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特集

離婚男性だけが集う「バツイチ会」。参加したライターが本を書いた理由 『ぼくたちの離婚』

 13人の離婚した男性に離婚の経緯を聞くルポ『ぼくたちの離婚』を書くことになったきっかけは、数年前。自身が離婚して数ヶ月が経った頃のことだ。
 以前から仕事で知り合ってはいたものの、飲みに行くほどは仲良くなかったある男性から、こんな誘いを受けた。
「ぼくもバツイチです。バツのついた男性だけの集まりがあるので、飲みませんか?」

 その会は「バツイチ会」と呼ばれていた。その名の通り、離婚経験者の、しかも男性だけの会だ。
 一言、めちゃくちゃおもしろい会だった。
 離婚男性が自らの壮絶な離婚話をひとりずつ語る。妻のひどい仕打ち、自らの手痛いあやまち。後悔と開き直り。懺悔ざんげ呪詛じゅそ。一人称と三人称を巧みに使い分け、臨場感たっぷりの情景描写と身振り手振りをもって、文字通り全身全霊で。まるで、胃の中の内容物をすべて吐き出すかのように。
 たとえるなら、アメリカ映画でよく目にする、アルコール依存症患者のセラピー。車座になってパイプ椅子に座る、例のやつ。
 自虐的な笑いと、強がりを含んだ悲哀。皮肉に理不尽。彼らの語る離婚劇には、そのすべてが含まれていた。
 まるで落語。単なる離婚ネタ話というより、彼らの人生の物語。立川談志風に言えば「人間のごうの肯定」。カメラメーカーのCM風に言えば「人間の全部」が、そこにあった。
 筆者を会に誘った男性(バツイチ会・会長)は、会を組織した理由をこう語った。「大切な人や家庭を失った心のロスを癒すための、受け皿が欲しかった。何より、ぼくが」

 聞けば皆、他の場所ではここまで本音を語れないという。なぜなら、責められるから。
 どんな事情で別れたとしても、世間は「夫であるお前に甲斐性がなかったんだね」「どうせお前がわがまま言って、奥さんが愛想尽かしたんだろう」「男はいいよね、離婚しても次があるから。女は難しいんだよ」と、男に厳しい。女友達はもちろんのこと、同性の友人や、時に親さえも。
 一理ある。しかし、男にも言い分がある。それを存分に吐き出せる場が、「バツイチ会」だったのだ。
 その後「バツイチ会」は紹介制で少しずつ会員を増やしていった。年に数回開催しては新規会員の離婚話が披露される一方、古参会員の再婚報告と決意表明が行われることもあった。
 途中、女性の離婚経験者を招いたことが幾度かあった。が、長続きしなかった。そう、男は男たち“だけ”で話したいのだ。いくら女性が離婚を経験していても、やはり場の空気が変わる。女性がいると、男たちは自分を“全部”は出せない。哀しい男のさがだ。

 いつの頃からか、会長と「この話、本になるかもしれませんね」という話になった。半分冗談で企画書を書き、知り合いの出版社いくつかに持ち込んでみたが、あまり良い反応は得られない。筆者に知名度がないからだ。
 諦めかけていた頃、とある飲み会で隣に座った女性向けサイト「女子SPA!」の女性編集者が興味を持ってくれた。「すぐ企画書を送ってください」。そうして昨年6月にWEBでスタートしたのが、「ぼくたちの離婚」である。
 最初に企画書を書いてから、実に3年近くが経過していた。

