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特集

『吉野北高校図書委員会』スピンオフ その1 「初恋はいつですか」後編 山本 渚

現在角川文庫から全3冊が発売されている、山本渚さん『吉野北高校図書委員会』。地方の高校の図書委員会を舞台に瑞々しい青春を描いた本作は、刊行時、大きな話題を呼びました。文庫の装画を担当した今日マチ子さんによるコミカライズ(全3巻)も、好評発売中です。
今回「カドブン」では、この「吉北」のスピンオフ・ショートストーリーをお届け。
3作をそれぞれ複数回にわけて公開いたします。

===

「初恋はいつですか」後編 山本 渚

(前編はこちら)

 おおお、おい! それ、俺が怖くて聞けなかったやつやん。っていうか聞きたくないっていうか……。
 焦って大地を見たらにやにや笑ってやがる。くそ、ほんま性格悪いなあ!
「えー、照れるなぁ~」
 川本が頭をかきながら、えへへーと笑う。
「中1、かなぁ? ここの先輩だよー。多分ね」
「多分?」
 ワンちゃんが首を傾げる。
「うん、知らんのよ。名前も名字くらいしか」
「え、それはどういう……?」
 聞きたくないと思ってたのに、つい聞いてしまう。話はじめたときの川本の顔がなんか可愛く見えて、急に気になって仕方なくなった。
「うん、うちの中学、図書室はあったけど全然ダメやったって言うたやんなぁ?」
「ああ、うん」
 その話は以前も川本がしていたから知っている。
「ただの本置き場、やったっけ?」
「そう、そうなんよー! だれも本大事にしてなくってね。貸し出しもしてないし、委員も担当の先生もおらんかった!」
 その話をするとき、いつも川本は怒る。みんな知ってるから、うんうんと頷く。
「それでも本は読みたかったけん、市立とか県立の図書館のヘビーユーザーになるしかないやん。でも結構遠いし、頻繁には行けんし。でも月1で移動図書館がね、近所に来よったん。そこで毎回顔を合わせてたお兄さん」
「へえ~。どんな人?」
 大地がまた俺を見て、にやにやしながら質問を投げた。
「めっちゃ本に詳しかった! 今まで会った誰より!」
 目をキラキラさせてそういう川本がまぶしい。
「毎回、お互い持ってきたバッグ本でぎっちりで。……ちょこちょこ喋るようになって、お勧めの本とか、すっごい教えてもらって~」
 なんか、いまでも目がハートマークな気がするんは俺だけだろうか。
「それで、うちの高校には別館の図書館があるよって教えてくれた人!」
「へっ?」
 意外なことを言われて、思わず息をのんでしまった。
「残念ながら、私が中1のときすでに高3やって、県外の大学に行っちゃった。けど今でも恩人。その人おらんかったら、うちの高校目指してなかったかもしれんもんなぁ」
 しみじみと川本がそう締めくくった。
 なんや。
 そんなら、俺にとっても恩人やんか。悔しいけど。
 それに、ちょっとヒントももらえた。……と思う。うん。

 帰り際、自転車置き場に向かう途中、川本が、
「なんか、私だけ喋った感じ……不公平~」
 とぼやいた。
「しゃあないだろー。お前メンバー見て話ふれ。ああいうんは、教室で女子とやった方が盛り上がるやろ」
「ほなけど、ちょっと聞いてみたかったんやもん……」
 と唇を尖らせた。
「俺は聞かれんかったけど」
「聞いたわ! 聞いたけどなんか、流したやんか、質問をー!」
「え、そうやった?」
「そうやったよ!」
 なんや、聞いたらあかんのかと思ったやん。紛らわしいー。とまた膨れている。
「……ほな、いつよ。藤枝は」
「え? えーと」
 頭の中で、振り返り始める。好きな子、おったけど……あれ、ちょっと待て。
 中学のときは、席替えの度に好きな子変わってたような? もちろん告白とか、付き合うとかしたことないし。小学生のときは……それよりひどいな。好きな子おっても、アニメの放映日になったら忘れる、みたいな?
 あれ、ちょっと……。やばいな。
 気づいてしまって、顔が熱くなる。
 厳密に言えば幼稚園のかよこ先生、になるんか?
 それとも。本気でほんとに好きになった相手……になるのか?
「……初恋って何よ」
「だから、はじめて好きになった相手、でしょー?」
 川本が、分かるやろ? さすがに! って叫んだ。分かります。分かりますよ。けど、それ、どこからいつからカウントするん?
「分からん!」
「えー? 受験勉強で頭どうかしたん?」
 相変わらず、ヒドい言いよう……。
「そうかもなぁ!」
 大地みたいに、「今」とか言うたら、お前どうする?
 けど、俺はそんなこと言えないから。別のことを言うことにした。
「……あんなぁ。受験、終わったらな」
「うん?」
「俺、色々本読もうと思う。ラノベや漫画だけでなくて」
「へー!」
 いいねえ! と川本が目をキラキラさせる。ほら、これや。おかしくなって頬が緩みそうになるのを我慢する。
「教師になるんなら、と思って。ほんで、お前は司書になるんやろ?」
 そういうと、川本はきょとんと俺の顔を見た。
「やけん、色々面白い本教えてくれ。……文学的なやつは俺、初心者やけん」
 ぱあっと川本が笑顔になった。
「うん!」
 嬉しそうに頷く。
「ええよ、もちろん! ……最初何がええかなあ。はよう受験終わったらええねぇ」
 本気で楽しみな様子でそんなこと言うから、なんか切なくなった。おれ、今変な顔してないかな、と思いながら頷く。
「楽しみに、しとく」
「まかせて!」
 さっきの話を聞いて、川本はきっと本を好きなやつが好きなんだなって思った。見た目でなくて、足の速さでもなくて。
 本を好きで、本を知ってて、本を友達みたいに大事にするやつ。そういうやつが好きなんだって、気づいたから。
 それなら、って思った。
 それなら、今からでも埋められるから。
 川本が教えてくれるなら。きっと、誰より読書を楽しめる自信があるから。
「今度は、間違えてないと思う!」
 そう呟くと、川本が「何?」と眉を上げた。そして、
「約束、な」
 って、嬉しそうに笑った。

(おわり)

===

シリーズ紹介



『吉野北高校図書委員会』
https://www.kadokawa.co.jp/product/301404000306/



『吉野北高校図書委員会2 委員長の初恋』
https://www.kadokawa.co.jp/product/301404002403/



『吉野北高校図書委員会3 トモダチと恋ゴコロ』
https://www.kadokawa.co.jp/product/301404002404/



今日マチ子さんによるコミカライズ
『吉野北高校図書委員会』(1)
https://www.kadokawa.co.jp/product/301502000196/


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