいるだろうし、変わらず続いていくでしょう。その規模やら見取り図やらは予想しにくいですけれど、本の楽しみを多様に知ってしまった人たちがいるわけですから。目から得ていく栄養として、自分の脳に対して適当な刺激を入れながら活性化していくことの味わいを、日本人の相当数が知ってしまっているんです。

辻山: 知ってしまっている……(笑)。

河野: だから「知ってしまった」人が、身近にいるまだ「知らない」人に対して、どれだけ悪い誘いをして、その味を教えてしまうか、が大事じゃないかな。辻山さんとも手を携えながら、ぜひ悪だくみしていきたい(笑)と思っています。

辻山: 今日はありがとうございました!

(おわり)


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