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特集

「オリジナル映画の火を灯し続けるためには」 原作・脚本・監督 内田英治 緊急インタビュー

 内田英治監督によるサスペンススリラー「マッチング」が、公開8週目に突入し、4月11日時点で観客動員数66万人、興行収入9.3億円を突破している。内田監督といえば、2020年の「ミッドナイトスワン」のヒットも記憶に新しい。同作は興行収入8億円を超え、実写オリジナル脚本作品としては異例のヒットを飛ばした。小説や漫画原作の実写映画、そしてアニメ映画がしのぎを削る邦画界で、オリジナル脚本の作品が生き残っていく戦略や課題、今後の展望について、内田監督に話を聞いた。

文/瀧川かおり

「オリジナル映画の火を灯し続けるためには」 原作・脚本・監督 内田英治 緊急インタビュー


オリジナル最新作「マッチング」のヒットの要因


――まずは、「マッチング」の動員65万人超え、興行収入9億円突破、おめでとうございます。

内田(敬称略):ありがとうございます。


――前作「サイレントラブ」(2024年)、そして「ミッドナイトスワン」につづいて「マッチング」が成功した感想をお伺いしたいです。

内田:うれしいです(笑)。日本は海外に比べて極端にオリジナル作品が少ないので。オリジナルやりたくてもやっぱりできない理由があって。一度火が消えたら、多分もう二度とつかないだろうから。ギリギリのところで、火がつき続ければいいなと思います。

 でも単純にオリジナルでやれるんだということを、観ている人たちも含めて思ってもらえればいいなと思います。意外と観客の方は知らなかったりするじゃないですか。原作ものとオリジナルの違いって。でもオリジナルだって発信するとそれを応援してくれる機運になるので、それはすごくよかったと思っています。それで、もっとオリジナル映画が広がれば、もっとみんな応援してくれるかな、という感じですね。「ミッドナイトスワン」のころはあんまりそういうことは考えていませんでしたけど。やりたいことをやったら、たまたま多くの人に観てもらえた。「サイレントラブ」や「マッチング」になってくると、「オリジナルをつづけるんだ」そして「いろんなジャンルに挑戦するんだ」という考えもあったので。好き勝手好きなことだけを詰め込めばいいってもんじゃないんだっていうのが、この2つの映画ですよね。


――「マッチング」は小説も好評ですが、映画と小説の循環というものもあると思います。それぞれ反響が違うと思いますが、それぞれ感想というか、発見されたことなどあれば聞かせてください。

内田:2個あると思ったんですけど、1個はオリジナル映画が原作ものに対して弱いことって、積み上げがないことじゃないですか。漫画だったら週刊誌で何年も連載してきて、ファンを少しずつ増やしていって、別の分野で積み上げてきたものを最後、映画でドーンと世に出す感じだから、圧倒的に知名度も強いじゃないですか。でもオリジナル映画は公開された日とか宣伝が始まる(公開の)数ヶ月前から初めてみんな目にしたり耳にしたりすると思うので、弱いっていうよりこの情報過多な時代だと難しいと思うんですよね。だから小説を少し前に出すことによって、少しでもみんなに届けられる、知名度を積み上げができるっていうのは1ついいことだと思います。

 もう1つは今回の「マッチング」が特に大きくて、「ミッドナイトスワン」もそうでしたけど、(小説には)映画の中に描かれていない部分を描くことができるので、サイドストーリーとして、めちゃめちゃお客さんたちが楽しみにしてくれる。2回楽しめるっていうのが1つ売りになって、昔流行った「竿竹屋はなぜ潰れない」と同じ原理です(笑)。


小説と映画、どっちからでも楽しめる


――「マッチング」について「小説を読んだ人」「映画を観た人」それぞれの反響(感想)を目にして感じたことやあらためてそれぞれ注目ポイントなどがあれば、教えていただけますでしょうか。

内田:映画を見た人は、(小説は)映画ではほとんど描かれない刑事2人の視点になっていて全然違うストーリーとして楽しめる。プラス、吐夢の背景を描いている。それは「ミッドナイトスワン」と一緒で、映画では描かれなかった凪沙の背景を描いたんで、そういう部分を観てもらえるとうれしい。小説からスタートした人は、映像化されて役者っていう具体像が出てくるんで、それが面白いんじゃないかなと思いますね。でもこれは絶対セットですね。


――どちらが先でもいいですか?

