(文・写真:玉置標本)
8/28に発売された妖怪と怪談の専門誌「怪と幽」vol.002に、「作って食べよう!ジェニー・ハニヴァー」という紀行文を寄稿させていただいた。紀行の寄稿というか、どちらかというと奇行である。
ジェニー・ハニヴァー(以下ジェニー)とは妖怪でも幽霊でもなく、16世紀頃にヨーロッパで出回った正体不明の生物であり、その正体はエイを乾燥させて加工したもの。いわば人造UMA(未確認動物)である。その名前は知らなくても、印象的なフォルムに見覚えがあるという人も多いはずだ。
ジェニーの素材であるエイを漁船に乗って捕獲し(?)、試行錯誤の加工をして、その味をレポートする顛末は「怪と幽」vol.002で読むことができる。ここではそこで書ききれなかった裏話を紹介したい。
ガンギエイを求めて定置網漁船に乗り込む!
ジェニーに使われる素材は、エイなら何でもよいという訳ではなく、ガンギエイやサカタザメ(名前はサメだがエイの仲間)といった特定の種類が定番となっている。これらのエイは東京湾にも多数生息するアカエイなどのシンプルな形をした定番型のエイとは違い、干して加工することで独特の怪しさや禍々しさを放つ魅力的なフォルムを有しているのだ。
ジェニーに適したエイを手に入れるための入手経路を調べたのだが、これがなかなか見つからない。エイ自体は全国各地に生息しているようなのだが、食材としてメジャーではないためか流通量は大変少なく、たとえ買えたとしても切り身になってしまうようなのだ。
新鮮な状態で丸のままのエイを手に入れるためには、もはや漁船に乗り込んで網に掛かったエイをもらい受けるしかないだろう。決意を固めてやってきたのは、世界三大漁場である三陸金華山沖から近い宮城県女川町の港。ここでガンギエイが獲れるという定置網漁の船である第二十八清水丸に乗せてもらった。
定置網とは沖合に仕掛ける常設型魚用巨大迷路みたいなもので、魚が回遊してくる場所にカーテン状の長い網を張って、そこを通る魚を箱状の網へと誘導する。あとはその網を引き揚げれば、まさに一網打尽という訳だ。巻き網漁や一本釣りのように特定の魚を狙って捕る漁とは違い、この漁場を泳いでいる魚ならなんでも混獲されるのが定置網。そこに私が狙うエイが入っている可能性に賭けたのだ。
※「海の男」というと、勝手に不愛想でこわい人たちを想像していたのですが、皆さんとても気さくに話しかけてくれました。「エイが欲しくてわざわざ東京からやってくるやつなんて聞いたことないよ!」……それは本当にその通りだと思います。(担当)
新鮮な肝は刺身が絶品!エイの調理方法あれこれ
続いて紹介するのは、「怪と幽」vol.002の記事で書ききれなかったエイ料理のノウハウである。書いたところで需要はない気もするが、なんと牛のレバ刺しが食べられなくなったと嘆いている人に朗報なのである。
まず素材となるエイだが、新鮮であることが大前提となる。エイやサメは体の構造上すぐにアンモニア臭がしてくるため、水揚げされた翌日には調理したいところ。またエイによっては尻尾に超危険な毒針を持つため、これで怪我をしないよう尻尾を慎重に切り落としてから調理をしよう。
※除去した毒針を大事に持ち帰る玉置さんは、よくわからない人だなと思いました。(担当)
エイの可食部分といえば居酒屋などでも定番のエイヒレがメイン。生のエイはぬめりが強いので、まず酢を掛けてタワシで全体をこする。そして体の左右にあるヒレ部分を包丁で切り離し、そのヒレをキッチンペーパーで押さえ、厚い皮を剥く。この状態のエイヒレがカスベという名前で売られているのを見たことがないだろうか。エイは意外と身近な食材なのだ。
※このぬめりと生臭さがキッチン中を覆いつくし、まな板にこびりついた臭いには熱湯が効く、という編集長Rのデマにも踊らされ、片付けには苦労しました。(担当)
ここまで処理すれば、あとは唐揚げ、ソテー、ミリン干し、新鮮なら刺身など、どう料理しても美味しくいただける。新鮮なエイなら臭みは皆無。ヒレの中央にある軟骨は、刺身なら切り離し、揚げものならそのまま食べよう。
今回はガンギエイ以外に、女川で入手したホシエイという種類も調理したのだが、この肝がすごかった。多少個体差はあるようだが、アタリであればフォアグラを思わせる巨大な白い肝で、これが刺身で絶品なのだ。最上級のレバ刺しを思わせる濃厚な味わいかつ、固体でいられるギリギリの柔らかさで、そのくちどけはプリンの如し。
ただしエイの肝、昔は肝油ドロップの材料にも使われていたほどビタミンAが多く、たくさん食べると過剰摂取となる恐れがあるので、体質にもよるが2~3切れ程度が適量だろう。というか、濃厚過ぎてたくさん食べる気にならない。
ちなみに産地である女川では、漁師さんはそのうまさを知っているものの、残念ながら商品として流通するほどの認知度ではないため、捕れてもほとんどリリースしてしまうようだ。
※「エイなんて(笑)」とはじめは小馬鹿にしていた編集部員たちも、一口食べると大喜び。女川まで行き、すっかりエイに親近感を持っていた私は、嬉しい反面、応援していた地下アイドルが一気にメジャーになってしまったような寂しさも感じていました。(担当)