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特集

消費増税どうなの? から「生産性」の話まで お金からわかる日本の今と未来。

 中国人の妻・ゆえさんとの結婚生活を、カルチャーギャップに注目してコミカルに描いた『中国嫁日記』の作者・井上純一が、お金にまつわるコミックエッセイを描いた。そう聞くと意外に思う人もいるかもしれないが、作者にとっては自然な流れだった――。
『キミのお金はどこに消えるのか』
(通称「キミ金」)セカンドシーズン開幕を記念し、8月22日に紀伊國屋書店新宿本店にて行われた公開インタビューのごくごく一部を、抜粋してお届け!
(聞き手・構成 吉田大助)

>>試し読みはこちら

円安で減ったお金は、「誰が取った?」

――コミックス冒頭の「はじめに」で記されているのは、こんな言葉です。

お金って、不思議だと思いませんか?

誰しもの胸に、問答無用で突き刺さる言葉だと思うんですね。ただ、多くの人にとってお金の不思議さは、怖さという感情に繋がっているんじゃないでしょうか。お金ってなんだか怖い、だから考えないようにしよう、と。お金について考えたりおおっぴらに語ることはがめつい、よろしくない、という清貧思想もいまだ根強くあると思います。この本は、そういった感情の方向へは進みません。
 <お金の不思議を/わたしたち一家とのぞいてみませんか?>とワクワクに誘惑し、<お金のおもしろさ>を教えてくれるんです。お金の「不思議さ」を怖さではなくおもしろさとして捉え、考えていく感覚は、井上さん自身が人生のどこかで獲得されたものなんでしょうか?

井上:月(※ユエさんと読みます。中国人の奥さま)と出会わなければ、僕自身もこんなに真面目にお金について考えることはなかったと思います。彼女の親族と交流したり、中国でしばらく暮らしてみて思ったのは、中国人にとってはお金を持っている人が正義なんですよ。貧乏人は何を言ってもダメなんです。そこがものすごく、もんんんのすごく(笑)はっきりしている。日本よりもストレートに、お金について考える風潮があったんです。
 要は、一番最初の月のセリフですよ。僕がやっているフィギュアの製作の仕事は、中国の工場に発注しているんですけれども、円安のせいで支払いが高くついてしまった。そんな話を月にしたら、「円安で減ったぶんの私たちのお金は誰が取りましたか?」って、マンガで描いた台詞そのもののことを言ったんです。円安で自分たちのお金が「取られた」って感じる、そこまでストレートにお金のことを捉えているんだって衝撃があったんですよ。その衝撃から、このマンガが始まっているんです。
 他にも、ここ最近の日本で結構根強くある「経済成長しなくても人間は幸せになれる。下り坂でも幸福な社会を!」という論理をマンガの中で紹介していますが、月さんは真顔で「何を言っているかさっぱりわからない」と言う。経済成長で生じた余剰によって解決できる社会問題はいっぱいある、しない方がいいなんてわけがわからない!」と。これ、健全な経済成長を続けてきた中国にいた人にとっては、当たり前の理屈なんですよね。そんな簡単な理屈が、20年以上デフレで低成長の日本にいるとなかなか分かりづらくなっている。もしかしたら僕自身、そう思っちゃっていたかもしれない。やっぱり月と出会ったことが、お金について真面目に考える大きなきっかけでしたね。

マンガを通じて、お金にまつわる「ぼんやりしたイメージ」を伝えたい

――マンガは1話10数ページ、各回ごとに異なるテーマを井上さんが提起し、それについて月さんがリアクションする、掛け合い形式で進んでいきます。井上さんは月さんに納得してもらえるよう、分かりやすく噛み砕いたかたちで経済について語る。その過程で、月さんから予想もしない質問をもらったり、先に結論を言われてしまったりする(笑)。井上さんの悪戦苦闘ぶりがコミカルで、抜群に読みやすいです。こんなに読みやすい経済マンガは、これまでなかったんじゃないかな、と。

井上:たいていの経済マンガだとか経済の入門書は、まず最初にグラフがあって、需要と供給の曲線が交差したところに価格が生まれる、と書いてあったりする。でも、月さんにグラフなんか見せたって「ふーん」で終わりですよ(笑)。だって、つまらないじゃないですか。
 極端な話、この本の中に描いてある知識は、ここで僕が1時間くらい喋ればだいたい説明できるんです。マクロ経済学の基礎しか書いてないですからね。でも、それでは知識として入ってこない。聞いたはしから出ていっちゃう。そうじゃなくて、月さんと僕のやり取りを読んでいく中で、お金にまつわるぼんやりしたイメージが浮かび上がってくると思うんですよね。経済学的に厳密で正確な議論じゃなくて、その「ぼんやりしたイメージ」を読んでくれた人に伝えられたらいいなと思っているんです。そうすることで、世界をぼんやりと良い方向に変えたかったんです。

お金のやりとりは、「心のやりとり」!

