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特集

万城目 学×上田 誠(ヨーロッパ企画) 舞台『鴨川ホルモー、ワンスモア』公演記念対談

先日、『八月の御所グラウンド』(文藝春秋刊)で第170回直木賞を受賞されたばかりの万城目学さん。そんな万城目さんのデビュー作であり、京都を舞台に描いた抱腹絶倒の青春コメディ『鴨川ホルモー』が、この度、劇団「ヨーロッパ企画」率いる上田誠さんの手により東京と大阪で舞台化されます。そもそものきっかけとなったお話から、上田さんの脚本を読まれた万城目さんの思いなど、公演を控えた今だからこそ聞けるお話をたくさん伺ってきました。

撮影:ホンゴユウジ 構成:タカザワケンジ

舞台がはねた後の冗談がきっかけ


――『鴨川ホルモー』の舞台化は、上田さんの『たぶんこれ銀河鉄道の夜』をご覧になったのがきっかけだそうですね。

上田:最初は冗談だったんですよね。

万城目:僕は上田さんに自分の作品を脚色してもらうなんて、考えたこともなかったんです。上田さんと言えば森見さん。森見さんがアップルとすると、僕はマイクロソフトみたいなもんで、両方に互換性があるのは、何か変な感じ、てイメージでした。


――万城目さん、上田さん、森見さんは仲がいいんですよね。今年1月に万城目さんが『八月の御所グラウンド』で直木賞を受賞された時、受賞の報を受けた場に上田さんと森見さんもいらっしゃったとか。

万城目:そうなんですよ。でも、上田さんは森見さんの『夜は短し歩けよ乙女』や『四畳半神話大系』などの脚本を書かれているし、劇団でオリジナルの脚本を書いていらっしゃるので、僕の作品を、ということはないだろうなと。


万城目学さん

上田:森見さんとのお仕事もいろんな巡り合わせでできたことで、劇団のほうではずっとオリジナルばっかりやってたんです。それが最近、原作をアレンジすることが楽しくなり始めて、『たぶんこれ銀河鉄道の夜』を見た万城目さんが、「いろんな原作でできますね」みたいな感想をおっしゃって、例として世界の名作を色々あげてくださったんです。

万城目:去年の4月ですよね。

上田:そうですね、ちょうど1年前。

万城目:『たぶんこれ銀河鉄道の夜』では、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』を再構成して音楽を載せて今風に変えれるんやな、と驚いたんです。森見さんの小説は現代が舞台だから平行にスライドできますけど、『銀河鉄道の夜』は時代も場所も違う世界で、それをこうできるのかと感激して。
 舞台が終わった後にロビーで「あんな有名な古典をこういう風にできるんやったら、もうなんでもできるんじゃないか」みたいなことを言ったんですよ。僕としてはどんどんいろんなものに挑戦したらいいんじゃないかっていう感じで。で、その時に冗談で「『鴨川ホルモー』どうっすか」と言ったんです。

上田:それを聞いて僕は「本当だ! 面白そう!」と思ったんです。

万城目:僕は言ったきり忘れてましたけど、2週間後ぐらいに、本当にやっていいのかみたいな打診が来て、それからはトントン拍子でしたね。

上田さんの脚色フィルターは無色


――上田さんは『鴨川ホルモー』は舞台になるな、とすぐにイメージが膨らんだんですか。

上田:なんかもう直感的に、これが興行として世に出たら面白そうって。そこからですね。京都で若者たちの群像劇。世界観としては自分が生きてきた世界と重なるんですけど、舞台にしやすいと思ったわけではないんです。いつもそうなんですけど。 自分がお客さんとして見たいかどうかです。
 演劇にすることで新たな効果が生まれると面白いと思うので、今回は一人称で書かれた『鴨川ホルモー』を群像劇に翻訳してみようというのが最初の発想ですね。原作も群像ものなんですけど、主人公の安倍さんの心情に寄り添って書かれた一人称の小説。その感じはそのままに、群像の圧を増して演劇にできたら面白くなりそうだと思いました。


