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特集

『吉野北高校図書委員会』スピンオフ その2 「委員長になる日」中編 山本 渚

現在角川文庫から全3冊が発売されている、山本渚さん『吉野北高校図書委員会』。地方の高校の図書委員会を舞台に瑞々しい青春を描いた本作は、刊行時、大きな話題を呼びました。文庫の装画を担当した今日マチ子さんによるコミカライズ(全3巻)も、好評発売中です。
今回「カドブン」では、この「吉北」のスピンオフ・ショートストーリーをお届け。
3作をそれぞれ複数回にわけて公開いたします。
2編目は、本編の主人公たちの下級生・高野くんの物語です。

===

「委員長になる日」中編 山本 渚

(前編はこちら)

「なんな、お前ら。高野囲んで……あ! もしや?」
「ごめんー! ワンちゃん」
「つい……? 高野一人だったし!」
 謝る二人にため息をついて、ちら、と俺の方を見た岸本先輩が、あれ、と首を傾げる。
「高野、調子悪いん?」
 これだからここの人たちは、って思う。なんで気づくんだろう。俺はそんなにひどい顔をしているのだろうか。
「あ、ちょっと風邪気味っぽくて……」
「もう帰り、今日これから寒うなるって」
「あ、けど俺、カウンターが……」
「大地と、高広が代わってくれる……やろ?」
 有無を言わせない調子で言い切る岸本先輩の言葉に、「はーい、いきまーす」と手を挙げて、図書室の方に去っていく先輩二人を目で追って、「すまんな」って岸本先輩が笑った。
「風邪のときは考えんでええけん。またゆっくり話聞いてくれ。って言うても、もうほとんど聞いただろうけど」
 苦笑してそう言うと、俺を司書室の外に追い出した。
 外に出て、ため息をついたら、息が白くて笑った。
 先輩。
 俺には無理です。
 俺は、こんな風に体調の悪い後輩を気遣えない。
 俺は、委員長とかなれるような奴じゃないんです。

 それだけの言葉もちゃんと言えなかったことに、自己嫌悪が増す。寒さをこらえながら自転車置き場に向かって歩き出すと、川本先輩が歩いてくるのが見えた。会釈すると、パッと笑顔になる。
「高野君! もう帰り? 早いね」
「……ちょっと風邪で」
 気づかれる前に慌てて自分から言った。川本先輩の顔が当たり前のように曇る。
「そっか、お大事に~」
「カウンター、先輩たちに代わってもらってしまいました……すみません」
 今日の当番は、川本先輩とだったことを思い出す。予想通り、先輩は、「ええんよそんなん。はよう帰り」とにこやかに言って、俺に手を振った。
 ほんとうに、ここの人たちはみんな優しい。

