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特集

ことわざでボケて、7パターンのポーズでツッコむ。『芸人国語』刊行記念 ストレッチーズインタビュー

取材・文:編集部
撮影:佐野美樹

『芸人国語』刊行記念 ストレッチーズインタビュー

間違えやすい言葉の使い方をお笑い芸人考案の3択クイズで学べる本・『芸人国語』の刊行を記念して、本の制作過程から、国語や語彙力への意識、今後の芸人活動の展望まで、ストレッチーズのお二人に編集者がお話を伺いました。


『芸人国語』ができるまで


――『芸人国語』が発売となりました。お二人には企画段階からご協力いただいたんですよね。ありがとうございました。

高木:こういう本をもしかしたら出すかもしれない、という構想段階での打ち合わせに参加させていただきました。火災報知器の小林さんという先輩に呼ばれて。


――その打ち合わせはどんなふうに進行していったんですか。たしか「国語のクイズの本」くらいしか決まっていない段階だったかと思うのですが。

高木:どういうパッケージにするかという根本の部分から相談していた気がしますね。クイズの選択肢でボケるのか、みたいな。そのボケに対するツッコミがどこかに入らないと意味がわからないし、ボケの幅も狭くなっちゃうよねという話が出て、じゃあツッコミを次のページに入れよう、といった話し合いをした記憶があります……うっすらと。


――結構前の話なんですよね。

高木:案を出した後、半年ぐらい何も連絡がなかったので、この企画はきっとなくなったんだろうなと思ってました(笑)。しばらくして写真撮影が入ってきた時に、うわ、あるんだって。嬉しかったです。僕たちのせいで企画中止になったかと、責任の一端を感じていたところがあったので(笑)。


――編集担当としては、あの案をいただけた段階で「これはいける」と思っていたんです。その後、たくさんの芸人さんに選択肢を考えていただいて、まとめて……という手順に時間がかかってしまっただけで。

福島:僕も提出締め切りを過ぎちゃってたと思います。すみません。


――こちらこそ、アンケートも何度もお願いしてしまって。でも、いただいたコメントをたっぷり盛り込んだことで本の内容を充実させられたと思います。
原型ができてから、他の芸人さんたちにボケ選択肢の作成をお願いしたのですが、その依頼の際のひな形づくりも、ストレッチーズさんにお願いしたんですよね。

福島:間違えやすい言葉のリストをめちゃくちゃたくさんもらいました。慣用句・ことわざ・漢字・熟語……といろんなジャンルがありましたね。四字熟語でボケるのは結構ムズいとか、慣用句ならこれがいいとか言いながら、各ジャンルで何個かずつ案を出したと思います。


――お願いしておきながらなんですが……変わった仕事だなと思われましたよね。

高木:変な仕事とは全然思ってなかったですけど、もちろん経験はないし、空気感がわからないままやってはいました。事務所の会議室で「あのー、『渋谷の敵を大塚で討つ』はどうでしょうか」とか提案するんですけど、笑いは一切おきないんですよ。「あぁなるほどね」「悪くはないかぁ」という真面目な反応(笑)。


――その光景を想像すると、それはそれでおもしろいです(笑)。ご協力ありがとうございました。写真もたくさん撮らせていただいて。

高木:完成品を見てすごく嬉しかったです。自分が挿絵やキャラクターみたいな感じになっていて、そういうのに憧れがあるので。



――こちらも手探りで、ポーズの指示も曖昧になってしまったのですが、ばっちりやってくださって。本当に皆さんに助けられました。

高木:ツッコんでる感じを7パターンぐらいください、みたいな感じでしたよね。そんなバリエーションねえよ、って(笑)。でも、そういうのはみんな慣れていると思います。特に先輩は、僕たちなんかよりよほどたくさんやってるんじゃないかと。こんなのでよければ何パターンでも出します。


――プロだなぁと感激しました。おかげさまで全ページ違うカットにできました!

ストレッチーズというコンビ


――今回お仕事させていただいたことをきっかけに、私もネタを見たり、ラジオも聞かせていただくようになったらハマってしまって。同世代なんです。ストレッチーズというコンビについても質問させてください。スタイルとしては、漫才一本なんですか?

