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特集

【対談 河野通和×辻山良雄 中編】「交換可能」ではない文章を生み出す

撮影:渡辺 愛理  構成:平松 梨沙 

河野通和さんが雑誌「考える人」編集長時代に配信したメールマガジンの内容をまとめた『「考える人」は本を読む』の刊行を記念した、荻窪の書店「Title」店主の辻山良雄さんとの対談中編。まったく外部からの後任として、「考える人」編集長を引き継いだ河野さん。日々の業務も慌ただしいなか、メールマガジン「考える本棚」を始めたきっかけは? (Titleにて開催されたイベント内容を再構成したものです)

<<【前編】 本が教えてくれたこと

自己紹介の意味もこめて始めた書評

辻山: 「考える人」編集長の業務には、「考える人メールマガジン」の執筆がありました。今回出された『「考える人」は本を読む』も、河野さんがメールマガジンで書かれた文章をまとめたものです。今年の3月には私が書いた『本屋、はじめました』も取り上げていただきましたよね。その1冊や折々の社会現象を、河野さんご自身が1回咀嚼して、丁寧につづられています。私自身、自著を取り上げていただいた文章を読んで、「俺、こんなにいい本書いたっけ?」と思ったくらいです(笑)。

河野: ありがとうございます(笑)。

辻山: この本の1項目分が、メルマガ1回分ということですよね。配信時、これはかなり大変だったんじゃないですか?

河野: 楽しんでやりましたが、大変な時もありました(笑)。前任者の松家さんはもっと短い文章を書いていたんですね、スタイルもカジュアルで。引き継ぐときもさりげない感じで、ポンと渡されたんです。1週間に1回なら、何かネタもあるだろうし、まあやっていけるだろうと思いました。まず考えたのが、自己紹介です。だって、松家さんという大変に優れた編集者を継いだわけです。

辻山: はい。

河野: 後任はどんな奴なんだ、という不安や興味をみんなが抱いているはずです。とはいえ、いきなり所信表明をしたって説得力はない。ありのままを知ってもらうには、自分が面白いと思った本や映画の話を通じて、間接的に私の考え方、好み、雑誌のめざす方向などを知ってもらうのがいいと思ったんです。ところが、メルマガを読んだスタッフから「ちょっと長すぎますね~」とか言われて、一瞬めげそうになったりしました(笑)。

辻山: でも、めげなかった。

河野: 読んでくれた友人が「これは意味を持つから真面目にやったほうがいいよ」と励ましてくれました。業界に明るいニュースがない時代だからこそ、「編集者がどのように考えながら編集をしているのかを伝えることには意味がある」と。それで、とにかく続けようと思ったんです。

最終的に1万8000人に達したメルマガ読者

辻山: 編集長就任とともに「考える人メールマガジン」を引き継いだということでしたが、反響はどういったかたちで現れましたか?

河野: 最初はいま話した通り、「長すぎる」とも言われたりしましたが、めげずに書いていくうちに、「紹介された本を買ってみた」「おもしろかった」という読者からの声が届くようになりました。紹介した本の版元から電話がかかってくるようにもなって。

辻山: ほう。

河野: 「売るのに苦戦していましたが、Amazonでランキングが跳ね上がりました」とか。新刊紹介は新聞や週刊誌でもやっているじゃないですか。なので、なるべくダークホースの、広く読まれる機会に恵まれなかったけれど私が「いい」と思った本を紹介していたんです。それで余計に、版元の方に喜んでもらえたのかなと思います。それなら、この調子で続けてみようと思いました。

辻山: メールマガジンの登録者にも、変化は現れましたか?

