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特集

初短編集『セレナーデ』発売Uruインタビュー「弱っているとき、周りの人に助けてもらったり享受してきたものがたくさんあって。そういうものを書きたいと思いました」

文・構成:河村道子


歌と物語の間にあるもの――
シンガー・ソングライターUru、初の短編集『セレナーデ』刊行


セレナーデ

セレナーデ


デビュー記念日である6月15日に、シンガー・ソングライターUru、初の短編集『セレナーデ』が刊行されます。ライブ会場での朗読やファンクラブ会員限定で発表している自身の曲を元に書かれた「しあわせの詩」「鈍色の日」と、この短編集の為に書き下ろした「セレナーデ」は、それぞれが家族、人生、恋愛というテーマを持っています。
同タイトルの歌と物語の間にあるもの、3つの物語にUruが込めたものについてお話を伺いました。

▼Uru『セレナーデ』特設ページはこちら
https://kadobun.jp/special/uru/serenade/

シンガー・ソングライターUru インタビュー


――ご自身の曲を元に、物語を書こうと思われたのはなぜだったのでしょうか。

Uru:ライブでその物語を朗読することで、聴いてくださる方が歌により入り込みやすいのでは?と、ひとつの試みとして物語を書くことを始めました。さらに自分が書いた物語を朗読したあとで歌ってみたら、私自身もその世界により入ることができたんです。そこから物語を一編、一編と書いていくようになりました。


――楽曲と物語はどんな関係性をもってご自身のなかから生まれてくるのでしょうか。

Uru:曲にも主人公がいて、たとえば恋愛をしたり、いろいろな経験をしたりしているのですが、それはすべて私の日常生活のなかから生まれてくるんですね。歌を聴いてくださる方との共通項を大切にしながら。表現の形は違いますが、それは物語も同じで。だから曲も物語も私のなかではそんなに変わらないんです。生まれてくる順番は曲が先で物語が後なのですが、ドラマや映画の主題歌を担当させていただいてきたなか、台本をもとに曲をつくるということもしてきたので、そういう意味では物語が先、ということになるのでしょうか。「しあわせの詩」は、ドラマ『フランケンシュタインの恋』の挿入歌でした。ドラマのストーリーに寄り添って歌詞を書いたのですが、もしこの歌が別の物語の主題歌になるとしたら――と書いたのが「しあわせの詩」の物語でした。


――病院で不思議な光を浴びてから体に異変を感じるようになった主人公・咲子は、もしかしたら自分は永遠に生き続けるのかもしれないという不安を抱えています。年齢を重ねても容姿の変わらない咲子の、家族との幸せな日々には予測できない奇妙な運命が待っています。

Uru:この物語は体調を崩したとき、健康な体って素晴らしいなという思いのなかから生まれてきました。年齢を重ねていくと、もっといろんな故障が出てくるんだろうなということに思いを巡らせるなか、ふと自分の目が向いたのが、周りにいる虫や鳥でした。人間は寿命があることを生まれながらにして知っているけど、この生き物たちは自分に寿命があることを知っているのかな?と。そこから咲子の設定は生まれてきました。


――無限の命を生きていく咲子の姿からは、限りがあるからこその時間、日常の尊さ、そして彼女の抱えてしまったものが流れ込んできます。

Uru:周りにいる人たちが寿命をまっとうし、次々いなくなってしまうという状況は想像しただけでつらいですよね。まして咲子には子供がいるので。「しあわせの詩」は生き死にの重さというものに焦点を当てた物語です。生きる時間は有限であるからこそ、“今しかない”という瞬間の美しさがある、と思いながら書いていました。


――“『家族』 この笑顔を守るために、私は生きているのだ”と、咲子はこの運命に対峙していきます。

Uru:咲子がする、あることも家族のためで。何があろうとも家族の絆というものは変わらない、家族ってそういうもの、ということが私のなかにあるので。ゆえに咲子は家族だけには自分の異変を打ち明けようとします。自分だけで抱えているのはつらいことだし、家族には何でも話すという思いが私のなかにあったので。


――なぜ不老不死の体になってしまったのか、自分の身に起きたことの真実が知りたくて咲子が探し続けているのが、ともに光を浴びた“病院で斜め前に座っていた男”。

Uru:実はこうした秘密を抱えているのが自分だけではないのかもしれない、自分だけがこんな体験をしていると思っているけど、実はその人もそうだったのでは?ということに思いが向く存在でもあります。つらいことがあったとき、街に行ったりすると、周りの人たちが楽しそうに見えて、自分だけ違うところにいるみたいな気になったりすることがあるんですよね。けれど楽しそうに見えるその人たちも実は過去につらいことがあったり、見えないものを抱えていたりするんだろうなという思いもあって。もしかしたら自分と同じ境遇にいるのかもしれないという存在を物語のなかにつくりたかったんです。


