取材・文=朝宮運河
めくるめく恐怖×謎解きの世界へようこそ
2021年10月29日、辻村深月さん初の本格ホラーミステリ長編『
辻村深月おすすめ! ホラーミステリ5選
ホラーを書くうえでの偉大な目標:綾辻行人『緋色の囁き〈新装改訂版〉』(講談社文庫)
綾辻さんのホラーミステリといえば『Another』はもちろん素晴らしいんですけど、大好き過ぎてあちこちで語っているので(笑)、今回は『緋色の囁き』について語れたら。綾辻さんがデビュー間もない時期に書かれた「囁き」シリーズの第1作です。「囁き」シリーズは3作どれもそれぞれに素晴らしいんですけど、最初に読んだこともあって『緋色の囁き』には特に強く衝撃を受けました。これを読めば『Another』を書くはるか前から、綾辻さんのホラーミステリはすごかった! ということが伝わると思いますし、このシリーズの先に『Another』があることに感動を覚える読者も多いと思います。
全体の「絵」が素晴らしいですよね。全寮制の女子高に魔女を自称する少女たちがいて、残酷な殺人事件が起きる。綾辻さんの作品はどれも世界観が完成されていますが、『緋色の囁き』もそうです。漢字と仮名の使い分けや、ページの下の方に書かれるリフレインなど、文章の描写や技法も素晴らしく、読んでいると酩酊感を感じます。小説ができることってこんなにすごいのか、と心が震えました。
しかもホラーの魅力で引っ張りながら、最終的にはミステリとして鮮やかな驚きが待っている。完全にやられました。綾辻さんのホラーミステリを読んだことで、その後、自分が「ホラー作品」というものに対して期待するハードルがすごく上がったと思っています。
ミステリ作家がホラーを書くとはこういうことだというお手本を、10代にして刷り込まれた感じでしょうか。もし自分がホラーミステリを書くなら、綾辻さんのような仕事ができなければ挑む意味がないとずっと思ってきました。ホラーミステリを書きたいと思ってから長い時間が経ちましたが、『闇祓』でなんとか及第点が出せていれば嬉しいです。
世界最小のホラーミステリ:吉田悠軌『一行怪談』(PHP文芸文庫)
オカルト研究家の吉田悠軌さんの小説集です。一行怪談とは「題名は入らない」「文章に句点は一つ」などのルールからなるたった一行の怪談。どれもごく短いんですが、冒頭とラストで景色が変わって、ミステリ的な面白さを味わえます。
「カッターで切り裂いた手首からざりざりと米粒だけが流れ落ちるのを見た時、彼女はやっと、両親が自分を愛してくれない理由が分かったのだという。」や「寝る時に必ず、洗濯機を回し続けることだけは忘れないよう願いますが、それさえ守ればたいへんお得な物件だと思いますよ。」など、一編のホラーミステリ映画を見ているようです。文章も美しいし、アイデアも豊富だし、吉田さん天才だなと。自分では書けそうにないですが、こんな作品が書けたら楽しいでしょうね。
一行をざっと読んだその後で、どういうことなんだろう? とこっちの想像力が試されるような作品もあって、頭の中に見えている像を補うその作業もとてもミステリ的だと思います。ホラーにおける様式の美しさが詰まっているので、若い方にもぜひ読んでほしいです。
心霊ドキュメンタリーの〝アベンジャーズ〟:寺内康太郎監督『心霊マスターテープ』
わたしは『ほんとにあった!呪いのビデオ』や『Not Found』などのいわゆる心霊ドキュメンタリーが大好きなんですが、そんな中、心を摑まれたのが、寺内康太郎監督の『心霊マスターテープ』。これまで心霊ドキュメンタリーに関わってきた有名ディレクターやスタッフが登場する、いわばこのジャンルの『アベンジャーズ』のような作品です。
シーズン1の第1話に登場するのが『
この作品はフィクションですが、心霊ドキュメンタリーにどんな作品があり、どんなクリエイターがいるのか、これを見ておけばよく分かりますし、ホラー好きが結集した作品だけに恐怖演出も多彩で楽しませてくれます。ところでわたしがこの作品の存在に気づいたのは、シーズン2が始まってからなんですよ。こんなにも心霊ドキュメンタリーを愛しているはずなのに! と不覚をとったことにしばらく落ち込みました(笑)。
「人を殺せる」怪談を探すという新しさ:新名智『虚魚 』(KADOKAWA)
わたしが選考委員を務めた第41回横溝正史ミステリ&ホラー大賞の受賞作です。賞の名前に「ミステリ&ホラー」と入っていても、おそらくは、どちらかの魅力が突出したものが受賞する傾向にあるのだろうと思いつつ毎年候補作を読むのですが、この小説は優れたホラーであり、かつ本格ミステリの構造を持っているということで、選考会でも盛り上がりました。
主人公は怪談師で「人を殺せる」怪談を探している。それを「呪いか祟りで死にたい」という思いを持つ同居人のカナちゃんに試していく──というストーリーなのですが、この設定がまず新しくて、冒頭から心躍りました。「この話を聞いた人のところには二日以内に〇〇が」「あの存在を見てしまった者には不幸が」というのは怪談の常套句であるのに、それをこんなにも真剣に試し検証していく長編ってそういえば読んだことがなかった、と。
作中に登場する怪談も、現実にありそうな雰囲気を守りながらも、どれもオリジナリティがあって引き込まれます。何より、怪談をただ並べていくというわけではなくて、それが社会の中で「語られる」ものであるという姿勢が一貫してブレないのが素晴らしいんです。怪談が語られる影響がどう波及するか、人はなぜ怪談を語るのか、という大きなテーマに迫っていきます。
その先に待ち受けるクライマックスもすごくよくて、実際に圧倒的な「怪異」の存在を目の前にしたらきっとこんなふうに見えるのかもしれないという臨場感があって息を呑みました。
この小説がデビュー作ということにまず驚きますが、これから先のご活躍が楽しみです。「オレ、新名智はデビューの時から読んでたよ」と人に自慢したい方は、ぜひ今のうちに読んでおいてください!
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322106000335/
怪異への合理的なアプローチ:小野不由美「ゴーストハント」シリーズ(角川文庫)
最後はやはり小野不由美さんの「ゴーストハント」。これは決定的な影響を受けた本なので外せません。心霊現象の調査事務所・渋谷サイキックリサーチの面々が、心霊現象に立ち向かうという全7巻のシリーズです。このシリーズがすごいのは、怪異に向かうスタンスが合理的であること。怪しい現象が起こってもすぐに怪異だとは決めつけずに、考えられる可能性をすべて検討するんです。その手続きがホラーでありつつ、ミステリなんですよね。
洋館ものあり、学校怪談ありと、あらゆるホラーのパターンを味わえるのも魅力的。主人公の高校生・谷山麻衣をはじめとするレギュラー陣も魅力があって、巻が進むにつれて全員のことが好きになると思います。
なおこのシリーズには『悪夢の棲む家 ゴースト・ハント』(講談社X文庫ホワイトハート)という続編があって、それがまた素晴らしいんです。シリーズ全7巻を経て、少し大人になったキャラクターのその後が描かれていて、思わず感動です。ただし、怖いですよ(笑)。
シリーズ詳細:https://bit.ly/3keszKf
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