内田:大丈夫です。(吐夢役の)佐久間大介くんはネタバレに厳しいようですが(笑)。僕はオチまで読んでも映画観れるタイプなので。嫌な人もいますよね。


――そういう人は映画が先のほうが良いですね。

内田:そうですね。でも本当は小説だけじゃなくて、テレビ、舞台とかもっとメディアミックス的なやり方がオリジナルの戦略になり得るんで。将来的にはもっと小説じゃないものもやりたいんです。続編がもしあるんだとしたら、いわゆる積み上げるという作業はいろんなメディアを使ってやりたいなと思います。

オリジナルは役者とのフィーリングと泥臭さ


――小説や漫画原作、ドラマの映画版やアニメ映画が中心になっている邦画の状況に思うところなどありますか?

内田:すごくいいことだと思いますし、自然な流れだと思います。アニメって日本が世界に誇れるカルチャーじゃないですか。それが産業として拡大していくのは、逆に僕らにとってもプラスだな、と。海外の映画祭に行って「鬼滅!」とか言われますけど、昔は海外ではどこに行っても「KUROSAWA!」「ゴジラ!」しか言われなかったですけど、今はやっぱり「鬼滅!」とか「(宮崎)駿さん!」とか言われるわけですから、それはめちゃめちゃ浸透してるというか、ありがたい。ただ、自分はアニメ界の人間ではなく、実写映画の世界の人間なので。良きライバルとして、今となっては戦う土壌は一緒じゃないですか。だから異種格闘技戦みたいなものだと思っています。土壌が一緒なんで、良きライバルという感じで、ちゃんと巨大なコンテンツとして考えていかないと。実写映画ってどうしても昔から作家が好きなことをやればいい、お金なんか関係ないっていう歴史が日本映画にはあるので。それが今の邦画の衰退を招いている部分もあるのかなと思いますね。


――作家とか、映画監督につくファンが今はあまりいないということですか?

内田:ヒットコンテンツを作るという意欲が弱い気がします。韓国は例えば歌1つとっても、ヒットが出るような仕掛けを考えてるじゃないですか。アイドルグループを1つ作るにしても、ポンとデビューさせるんじゃなくて、5億、10億かけて2年ぐらい育成して出すとか。映画もマーケティング重視のやり方ですし。映画監督がヒットとか、マーケティングとか、お金のこととか、映画が当たることを口にするのは、ちょっとタブーというか、カッコ悪いこととされてきた。海外では監督も率先して考えてる気がするんです。


――商業的な部分というより、芸術として、ということですか?

内田:一部で続いてきて、僕も元々そうでしたし。監督なんて金のことなんか考えなくていい、好きなことだけやればいいんだ、と。政府の助成金が厚いフランスのような国や、昔の70年代はそれでよかったのかもしれません。娯楽が映画しかなかったから。でも今は時代が変わって、配信もあれば、アニメの台頭もありますし、全然時代が違うので、やっぱり韓国とかアメリカのように、映画監督がクリエイティブと企画の両面に参加するやり方もありなのかなっていう。それがオリジナルというかたちになっていくのかなって思います。


――オリジナル作品が成功するためには、「ミッドナイトスワン」で草なぎ剛さんを起用したように、内容以外のフックはこれからも不可欠だと思いますか?

内田:絶対的に重要なのはキャストとの連携だと思います。演出家が知らない部分でキャスティングが決まって、政治的に映画が作られていくんじゃなくて、やっぱり気持ちが通じ合わないといけないんだなって、最近よく思うんです。「カメラを止めるな!」(2017年)みたいな奇跡的な例もありますけど。もちろん「ミッドナイトスワン」もそうですし、狙ったわけじゃないですけど、最近3本やって全部そう思います。有名俳優を入れることが別に重要ではなくて、役者とのフィーリングが大事だと思います。それが後々の興行にも関わってくる。現場で会って、はい終わりですってなると、オリジナル作品って泥臭いんで、お客さんも巻き込んでいかなきゃいけないじゃないですか。だから舞台挨拶とか取材とかで、演出家と俳優陣で、なにかしらのフィーリングみたいなものに触発されて、お客さんも応援していこうみたいな、結構泥臭い関係が絶対に必要だなと最近は思います。それが大きな輪となり、みんな喜んでもらえる。それがいい作品を作るし、脚本でこういうふうにしたほうが面白いんじゃないのって役者さんが言うこともあるし、僕が言うこともある。日本以外の国ってそうやってやってるので。アメリカのA24とかオリジナル主体の映画って演出家と俳優の関係で成り立ってる。韓国なんて最たるもので、監督がオファーしたりする世界なんで。それはやっぱりすごく重要だと思いますね。フィーリングとか関係性が。ストーリーも重要ですけど、いきなり大勢のお客さんが来るほど強力にはならないですよね。宣伝費が10億ぐらいあれば別なんでしょうけど(笑)。それは本当に思いますね。フィーリングが合わなかったら本当にうまくいかない。今のところフィーリングが合わなかった人はいませんけど。


――そういった関係を築くために撮影現場で気をつけられてることはありますか?

