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特集

ラブコメあり、ホラーあり、ミステリあり エンタメの魅力が詰まった「ホーンテッド・キャンパス」シリーズ全20巻をふり返る

櫛木理宇「ホーンテッド・キャンパス」シリーズ全20巻解説

文:朝宮運河

 今年、シリーズ誕生10周年を迎えた櫛木理宇さんの人気作「ホーンテッド・キャンパス」。8月25日に第20巻『ホーンテッド・キャンパス オシラサマの里』(角川ホラー文庫)が発売された同シリーズは、これまでに累計150万部を突破。2016年には中山優馬&島崎遥香主演で映画化されるなど、快進撃を続けている。
 近年は『死刑にいたる病』『虜囚の犬』などのサスペンスが注目され、さらに読者層を広げている櫛木さん。その原点にして代表作ともいえるのが、デビュー以来書き継がれてきた「ホーンテッド・キャンパス」なのだ。

 シリーズの読みどころはいくつもある。まずは何といってもラブコメ小説としての面白さだ。純真な男子大学生・八神森司がひそかに思いを寄せている美少女・灘こよみ。近づきそうでなかなか近づかない二人の距離感が、読者の胸をキュンキュンさせずにはおかない。
 オカルトにまつわる蘊蓄も大きな魅力。森司とこよみが所属する雪越大学のオカルト研究会には、次々と奇妙な相談事が持ち込まれてくる。その事件は霊現象だけではなく、超能力、魔術、呪詛など多種多様。その手の話題が好きな人にはたまらないだろう。
 あるいはラストで意外な真実が明らかにされるミステリ的興味、ぞっと背筋が寒くなるような本格ホラーの醍醐味。雪国でのキャンパスライフを四季折々のイベントとともに描いている青春小説の側面も見逃せない。

 第1巻から最新作『オシラサマの里』まで、トータルで68話ものエピソードが書かれている「ホーンテッド・キャンパス」。エンタメの魅力が詰まったそのすべてをレビューしたいところだが、さすがにスペースに限りがあるので、この記事では5つのテーマに沿って20のエピソードを紹介してみた。シリーズガイドとして役立てていただけると幸いだ。

▼デビュー10周年&「ホーンテッド・キャンパス」20巻記念 櫛木理宇さんロングインタビュー
https://kadobun.jp/feature/interview/583ifmizgj4s.html
▼「ホーンテッド・キャンパス」シリーズ
https://kadobun.jp/character-novels/character-novels-series/hawnted/

とにかく怖い! 最恐エピソード4選

「人形花嫁」(『ホーンテッド・キャンパス 幽霊たちとチョコレート』)
「よくない家」(『ホーンテッド・キャンパス 雨のち雪月夜』)
「夜にうもの」(『ホーンテッド・キャンパス なくせない鍵』)
「片脚だけの恋人」(『ホーンテッド・キャンパス 秋の猫は緋の色』)



 オカルト絡みの事件とその解説がセットになった「ホーンテッド・キャンパス」は、基本的にはホラーが苦手な人でも安心して読むことができるシリーズだ。しかし中には、恐怖度がかなり高めに設定されているエピソードもある。
「人形花嫁」はひとりでに動き回る人形がなんとも不気味な作品。日本人形が苦手な人は覚悟して読んでほしい。「よくない家」は、建物にまつわる怪を描いたいわゆる“物件ホラー”の力作で、森司たちの手に負えない凶悪な家が登場する。「夜に這うもの」は森司の体に這い上がってくるものが実におぞましい。ビジュアルを思い浮かべると怖さが倍増である。「片脚だけの恋人」は借家の床下に作られていた座敷牢から、女性ものの靴が何足も見つかって……という発端からして異様。悲しい過去が浮かび上がる、ヘビーな読み味の怪談だ。これらのエピソードを読んでいると、櫛木さんがホラー短編の名手であることをあらためて実感する。

意外な真相と、奇妙な事件。ミステリ作品4選

「雑踏の背中」(『ホーンテッド・キャンパス』)
「籠の中の鳥は」(『ホーンテッド・キャンパス 春でおぼろで桜月』)
「悪魔のいる風景」(『ホーンテッド・キャンパス 白い椿と落ちにけり』)
「渇く子」(『ホーンテッド・キャンパス 夜をる、星を』)



 オカルト研究会のメンバーで霊感があるのは、部長の従弟である黒沼泉水と、主人公の森司。そして後に入部することになる後輩の鈴木だ。しかし霊感があるからといって、オカルト絡みの事件が簡単に解決するわけではない。関係者の話を聞き、入り組んだ人間関係に目を凝らすことで、やっと事件の真相が見えてくる。ラブコメ×ホラー×ミステリが三位一体となって「ホーンテッド・キャンパス」の面白さを作りあげているのだ。
 ここで紹介するのは、中でもミステリ的なひねりが鮮やかな4作。「雑踏の背中」は記念すべきシリーズ第1作『ホーンテッド・キャンパス』に収録された作品で、もう一人の自分(=ドッペルゲンガー)にまつわる事件が予想外の着地を見せる。「籠の中の鳥は」も忘れがたいミステリだ。ある学生がくり返し夢に見るという、かごめかごめをしている女性。その背後に隠された事件が、二転三転するストーリーとともに浮かび上がる。「悪魔のいる風景」では悪魔祓いの記憶をもつ相談者の過去が、「渇く子」では窓から覗く小さな子どもにまつわる因縁が、シリーズの探偵役である黒沼部長によって明らかにされる。