高木:そうですね。最初から絶対漫才しかやりたくないっていうわけではなかったんですけど、なんとなく漫才をやり始めて、やっているうちにいつの間にかコントはできなくなっていたという方が近いです。


――ネタを書くのは最初からずっと高木さんなんですか?

高木:学生の時は全然そんなことなくて、プロになってからなんとなく固まってきた感じですね。でも色々です、二人で作る時もありますし。


――福島さんは記憶力がすごくて、高木さんが書いたネタをすぐ覚えられるんですよね。

福島:映像記憶ができるんですよ。たとえば台本が二枚LINEで送られてきたとして、それを見たら一瞬で脳内で写真を撮って、その後は台本を見なくても、頭の中の写真を見ながら覚える、本番でも台本を頭の中に開いている……みたいなことをよく言っています。


――そんなことが本当にできるんですか?

福島:3割ぐらい本当です。


――だいぶ少ないですね(笑)。

福島:きれいな写真じゃない、というのがリアルなところですね。本当に映像記憶ができる人は、再現度の高いきれいな写真が脳内にあるみたいですが、僕の場合は不完全です。



――記憶力といえば先日、クイズ番組で難問を正解していましたよね。「屯倉(みやけ)」という漢字の読みの問題でした。

福島:僕は丸暗記型というか、意味をあまり覚えていなくても、なんとなくこんなことが書いてあった、という雰囲気だけ覚えているんですよ。「屯倉」も、教科書に書いてあったなと映像記憶としてなんとなく残っていて。


――その教科書というのはクイズ番組出演に向けて読み返したわけではなく、昔の記憶ですか?

福島:昔の社会の教科書ですね。割と当てずっぽうみたいな感じでした。


――そんな昔の記憶が残っているなんて、すごいです。クイズ番組は、お二人とも慶應義塾大学卒という「高学歴芸人」として呼ばれるんでしょうか。

福島:そうですね。あとはツギクル芸人グランプリという大会で優勝したこともあって、それ以来ちょこちょこ出させていただいています。


――クイズ番組に呼ばれるというのは高学歴であることのメリットなのかなと思いましたが、他の活動においてはどう影響しているのでしょうか。

福島:芸人としては、基本的にデメリットの方が多いかなと思います。


――それはどんなところですか。

福島:ネタを見たお客さんに「台本作り込んでるな」「頭いいんだな」と思わせてしまって、その結果笑いづらいのかな、とか。そもそも僕たちの側がわかりやすく表現しなきゃいけないのに、難しいまま喋ってしまっているという面もあると思うんですが。僕たちとしては小難しいところがおもしろいと思ってやるネタも、ホワイトボードや映像なしの四分間のしゃべくり漫才ではお客さんが具体的なイメージを描けない、ということが多々あると思います。あとは単純に鼻につく、というのもあるのかもしれないですし。


――ネタを書いている高木さんとしてはどうですか? 難しくならないようにと意識されているんでしょうか。

高木:できればそうしたいんですけど、でもその難しさが僕たちのオリジナリティや強みでもある。小難しいことをなんとかしてお客さんにもウケるようにする、といったところにおもしろみを感じているので、弱みであると同時に強みでもあると思っていますね。
 鼻につくというのは、こればっかりは本当にどうしようもないですけど……高学歴で育ちのよさそうな好青年、は確かに愛されやすいタイプではないだろうなとは自覚しています。


――お仕事をするなかですごく嬉しかったこと、あるいは悔しかったことを教えてください。

高木:基本的に悔しいことばっかりで。一番悔しかったこととしては、ツギクル芸人グランプリの第1回大会が2019年にあって、僕たちも参加していたんですが決勝には上がれなくて、決勝当日、前説をやったんですよ。かが屋とかザ・マミィとか、後輩たちが活躍しているのをスタジオで見ていることになったんです。その会場がお台場だったんですけど、僕はその日本当にお金がなくて、ゆりかもめに乗るお金もないから、帰り道はゆりかもめの区間を歩かなきゃいけなくなって。後輩たちがテレビで活躍しているのを見た後だったのでめちゃくちゃ悔しくて、こんなにつらい日はないと思いながら帰りました。でも三年後に同じ大会で優勝できたので、なんとかその夜の悔しさを取り返したかなと思っています。だから一番悔しかったのがツギクル芸人グランプリの日、一番嬉しかったのもツギクル芸人グランプリの日ですね。