内田:いえ、なんにも気をつけてないです。ただ、役者のクリエイティブから逃げない。役者さんはやっぱり役になりきってるから、「このセリフちょっと、(このキャラクターは)言わないかもしれませんね」とか、あるんですよ。誤魔化して撮影を進めるのではなくて5時間でも10時間でも、撮影ストップしてでもその一言で話し合うべきだと思ってるので。逃げずに彼らと向き合うことを大事にしています。


――結構、がっちり組んで。

内田:がっちり。だってもう監督至上主義の時代じゃないですから。昔は巨匠がいっぱいいて、ああいう時代は監督がすべてだったのかもしれないですけど、これだけコンテンツが増えて技術や演技の革新があると、もう監督1人の手じゃどうしようもない。チームですね。大作のアニメとか大作の原作ものにオリジナルが唯一勝てるものって、チームワークしかないと思うんですよね。お金も無ければ、なにもないわけですから(笑)。それはめちゃめちゃ気をつけてますかね。

極端にピュアな部分と極端に人間の汚い部分を描く


――今回「マッチング」で、「ミッドナイトスワン」の内田監督の作品だから観たいという観客も増えてきていると思います。その点についてはどう思われますか?

内田:そういう人の声もいただくんですけど、通常は「ミッドナイトスワン」を観てファンになっていただいた方って、多分そのテイストのものを求めているんだと思うんですけど、作る作品のジャンルを変えていきたいと僕は思っているので。ホラーが苦手な人とかもいっぱいいるでしょうし、びっくりするとは思うんですけど、結局作ってるのは同じ監督なので、根底に流れるものは感じ取ってもらえるのかなって。「根底に流れるのは結構、一緒だよね」「似てるよね」ってよく言われるんですよね。ジャンルは全然違うんですけど。でもそれはオリジナルの楽しみ方かもしれないですよね。


――「ミッドナイトスワン」と「マッチング」に共通するのは、愛憎みたいなものですかね。

内田:愛憎とか、極端にピュアな部分と極端に人間の汚い部分を描くのが好きなので、それは出ちゃいますね。極端な国で生まれ育ってるからか、極端に振れちゃって(笑)。


――別のインタビューで(「マッチング」は)「救済」を象徴するものが映り込んでいると仰っていましたが、そういう部分は「ミッドナイトスワン」に通じるのかな、と思いました。

内田:ああ、そうかもしれないですね。僕は特定の宗教には入っていませんが、信仰は圧倒的に人間に必要なものだと思うんですよね。別に信仰に限らず、「マッチング」だとそれが「愛情」だったり、人間であるからには、すがるためのなにかっていうのは絶対必要だと思います。だからそれは描きたいと思いますね。でもそのまま描いても誰も観ないんで。やっぱり娯楽という映画のなかで描いていくことはやっぱり、例えば「マッチング」は若い子に観てもらいたかったから、観てもらえるようにストーリーづくりをしたつもりですし。「ミッドナイトスワン」のときは別にそういうことは考えずに、多くの人が観てくれると思ってなかったので。
だって、脚本だけ読んだら(ヒットすると)思わないと思いますよ。形になったからああいうふうになりましたけど。あのときはなかったですけど、「サイレントラブ」とか「マッチング」は、ヒットさせる必要があると思って取り組みました。オリジナルを存続させるぞ!と。


――オリジナル脚本執筆時に心がけていること、気をつけていることはありますか?「映画にするんだからこうだよね」と考える部分などありますでしょうか?