――自分ひとりではないかもしれない、ということを教えてくれる。それはUruさんの歌に流れているものでもありますね。ファンタジックな設定なのに咲子の辿っていく運命は、リアルな痛みを連れてきます。そして物語が行き着いていくところには光があります。

Uru:有限の時間だからこそ楽しめるもの、有意義なものがあるということを伝えたかった。その役割を咲子には持たせたかったんです。


――2編目の「鈍色の日」は初めて書いた物語だそうですね。この物語が生まれたところは?

Uru: “鈍色”という色から想像しました。どこにも出かけなかった休日の夕方、とてつもない孤独感を抱えてしまったことがあったんです。その気持ちを映すような四方を壁に囲まれた空間を書きたいなと。一生懸命やっていることがあるんだけど、何も見つけられない、何にも引っ掛からない、そういう心境を書きたいなと思いました。


――そんな閉鎖された空間で“僕”は自死を決意しています。そこに実家で暮らす母から荷物が届く。そのなかに入っていた“言葉”は、“生きてく力の弱さを初めて知った時に「それでも信じて歩む」”という歌詞が心に響く楽曲の、その先の世界へとつながっていくようです。

Uru:「鈍色の日」の歌詞のなかに“窓に誇る造花が 空に背を伸ばして 光を浴びている”というフレーズがあるのですが、物語のなかに書いたその言葉はそれを見たとき、生まれてきました。外を眺めていたとき、窓際にお花があったんです。太陽の光を燦燦と浴びて、“あぁ、気持ちいいだろうな”と思ったんですけど、よく見たら造花だったんです。そのとき、この花はきっと自分が造花だということを受け入れ、“花”という名前だけで太陽の光を浴びようとしているんだろうなと。その姿から強さというものは、自分を、自分の弱いところもひっくるめて受け入れていくことなんだなと感じたんです。曲もそうですけど、それがこの物語のなかで一番書きたかったことです。


――先ほどもふと見た虫や鳥から想起された思いについて語られていらっしゃいましたが、日常で見るものから、いろんなことを感じていらっしゃるんですね。

Uru:そうですね、そして擬人化しがちです(笑)。ペンとか使っているものを捨てる時はすごく可哀相になるんです。子供の頃からずっとそうなのですが、長い間使っていたものを捨てるとき、“ありがとう”と声に出していますね。誰にも見られたくない姿ですけど(笑)。


――“きっと何かしら自分の心の中だけに留めている傷や秘密、蓋をして来た事のようなものがあって、それとうまく共存しながら日常を送っている”ということを、この3編には込められたと。

Uru:やっぱり自分がそうだからだと思うんですよね。自分のなかに留めている傷とか秘密とか、経験してきたことのなかで思い出したくないことってたくさんありますし、けれどそれを抱えて何もできないかというとそうでもなく、きちんと日常生活を送っている。それは自分だけでなく、皆さんもきっとそうなんだろうなという思いがあって。


――そして“自分ではない他者との関わりの中で愛を求めたり踠いたりしながら自分という人間をより深く知っていく”ことも込められたと。その二つはUruさんの歌からこれまで私たちが受け取ってきたものでもあります。

Uru:自分が弱っているとき、周りの人に助けてもらったり、その関わりのなか、享受してきたものがたくさんあって。そういうものをこの3編のなかで書きたいと思いましたね。


――主人公は摂食障害に悩む高校3年生の葵。ある出来事をきっかけに、恋人の隼人、幼馴染の陽との関係が崩れていく青春群像劇「セレナーデ」には、Uruさんが他者との関わりのなかで享受してきたものがいっぱい詰まっているようです。

Uru:私の実体験もちょっと入っているんです。高校時代は一番記憶に残っていて。楽しいこととつらいことが同じくらいあって、とても濃厚な3年間だったんです。その記憶をひとつひとつ取り出しながら、登場人物たちが新たに経験していくことを書き加えるように綴っていきました。


――楽曲「セレナーデ」は、ドラマ日曜劇場『マイファミリー』の主題歌「それを愛と呼ぶなら」のカップリングとして収録された曲ですね。

Uru:大体の歌詞を書いて、こういう感じの曲にしたいなぁという感じのものがあったうえで、物語を書き始めたんですけど、物語を書き終えてから歌詞を考え直した部分もあったので、「セレナーデ」に関しては、歌と物語はほぼ同時に生まれたというか、両者が歩み寄ってできた作品です。


