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特集

【イベントレポート】『ぼくたちの離婚』刊行記念イベント 稲田豊史×宮崎智之「ぼくたちは『いい夫婦の日』をどんなメンタルで迎えればよいのか」

どの夫婦にも「地獄」がある―――。11月22日は記念日の1つとして定められている「いい夫婦の日」。しかし、厚生労働省の最新のデータによると、平成29年には日本で21万人以上もの人たちが離婚しているのです。そんな離婚経験者の中でも、男性のみにその離婚の経緯や顛末を聞いたルポルタージュ『ぼくたちの離婚』。「いい夫婦の日」の前日、本屋 B&Bにて著者・稲田豊史さんとフリーライター・宮崎智之さん登壇の刊行記念イベントが開催されました。以下、イベント内容をお届けします。

文:苫とり子 写真:角川新書編集部



男性が離婚体験を語ることができない理由

稲田:僕もそうなんですが、宮崎さんも離婚経験者ですよね。『ぼくたちの離婚』、お読みいただいてどんな感想を持たれました?

宮崎:僕も離婚経験のあるライターとして似たような企画を考えたこともあったんですけど、やはり難しかった。離婚にはどうしても、ある種の“加害性”みたいなものが含まれてしまいますから。特に現状の制度や社会環境では、男性よりも女性のほうに、そのしわ寄せがいきやすい。男性がどんなに公平に振舞おうとしても、無意識に加害性を持ってしまうこともある。僕も男ですし、そういう実感があります。だから稲田さんのこの作品は、かなり勇気のあるお仕事だなと思いました。



稲田:男性は自分の離婚について「話さない」ですよね。このルポルタージュはもともと「女子SPA!」というWEBサイトで連載していたんですが、担当編集の女性も「男の離婚話はさっぱり耳にしないですよ」とおっしゃっていました。女性同士の集まりでは、愚痴も含めた離婚話が話されるようですけど、男は女友達に離婚話をほとんど話さない。男同士でも、そんなにしない。僕もそうでした。唯一話せるのが、全員離婚している人たちのグループ。それが、本書のまえがきにも書いていた「バツイチ会」という会です。

宮崎:僕も稲田さんと同じ「バツイチ会」のメンバーです(笑)。やっぱり、男性が遠慮なくバツ話を話せる場って、なかなか存在しないんですよね。

稲田:その理由には、今おっしゃった“加害性”が深く関わっています。つまり男性が自分の離婚について語ると、たいてい世間から責められるんですよ。基本、男性が加害者という構図だから。本書の中にも、妻から相当酷いモラハラを受けた夫のケースが出てきますが、夫は「妻のせいで離婚する羽目になった」とは、長い間、人に言えなかった。自分が責められるからです。WEBでこのエピソードを公開した時も、“妻が病んだのは、お前のせいなんじゃないか”とか、“そういう妻を選んだのはお前なんだから、最後まで責任を持って添い遂げろ”という自己責任論コメントが相次いで……。自分のことじゃないのに、泣きそうになりました。



宮崎:結婚は基本的に互いの同意に基づいてなされるものだし、ほとんどのケースは、一方だけが極端に悪いとは言えないはずです。でも、なぜか男性の方に責任が負わせられがちだし、その圧によって男性は口をつぐんでしまうんですよね。あと、これはなにも「外圧」だけではなくて、男性自身が「自分が男として一人前ではなかったせいなのではないか」と、古い男性観の呪縛にとらわれてしまっている、という側面もあると思います。

結婚は就職、離婚は転職?

稲田:僕が取材した範囲内の話ですが、離婚後に再婚する男性と再婚しない男性には、それぞれの考え方に傾向があるように感じました。再婚する人は「相手に幻滅した人」、再婚しない人は「結婚制度に幻滅した人」です。後者、つまりそもそも自分が誰かと同居するとか、生計を一にするみたいなのが向いていないと考えている人は、結婚のシステムに自分が合わないと考えているわけだから、再婚に気持ちが向かない。
 逆に再婚する人には「離婚=退職&転職」と捉えているような人さえいます。結婚が就職、離婚が退職、再婚が転職。僕自身、「離婚」というものをそれくらいカジュアルに社会に受け止めて欲しいなという思いもある。そうでないと、失敗を挽回するチャンスがなくなってしまう。
もうちょっと社会に優しくなってほしいんですよ。転職と考えれば、今の世の中、3社くらい会社を変わっていても別に不思議はないですよね。

宮崎:お恥ずかしい話ですが、僕は離婚してはじめて、結婚について根本的に考えたんです。その時にはじめて、自分には誰かとパートナーシップを結んで、支え合うという関係が必要だなとわかって……。そう思うと、結婚は良いところもあるんですよね。

稲田:どんなところですか?