内田:出発点は、一切考えないです。こういうネタだから売れるだろうとか、「マッチング」とか実際、思いついてずっと塩漬けしてたんです。正直、思いついたときに「多くの人が見てくれるだろうな」と思ったんですけど、でもなんか自分のやりたいテーマでもないし、ずっと塩漬けにしていて。そこを「当たるからこれだ!」みたいなとこに行くと、原作でいいじゃんと同じ穴に落ちそうなので、基本的に自分が日常の中で興味があるもの(を撮りたい)。僕が「マッチング」を急にやる気出したのも、結構近い周りでアプリで出会って幸せになってる人がいたり、本当に身近になってきたんだなと思うことがあって、それで進めてみようと思ったんです。日常で自分が経験する中で、これちょっと描いてみたいなと思うものとドンピシャにハマった後に考えますね。テーマは別に当たる当たらないは考えてないかもしれない。書き始めたあとに、当たるように仕向けていくみたいな感じです。


描きたいストーリーと見てもらう工夫


――オリジナルへのこだわりもあると思いますが、過去には漫画原作の『ダブルミンツ』(2017年)なども手掛けていらっしゃいます。今後、原作ものを手掛ける可能性はありますか?

内田:僕はオリジナルにこだわってるってよく言われますし、自分でもこういうことを言うからそう思われるんですけど、別にこだわってないです。オリジナルをやりたいですけど、絶対オリジナルじゃなきゃいけないっていうのは、まったく思っていません。『ダブルミンツ』は本屋で立ち読みして、絶対俺には書けない物語だなと思って、やりたいと思って、自分で出版社に連絡してやったんですよ。例えばこのあいだ、ドラマで湊かなえさんの作品(※WOWOW「落日」:2023年)で、ミステリーの作家さんのものを初めてやったんですけど、めちゃめちゃ楽しかったです。違う楽しみですね、完全に。もうストーリーはあるわけだから。漫画とか小説って映画にするつもりで(作って)はいないので。それを映画という媒体に落とし込む作業はなかなか楽しいですよね。ただ、一抹の寂しさもあるのは否めないですよね。


――自分が最初から作り上げたものではないっていう点が寂しいということでしょうか?

内田:やっぱり0から1が自分じゃないっていう、寂しさと悔しさ。嫉妬しちゃうんですよね、すごいストーリーを見ると。なんで俺これ考えられなかったんだろう、すごいなあ、って。特にミステリーはね、みんなすごいんで。だからやっぱり数字が上がるのは、オリジナルのほうがうれしいですね。やったことないからわからないですけど、大ヒット原作をやって何十億って興収が上がっても一抹の寂しさはあるかもしれないですね。


――原作ものとオリジナルの違いや、それぞれの利点と難しさなどありますでしょうか。

内田:今回感じたのは、スクリーンのキープですかね。それは演出の範疇じゃないかもしれないですけど、それは全実写(作品)が抱えてる問題だと思います。ひと昔前より圧倒的に(スクリーン数が)減るスピードが早いから、口コミが全く効かないかなっていう。僕がインディーズ映画やってた8年前、9年前って最初は客5人しかいないのに、2週間後には満員がつづくみたいなことがあったんですよ。口コミで2週間かけて。それがめちゃめちゃ楽しかったですし、インディーズ映画の醍醐味だったんですけど、それが今ほぼ無いので、やっぱり(知名度を)積み上げてきた大人気原作もの、口コミを必要としないそういう作品に一気に囲まれて、しぼんでいくっていく実写映画をどうしていくか。それも今までは考えなくていいっていう教育を受けてきたんですけども、考えなかった結果が、日本の今のオリジナル実写の結果なんで。やっぱり考えなきゃいけないんだなと思って。名古屋に行ったときに映画館の支配人を食事に誘っていろいろ聞いたんですよ。実際アニメとか大作実写とかオリジナル実写の現状みたいなものをめちゃめちゃ取材して。だから結構詳しいですよ。でもそれはやっぱり課題だと思いますね。結局人が入らなければ撮らせてくれないわけじゃないですか。興収1億もいかないような映画を連発してたら、絶対撮らせてくれない。それは寂しいんで、お客さんがいっぱい来るようにがんばる、がんばるというか考える。いっぱい来るように考えつつも、自分が描きたいストーリーを並行して行くのが重要かなと思いますね。例えば僕はSNSとかでも、結構あえて数字を出すんですよ。それがいちばん観てる人たちにわかりやすいから。「数字ばっかり出して、いやらしい」とかよく言われるんですけど。やっぱり映画って神聖な芸術であり、そういう事を考えちゃいけないっていう文化がいままであったので。「神聖以前に、もう映画が撮れなくなっちゃうよ!」とは思いますね。映画は芸術であると同時に娯楽でもあるわけですから、やはり見てもらう工夫が必要だと思います。


――原作もの、大作となると原作が売れて、など開発にも時間がかかると思います。アニメもそうですが、ファンダムが築かれるまでとか、オリジナル作品だと開発のスピードも勝負ポイントの1つかと思います。「マッチング」の開発スピードは速かったですか?