河野: 毎号配信するたびに、目に見えて増えました。始めた時点では6000人だったんですけれど、300回以上書いて、最後は1万8000人を超えていました。単純計算で、1回の更新につき40人近く登録者が増えていったということです。途中からは、クオリティを維持しないと……というプレッシャーが生まれましたね。時間があってメルマガの執筆に専念できたらいいですが、日常の業務を終えた夜中に「じゃあ書かなきゃ」と思って、本を選ぶところから始めて、「ああでもない」「こうでもない」と頭を悩ませながら、書いていました。

辻山: 毎度苦労があったんですね。

河野: 書き始めないと、なかなか文章の展開がイメージできないんですよ。あと、まれにですが、「この本おもしろかったし、メルマガに書くか」と思って読み直してみると「そうでもないかな……」ということもあるんです(笑)。そういうときはもう、夜中会社に誰もいない時間に、一人で絶体絶命(笑)。楽しんで書いていたのは本当ですが、楽しいことには辛さもつきまといましたね。

「交換可能」な文章からは、得られないものがある

辻山: 今の時代、ウェブの記事だと「この文は2分で読めます」という注意書きが書いてあったりしますよね。「短い時間で読めるコンパクトな記事です」というのがアピールになっているわけです。河野さんのやりかたは、それとは正反対でしたよね。もちろんウェブに限らず、紙の書籍であっても「昨日書いて今日出した」というくらいのスピード感、長さのものもたくさんあります。でも、そういうものは結局、「交換可能」だなと感じますね。  河野さんのメルマガの読者がどんどんついてきたのは、そうではないものを求めている人が今の時代でも多いからだと思うんです。

河野: ありがとうございます。「考える人」は、センセーショナルに売る雑誌ではありませんでした。いわゆる「マスコミ」と全然違う立ち位置なんですよね。さっと読んでわかった気になるようなものではなく、何かそこから自分の栄養になるものを汲み取っていこうという思いのある人たちとコミュニケーションをとりたいと思っていました。実際それを続けると、たくさんの声がメール・手紙として戻ってきたんですよ。

辻山: やはり。

河野: メルマガでは、取り上げる本の著者には前もって、私から連絡していました。辻山さんにもご連絡しましたね。連絡を取る目的にはこちらからの「お願い」もあったんです。例えば辻山さんには「店内の写真をお借りしたい」とか。予算がないので無償で使わせていただきたいという魂胆もあるわけです(笑)。  そうやって著者の方にもコンタクトをとっていたので、書き終わって配信されたものをご覧になった著者の方からさらにご連絡をいただくことも多く、うれしかったですね。

辻山: メールマガジンとはいえ、それだけ密な関係性を築いていたのですね。私の本を取り上げていただいた際は、お店にも足を運んでくださいましたよね。普通、編集者の方もなかなかそこまでしない。しかもそれを毎週やっていたわけじゃないですか。

河野: 自分でも、本当に酔狂だなぁと思いました(笑)。

休刊は、あまりにも急な話だった

辻山: 「考える人」休刊のご連絡をいただいたときは残念で。あれは河野さんにとっても急な話だったとおっしゃってましたよね。

河野: はい。「考える人」は4月4日発売の2017年春号(第60号)で休刊を迎えましたが、編集部に休刊の話が伝えられたのは、1月の半ばでした。

辻山: そのときは、どういった内容だったんでしょうか?

河野: 会社の認識としては、「紙からウェブへの切り替え」ということでしたね。2016年の4月に、「考える人」を三本柱にするリニューアルをしていたんです。紙の雑誌そのものは薄く安くして、若い人が手を伸ばしやすいようにしました。そのうえで「Webでも考える人」というサイトをつくりました。そしてもう一つ、今日のようなイベントを恒常的にやって、読者と日常的に接する場所を広げていこうと。  それでもメインの柱はあくまで紙の雑誌なんです。私としては、紙あってのウェブであり、ウェブだけが一本立ちするようなものとは、全く思っていなかったんです。

辻山: リニューアルからまだ1年経つ前の決定だったのですね。

河野: はい。1月末に休刊が正式に決まりました。プレスリリースを出したあとも、大変でしたね。編集部としては春号以降も続く前提で、依頼をしている企画もありましたので。

辻山: 松家さんにも連絡したのですか。

河野: 編集長を引き継いで以後、松家さんには雑誌のことでは一切接触しませんでしたし、あちらからも連絡はありませんでした。休刊の決定はさすがにすぐにお伝えしました。

辻山: まあ、前の編集長と今の編集長という関係は、お互い気を遣いますよね。

河野: 「下駄を預けてもらった」という理解でいましたから、中途半端な報告はお互いに無益だと思っていました。松家さんは、休刊をむしろとクールに受け止めていた印象です。

(つづく)


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