――福島さんはいかがですか。

福島:悔しかったことはいっぱいあるんですが、国語関係で挙げると、クイズ番組に出た時に、VTRを見て四字熟語を答えなさいという問題で、「百発百中」という誰でも知っている熟語が答えだったのに、「一発百中」と答えてしまったことですね。僕ももちろん「百発百中」って知ってるんですけど、緊張もしていたせいか出した答えは99個足りなくて、すごく恥ずかしいし悔しかったです。多分僕、小さい頃に「一発百中」ってなんとなく間違えて覚えちゃってたんですね。一度どこかで間違って覚えていたものがそのまま意識に残ることってあるなと思いました。その時だけのミスではなくて、今までの言葉に対しての向き合い方がちょっと不誠実だったかなと、気をつけようと思った、悔しい思い出ですね。


お笑い芸人と語彙力


――『芸人国語』に掲載した言葉は、もともと全てご存じでしたか?

福島:全然そんなことないです。

高木:僕は「ぞっとしない」の意味を知らなかったです。感心しない、でしたっけ? ホラー映画を観ても「こわくない」の意味で使うのが正しいのかと思ってしまいました。他にも、ちゃんと考えればわかるけど、つい間違えそうな言葉がありましたね。「砂を噛むよう」も悔しいという意味で使っちゃいそうな気がします。


――間違えやすそうな言葉を選ぼうと意図していたので、よかったです。

福島:自分たちのページだと、「江戸の敵を長崎で討つ」も、本当に「討つために行く」のかと思ったら、たまたまなんですね。知らなかったです。


――本書「はじめに」で、メディアで間違った言葉を使うとすぐに国語ポリスマンに指摘されちゃう、というアルコ&ピースさんのお話がありましたが、そのようなご経験はありますか?

高木:それこそアルコ&ピースさんのラジオに代打で出演させていただいた時に、「矜持」を「ぎんじ」って読んでしまって。間違えてる、というリスナーさんの投稿をいくつか見て、うわ、俺またやってる……と思いました。ラジオは特に音声のみのメディアなので、恥ずかしいし気をつけないといけないなと思いましたね。


――ほかのお仕事でも、国語力や語彙力が試されるなと思うことはあるのでしょうか。

高木:一度ワイドショーに出演した時に、持続化給付金詐欺が取り上げられたタイミングでコメントを振られて。「国税局の人、国の税金に関わっている人が給付金詐欺をするというのは、国の信用に関わるので……」と最初は流暢に喋っていたんですが、締めの言葉がぱっと出なくて、「いやもう本当にレベルが違うぐらいやばいですね。」とギャルみたいに終わってしまって(笑)。オンエアの後、ネットの記事で「ストレッチーズが持続化給付金詐欺について一言『レベルが違うくらいやばい』」というのが上がっていました。本当に国語力が足りなかったな、もうちょっとかっこいい言葉で締められたらなと思いました。


――「やばい」をつい使ってしまうの、わかります。語彙力を鍛えるにはやはり読書かなと思いますが、ふだん本は読みますか?

福島:減ってきたんですが、小説は1か月に1冊ぐらいは読みます。あと、お酒が好きなので、日本酒とか、そういう趣味の本も買ったりします。中学生ぐらいの時はすごく本を読んでいて、塾で問題を早く解き終わって暇な時に本を読んでいたら先生に怒られたということもありました。それくらい本が好きで。その時読んでいたのは『ぼくらの七日間戦争』シリーズです。


――懐かしい! いまも子どもに大人気のシリーズですね。

今後の展望


――国語とお笑いの接点として、大喜利についても伺いたいです。ストレッチーズさんのラジオ「プリ右でごめん」の「けどのコーナー」(※)がとてもおもしろいですよね。一方で、お二人自身は大喜利が苦手だと度々おっしゃっていて。昔からそうなんですか?
※「春だけど」「地味だけど」など、高木さんが「○○だけど」とツッコミを入れられるようなメールをリスナーから募集し紹介するコーナー。

