アンドロイドが怪異に挑むというユニークな設定で話題の『対怪異アンドロイド開発研究室』。
待望のシリーズ第2弾ではアンドロイド・アリサが中学校に潜入、学校怪談を調査する。科学と怪異、現実と非現実が交錯する注目シリーズについて、著者の
取材・文:朝宮運河 写真:首藤幹夫
※「ダ・ヴィンチ」2025年5月号の「お化け友の会通信 from 怪と幽」より転載
『対怪異アンドロイド開発研究室2.0』発売記念 インタビュー
個性的な書き手を多数輩出し、ホラーファンに注目されている小説投稿サイト・カクヨム。その勢いを代表する作品が同サイト発の『対怪異アンドロイド開発研究室』だ。怪異調査のために開発されたアンドロイド・アリサが怪異と対峙するという設定のホラー小説である。
「もともとホラーが好きで、普段からこのジャンルのお約束や特徴について考えることがあるんです。ホラーに一番向いている主人公の属性は何だろう、とか。アンドロイドを主人公にホラーを書くというアイデアも、そうした趣味の延長で浮かんできたものだったと思います」
下手するとパロディになりかねない設定だが、『対怪異アンドロイド開発研究室』はしっかり怖い。作者の饗庭淵さんは工夫を凝らし、物語を濃い恐怖の色に染め上げている。
「ホラーのお約束をひっくり返すだけでなく、怖い作品にしたいという思いはありました。参考になったのはあるホラーゲームです。そのゲームでは主人公はまったく怖いギミックに反応しないんですが、見ているプレイヤー側はハラハラして恐怖を感じる。これが成立するなら、アンドロイド視点で怖いホラーが書けるんじゃないかと考えました」
カクヨム掲載作品を書籍化した同作は、ホラー小説ランキング『このホラーがすごい!2024年版』国内編の11位にランクイン。新聞書評にも取り上げられるなど話題を呼んだ。
「著名な方に書評していただいたり、
この3月には、続編となる『対怪異アンドロイド開発研究室2.0』が刊行された。前作の事件で大破したアリサは、少女型アンドロイドに記憶と人格をコピーされ、次なる怪異調査に向かう。今度の舞台は七不思議が囁ささやかれている中学校だ。
「自分としては1冊で完結させたつもりだったんですが、『これは続きがあるよね』という感想を何人かの読者からいただいて、確かにまだ語っていない余白があるなと気づきました。アリサが少女の姿になって学校に潜入するというアイデアは、以前から書いてみたかったもの。それを前作の余白部分と絡めて、2巻目のプロットを作り上げていきました」
転校生として
「オカルトマニアで突っ走りがちな鮎川と、それを抑えるクールな夏目、というコンビに見えて、実は夏目も鮎川に引っ張ってもらうのを期待している、という関係性のふたりです。そこにアリサが加わることで、また新たな化学反応が生まれる。アリサに振り回される鮎川たちの姿を楽しんでください」
月代中学校では、女性のうめき声が聞こえる家、願いごとを叶えてくれるトイレの神様など、7つの怪談が広まっていた。アリサたちは人を飲み込むという大鏡を皮切りに、七不思議の調査を開始する。
「踊り場の鏡やトイレの花子さんなど、学校怪談の定番は取り入れようと思いました。そのうえで少しずつ記憶の錯誤や、現実の不確かさといった物語のテーマが鮮明になり、クライマックスの話に繋がっていくという構成です。結末から逆算して、序盤や中盤のエピソードを配置する、という書き方をすることが多いです」
アリサの怪異調査をリアルタイムで見守るのが、近城大学の対怪異アンドロイド開発研究室の面々だ。第1巻にも登場した研究者の
「各章に添えられた新島と青木のパートは、いわば考察パート。怪談には『あれはいったい何だったんでしょう』と読者に解釈を委ねるものも多いですが、僕は作者の見解を知りたくなるタイプなんですよ」
アリサに振り回される、
人間たちの反応を楽しんでください
アリサを開発した
「白川教授の研究をバックアップする人物として、網谷の名前はすでに登場していました。彼が怪異調査に関わることを拒んでいるという描写もあったので、その理由を掘り下げれば物語になるかなと。17年前の事件については1巻を書き終えた後に考えましたが、ある人物を再登場させることもできましたし、結構うまく繋がったと思います」
