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特集

今月のおすすめ文庫「猫小説」 標野 凪が語る、猫たちの魅力とは? 『ネコシェフと海辺のお店』発売記念インタビュー

取材・選・文:皆川ちか

毎号さまざまなテーマをもとに、おすすめの文庫作品を紹介する「今月のおすすめ文庫」。今月は人間たちをメロメロにし続けている「猫」がテーマ!猫との出会い、別れ、そして事件の解決まで!? 猫好きな人はもちろん、今まで猫と触れ合ったことのない人にもおすすめな作品をご紹介。
また、2024年2月22日に『ネコシェフと海辺のお店』を発売した標野凪さんに、本作について、また猫たちの魅力についてお話をお伺いしました。

今月のおすすめ文庫「猫小説」

『ネコシェフと海辺のお店』標野 凪(角川文庫)



ふしぎな海辺にある小さなお店。そこでは料理上手で妙に博識なネコシェフが、いろんな悩みを抱えたお客さんたちをもてなしている。仕事に恋愛、子育て、友人との関係、そして自分の生き方への迷い……。心配ごとは尽きないけれど、おいしい魚料理とネコシェフとのお喋りがお腹と心に沁みわたり、明日への活力が湧いてくる。

『かのこちゃんとマドレーヌ夫人』万城目 学(角川文庫)



小学一年生のかのこちゃんの家に豪雨の夜にやってきたアカトラの雌猫は、その模様にちなんでマドレーヌと名づけられる。犬の玄三郎と夫婦になり、近所の猫たちと親しくなるマドレーヌ夫人は、元気いっぱいなかのこちゃんを温かく見つめる――。第170回直木賞を受賞した万城目学のファンタジックな持ち味が堪能できる猫小説。

『旅猫リポート』有川 浩(講談社文庫)



猫のナナとその飼い主にして相棒のサトルは、銀色のワゴンで旅をしている。旅の目的は、ある事情からナナを手放さなければならなくなったサトルに代わってナナを飼ってくれる人を見つけること。彼らの“最後の旅”が行き着く場所は――。猫と人の絆と友情を人視点、猫視点の相互から描き、旅の情景も美しい感涙ドラマ。

『猫を処方いたします。』石田 祥(PHP文芸文庫)



京都の片隅にあるメンタルクリニック「中京こころのびょういん」では、薬ではなく猫を処方している。「大抵の悩みは猫で治る」と豪語する風変わりな医師の診察のもと、患者たちは自分の症状に“よく効く”猫を服用するのだが――。猫によって癒される人、人生が変わる人、ペットロスから快復する人……猫の治療効果、絶大!

『ブランケット・キャッツ』重松 清(朝日文庫)



「ブランケット・キャット」、それは馴染んだ毛布とともに二泊三日で貸しだされるレンタル猫。子どもが望めない夫婦は三毛猫を、温泉宿へ向かうワケあり女性は旅の道連れに黒猫を、リストラされた父親は我が家を手放す前にロシアンブルーを。様々な理由から猫をレンタルする人々と、彼らを慰撫する猫との交流を綴った短編集。


『ネコシェフと海辺のお店』標野凪さんインタビュー

「喫茶ドードー」や「伝言猫」シリーズで大人気の標野凪さん。疲れた心をそっと解きほぐし、明日への活力につなげてくれる作風が多くの人に愛されています。角川文庫75周年を記念して始まった「角川ごちそう文庫」の第2弾として刊行された『ネコシェフと海辺のお店』にも、その魅力はいっぱい。ネコシェフの生まれた経緯や自身と猫との関わり、そして作品に込めた思いをうかがいました。



――鱈のブランダード(第一章に登場)や鯛めし(第二章)など、ネコシェフの作る魚料理はどれもこれもおいしそうです。そもそも、どうして猫がシェフなのでしょう。

標野:「角川ごちそう文庫」で何か書いてくれませんか? と編集者さんからオファーをいただいて、その最初の打ち合わせで魚の話題がでてきたんです。今は魚を食べる人がすごく少なくなっていることや、未利用魚(形が悪い、漁獲量が少ない等の理由で市場に出回らない魚)の話を聞いて、こんなイメージが湧いたんです。漁師さんが浜辺にぽいっと捨てた魚を猫が咥えて、どこかへ持っていって料理をする……なんて。そこから“ネコシェフ”が生まれました。


――ネコシェフ、とてもいい味をだしています。愛らしい見た目とは裏腹なべらんめえ口調。ユーモラスでいてリアルな佇まい。標野さんは実際に猫を飼っているのですか?