内田:開発スピードは速かったですね。もっと早く撮ろうとしてたくらいです。
スピードはめちゃくちゃ重要ですね。


――マッチングアプリも含め、流行もサイクルが速くなっていく一方ですよね。

内田:映画の企画・開発・撮影のスピードがドラマとか配信のスピードに追いついてないっていうのはすごく問題だと思ってます。すごく時間かかって、映画が公開されるころには流行りが終わってる、みたいな。


――2年先を見ないといけない。

内田:2年で公開されないじゃないですか。大体3年くらい。3年って高1がもう卒業するくらいで、ブームが1つ過ぎ去るわけだから。企画が通るのが遅すぎる。オリジナルはそれが速くできる。原作ものはいろんな権利が分担されてるから、時間かかるでしょうけど。オリジナルはポンポンとやればもっと面白い物ができるんじゃないかな、と思います。
あとオリジナルっていうと今までは映画祭だったわけですよ。映画祭に出す映画、いわゆるアートハウスが多くなってしまった。僕もかつてそうでした。でも今は日本の津々浦々の娯楽に飢えてる観客たちに映画を届けたいとも思います。
僕の場合ですが、昔はオリジナルで映画祭をまず狙う。その後国内公開するんですけど、都市部の一部の人だけに向けた作品になって、評価はされるけど、それで終わる、みたいな。そうじゃなくて九州とかいろんな地方に、ちゃんといるじゃないですか、観てくれる人が。「マッチング」で自分の映画に今まで来なかった大学生のカップルとか来るわけですよ。キャッキャして観てくださってるのを見ると、うれしいですよね。ギャーとか言いながら。客層が全然違うので。オリジナルを見る客層を広げたいですね。広げればおのずと(興行収入は)ついてくるかもしれないですし。


映画に興味がない田舎の中学生とか高校生に届けたい


――その先は、日本のマーケットだけでなく、世界に目を向けることも必要になってきますか?

内田:オリジナルの課題として、十何年前から日本国内は終わりだからアジアに出なきゃいけないんだという問題意識はほぼすべての映画人は持っていて。やるやる詐欺みたいな、「グローバルに展開しなきゃいけないんだ」って言って、なにもうまくいってないし、やってもいないので、そのやるやる詐欺は終わろうとしているのかなと思います。動き始めている人多いですよね。国内でアニメとかにスクリーンを食われるぶんには、海外で稼ぐとか本当にそれも考えないと生き残れないのかもしれないですね。でも簡単にはできないから。韓国も映画業界が縮小してますし。「サイレントラブ」はタイで50館で公開されて、ラオスでも公開されたんですけど、国内に4つしかない映画館全部で上映されました。そういうのもありだなって。東南アジアでも映画の値段が上がってるので、ビジネスという部分ではそんなに悪くないと思いますし、とくにオリジナルは海外展開は考えたほうがいい。配信の影響で映画館っていうのは、今までの形態では難しくなる一方なわけですから。それは抗えないと思います。


――映画館の数に対してコンテンツが多くなってきていることも影響していますか?

内田:たぶん、映画館が増えることはもう無いだろうと思う(もちろん東南アジアなどは別で)。あとはオリジナルの配信映画とかドラマをいかに増やしていくかってことになるでしょうけど、それはまた話が別ですからね。映画やりたい人っていっぱいいるわけだからなかなか難しいですけど、外国の人も観てくれる普遍性をさらに足すっていうのもあり。オリジナル映画ってもう映画祭向けの映画か、大衆向けの映画か完全に分かれているから、それをどう使い分けていくか。


――これまでのお話を踏まえてオリジナルで勝負するために必要なことはなにかありますでしょうか?

