外資系企業を舞台に繰り広げられるアラフォー女子の成長物語『外資のオキテ』を9月に刊行した泉ハナさん。泉さん自身、外資系企業での豊富な勤務経験を持ち、その体験から描き出されるリアルな描写が話題になっています。そんな泉さんに、本書で書き切れなかったエピソードを踏まえ、内容紹介をしていただきました。
英語を話す人が増えたとはいっても、未だに、英語にあこがれが強い日本人。
英語を使って仕事をしたいと願う人も増えていますが、実際英語で仕事をする現場、外資系企業の内情については、実はあまり知られていません。
角川文庫『外資のオキテ』は、そんな外資系企業での仕事や人々の姿を、一年のアメリカ語学留学から戻って希望に燃える28歳の女性・貴美子の目を通して描いた物語です。
◎プライベートジェット通勤、貴族出身者……
本書の登場人物の中には、日系企業ではお目にかかれない人が何人か出てきますが、本の中で紹介しきれないぐらい、外資系企業では“トンデモない”人たちにたくさん出会います。
家賃月数百万円の豪華なマンションに住んでいる日本駐在外国人エグゼクティブは当たり前にいて、彼らがプライベートジェットで本社からやってくるのも珍しいことではありません。挨拶した相手が貴族出身だったり、エリザベス女王覚えめでたき御方だったなんてこともあります。
ほかにも、外資系企業でないとお目にかかれないようなすごい人がいます。
例えば、目の覚めるようなハンサムで、ハーバードMBA成績トップ5%にだけ与えられるベーカー・スカラーの称号を持ち、年収は億単位で香港の高級高層マンションのペントハウスに住むという、乙女ゲームに出てくる王子様みたいな人。
音楽の道を志すも、父親の大反対にあい、こっそりハーバード大学の夜の音楽コースに通いながら、昼間はMIT(マサチューセッツ工科大学)にも通い、きっかり4年で両方卒業。その後、IT企業で働きながら作曲家としても活躍し、シカゴ交響楽団で彼の楽曲が演奏されている、ゲイの活動家としてもよく知られている映画の登場人物のような人といっしょに仕事をしたこともありました。
◎一方で仕事をしない人、重婚生活を送るひとも
そうかと思えば、仕事稼働率6%なのに高額年収で、用もないのに海外出張と称して遊びに行く人がいたり、本国エグゼクティブに露見しにくいからと好き放題やる人もいます。気に入らない人間を陥れるために、平然と嘘のレポートを本国に送っていた人に遭遇したこともありました。
駐在中の外国人が既婚であることを隠して日本人女性と婚約、彼が帰国した後、その女性が会社に乗り込んできて大騒動になった事件もあったり。
◎実在したパワハラ社員
本書に出てくるキャリア志向のヒステリック上司・金井のモデルになった人も、実在します。
ホットパンツに胸の大きく開いたシャツで出社し、会議で気に入らないことがあると泣き喚きながら部屋を出て、そのまま家に帰ってしまうことなんてしばしば。それでも雇用した外国人が本国に戻ってしまっていたため、彼女の傍若無人振りは放置されていました。
その結果、彼女の部署では8人が精神を病んで退職。最終的には11人が会社を去ることに。結局彼女は解雇になりましたが、実は彼女、前の会社でも同じようなことをして、甚大な被害を残していたのだそうです。
◎買収をテレビで知る。三十代前半で年収一千万
明日のことは誰にもわからない……というシビアな側面があるのも、外資系ならではなのかもしれません。
当時いた会社の大口取引先が買収されたことがあります。その取引先では、社内の正式な発表もないまま、社員の多くが事実を知ったのは朝のテレビのニュース報道からで、中には、驚いた取引先からの電話で知ったという人もいたと聞きました。
成果についてもシビアです。多くが成果報酬なので、結果によって三十代前半で年収一千万を軽く越えることもあります。その分、厳しい要求に応じて成果を上げる必要があり、そのレベルの年収をもらう人達は24時間態勢で仕事に向かっています。彼らのモチベーションは、高い給料とやりがいによって支えられています。
これらはほんの一例に過ぎません。外資系企業といえば華やかな世界をイメージしがちですが、実際に起きていることを知って驚く人はたくさんいます。『外資のオキテ』の貴美子が扉を開いて飛び込んだのは、そんな世界です。
夢みていた世界が現実になると、そこには想像もしていなかったことがたくさんあって、あこがれていた分だけ、それらが重くのしかかってきます。
その中で悪戦苦闘しながら、さらにその先へ進もうとする貴美子の姿は、これから社会に出る人、仕事や人生に悩んでいる人に、きっと勇気を与えてくれると思います。そして、その姿に何かを感じていただけたらと思います。
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