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特集

『吉野北高校図書委員会』スピンオフ その1 「初恋はいつですか」前編 山本 渚

現在角川文庫から全3冊が発売されている、山本渚さん『吉野北高校図書委員会』。地方の高校の図書委員会を舞台に瑞々しい青春を描いた本作は、刊行時、大きな話題を呼びました。文庫の装画を担当した今日マチ子さんによるコミカライズ(全3巻)も、好評発売中です。
今回「カドブン」では、この「吉北」のスピンオフ・ショートストーリーをお届け。
3作をそれぞれ複数回にわけて公開いたします。

===

「初恋はいつですか」前編 山本 渚

「なーなー! みんな初恋っていつやった?」
 川本がそんなことを言い始めたのは、中間試験が終わったばっかりの放課後で、みんな一息ついて、司書室でそれぞれに話をしたり、本を読んだりしていた時だった。受験生でも今日くらいはね、とか何とかいいながら。そういうわけで司書室のソファや椅子は満員御礼だ。
「……ほんま脈絡ないな、お前」
 俺がそう言うと、
「昨日ねー。試験終わったから久々に本読んで、『初恋は坂道の先へ』って言うんな? そしたら面白かって、初恋ってどうやったかなーって色々思い出したりしてー」
 にこにこと、そんなきわどいことを言う。
「みんなは、どうかなぁって思って」
 俺らに、っていうか、俺にそんなこと聞くとかホンマになに考えとんかなって思う。
「ええー、でも」
 首を傾げたのは上森さんだ。
「ほんとに子供の頃って、憧れとごっちゃになってたりしません?」
「あー! する。するね!」
「だから、どっからちゃんとした恋か……とか考えたら」
「うーん、そっかあ。けど、そこら辺は自己申告で!」
「先輩、あくまでも聞きたいわけですね?」
 そう苦笑する上森さんに、川本がえへへーと笑う。
「だって試験終わったしさー。みんなで色々話すん楽しみにしとったし!」
「あー。はいはい」
 適当に受け流してたら、川本がだんだん膨れてきた。
「いーもん、いーもん。藤枝のんは興味ない。……ねえねえ、西川君、初恋っていつー?」
 そこかい! あえてそこから聞くんか!
「……えーと、中1? 中2?」
「おおっ~」
 行夫も、答えるんかい! ……しかも俺のには興味ないって……ヒド!
「藤枝、『はぴはぴホライズン』アニメはじまったんっていつやったっけ?」
「ああ、あれは、中1……ってええ? そこ? そこなん?」
 うっかり答えて思いっきり突っ込んだけど、行夫は全然気にせず、
「中1だったか。俺としたことが……」
 と嘆き始め、それを見た川本がけらけら笑っている。……そんなんでええんか。
「西川君、響子? 理恵?」
「もちろん、響子ですよ!」
「そっちかあ~」
 キャラの名前を特定してはしゃいでいる。
 楽しそうですね……。
「ねーねー、ワンちゃんは?」
「んー?」
 お、ワンちゃんの初恋! それは俺も興味あるかも。そう思ってワンちゃんの方を見ていたら、
「んー? 秘密」
 とにっこり笑って言われた。
「えー! なんか意味深! 聞きたいっ」
「俺も!」
 川本に便乗して乗り出すと、ワンちゃんが無言でにっこり笑った。
「え、えーと ……あゆみはいつなん?」
「えー、わたしですか?」
 ワンちゃんの謎の迫力に押され、川本がくるり、と身体の向きを変えた。急に話をふられた上森さんが焦っている。
「幼稚園、さくら組のときの かず君かなあ。足が速かったんですよね~」
「ああ、足速い子もてるよね!」
 ですよねー。そんで、そいつら、案外その後もずっともてとる。
 ん? そこからか? 俺の間違いは!! 
 男とは仲良かったんやけどなぁ。ウルトラマン全種類言えたら、高広くん、高広くんって。みんな頼ってくれたんやけど。
 …………。
 やっぱ間違いは初めからか。俺! すでに幼稚園で間違えとる!
「な、藤枝は?」
「ほっといてくれ。俺は今初めて自分の間違いを悟った」
「は?」
「もう今更しゃあないっていうこっちゃなぁ」
 まあ、もてたいわけじゃないけど。こっち向いて欲しいんは、いつも一人であって……。それ以外は興味ないけど。それでもちょっとは、とか……。あああ。
「藤枝!」
「え?」
「もー! やっぱもうええっ」
 なぜか川本がふんっとそっぽを向く。え、なんでなんで? と首を傾げてたら、
「こんちはー、わっ人口密度高!」
 大地が入ってきた。
「わあ、大地! いいとこ来た。今ね、初恋はいつかっていう話をね……」
 川本がそう言うと大地がちょっと苦笑する。
「……え、このメンバーで?」
 そういえば彼氏彼女がおるんは大地と上森さんだけやった。けど、自分も同じこと思ったくせに、大地に言われたらなんか腹立つのはもう長年の反射かな。
「お前、彼女おるけんって、笑うなー! 『クスっ』てなんや! 『クスっ』て!」
 これだからリア充は! って言うたら川本に「もーかえってみっともないけんやめな」と言われてしまった。
「初恋……、初恋かあ~。今かな?」
 さらっとそんなことを言った大地に、上森さんが口を押さえてうつむく。あ、目がうるうる。こいつら俺らが3年に進級してからラブ度あがっとるよな。てか、よう言えるよな、そういうこと!
 ……もしや、言えたらなんか、変わるん?
 イヤイヤイヤ! 
 キャラちゃうし。それこそ大間違いの大ケガや! 危ない危ない。
えれ! このバカップル!」
 そう言って大地の足を蹴飛ばすと、ふふっと余裕の笑みで、
「言われんでも帰るって、あゆみ、おまたせ」
 と、にっこりほほ笑んだ。そして、目はしっかり俺を見ながら、川本に、
「かずの初恋は? いつ?」
 と聞いた。

後編につづく

===

シリーズ紹介



『吉野北高校図書委員会』
https://www.kadokawa.co.jp/product/301404000306/



『吉野北高校図書委員会2 委員長の初恋』
https://www.kadokawa.co.jp/product/301404002403/



『吉野北高校図書委員会3 トモダチと恋ゴコロ』
https://www.kadokawa.co.jp/product/301404002404/



今日マチ子さんによるコミカライズ
『吉野北高校図書委員会』(1)
https://www.kadokawa.co.jp/product/301502000196/


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