――おっしゃる通り、『キミ金』を読むとお金にまつわるさまざまなイメージが、脳裡に宿っていく感触があるんですよ。
 例えば、お金の流れを河にたとえたうえで、国が税金を取るとそのぶん水の量は減り、水の量は減りすぎると政府は日銀を使ってお金を増やす。擬人化されたイラストの効果もあり、インフレとデフレの対処法が分かりやすくイメージできます。

井上:「日本政府は逆のことをやってない?」って、月さんはツッコんでましたよね(笑)。

――もうひとつ脳裡に焼き付いたのは、「価値」についてのイメージです。月さんとの議論を積み重ねていった結論として、「この値段なら買っていい」「この値段なら買わない」という、他者間の「価値観の差」から価値が生まれる。 つまり「価値観の違いこそが価値の源!! 違う価値観を認めることで人々は豊かになるんだよ!!」と。そして、「違う価値観があることを認める」ことによって「世界は豊かになる!!」。経済とは、お金を媒介にしたコミュニケーションなんだというイメージが強烈に宿ったんです。

井上:そうそう。お金っていうもの自体が、心のやりとりみたいな部分があるんですよね。何故かと言うと、お金っていうのは生まれた瞬間から信用を媒介するんです。あなたが持っている一万円札には一万円分の価値があると私は信じます、という信用がなければ、お金は使えないし使わせてもらえない。
 そうした信用が社会を作り、それが拡大することによって経済というものが生まれる。「経済」という言葉の語源は古代中国の「経国済民」「経世済民」ですから、要は「人を救う」ということ。あなたがお金を使うことによって経済を回し、その結果、社会にいる誰かを救うことに繋がっていくんです。

――KADOKAWA文芸編集部のツイッターでは、そうした経済の輪の中に、自分も入っているイメージが実感できたという読者の声が紹介されていましたね。介護に携わっているひとにこそ読んでほしい、とか専業主婦でもしっかりと経済に貢献してると教えてもらえた、とか。

経済成長を目指すと、他人に対して優しくなれる!?

井上:どこかの政治家が「生産性がどう」とか言ってましたけど、あの人は政治のことも経済のことも、なんにも分かってない。意外と誤解されがちなんですけど、経済を語るうえでよく使われるGDPっていうのは、(原価に上乗せして)使ったお金の額なんですよ。使う人がいないと経済成長はできないし、税収を上げるためにはみんなが金を使わなきゃならない。つまり専業主婦も介護職の人たちも、介護を受けている側の人も、経済に結びついている。経済成長に貢献しているんです。
 ちょっと話は変わりますけど、最近は駅だとか電車の電光掲示板に、日本語以外の言語も表示されているじゃないですか。ここは日本なんだから、日本語以外はいらないとか言う人がいるんですよね。でもね、ここ数年のインバウンド(訪日外国人の日本国内での消費活動)は、右肩上がりになっているわけですよ。
 外国人に優しくしておけば、明確に外貨が稼げるんですよ。経済というものはですね、稼ごうと思った瞬間に、優しくなれる。経済的に成長するってことは、他人の価値観を想像する態勢になるってことであって、他人に厳しくしないってことなんです。だから経済成長を目指すことは重要なんですよ。

――経済成長を目指すと優しくなれる、というイメージは素敵ですね。

井上:本当のことなんですよね。単なる事実なんです。……というような話をすると、どうしてもプロパガンダになっちゃうんです(笑)。「キミ金党から立候補した井上純一です!」ってノリになっちゃうので、やっぱりマンガを読んでもらいたいですね。

――『キミ金』はセカンドシーズンが始まると伺っています(※9月10日より既に開幕)。どんな内容になりそうですか?

井上:ここからさらにマクロ経済を延々とやり続けるとプロパガンダ色が強くなるので(笑)、もっとみなさんにとって身近な話題を取り上げようと思っています。第1回は「不動産投資は儲かるのか?」という話ですね。「どんな保険に入るべきか?」とか、もっと直接的に「収入はどうやったら上がるのか?」という話もやるつもりです。セカンドシーズンの連載は「文芸カドカワ」と同時に、noteの僕のページでも1話100円で販売します。コミックスも、1冊で100万部は無理でも、10冊で100万部なら行けるんじゃないかなって気がするんですよ。『中国嫁日記』では世界は変わらないかもしれないけど、『キミ金』が売れたら変わる、かもしれない。読んだら是非、隣の人に勧めてほしいです。それで1冊売れたら、世界が1冊ぶん豊かになりますので(笑)。

参加者ひとりひとりにイラストつきのサインを描く井上さん


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