 去年は、去年の冬は。もっとつらかったような気がする。
 あんまり覚えていない。
 何をしてたんかな、俺。

 俺がバスケを始めたのは、小学校五年の時で。
 地元のミニバスのチームが小学校の体育館で練習していたから、うちの小学校の奴は五年になったら半分くらいはミニバスに入っていた。俺も当然のようにその流れにのった。スポーツは好きだったし、出来る方だったから。そのころは単純にボールを追いかけることが楽しかった。
 中学まで続けるのはその中の半分くらいだったけど、その分バスケが上手いか、好きかの奴がほとんどになるから、中学の部活はいい雰囲気だった。頑張ることに否定的じゃない空気があって、結構前向きに部活に取り組める環境だったと思う。
 俺は、中学でいきなり背がのびて、バスケするのには有利になった。兄もバスケ部だったから、色々教えてもらったり、一緒に練習したりして、そういうことをしていたら自然と上達した。うちはあんまりゲームソフトとか買ってもらえない家庭で、宿題やったら外で遊んで来いみたいな家だったから。暇だし、毎日兄と走り込んだりしてたら、いつの間にか、部の中でも割と上手い方に入ってた。
 普通に一年からスタメンで。普通に二年は四番で試合に出てた。三年になって、当然のように部長になって、そこで、あれ、って思った。
 どうしたらいいか分からなかった。
 シュートが決まらないと悩む後輩に、百本打て、としか言えなかった。「打てないっすよ!」って笑って返されて、普通に「なんで?」って思ったし、「一度でええけん、スタメンになってみたいわー」とうらみがましい目で言われて、「じゃあ一緒に走る?」って聞いたら、「俺、お前みたいにはなれんわ」って言われた。
 それでやっと気づいた。
 自分がみんなに別の生き物みたいに思われていたことに。
 友達や、後輩に何か言うのが怖くなった。
「俺は先輩とは違うんです」
「努力できるのも才能なんやって!」
 ほめてるのか、けなしてるのか分からないチームメイトの言葉に、なんかすっげえ孤独を感じるようになった。部活にいくのがしんどくなった。
 そんな時だった。
 練習試合で怪我をした。
 膝。十字靱帯の損傷。
 時期も悪かった。手術で治るけど、リハビリを終えるころには部活は引退だ。そのまま、部長として部に残ることもできた。でも俺は部活を辞めた。実際に身体を動かすこともなく、言葉や態度だけで、みんなを引っ張っていけるとは到底思えなかった。
 結局、若くて先があるから、と手術はしたから、リハビリと受験勉強で中三は終わっていって。不幸中の幸いというか、バスケを必死でやっていた頃なら入れなかったであろう、今の高校に入学した。自分がのめり込みやすい性質だと気づいたのは、バスケを辞めてからだった。俺は目の前の課題に集中して取り組むことがあまり苦ではない。受験勉強も、リハビリもそこまでしんどいとは思わなかった。そのかわりに人の気持ちや、誰かの状況を読むのが苦手なんだと思う。

 高校に入学したころは、色んな奴が部活に誘ってくれた。同じ中学の元チームメイトや、他の学校のバスケ部だった奴。全然知らない奴もいて、困惑するばかりだった。なんとなく気まずくて、そいつらから逃げ回って。たまたま図書委員になってからは、図書館に逃げ込むようになった。運動部の奴らはまず来ない場所だから。
 そうしたら、いつの間にか俺の怪我は治らなかったっていうことになっていた。今度は誘ってきてた奴らの方が、俺を見ると気まずい顔でうつむくようになった。それを見るのが嫌で、俺はますます図書館に来るようになった。

 みんな、勘違いしている。
 今でも俺がバスケをやりたいんじゃないかって。
 でも、違う。
 ほんとうは。

 どう考えても自分は図書委員長という器ではない。聞いてすぐそう思った。
 けれど、その後岸本先輩は何も言わなかった。
 顔を合わせるたびに、何か言われるかなと身構えるけど、普通に雑談するだけ。藤枝先輩や武市先輩も、あれ以来俺に何も言ってこない。
 反対にどんどん気になり始めて、耐えられなくなったのは俺の方だった。
「なんで何も言わんのですか?」
 つい自分から聞いてしまった。
「……聞いてもええん?」
「……はい」
 ちょっと困った顔をして、分かった、と頷いて。俺の前に座った岸本先輩は、
「聞いたと思うけど。来年度の委員長をお願いしたいと思う」
 きっぱりとそう告げて、俺の顔を見た。
「一番、適任やと、僕は思う」 
 そう言われて、ああこれでやっと断れるとほっとした自分は、酷いと思う。
「スミマセン。俺、無理です」
「なんで?」
 本当に心苦しそうにそう言われて、先輩は俺に理由を聞くのが嫌だったんだなって思った。きっと、俺が聞かれたくないことに触れるから。

(後編につづく)

===

シリーズ紹介



『吉野北高校図書委員会』
https://www.kadokawa.co.jp/product/301404000306/



『吉野北高校図書委員会2 委員長の初恋』
https://www.kadokawa.co.jp/product/301404002403/



『吉野北高校図書委員会3 トモダチと恋ゴコロ』
https://www.kadokawa.co.jp/product/301404002404/



今日マチ子さんによるコミカライズ
『吉野北高校図書委員会』(1)
https://www.kadokawa.co.jp/product/301502000196/


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