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特集

重版出来! 16年読まれ続ける、究極の星新一作品セレクション『ほしのはじまり』とは!?――編者・新井素子さんインタビュー

インタビュー・構成 吉田大助
 
 没後四半世紀を超えてなお読み継がれる、日本SF界のレジェンドにして「ショート・ショート」の始祖・星新一。
 2007年に刊行された単行本『ほしのはじまり 決定版 星新一ショートショート』はロングセラーとなり、17年目の2023年になっても版を重ねている。星新一のショートショート1001本から54本をセレクトし、単行本未収録エッセイ「星くずのかご」全18本を収録した本書を発案したのは、編者である新井素子さん。亡き師への「御恩がえし」となる一冊に込めた思いを、今改めて伺った。



星新一作家生活50周年記念アンソロジー『ほしのはじまり 決定版 星新一ショートショート』編者、新井素子さんインタビュー


――本書収録のショートショート54本はどうやってセレクトされたのでしょうか?

新井:せっかく編者をさせていただくんだから、まずは私が好きな作品を選ぼうと思いました。「すごく好き」は簡単に選べるんですよ。「私にとってはいまいち」という作品もすぐに選べて除外できたんですが、後に残った「好きだけど、このレベルの好きは星作品の中にいっぱいある」という作品からどれを取るかでものすごく悩みました。「鍵」、「午後の恐竜」、「おーい でてこーい」といった作品は人気があることを知っていましたし、星新一さんの作品集を出すのに「ボッコちゃん」や「殺し屋ですのよ」を入れないというのはあり得ないだろう、と。あとは、総ページ数との兼ね合いですね。編集さんからは、星さんの本は今もほぼ全て文庫で流通していることもあり、今回はあえて単行本で、そして手にとりやすさを考えて600ページ以内で収まるものにしましょうというお話がありました。やりたい放題ではなく、意外と全体のバランスなどはちゃんと考えたんです(笑)。


――ちなみに、新井さんが「すごく好き」な作品とは?

新井:全作品から選ぶなら『声の網』という長編が一番なんですが、ショートショートでは「包囲」という作品が一番好きです。駅のホームに電車が入ってくるところで背中を押され、殺されかけた主人公が、「なぜ、おれを突き落とそうとしたのだ」と相手を問い詰める。相手は「たのまれたんだ」と答えたんですね。誰にたのまれたのか白状させて、たのんだ相手に会いに行くんだけれども……と。


――ブラックな想像力が炸裂したオチですよね。

新井:「四で割って」みたいな、ヘンな話も好きなんですよ。ただ、もしかして私は人間不信なのかもしれない(笑)。個人個人は好きだし信じられるんですけど、集団としての人類はあまり信じられないんです。このアンソロジーを編んだことで、そのことに気付いちゃいました。


――『星新一の作品集』全18巻(1974年〜1975年)に封入されていた月報のエッセイ「星くずのかご」は、単行本初収録。ショートショートのボツネタ披露話は創作の裏側が垣間見えましたし、星さんの人柄が感じられる名文揃いでした。

新井:何かしら単行本未収録を入れたかったんです。でも、星さんの作品で単行本未収録のやつってどこにもなくて。ひょっとしたらと思い浮かんだのが、『星新一の作品集』の月報でした。星さんは『進化した猿たち』といったエッセイ集も出されていますが、基本的には一冊ごとにテーマでまとまっているんです。折々の話題をランダムに書いているエッセイって、実はあまりないんですよね。「星くずのかご」は珍しくそういうタイプのエッセイで、調べてみたら未収録だったから「やったー!」と(笑)。


――ショートショート全54本は7ブロックに分かれていますが、合間に挿入されている新井さんのエッセイも素敵でした。例えば、インターネットや臓器移植といった概念は、星さんがショートショートを発表した当時はなかったけれども、今は当たり前に存在している。〈あまりにも星さんに先見の明がありすぎて、そして、それがあまりにも的確にあたりすぎていたので、逆に星さんの“凄さ”がまったく判らなくなってしまった〉。そこを具体的に指摘していくことで、“凄さ”を現代の読者に伝えてくださっています。

新井:今読んだら「全然普通じゃん」と思っちゃう気がするんですけど、これが書かれたのはいつだと思っているんだい、と言いたくなってしまいました(笑)。先見の明や読みやすくて判りやすい文章の上品さもそうなんですが、読み返して改めて驚いたのは、発想の素晴らしさですね。「いったいどこからこんな話を思い付くんだろう?」と唸らされるものばかりなんですよ。以前、落語の「三題噺」みたいに全然違う言葉を幾つか組み合わせてお話を作る、と聞いたことはあるんですが、だからと言ってこれが書けると思えない。一つのジャンルを築いてしまった方の想像力は、やっぱり桁が違います。


