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特集

辛いことも多かったけど、あの頃がいちばん無責任で楽しかった【デビュー作が6万部の大ヒット!カツセマサヒコ『明け方の若者たち』インタビュー】

取材・文:編集部 

ウェブライターとして活躍中のカツセマサヒコさんが初めて書いた小説が、6万部を超えるベストセラーに。恋に仕事に葛藤しながらも懸命に生きる20代の主人公の姿が、多くの共感を呼びました。確かな覚悟を持って小説に挑んだ、その思いを聞きました。


――就活“勝ち組”飲み会に参加した主人公が、そこで出会った女性から「私と飲んだ方が、楽しいかもよ笑?」という誘いのメッセージをもらうところから物語は始まります。初めての小説を書くにあたり、どんな点に気を使いましたか?


カツセ:小説のオファーをいただいてから、何を書こうかずっと悩み続けました。いろんなプロットを考えましたが、なかなか面白くなる気配がない。密度が濃い物語を書くためには、自分の引き出しを開けて書くしかないのでは……。20代の青春譚にしようと決めたときには、すでに1年が経っていました。


――自分の経験を踏まえてとのことですが、主人公はご自身から3歳ほど若く設定してありますね。


カツセ:自分世代の青春を物語に落とし込もうとすると、どうしても東日本大震災に触れないといけなくなってしまいます。でも自分のなかであの出来事はまだ消化できていないし、この作品にそれは必要ないと思いました。また、現代的な小説にしたかったので、LINEやTwitterが普及している時代を書きたかった。そのふたつの理由から2012年に社会人になる世代を書こうと決めました。


カツセ:大手印刷会社に就職した主人公は、クリエイティブな仕事に憧れていましたが、希望とは違う総務部に配属され、退屈で不満な毎日を過ごしていきます。


カツセ:金銭面や環境など、自分は学生時代から恵まれて生きてきたという自覚があって、自分の意思で大きな決断をすることがありませんでした。挫折がないことがコンプレックスになっていたのです。そういう人間が挫折を味わうとはどういうことだろうと考えたときに、思い描いていた夢が裏切られることだと考えました。その意味で、主人公を希望とは違う部署に配属させ追い込みました。


――会社の同期の尚人が語る「23、24歳は人生のマジックアワー」という言葉が印象的です。


カツセ:まさにこの物語をひとことで表していると思います。自分にとって、辛いことも多かったけど、あの頃がいちばん無責任で楽しかった。それを自覚的に物語に落とし込みたいと思いました。自分が主張したいことを尚人に言わせた部分もありますね。


――物語はある出来事をきっかけに、中盤から様相が変わっていきます。


カツセ:だいぶ初期段階から構想していました。中盤にその要素を入れて、主人公が絶望からどこまで這い上がれるか、ということに物語の核を置きたいと思っていました。本当に書きたかったことは、単純な恋愛物語というよりも、後半の部分なんです。


――初めての小説を書き終えてみて、気づいたことはありますか?


カツセ:多くの読者に受け入れられたことはとても嬉しいのですが、書き切ったことで見えてきたこともたくさんありました。表現の稚拙さとか、肩の力が抜け切れていないところとか。小説世界の豊かさ、物語の尊さに気づくことができました。


――小説を書く上で、もっとも苦労したことはどんな点ですか?


カツセ:人間の心の機微は、とても複雑で表現は難しいものだと思うのですが、それをあっさり登場人物に言わせることで浅く聞こえてしまう。そういう感情をどうやって言葉に落とし込むか、非常に考えさせられました。でも書き終えたときには納得できたし、書いたからこそ欲も出てきました。そこで満足していたら終わりだし、その点は良かったと思います。


――今後も小説を書き続けていきますか?


カツセ:はい、ライターも続けながら、チャレンジしていきたいと思います。自分は文学新人賞を受賞してデビューしたわけではなく、ウェブから出てきた〝異質〟という立ち位置は消せないと思うので、それをアイデンティティにしてどう面白いものを作っていけるか、けっして妥協せずに書き続けていきたいと思います。


カツセ マサヒコ

1986年東京都生まれ。大学卒業後、一般企業勤務。編集プロダクションに転職後、2017年4月に独立。ウェブライター、編集者として活動中。『明け方の若者たち』が小説デビュー作となる。

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