 取材する離婚男性は、バツイチ会の会員を中心に、知り合いのツテを頼って探した。連載が軌道に乗ってからは、初対面の方から「ぼくを取材してください」と言われたり、数年来会っていなかった仕事関係者から、メールで突然売り込みが来たりすることもあった。
 取材は基本的に、筆者と離婚男性の1対1で行われた。取材場所は喫茶店、ファミレス、居酒屋など。取材時間は短くて2時間、長いと6時間を超えた。離婚男性が話し足りないと感じ、店をハシゴしたこともある。
 それほどまでに、彼らは語りたくて仕方がない。言い分を聞いてもらいたくて仕方がない。離婚話を思う存分語れる場所も、言い分を聞いてもらえる相手も、他にないからだ。
 しかも、インタビュアーである筆者もまた離婚経験者である(と、取材前に必ず告げることにしていた)。責められる心配はない。彼らは安心してガードを解き、かなりデリケートなことまで話してくれた。ふたりだけの「バツイチ会」というわけだ。
 ただ、取材を快諾し、匿名表記による原稿にOKを出したにもかかわらず、時間が経ってから心変わりし、頑として書籍への収録を拒んだ方が何人かいた。それほどまでに、彼らは「世間から責められること」を恐れている。
 また一方で、取材後に「自分の離婚のことをこんなにたくさん話したのは、初めてです」と言ってくれた男性がいた。彼は離婚して10年近くも経過している。まだ、話し尽くしていなかったのだ。

 書籍収録用に、新規に対談してもらったふたりの離婚男性(ふたりとも妻からのモラハラにより離婚)の話を聞いていて、デジャブに陥った。筆者が過去に他の人たちから聞いた様々な「妻の暴虐エピソード」と、いちいちそっくりなのだ。
 実際、連載中に、仕事先・友人・地元の幼馴染(すべて男性)から、「心当たりがある」「まさに自分の妻がそうだった」とこっそり告白されたのも、一度や二度ではない。しかも、凄惨なエピソードであればあるほど共感度が高かった。

 おもしろいのは、筆者に対してこっそり「ここだけの話、この男性の気持ちがよくわかります」「実は今まで黙ってたんですが、私バツイチなんです」と言ってくる知り合いは、決まって男性だったということ。
 一方、「連載のファンです」と、SNS上で他の人にも見えるよう積極的に公言してくれたのは女性が多かった。エピソードの奥に隠れた男性の気持ちを分析・推察したり、男女の性差について鋭い考察を送ってきたりしてくれたのも、多くは女性だった。
 実際、この連載を決めてくれたのも女性編集者だ。書籍刊行に際して興味を持ち、寄稿の機会を与えてくれた編集者さんたち、インタビューしてくれたライターさんたちも、9割がた女性である。
 おそらく女性は、男性以上に「男性が語る離婚についての本音」に興味がある。それだけ世の中に、「男性が語る離婚についての本音」が流通していないということなのだろう。

 取材をしていて一番嬉しかったのは、原稿チェックのために後日連絡を取った離婚男性たちが、口々に「離婚の原因が改めて整理できた」「自分を見つめ直す良いきっかけになった」「話したことで初めて見えてきたことがある」などと言ってくれたことだ。インタビュアー冥利、書き手冥利に尽きる。 
 そのうち何人かは、筆者からの感謝の意に対して、まったく同じ言葉を返してくれた。
「供養になれば、なによりです」

 『ぼくたちの離婚』に収録された13人の離婚話に対しては、「共感」「憐れみ」「軽蔑」「怒り」「失望」など、好悪とりまぜた様々な感想が寄せられている。男性の未熟ぶりに呆れる女性読者の声。同族嫌悪が透けて見える、男性読者からの不快感の表明。古いジェンダー観の指摘、こじらせたマッチョイズムに対する嘲笑、結婚というシステムへの疑問。そんな種々雑多な議論が各所で巻き起こっている。
 13人の離婚話を読まれた方が感じ、発した言葉の一言一句が、彼らにとっての供養になる。それはきっと、公に声をあげることのできない、世のすべての離婚男性にとっての供養にもなるはずだ。そう信じたい。


稲田豊史『ぼくたちの離婚』(角川新書)


本書刊行記念イベント情報

「ぼくたちは『いい夫婦の日』をどんなメンタルで迎えればよいのか」
登壇者:稲田豊史(著者)+宮崎智之(フリーライター)
2019年11月21日(木)20:00~22:00 (19:30開場)
本屋B&B(東京都世田谷区北沢2-5-2 ビッグベンB1F)
■前売1,500yen + 1 drink order(税別)
■当日店頭2,000yen + 1 drink order(税別)
http://bookandbeer.com/event/20191121/

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