超常現象の怖さに加えて、記憶や認識の不確かさをテーマにしているのがこの巻の特徴でもある。深夜の学校探検が思わぬ結末を引き起こす第1章「偽想鏡面」を筆頭に、哲学的な問いを含んだホラーが大半を占める。
「作中で白川教授も言っていますが、人間の記憶や認識ってあてにならないものですよね。たとえば僕らは昨日があって今日があると認識していますが、それは果たして本当なのか。誰にも証明できません」
そうした発想は、白川教授らを取り巻く世界そのものの不確かさへ繋がっていく。17年前にトンネルで起こった怪異を軸に、現実が揺らいでいくような感覚を描いた作品後半は、シリーズの持ち味であるSF志向がはっきり表れている。
「世の中にはいつから始まったのか分からないルールや風習がたくさんあります。エスカレーターに乗る時は片側を空けるとか。あらためて考えてみると、これは結構不気味なんじゃないか。この世界はすでに何かに侵食されているんじゃないか、という感覚を扱ってみました」
怪異検出AIを搭載したアリサを使い、怪異の正体を見極めようとする白川教授。その根底にあるのは大人になっても克服できない恐怖だ。ロジカルに組みたてられた物語のベースには、未知なるものへの生々しい恐怖が横たわる。
「以前夜道を散歩している時に、うずくまって人形で遊んでいる人を見かけて、思わずぎょっとしたことがあります。ホラー作家としてよく観察したかったけど、怖くて近づけなかった(笑)。ああいう本能的な怖さは大切にしたいと思っています」
アリサのキャラクターももちろん本シリーズの大きな魅力だ。今回も「にこー」と機械的に笑って見せたり、怪異と激しく殴り合ったりと楽しいシーンが満載。
「アリサは機械なので人間的な感情はありません。でもときどきその芽生えを感じさせるような場面がある。人間にそう見えているだけなんですがそこも含めて、人間とAIの関係を楽しんでもらえたらと思います」
SF的アイデアと生々しい恐怖を融合し、ホラーの可能性を拡張した「対怪異」シリーズ。まだいくつかの謎を残した物語の今後を見守りたい。
プロフィール
饗庭淵(あえばふち)
1988年生まれ。福岡県在住。ゲームクリエイター、イラストレーター。自作ゲームのノベライズも手がける。2023年『対怪異アンドロイド開発研究室』で第8回カクヨムWeb小説コンテスト〈ホラー部門〉特別賞を受賞する。同作の単行本で第7回細谷正充賞を受賞。
作品紹介
書名:対怪異アンドロイド開発研究室2.0(KADOKAWA)
著者:饗庭淵
記憶と人格を少女型アンドロイドに移されたアンドロイド・アリサは、転校生を装って「七不思議」が囁かれる月代中学校に潜入した。オカルト好きの生徒2人とともに、人を飲み込む鏡や、願い事を叶えてくれるトイレの神様などの調査を開始するが……。待望のシリーズ第2弾。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322411001466/
amazonページはこちら
電子書籍ストアBOOK☆WALKERページはこちら
シリーズ既刊
書名:対怪異アンドロイド開発研究室(KADOKAWA)
著者:饗庭淵
「おばけは怖くありません。機械ですから」。恐怖を感知しないアンドロイドが予測不能な「怪異」に挑む!
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322307001261/
amazonページはこちら
電子書籍ストアBOOK☆WALKERページはこちら
次号予告
4月28日発売予定
書名:『怪と幽』vol.018(KADOKAWA)
特集:アラマタ伝 ―帝都物語40周年記念―
荒俣 宏、あがた森魚、大竹真由、荻堂 顕、風間賢二、鹿島 茂、岸川雅範、京極夏彦、鴻上尚史、小松和彦、坂上治郎、佐野史郎、柴田勝家、下中美都、野村芳夫、藤森照信、伏屋 究、丸尾末広、峰守ひろかず、横尾忠則、りんたろう
X(旧Twitter) @kwai_yoo
定期購読なら送料無料でオマケ付き!
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322403000641/
amazonページはこちら
電子書籍ストアBOOK☆WALKERページはこちら