絶対見逃せない! ラブコメ名作4選

「いちめんの菜の花」(『ホーンテッド・キャンパス きみと惑いと菜の花と』)
「辛辣な花束」(『ホーンテッド・キャンパス 水無月のひとしずく』)
なみだつぼに雨の降る」(『ホーンテッド・キャンパス 最後の七不思議』)
「待ちにし主は来ませり」(『ホーンテッド・キャンパス 待ちにし主は来ませり』)



 お互いに相手のことを大切に思っているのに、あと一歩が踏み出せない。そんな森司とこよみの関係は、なんとシリーズ開始から10年を迎えようという今でも、表向きまだ友人同士のままだ。しかしその距離は着実に近づいてきている。シリーズの随所にちりばめられた甘酸っぱいエピソードをふり返って、その関係の変化をたどってみよう。
「いちめんの菜の花」でついに森司はこよみをデートに誘う。行き先は満開の菜の花畑。出かけた先でカップルと間違えられるなど、森司は夢のようなひとときを過ごすのだった。「辛辣な花束」ではこよみに頼まれ、彼氏のふりをすることになった森司。こよみに執着するゼミ生を牽制するためだというが、果たしてその結果は? 「涙壺に雨の降る」では、陸上大会に向けて練習する森司のために、こよみがタオルとスポーツドリンクを持って応援に訪れる。わざわざ双眼鏡を持ってきているこよみが可愛い。「待ちにし主は来ませり」ではとうとうクリスマスデートが実現。レストランでディナーを食べ、プレゼントを交換し……ここまできたらもう付き合っているのでは? と思うのだが、そう簡単にいかないのがこの二人なのだ。

リゾート感満載! イベント回4選

「うつろな来訪者」(『ホーンテッド・キャンパス 死者の花嫁』)
「まよい道 まどい道」(『ホーンテッド・キャンパス 恋する終末論者』)
「墓守は笑わない」(『ホーンテッド・キャンパス 墓守は笑わない』)
「夏と花火と百物語」(『ホーンテッド・キャンパス 夏と花火と百物語』)



 森司たちオカルト研究会は、持ち込まれた怪事件を解決するかたわら、キャンパスライフをしっかり満喫している。春はお花見、夏は花火。四季折々のイベントが織り込まれたシリーズは、学生時代ならではのおだやかな時間の流れを追体験させてくれるのだ。ここにピックアップした4作は、中でも特にイベント感が強いエピソード。
「うつろな来訪者」では夏合宿で海辺の別荘を訪れたオカ研の面々。肝試しをして、案の定“本物”に出会ってしまう。「まよい道 まどい道」は賑やかな学園祭を舞台にしたエピソード。喧噪の中に現れる異形のものに、背筋がひんやり冷たくなる。「墓守は笑わない」ではイベント好きの黒沼部長が大型のキャンピングカーをレンタル。足を踏み入れるだけで命を落とすという、呪われた墓所の謎解きに出かける。「夏と花火と百物語」ではマンションのスカイラウンジを貸し切りにしての花火鑑賞。そんな“リア充”な催しの最中に、百物語で盛り上がるのがいかにもオカ研らしい。

和のムードを堪能! 日本的怪奇4選

「月の夜がたり」(『ホーンテッド・キャンパス 桜の宵の満開の下』)
ホーンテッド・キャンパス この子のななつのお祝いに
「四谷怪談異考」(『ホーンテッド・キャンパス だんだんおうちが遠くなる』)
ホーンテッド・キャンパス オシラサマの里



 先に述べたとおり古今東西のオカルト知識を扱っている「ホーンテッド・キャンパス」。中でも特徴的なのは民間伝承や昔話など、民俗学的なモチーフを扱った作品だ。和のテイストを感じさせる4つのエピソードは、日本文化のダークサイドを覗かせてくれる。
「月の夜がたり」で描かれているのは、旧家出身の大学生を悩ませる雪女の祟り。家を継がずに離れた長男は、祟りによって必ず命を落とすことになるという。『ホーンテッド・キャンパス この子のななつのお祝いに』はシリーズ第8作にして初の長編。温泉旅行に出かけたオカルト研究会の面々は、吹雪に巻き込まれ秘境のような集落に滞在することに。横溝正史作品を思わせる、本格的な土俗ミステリ&ホラーが展開する一作だ。「四谷怪談異考」は日本の怪談を代表する「四谷怪談」に挑んだ野心作。四谷怪談をモチーフにした芝居に取り組む劇団に怪異が降りかかる。シリーズ最新作『ホーンテッド・キャンパス オシラサマの里』は、東北地方に伝わる謎の信仰「オシラサマ」を扱った長編だ。サイコサスペンスと超常現象、民俗学の要素が盛り込まれた、シリーズの集大成ともいうべき作品だ。独立した長編としても完成度が高いので、この巻から読み始めるのもありだろう。

▼「ホーンテッド・キャンパス」シリーズ
https://kadobun.jp/character-novels/character-novels-series/hawnted/

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https://kadobun.jp/feature/interview/583ifmizgj4s.html


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