上田誠さん


――いま準備稿があがった段階(対談時)ですが、万城目さんはお読みになっていかがでしたか。

万城目:めちゃくちゃ面白いと思いました。今までも何度か自分の作品が脚本になった経験があるんですけど、上田さんは今までの人とはちょっとちゃうなと。そのままやったら5時間ぐらいになる原作を 2時間ぐらいに収めるってことは、脚本家の圧縮フィルターがかかってる。当然ですけど、脚本家のフィルターの色がどうしても出るんですよ。良い意味で「え、この人こういう風にやるんか」みたいにいつもおもしろく思っていたんです。
 上田さんはめっちゃ濃いフィルターをかけて味つけするのかな、と思ったら、ほとんど色を感じませんでした。他の脚本家とは脚色の仕方が違うような気がしましたね。原作をものすごく細かく細分化して、組み立て直して一見原作と同じ形に見えるようにする、みたいな。そういう雰囲気でした。

上田:僕はデザインすることが好きなんです。自分の色、作家性は、オリジナルの作品では出すんですけど、原作がある場合はあまり出さないかも。とくに万城目さんの色って独特だから、それを変えたくない。僕が同じような要素をジェネリックで作ると、それらしくは見えるのかもしれないけど、なんか目減りするというか(笑)。
 たとえば、さだまさしが好きな安倍と、帰国子女でヨックモックのシガレットを横向きに食べる高村が出会って、というところに万城目さんが醸し出す色があって、 そこに僕が3人目の誰かを付け加えると、『鴨川ホルモー』や『ホルモー六景』じゃなくなるような気がするんですよ。だから要素を並べ替えよう、ということなんですけど。
 しかもその並べ替えも、もともとの原作を万城目さんがかなり緻密に構成されているからそんなに動かせない。だから『鴨川ホルモー』だけでなく『ホルモー六景』と合わせて1つにするというコンセプトを立てて良かったと思いましたね。
 原作のこんな分解の仕方は失礼かもしれないですけど、物語のパーツを全部書き出してどの順番で並び替えるともっとも密度が増すか、みたいなことをやりました。

万城目:もちろん、あちこちに上田さんオリジナルの人物やシーンが登場するわけですけど、やけに違和感がないというか。

上田:そうですね。緊張しました。万城目さんは本当に緻密だから。鴨川ホルモーのルールも架空の試合なのに破綻がないんです。こういう場合はどうなるんだっけ? とルールに疑問が生じても、よく読むとちゃんとそのケースについて触れられているんですよね。

万城目:深夜に上田さんから、この場合はどうなるのかっていう質問が来たことがあるんです。上田さんは完全に身体が出来上がっていて、今からでもすぐホルモーを戦えるみたいな感じなんですけど、僕は20年も前に引退してますから、テンションの違いがあるというか、集中力が違っていて。「ちょっと待ってください」と1回全部読んでから「この時はおそらくこういう風に考えたと思います」みたいな返事をしたんです。そしたら上田さんが「最終章に書いてありました」と。

上田:ちらっと書いてあったんです。会話の中で。

万城目:上田さんのような細かすぎる読み方というか、こん時はどうなるんやろうって思う人が現れた時用に、ちゃんと僕が予防線を最後に張っていたんですよね。

鴨川土手に集合する京大青竜会

上田:舞台化が決まって、最初に万城目さんに相談したのが場所のことでした。演劇って場所のものというか、場所から立ち上がっていくものなんですね。たとえば、僕の『サマータイムマシン・ブルース』は演劇から始まっているので、部室が中心になっています。でも、『鴨川ホルモー』には決まった場所がありません。 ホルモーは流浪のサークルで、わざとかっていうくらい例会の場所が決まってない。流れていくような集団なのかと思って、鴨川沿いの土手を舞台にして、その中で人が流れて移ろっていくようなつくりにしようと考えました。

万城目:言ってましたね、最初から。土手みたいなとこでやりたいって。

上田:その辺りは原作と変えていますね。小説で読んでいると場所はあまり気にならないですけど、演劇だとどの場所でやっているのかが気になるんです。

万城目:上田さんの劇団のヨーロッパ企画の人たちがキャストに入ってるじゃないですか。彼らがアクセントになっているんです。冒頭の土手のシーンで楠木ふみに対して「(試合中はコンタクトレンズだったけど)メガネに戻してんじゃーん」って言いますよね。その時土佐和成さんの声が聞こえてきたんです。ねばっこい感じの土佐さんの声が。配役を見たらやっぱり土佐さんだった。自分の劇団の役者への当て書き的なものを間には挟んで、リズムを整えてるんだなあ、と。清原役の石田剛太さんもそう。そういうの入れつつ。