内田:なんですかね……。でも圧倒的に面白いストーリーは絶対だと思うんですよね。最近思ったのは、ラブストーリーをやって、ラブストーリーって普遍的なものじゃないですか。すごく心理を描くのが難しいし、時間もかかる。こういった(「マッチング」のような)ジャンル系の作品はそのぶん尖れるし、アイデア次第では早い。実験的なこともできるし、ジャンル系作品のほうが今後作りやすいかもしれないですね。

 ヒットするために必要なのは、やっぱり尖る。尖ることと、テーマ性が普遍的であること。尖りっぱなしの作品だとインディーズ映画と一緒なんで。3000人くらいしか観ない。僕は8年ぐらい前は3000人観たらヒットって世界にいたんです。やっぱり250館以上の公開となってくると、尖るだけじゃダメだなって思いますね。なぜなら映画に興味がない人たちにも観てもらわなきゃいけないから。都市部のシネフィルじゃない人たち。そういう人たちの気持ちを考えるっていうことは、とても大きいですよね。今までは考えなくていいって。インディーズ映画は考えなくていいし、映画監督はそういうことを考えなくていいって。でも考えたほうがいいですよね。


――観客の方を向いてない作品っていうのは今はもう……。

内田:自分が中学時代・高校時代って、シネフィルではありましたけど、娯楽映画ばっかり観てて。ジャッキー・チェンとか、「ダイ・ハード」(1988年)とか、「グーニーズ」(1985年)とか、そんな映画ばっかり観てて、まあ大人になってから、いわゆるアートハウスの映画を見始めたりしましたけど。やっぱり都市部のシネフィルをターゲットにした映画っていうのもいっぱいあると思いますし、そういうのもやってみたいと思うんですけど、今の僕はそういうフェーズじゃないかもしれません。最近は田舎の、自分みたいな子どもだった中学生とか高校生とかが、なにげに観たら、「おお、映画って面白いじゃん」っていう作品をやりたいです。例えば「ミッドナイトスワン」とかも、映画祭に行って、大学生とかから「あれ見て映画監督になろうと思いました」とか言ってもらえるとめっちゃうれしい。今までそんなこと考えてなかったわけですから。


――最後に今後の展望をお聞かせください。

内田:ジャンル系面白いなって今回思って。もともとジャンル系好きなので、娯楽という部分をもうちょっと突き詰めたいなとは思ってますね。ヒューマンドラマは時間をかけてゆっくりと。普段は娯楽に振ったものを作りたい。なぜなら最近はテーマ性の強い映画が多いなと思って。社会がそういうテーマ性を必要としているからだと思うんですけど。僕が中学時代は楽しい映画を観たかったので。田舎のヤンキーでも見れるような作品が極端に少ない。そういう人たちが観てくれて、「あ、こんなことあるんだ」ってひらめく映画をオリジナルでやりたいと思いますね。あとは今後やっていきたいのは海外との共作ですかね。これがいちばん大きいですね。

プロフィール



内田英治
1971年生まれ、ブラジル出身。99年に脚本家デビュー。2004年に「ガチャポン!」で映画監督デビュー。20年公開の「ミッドナイトスワン」では第44回日本アカデミー賞優秀監督賞・優秀脚本賞を受賞し、高い評価を得た。近年の映画監督作に「異動辞令は音楽隊!」(22年)、「サイレントラブ」(24年)などがある。

映画情報



「マッチング」大ヒット上映中

土屋太鳳
佐久間大介 金子ノブアキ
真飛聖 後藤剛範 片山萌美 片岡礼子
杉本哲太 斉藤由貴

監督・脚本:内田英治
原作:内田英治『マッチング』(角川ホラー文庫刊)
音楽:小林洋平 共同脚本:宍戸英紀
主題歌:Aimer「800」(SACRA MUSIC / Sony Music Labels Inc.)
制作・配給:KADOKAWA
Ⓒ2024「マッチング」製作委員会

公式サイト:https://movies.kadokawa.co.jp/matching/
公式X(旧Twitter):@movie_matching
公式Instagram:@movie_matching
公式TikTok:@movie_matching

原作情報



『マッチング』
著者:内田英治
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322308001314/

「出会い」に隠された「恐怖」の真実──
ウェディングプランナーの仕事が充実している一方、恋愛に奥手な輪花は、同僚に勧められ、渋々マッチングアプリに登録。この日を境に生活が一変する。マッチングした吐夢と待ち合わせると、現れたのはプロフィールとは別人のように暗い男。恐怖を感じた輪花は、取引先でマッチングアプリ運営会社のプログラマー影山に助けを求めることに。 同じ頃、“アプリ婚”した夫婦が惨殺される悲惨な事件が連続して発生。輪花を取り巻く人物たちの“本当の顔“が次々に明かされ、事件の魔の手が輪花に迫るのだった。誰が味方で、誰が敵なのか──。出会いに隠された恐怖を描く新感覚サスペンス・スリラー!

※画像は表紙及び帯等、実際とは異なる場合があります。

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