高木:いつから苦手なんだろう。

福島:僕は多分最初からですね、元々小さい時から、クラスで目立ったり、ちょっと笑ってもらったりというのが楽しかったんですけど、それは大喜利が強いとか、お笑い的におもしろいとかではないんです。意味のわからない変なことをして、わからないけどなんか笑っちゃうみたいな。突拍子もなくフリもなくなにか言うぐらいのことを楽しんでやっていて、それはたぶん、一番大喜利的じゃないですよね。
芸人になって、最初にそれをやったらやっぱりウケないし、大喜利とはどういうものかということを学んだり聞いたりしてみると、今までやってきた「おもしろいこと」と正反対のものなんですよね。ちゃんとフリがあって、意味のわかるもの、説明のつくものをやらなきゃいけない。そうなった時に、今まで生きてきたのは大喜利じゃない人生だったと気づいたという感じですかね。それで苦手意識を持ってしまったのかなと。

高木:周りに大喜利が得意な人が多すぎて、それが苦手意識に繋がっている面もあると思います。ネタを作る時に、大喜利を考えなきゃいけない場面は結構あるんです。ネタをストーリーから作っていった時には、ストーリーはこうしたら正解っぽいな、とゴールが見える感覚があるんですが、大喜利の「ここで一番おもしろいことを言ってください」にはゴールがないじゃないですか。今ネタ中に入れている大喜利のボケが本当に一番おもしろいのか、ということを永遠に考えなきゃいけないみたいな状況が苦手で。だからネタでもあんまり大喜利をしなくなっていって、どんどん得意じゃなくなっていった感じはありますね。そうも言っていられないんですけど。


――「飯」とか、大喜利要素のあるネタも私はとてもおもしろいと思いましたが。最後に、ストレッチーズさんの次の目標と、そして長期的な展望をそれぞれ伺いたいと思います。

高木:すぐの目標はやっぱりM-1グランプリですね。今年優勝できるように、漫才を頑張っていきたいなと思います。長期的な目標としては、ベタな国民的スターに憧れてこの世界に入っているところがあるので、ゴールデンの時間にテレビで冠番組を持ったり、ラジオやったりしたいですね。なおかつちゃんと単独で売れている、そういうコンビになりたい。でも極論、楽しければいいかな。笑って過ごせていれば大丈夫かなという気持ちではいます。

福島:短期目標としては、『芸人国語2』を是非出したいです。


――売れたら次は「算数」かなと思っていました。高木さん大活躍。

福島:何でもやりたいですね。『芸人理科』、『芸人家庭科』、『芸人道徳』……。

高木:『芸人道徳』はボケづらそう(笑)。


――長期目標の方はいかがですか?

福島:長期的には、ネタもやり続けたうえで、趣味も仕事にできたらいいなと。今は与えられた仕事を無我夢中に頑張るという段階なんですけど、今後それが評価されて自由になってきたら、自分の好きなこと、やりたいことや趣味がテレビやメディアでできるようになるともっと嬉しいなと思います。


――これからも応援しています! 本当にありがとうございました。

プロフィール


福島敏貴(写真左)、高木貫太(右)

ストレッチーズ

ともに埼玉県出身。高校の同級生として出会い、大学在学中にコンビ結成。2012年「大学生M-1グランプリ」優勝。2022年「ツギクル芸人グランプリ」優勝。

書籍情報



『芸人国語』
(KADOKAWA)
「気がおけない」、「役不足」、「めしあがる」……。
あなたは言葉を正しく使えていますか?
間違いやすい言葉についてのクイズをお笑い芸人が出題!
おもしろ選択肢に笑ったりツッコんだりしながら、本来の意味や成り立ちまで学べる新感覚の国語本。
登場芸人: アイデンティティ、さすらいラビー、神宮寺しし丸、ストレッチーズ、タイムマシーン3号、ノッチ、パニーニ、マシンガンズ、モシモシ、アルコ&ピース、納言

四六判/128頁/定価:1,320円(10%税込)/ISBN:9784041122617
https://www.kadokawa.co.jp/product/322110000648/

3/20までベスト回答投票キャンペーン実施中▼
https://kadobun.jp/news/campaign/entry-47787.html


紹介した書籍

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