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特集

「本の街」に文字が読めない赤ちゃんが20人やってきた

 東京・神保町に「ブックハウスカフェ」という児童書専門の本屋がある。絵本や子ども向けの読み物が大小さまざまに約1万2000冊取り揃えられており、ケーキなどの軽食も食べられるカフェスペースやギャラリーがあるほか、店の奥にはイベントスペースも設置されている。神保町は「本の街」とも呼ばれ、新刊書店も古書店も含めると約180軒の本屋が並んでいる。そのなかでも児童書専門の本屋は珍しい。2017年にリニューアルオープンしたばかりの、わりに新しい本屋だ。



 この日、約20人の赤ちゃんが親に連れられて「ブックハウスカフェ」のイベントスペースに集まり、寝転がっていた。生後半年ほどの赤ちゃんたちはまだ言葉を喋れず、声をあげては親があやしている。六畳ほどのスペースに赤ちゃんが集まっている光景は壮観だ。
 なぜ赤ちゃんが集まっているかというと、「Sassyのあかちゃんえほん」という絵本シリーズの出版記念イベントが行われていたからだ。イベントのタイトルは「ベビーマッサージで布絵本とあそぼ!」。


「紙の本」だけが本ではない

 電子書籍の普及が進んでいくなかで、絵本の価値を見直す声も出始めている。プレゼント需要なども強い絵本は、物理的な書籍のなかで、相対的に存在感を増してきているのだ。実売的にも児童書は大きな落ち込みがなく、ここ10年は横ばい傾向がつづいている。
「Sassyのあかちゃんえほん」とは、おもちゃブランド「Sassy」が展開する絵本シリーズ。「Sassy」は1981年にアメリカで創業された知育玩具のブランド。発達心理学の知見を取り入れたおもちゃを作っていて、世界45ヶ国以上に展開している。カラフルで親しみやすい歯固めやラトル、ベビーカートイなどが主なラインナップだが、赤ちゃん向けの絵本も手がけているのだ。それが累計で68万部という人気シリーズになっている。今や10万部でれば大ヒットと言われる出版業界において、この数字は驚きだ。これも絵本の地力の強さの現れなのかもしれない。
 今回出たのは、『Sassyのちいくえほん いろいろ ぱっ』という知育絵本シリーズの最新作と、『Sassyのあかちゃんぬのえほん あーそーぼ』。後者はすでに出版されている絵本の布絵本バージョンである。Sassyの絵本はすでに7冊刊行されているが、布絵本は初である。



「布絵本」とは、絵本にあまり馴染みのない人は聞き慣れないジャンルかもしれない。文字どおり布で作られており、子どもが触って遊べるように工夫された絵本のことだ。掴んだり、引っ張ったりすることで子どもの発育を促すのである。海外では「ソフトブック(soft book)」などとも呼ばれている。まだ文字が読めない子どもに向けたものであり、読むだけではない身体的な絵本だ。通常の絵本よりも文字は減らされているものが多いようである。赤ちゃんが絵本を噛んでも大丈夫なようになっており、洗濯もできる。「はらぺこあおむし」や「ペネロペ」シリーズなどの定番といってもいい有名な絵本も布絵本化されている。絵本ならではの趣向を凝らしたジャンルである。



「五感で楽しむ」という絵本との遊び方

 イベントの内容へ戻ろう。今回のイベントはこの『Sassyのあかちゃんぬのえほん あーそーぼ』をはじめとするSassyの絵本を使ってベビーマッサージをするというものだった。
 講師はこまつあさこさん。各地でベビーマッサージの講座を受け持っており、「ブックハウスカフェ」でも絵本の読み聞かせとベビーマッサージがセットになった講座を定期的に行っている。


 ベビーマッサージとは文字どおり、赤ちゃん向けに行うマッサージのこと。親が自分の赤ちゃんに行い、触ったり歌を歌ったりして赤ちゃんの五感を刺激するものだという。
 参加者はこまつさんの説明を受けながら、自分の赤ちゃんにベビーマッサージをしていく。まず親がストレッチをして、手を温かくしたあと、赤ちゃんにマッサージしていく。ストレッチは丹念に、5分ほどつづいた。それほど入念にやるのは、冷たい手で触ると赤ちゃんが驚くからだそうだ。
 会場ではプロジェクターで絵本が投影されていて、それをこまつさんが読み聞かせし、ときおり歌も歌っていく。親は名前を呼びかけつつ、赤ちゃんをマッサージした。
 こまつさんが言うには、ベビーマッサージは赤ちゃんの集中力的にも15分~20分以内で行うのがいいそうだ。
 大人が受けるような疲れを取るためのマッサージというよりも、親と赤ちゃんがコミュニケーションをするためのマッサージという印象を受けた。
 イベント終了後、参加した親へ布絵本に触れてみた感想をインタビューした。すると、まず出てきた答えが「さわれるのがいい。子どもは『さわりたい』というのがすごい」。紙の本では指を切るのではないかなどの心配ごともあるのだろう。実際にインタビューしているあいだ、その親の赤ちゃんはずっと布絵本を手に取り、激しくさわっていてとても楽しそうだった。ほかの親も布絵本の魅力について「紙の絵本だと噛んだらダメというのもある」と答えていた。乳幼児は成長過程において、なんでも口に入れてしまうという時期がある。紙の本を噛んでしまうと、ページが破れたりして本がダメージを受けてしまう。また、赤ちゃんにも誤飲の可能性があって危ない。布絵本ならそれがないから安心というわけだ。実際、その親の赤ちゃんはインタビュー中に布絵本を激しく噛みだした。


 赤ちゃんが噛んで本が汚れたとしても、布絵本なら洗えばいいので、紙にはない利点である。より身体的に本と触れあえるというわけだ。
 紀元前、古代シュメールの粘土板から始まった書物による情報伝達は、15世紀中頃に発明されたJ・グーテンベルクによる印刷機によって大量複製への道が開けた。今では世界中に紙の本が満ちている。そして、現代では布絵本が登場して読者の五感に刺激を与える本が出始めた。本は進化しつづけるのである。

ご購入はこちら▶Sassyのあかちゃんぬのえほん あーそーぼ』| KADOKAWA

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