――そんな桁違いの想像力を持つ星さんに、新井さんは作家として見出されたんですよね。1977年、高校2年生の時に、第1回奇想天外SF新人賞に応募した『あたしの中の……』が佳作入選した。その時の選考委員の星さんが絶賛して、最優秀賞に推したと伺っています。

新井:私が中学1年の時に星さんの『ボッコちゃん』と『ようこそ地球さん』が新潮文庫に入って、読んだらものすごく面白くて。星さんの影響で、中学生の時からショートショートを書いていました。「奇想天外」というSFの雑誌が新人賞を始める、選考委員は星新一・小松左京・筒井康隆の三氏だと聞いた時は、青春の記念ができるぞと思ったんです。大人になってから、「私、すごい賞に応募したことがあるんだよ」と自慢するために応募したんですよ。そうしたら佳作に入り、選評代わりに掲載されていた選考委員の皆さんの座談会で、星さんが私を推してくださったことを知りました。本当に驚きました。


――受賞直後から、星さんとの交流が芽生えたそうですね。エッセイの一文が印象的で、〈この仕事を始めて、十年目、二十年目くらいまでは、自分が小説を書くことを、星さんへの御恩がえしだと思っていました〉と。

新井:受賞時は17かそこらの小娘ですし、私の文体は独特なので、受け入れられるのは難しいと言われていました。「もって3年」とよく言われていたんです。ですから最初の目標は5年続けることで、その次は10年続けること。私がちゃんとしたお話を書き続けなければ、星さんには見る目がなかったとなってしまいますから。


――星さんが亡くなった時(1997年12月30日)は、相当なショックだったのではないですか。

新井:そうですね。ただ、ショートショートを書くのは1001編でやめる、となった時の方がショックは大きかったかもしれません。親子ほど歳の離れた後輩が口を出せることではないけれども、本当はずっと書いていて欲しかった。当時、星さんはまだ50代後半で、人によってはこれから脂が乗るかもしれない年代じゃないですか。1001編記念でお祝いをしたんですけど、これはお祝いしていいことなのかどうか、複雑な気持ちになったことをよく覚えています。でも……今は考え方が変わっています。


――どんなふうに変わったんですか?

新井:アンソロジーを作るために、星さんの1001編を3回ずつ読んでいったおかげなのか、デビューしてからほぼやっていなかったショートショートが自分なりに書けるようになったんです。15編書いて、『ちいさなおはなし』という本を出させていただいたりもしたんですね。その時に思ったんですが、ショートショートってとにかく書くのが疲れるんですよ。原稿用紙20枚のショートショート2本と、長編の中の40枚の原稿って、圧倒的に長編の方が体力を使わず書けるんです。特に星さんの場合は、誰も見たこともないようなアイデアが出発点に置かれている。こんなことをずっとやっていたら絶対、体がボロボロになる(苦笑)。星さんが1001編でやめた気持ち、ちょっとわかるような気がしました。


――新作はもう読めませんが、生前に残した作品はそれこそ無数にあります。星作品は未読なものが多いという人はもちろんのこと、かつて夢中になって読んでいた星作品ともう一度出会い直すきっかけとして、本書はうってつけだと思います。

新井:刊行から16年も経っているんです。ハードカバーが16年経っても重版する、しかも新版とか新装版ではなく、初版がそのまま版を重ねているんですよ。それはやっぱり、星新一だからですよね。どんな時代になっても、読者は星さんの作品と永遠に出会い続けるんだろうと思うんです。


――本書を100年後の読者にも手に取ってもらいたいです。

新井:100年後に日本語文化圏は残っているのか、紙の本はいつまで残ってるんだろうか。博物館ではなく本屋さんに置いてあって欲しいけど、果たして本屋さんは営業しているんでしょうか。星さんのショートショートによく出てくるような、何もかもがチューブとかでペッと送られてきちゃって、小売り店が存在しない世界になっている可能性もありますよね。小説というジャンルも、文字だけのものではなくなっているかもしれない。100年後の本はどうなっているかって考えると、楽しいようでもあり、怖いようでもあり……。


――その想像力、さすが星さんが認めたSF作家だ、と痛感しました(笑)。

新井:ただ、どんなに社会全体が変化しても、星さんの作品の面白さは変わりません。自信を持って、100年後の読者の方には「どうだ! 面白かっただろ!!」と言いたいですね。



作品紹介



ほしのはじまり ――決定版 星新一ショートショート――
著者 星 新一
編者 新井 素子
デザイン 角川書店装丁室 高柳雅人
定価: 2,750円(本体2,500円+税)
発売日:2007年11月30日

星新一作家生活50周年記念アンソロジー
星新一というひとは、どれほど遠くをみていたのだろう――彼に見いだされ作家となった新井素子が、思いの丈をこめて編んだベスト短編集。星氏の単行本初収録エッセイ18本も読み逃せない。

詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/200607000112/
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