宮崎:僕みたいな「自由が大好き!」という人間にとっては、結婚という制度には嫌なところもあるんです。でも、結婚することで安定する部分もあるし、自分が好きだとか愛していると思っている人と一生一緒に居続けるためには、ある種の「圧」がないとダメだなって。

稲田:宮崎さんはもともとリベラルな家庭で育ったのに、そのリベラルさをわざわざ結婚という制度で押さえ付けて、結婚のメリットを享受しているんだ。面白いですね。

宮崎:もちろん、相手と一緒にいたいという気持ちが前提だけど、それを達成するためには、僕が嫌だと思う保守性の部分、結婚制度もうまく取り入れないと、本当に宙ぶらりんになってしまう。自由すぎると、結婚制度そのものが必要ないものと思ってしまう。
 でも、僕みたいな人間が好きな人とずっと一緒にいるためには結婚制度はあながち全否定できるものではないし、自分の弱さもそれこそ離婚で痛感しました。そこらへんが難しいなって思います。とはいえ、現状の結婚制度が正解というわけではなく、同性婚や、結婚という形を選ばない方々のことも含めて時代に合わせたアップデートは必要なんだけど。



結婚していなくても離婚は他人事じゃない?

宮崎:再婚者が絡んでいる結婚のパターンは全体の26.6%。だから、もし結婚したいと思っている方が離婚の話なんて自分に関係ないと思っていたら、間違いです。

稲田:この連載を始めてから、“実は再婚なんです”とか“実はバツイチなんです”と僕に言ってくる人が相次ぎました。すごく長い間一緒に仕事をしていた人から、突然メールで「実はバツイチでした」と。なんで3年くらい言わなかったんだろうって(笑)。まあ、言う義理はないんですが。

宮崎:あまり語られないことかもしれないけど、初婚の方でもお相手が「離婚経験者」かもしれないという可能性は、常に考えていただきたいです。

稲田:そうそう! 離婚は、どんな人にとっても他人事じゃないんですよ。



宮崎:そういう意味でも、『ぼくたちの離婚』は男性の離婚に関するエピソードだけを集めた話なので、女性で結婚を考えている方がいたら、読んだほうがいい。

稲田:男ってこういうことを考えているんですよ、というエッセンスが詰まっていますからね(笑)。

取材者から言われた「供養になれば、なによりです」

宮崎:未婚者・既婚者にかかわらず、離婚は身近にあることなんだということを稲田さんの本を読んで知ってほしいなと思います。ちなみに、厚生労働省が平均離婚発生間隔っていうデータを出しているんですけど、それによると2分29秒に1組が離婚しているそうです。

稲田:このイベントが始まってから、既に60組くらいが離婚してる!(笑)

宮崎:もうひとつ、“加害性”のことで問題にしておきたいのが、再婚率の話です。男性が再婚で女性が初婚というカップルは結婚全体の9.9%。つまり、10%近くいる。一方で、女性が再婚で男性が初婚のカップルの場合は、全体の7.1%しかいない。

稲田:女性のほうが離婚後に初婚の方と再婚する可能性は低いということですね。

宮崎:親権を得るのが女性の方が多いことが、再婚のハードルになってしまっているのか。女性が結婚という制度に絶望して再婚したがらないのか。“結婚処女信仰”みたいなのが男性の中に根付いていて、再婚女性を敬遠する傾向にあるのか。だから「男性よりも女性の方に “被害性”がある」って一方的に断言してしまうのもそれはそれで問題だけど、他方で女性が離婚した場合は再婚率が低いという事実も気に留めて、僕は発信していきたいなと思います。

稲田:『ぼくたちの離婚』のあとがきで「供養」という言葉を使っています。取材した人に「お話を聞かせていただいてありがとうございました」と言ったら、「供養になれば、なによりです」と、全く同じ言い回しで3人から言われました。その意味するところは、つらかった過去の自分の供養なのか、別れた女性への気持ちの供養なのか、定かではありませんが。重い言葉です。

宮崎:離婚で悩んでいる人がいれば、僕たちでもいいですけど、話せる仲間を作るとか、そういうコミュニティが増えるといいですよね。

稲田:そうそう。皆さんにとっての「バツイチ会」を作ってほしい。あとは、もし皆さんの周りで「実は離婚したんだ」と話してくる人がいたら、ぜひとも否定せずに聞いてほしいなと思います。

宮崎:僕は最初の離婚の時に誰にも相談しなかったんです。できなかった、と言ってもいい。今振り返ると、それが一番の問題だったと思っています。でも、その状況は、稲田さんのこの『ぼくたちの離婚』が変えていくんじゃないかなと思いますよ。

稲田:ありがとうございます!



書籍のご購入&試し読みはこちら▶稲田豊史『ぼくたちの離婚』| KADOKAWA


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