上田:そうそう、笑いは意識していますね。ヨーロッパ企画的なものは『鴨川ホルモー』の世界に意外と違和感なく挟み込めるんです。

万城目:あの人たちの色もめっちゃ濃いんですけど、『鴨川ホルモー』に入っても別にそんなに感じへんっていう。この団体やったら、このぐらいは普通じゃない? みたいな安心感を感じましたね。

メンバー10人全員に魂を入れてほしい


――万城目さんが今回の『鴨川ホルモー、ワンスモア』に期待してるのはどんなことでしょうか。

万城目:上田さんに最初からお願いしていたのは、名前だけの人がいるから、その人たちにちゃんと魂を入れてあげてほしい、ということですね。
 京大青竜会のメンバーは10人いるんですけど、小説では5人ぐらいにしかスポットライトを当てていないんです。残りは名前も覚えていなかったくらい。ひどい扱いですよ。自分としてはそのことへのリグレットがあるわけです。全員を生かしきれなかったという。
 今ならたぶん10人をちゃんと描けると思うんです。それこそ上田さんみたいに。10人全員が個性的な役割を持って、本当にお見事です。


上田:そう言っていただけると嬉しいです。原作では気にはならないですけど、映像や演劇になると「この人はどういう人?」って気になりますよね。でも、だからこそ万城目さんはスピンオフ的にいろんな登場人物を主役にした『ホルモー六景』を書かれたんじゃないかなと思いました。
 小説を演劇にする時にいいのは、役者が小説を読めることなんです。オリジナルで劇を作る時は、参照すべき役者の背景が台本しかないので。

万城目:それはええことなんですか?原作あっても読まないほうが良くないですか。先入観がつかないほうが。

上田:いや、やっぱりどんなキャラクターかを補強できる材料があるのはありがたいですね。演じていて着地点が見えるというか。原作に書かれてない人は、他のキャラクターをちょっと融合させたりとかしてます。

万城目:原作に詳細が書かれてへん人はね、この脚本がもう公式の歴史になるから自信を持ってやってもらいたい(笑)。

登場人物全員の名前が京都に関係あり!


――『鴨川ホルモー』の舞台であり、お2人の共通項である京都についてはどうでしょう。

上田:原作は京都のいろんなスポットが出てきて、京都紹介にもなっています。それも面白いなと思いました。舞台でもできるだけ京都のことも乗せていこうと思っています。
 『鴨川ホルモー』は京都の長い歴史の上に一瞬だけの青春がある、みたいな。青春が歴史と対置するように書かれているんですよね。普通の青春小説だったら、その土地で歴史的にこういうことがあったとかって別に書いてないと思うんですけど。


万城目:そもそも登場人物全員の名前が京都に関わっていますからね。安倍と芦屋が仲悪いのは、名前のモデルが安倍晴明と芦屋道満だから。『鴨川ホルモー』は、単に安倍と芦屋が1人の女性を巡って喧嘩するだけの話ですから。

上田:そういえばそうですね(笑)。

万城目:それでサークルが分裂するだけの話なんで、分裂の原因になる女の人は怨念系がええなと思って。早良親王から採りました。

上田:怨念系っていうチョイスなんですね。確かに名前からも匂います。

万城目:上田さんから「名前ない上回生の役があるんでつけさせてください。文人系で行きたいです」と。それが清原さんと大江さん。さすがやなと思いました。

上田:良かった、世界観に合っていましたね。

万城目:上回生で名前があるのは菅原だけだから、菅原道真を軸に名前を足すなら文人系。正解です。でも、清森さんがすでにいるから、清森さんと清原さんとで、若干わかりづらい。

上田:それはね、稽古場でも混乱が生じてます。

万城目:清原さんの名前、変えてもいいんじゃないですか。

上田:もうつけちゃったから。まあ、まあ(笑)。舞台で1回呼ばれるかな。でも似た名前があるっていうリアリティもあるので。


――舞台で楽しみなのが、「ホルモー!」の叫び声や、オニに対する命令ですね。役者さんたちがどう演じるのか。

上田:ちゃんと練習してますよ、みんな。

万城目:俳優さんたちは気の毒やなと思います。口にしたくない日本語としてオニ語をチョイスしたから。字面で見ただけでも「これを叫ぶの嫌やな」ってことを書いてるから。それをやってくれる役者さんは偉いもんやなって思いますね。