――“ねえ、聞こえていますか”“ねえ、届いていますか”というフレーズが胸に沁みてくる歌は、物語の登場人物、誰の視点にも当てはまるようです。

Uru:もっと彼のことを知りたいと願う葵から隼人への言葉でもあるし、幼い頃からずっと葵を好きだった陽から葵への言葉でもあるし、心を閉じてしまったお母さんに向けて隼人が発する言葉でもあるし、ほんとに誰でも、どちら側からでも当てはまるように、曲は物語の真ん中に置きました。


――“いつか、私の全てを話し、そして、隼人の全てを知りたい”という葵。登場人物のなかにある十代の清々しい衝動のようなものもご自身のなかから引き出してきたものなのですね。

Uru:私も学生のとき、ちょっと言葉足らずの人というか、何を考えているのかわからない、ちょっと守りたくなるような人のことを好きになりがちだったので、そのへんはちょっと葵に似ているかなぁと思います(笑)。


――“嫌われたくないから”と摂食障害であることを秘密にしている葵。けれど隼人、陽にも“秘密”はあって……。

Uru:葵を摂食障害という設定にしたのは、学生のとき、周りでけっこう苦しんでいる人がいて。若い子ってけっこう多いと思うんですよね。ダイエットをしたり、何かしらふさぎ込みがちだったりする、多感な時期だと思うので、そこを葵の人格の上に乗せたかったんです。そして隼人も陽も人生のその季節のなか、誰にも見せない痛みを持っている。語り手を次々とスイッチしていったのは、読む方がそれぞれの登場人物の心の動きを把握していることで、次にその登場人物が、別の登場人物の語りのなかで出てきたとき、“本当はこんなこと思っているのにな”という歯がゆさみたいなことも一緒に楽しめるかなと思って。読み手の方が3人と一緒にいる感じ、そしてすべてを知っているという状況を物語のなかに作り出したかったんです。


――登場人物たちを俯瞰で見ていくと、歯がゆさと同時に、互いの心の奥にある温かな思いも見つけられますね。

Uru:自分のことを思ってくれる人がいるとか、自分のことを自分以外にも知ってくれている人がいるってすごく心強いことで。そういう人の言葉や思いは、自分の言動に反映されてくる。背中を押してもらったり、悩んでいることがあったら一歩踏み出してみようという気持ちにもなるし、それぞれ思い合うということってすごい力なんだなと、この物語を書きながら思っていました。「しあわせの詩」も「鈍色の日」もそうですけれど、自分が相手を思うことで自分も強くなれるし、もらったほうも強くなれる。“思う”ってすごく強いものだなと。


――この一冊を読者に手渡すとき、添えたい言葉は?

Uru:生きていると、ほんとにいろんなことがありますが、たとえばつらさを抱えたとき、そこには自分しかいないと思っていても必ず周りには誰かがいるんですよね。そんな周りとの関わりのなかで自分に向き合い、楽しく生きていきましょう、という言葉を添えたいですね。

プロフィール



Uru(うる)
The Singer——聞く人を包み込むような歌声と神秘的な存在感で注目を集めるシンガー・ソングライター。2013年より名曲カバーをYouTubeへ投稿する事から活動をスタート。16年にメジャーデビュー。ドラマや映画・アニメ等数々のタイアップ楽曲を手掛け、代表曲は「あなたがいることで」「プロローグ」「振り子」など。第62回「輝く!レコード大賞」にて『特別賞』を受賞。リリースやライブを重ねる度にその名前を浸透させている。自身の楽曲から物語を綴りファンサイト内やライブでの朗読にて披露。今作の刊行に繋がる。

作品紹介・あらすじ
Uru『セレナーデ』



セレナーデ
著者 Uru
定価:1,760円(本体1,600円+税)
発売日:2022年06月15日

みんな、誰にも言えない「秘密」を抱えて生きている――。
シンガー・ソングライターUruが自身の楽曲を元に書いた短編集、デビュー記念日に発売!
脆くて眩しい3つの物語。

シンガー・ソングライターUruの短編集が2022年6月15日に発売。
ライブ会場での朗読やファンクラブ会員限定で発表している自身の曲を素に書かれた短篇物語「しあわせの詩」「鈍色の日」、そこに書き下ろし「セレナーデ」を加えて刊行いたします。
また、物語の元になる「セレナーデ」はドラマ日曜劇場『マイファミリー』の主題歌としても話題を呼ぶニューシングル「それを愛と呼ぶなら」のカップリングとして収録されます。

詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322110000632/
amazonページはこちら


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