標野:ええ。私が猫を飼いはじめたのはけっこう遅く、大人になってからなんです。それまでは猫という動物に詳しくもなければ、さほど興味もなかった。でも一緒に暮らしはじめてから、猫ってなんて面白い生きものだろうと思うようになりましたね。


――猫のどんな点に面白みを感じますか。

標野:自分の世界を持っているところ、でしょうか。居心地のいい場所や逃げ道、おいしいごはんをもらえる場所などを全部知ってて、自分のしたくないことは絶対にしない。その自由さというか、自己完結しているところがいいですね。こちらの言うことをちゃんと分かっているくせに、ときどき分からないふりをして、けっして人間側の思うとおりに動いてくれない(笑)うちの猫はたぶん私のことを飼い主ではなく、自分と同等の生きものだと思っているんじゃないかな。


――ネコシェフにもそんな猫の気ままさ、自由さがありますね。猫を小説のキャラクターとして書く際、どのような点を大切にしましたか。

標野:猫はあくまで猫なので、擬人化はさせたくありませんでした。ネコシェフは二本足で立つし、喋るけれど、それは接客をしている間だけで。そのひとときが終わると普通の猫に戻ります。その辺の線引きは明確にしました。描写的なことでいうと、うちの猫を観察して、鳴き声や立てる音を意識して取り入れました。歩くときのぺたぺたという足音や、ごはんを食べるときの音などを。


――ネコシェフのお店には、いろんなお客さんがやってきます。その人たちの共通点は、ままならない現実から逃げだしたくなっていること。

標野:なんらかの苦しい状況にある人がネコシェフのところにたどり着くんです。そもそも猫が料理をするなんて現実にはあり得ないことなので(笑)。そのあり得ないことが起こる場所というのは、現実から少し離れたところ、すなわち人の心の中なのではないかと考えました。たぶん、人生がうまくいってるときには行く必要もないところ。切羽詰まって、どうしようもない状態にまで追い詰められてしまったとき、ネコシェフのいる場所に入り込んでしまうんです。


――そのきっかけになるのが、各話の主人公たちがぽつりと洩らす言葉ですね。第一章の千晶は「どうしいいのかわからない……」と呟いた途端、海辺にワープ(?)する。そしてネコシェフに鱈料理を作ってもらう。

標野:つらい気持ちを呟く。その呟きの中に入っている魚を使った料理を作る、という法則をつくりました。鱈の他には「直れたらいいのに……」でアジの開き、「切に間に合うだろうか……」で〆鯖という具合に。


――ネコシェフはお客さまたちの悩みを聞いても、「こうすればいい」といった助言めいたことは言いません。ただ、おいしい料理を供してお喋りをするだけ。

標野:現状に苦しんでいる人たちに、「そんなにつらいなら逃げちゃえば」とか「やめちゃえば」といったアドバイスをして、そっちの方向へもっていくのもアリなのですが――物語的なカタルシスをだすのなら、むしろそっちの方がいいかもしれませんが――現実はなかなかそうはいきませんよね。つらくとも逃げられない人の方が多いのではないでしょうか。千晶は夫が浮気しているらしいことに傷ついているけれど、離婚して家庭生活を破壊したいわけではない。だから苦しいんです。


――だから「どうしたらいいのかわからない……」んですよね。

標野:人生の中で、どうにもならない苦しみってありますよね。その苦しみから逃げること、逃げようと決意することはもちろん勇気ですが、そのしんどさを引き受けて生き続ける覚悟を持つことも、負けないくらい強いことだと思うんです。どちらかというと私はこっちの方の強さを書きたい。


――標野さんはカフェ店主でもありますが、お客さまと接することは小説づくりに活かされますか?

標野:そうですね。うちは小さなお店なので、ひとりで来られる方が多いんです。話相手をするうちに悩みを聞くこともあれば、そっとしておいてほしい感じの方は、やっぱり分かりますし。わりと長い間お店を営んできたので、いろんな方々と出会いました。人間ってほんとうに様々で。その経験は書くものに反映されていると思います。ちなみに私、飲食店をしておきながらこんなことを言いますが、それほど料理が好きなわけではないんです。


――それは意外ですね。

標野:料理よりも、人をもてなす方が好きなんです。どんな料理を提供したらお客さまが喜んでくれるか考えながら料理やメニューを決めていくのが好き。小説もまったく同じ感覚で書いています。読者の方をもてなす気持ちで。


――もてなすように、書く。

標野:接客も料理も書くことも、私には同じなんです。居心地のいいカフェでリラックスした時間を過ごすような感じで作品を読んでほしい。そして読み終えたとき、また明日もがんばろうかなという気持ちになってもらえたら、すごく嬉しい。カフェの扉を開くみたいに本の扉を開いていただければ、と思います。

プロフィール

標野 凪(しめの・なぎ)
静岡県生まれ。東京・福岡・札幌と移り住み、福岡でカフェを開業。現在は東京都内で夜だけ営業のお店を営む。2019年に『終電前のちょいごはん:薬院文月のみかづきレシピ』で作家デビュー。カフェ店主兼小説家として活動中。


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