上田:いや、そこはね、役者はすごいもんですよ。突破力があります。万城目さんが、自分が読んでも恥ずかしいシーンをわざと選んで書いたという話を聞いて、「ほんまにそうやな」と思ったんです。僕も、恥ずかしいなって稽古でちょっと思ったんですよ。でも、それ自体がこの物語の本質なのかもと思いました。
 舞台でも赤っ恥の場面みたいなことをなるべく多く配置して、役者は照れながらそれを乗り越えることで感動を生むっていうのをやってみたい。これは人間の肉体が超えるべき山なんじゃないかと。

万城目:全員恥ずかしいことのオンパレードですもんね。原作では、早良さんだけ、最後までなんとも思ってませんよね。反省もいっさいしない。

上田:でもね、早良さんを演じる八木(莉可子)さんは試行錯誤されてますよ。早良さんを憑依させるために。

万城目:早良さんは周囲の空気なんか気にせず、周りの人を踏み台にしていかへんとあかんのです。

上田:もちろん、そうですよね。早良っていうキャラクターがそうなので。

万城目:怨念系の名前をいただいてる分、全然気にせえへんで、ガンガン行ってもらえばいいと思いますよ。


その後、通し稽古を見学した万城目さんより

「上田誠氏との対談からわずか九日後、ノンストップの通し稽古が行われ、目の前でキャストたちが躍動する様を見せつけられた私は驚嘆した。何ておもしろいコメディ作品として出来上がったのか、と。
掛け合いよし、ダンスよし、ホルモーよし。古典作品として今後も堂々残っていくのではないか、そんな予感すら抱いてしまった。
おそるべし、『鴨川ホルモー、ワンスモア』である!」

舞台情報



『鴨川ホルモー、ワンスモア』
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書籍情報



鴨川ホルモー
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このごろ都にはやるもの、勧誘、貧乏、一目ぼれ。葵祭の帰り道、ふと渡されたビラ一枚。腹を空かせた新入生、文句に誘われノコノコと、出向いた先で見たものは、世にも華麗なひと(鼻)でした。このごろ都にはやるもの、協定、合戦、片思い。祗園祭の宵山に、待ち構えるは、いざ「ホルモー」。「ホルモン」ではない、是れ「ホルモー」。戦いのときは訪れて、大路小路にときの声。恋に、いくさに、チョンマゲに、若者たちは闊歩して、魑魅魍魎は跋扈する。京都の街に巻き起こる、疾風怒濤の狂乱絵巻。都大路に鳴り響く、伝説誕生のファンファーレ。前代未聞の娯楽大作、碁盤の目をした夢芝居。「鴨川ホルモー」ここにあり!!

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オーディオブック『鴨川ホルモー』シリーズ一覧


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プロフィール

万城目 学(まきめ・まなぶ)
1976年生まれ、大阪府出身。京都大学法学部卒。2006年第4回ボイルドエッグズ新人賞を受賞した『鴨川ホルモー』でデビュー。24年『八月の御所グラウンド』で第170回直木賞を受賞。その他の著書に『鹿男あをによし』『ホルモー六景』『プリンセス・トヨトミ』『かのこちゃんとマドレーヌ夫人』『偉大なる、しゅららぼん』『とっぴんぱらりの風太郎』『悟浄出立』『バベル九朔』『パーマネント神喜劇』『ヒトコブラクダ層戦争』『あの子とQ』などがある。

上田 誠(うえだ・まこと)
1979年京都府生まれ。劇作家、演出家、脚本家、構成作家。劇団ヨーロッパ企画代表。「サマータイムマシン・ブルース」は2001年初演、05年に映画化された。18年には続編「サマータイムマシン・ワンスモア」を上演。17年「来てけつかるべき新世界」で岸田國士戯曲賞受賞。森見登美彦原作のアニメ「四畳半神話大系」「夜は短し歩けよ乙女」「ペンギン・ハイウェイ」で脚本を担当。


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