HOW TO ジェニー・ハニヴァー
最後に紹介するのは、エイをジェニー・ハニヴァーへと仕上げていく工程だ。これが正しいやり方という訳ではなく、あくまで私が経験した上での記録である。どうしてもオリジナルの作り方が知りたい人は、ヨーロッパの古い文献を漁るか(載っているのかは謎)、どうにかして16世紀の製造者を呼び出して聞いてください。
まず新鮮なエイのぬめりを落とすところまでは食用と一緒。ここから先が違うのだが、背中側から背骨の両側に包丁を浅く入れ、そこから内臓をすべて抜き出す。ジェニーの顔となる腹側に傷をつけないのがポイントだ。
これをよく洗ったら、飽和食塩水にしばらく漬け込んで塩分を染み込ませる。そして水分をしっかりと拭き取って、ペット用トイレシート(無香料・無着色推奨)でミイラのようにグルグル巻きにして(内臓を取り出した空洞部分にもシートを詰めておく)、冷蔵庫に入れて一晩脱水する。
封印していたミイラをほどいて一夜干し状態のエイを取り出したら、ハエが侵入できないよう干し網に入れて、ベランダなどで天日干しをする。身がペラペラのガンギエイは乾きやすく、逆に厚みのあるホシエイは食べるのには最高だがジェニー作りには向いていなかった。
程良く乾燥したところで、エイの干物をジェニーへと変身させるためのトリミング作業を行う。過去の作例などを参考に、ヒレや頭をカットして、理想のジェニー像を具現化させよう。ガンギエイなら腐りやすいエラ部分をしっかりと取ることで、エイには存在しないはずの『首』が生まれるのがポイントだ。またそのまま干すと平べったくなるので、立体的なポージングをさせたければ、完全に乾くまえに針金や洗濯バサミで固定して乾かそう。
ジェニー作りは腐敗と乾燥の一本勝負。カラカラになるまで乾燥させれば手作りジェニーの完成となるが、私はうっかり一番腐りやすい梅雨時に作ってしまったため、強制的に乾かすために燻製にした。チップでしっかりと燻したおかげでジェニーに必要な『時代』がつき、大変満足のいく仕上がりとなったのだった。
もしジェニーを美味しく食べる場合は、衛生面に配慮が必要となる。サカタザメで作ったフレッシュタイプのジェニーがどんな味だったかについては、記事をご確認いただければ幸いだ。
※そこらへんの石に直に置かれたジェニーを当然のように手づかみで食らっていた我々も、「衛生面に配慮」が出来ていたとは言い難いですが……。(担当)
本編はこちら▶「怪と幽 vol.002 2019年9月」
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