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特集

『現代怪談考』を上梓。各メディアにも多数出演「オカルト探偵」吉田悠軌インタビュー【お化け友の会通信 from 怪と幽】

取材・文:千街晶之

「オカルト探偵」吉田悠軌さんインタビュー

お化け好きに贈るエンターテインメント・マガジン『怪と幽』の出張はみだしページ!
今回は、怪談や都市伝説などの研究をライフワークとし、各メディアにも多数出演の「オカルト探偵」吉田悠軌さんに新刊のお話を聞きました。

「ダ・ヴィンチ」2022年4月号の「お化け友の会通信 from 怪と幽」より転載

社会が何を恐ろしいと思うかが反映されるのが、実話怪談や都市伝説

吉田さんの新刊『現代怪談考』では、その名を聞いた者のもとに現れる「カシマさん」(様々なバリエーションがあるが下半身が欠損した女性という話が多い)や、口が大きく裂けた女が通りすがりの人を脅かす「口裂け女」など、かつて全国的に流行した都市伝説の分析が行われている。これまで吉田さんが執筆してきた実話怪談や、その隣接ジャンルである都市伝説に、興味を持つようになったきっかけは何だったのだろうか。

「興味という意味では、ピンポイントで1989年あたりだと思うんです。私が小学校3年生くらいに、連続幼女誘拐・殺人事件である宮﨑勤事件があって、カシマさんの話を初めて聞いたのもその頃ですし、人面犬の噂も89年から90年にかけてですから、都市伝説・怪談・悲惨な話が全部揃っていたんですね。当時は意識していなかったですが。あと、昭和天皇の崩御も89年で、実家は多摩御陵の近くなので戒厳令下みたいに機動隊や警護車両が並んでて、あれは非日常でした。それらが全部原体験になってるのかなと、今41歳でこの本を書いてみて思いますね」

それらの都市伝説を貫くのは、赤い服を着ていたり、血まみれだったりする「赤い女」のイメージだと吉田さんは言う。

「実話怪談を集めていると、とにかく『赤い女』の話が多いんですよ。幽霊なのか怪人なのか、背丈が大きい赤い女がいて、窓から覗く……という話がちょくちょく集まってきたので、それだけ集まると気になる、という感じですね。それを口裂け女やカシマさんとつなげるのは私のこじつけですが、そう考えると面白いかなと」

そうした「赤い女」の怪談や都市伝説から浮上したのが、「子殺しの母」という共通性だ。

「あくまでも私の推測になるんですけど、子供が殺されること、死ぬことへの恐怖が現代人は強いと思うんです。私の個人的な恐怖でもありますが、社会的な恐怖として共有している部分も強い。だから『子殺しの母』というのが一番の恐怖なのではないかと思った時に、カシマさんや口裂け女がどう語られ、どのようにイメージが変遷していったかに着目すると、『赤い女』たちが『子殺しの母』のイメージを、最初はともかく、語られるうちに負わされてゆく。口裂け女も最初は母親のイメージはなかったのに、識者さんたちによってそれを負わされる。その過程に興味がありますね」

子供への思い入れは、本書で言及される「コインロッカーベイビー」と呼ばれる赤子の遺棄事件が多発した1970年代よりも現在のほうが強まっているのではないか、と吉田さんは指摘する。

「経済的に余裕がなくなっていますし、単純に少子化というのもあって、一人あたりにかける思いが強くなっていて、それが子供をちゃんと育てなければならないから育てられない人は産まない、という流れにつながっている。そういう意識は、今は昔より絶対高い。自分が子供を持ったのは若くお金のないときだったので、別にいいんじゃないの、産んでも……と個人的には思うんですが、子供をちゃんと育てなければというオブセッションが強まっていて、そこからこの本に書いたような怪談は生まれるのではないかと思います。社会が何を恐ろしいと思うかが反映されるのが、実話怪談や都市伝説ですから」

現地訪問や当時の報道の調査といった手法で怪談の検証を行うのが吉田さんならではの流儀だ。

「それが私のスタイルという感じで、持ち味を活かさないと商売にならないので、そこを突きつめていく戦略でいこうと。実話怪談を小説として書きたい人もいると思うんですけど、私はそちらのタイプではなくて、小説を目指さないところから出発しているので、竹書房怪談文庫の実話も今回の本も、根本的には同じつもりで書いています。ただ、小説ではないとは言いましたけど、論文でもないわけで、論理的・科学的には穴はあると思うんですよ、ここまでは言いきれないだろうとか。ただある程度、あえて非論理的に書こうともしていて、読み物として感情に訴え、レトリックを駆使して飛躍することは心がけていますね」

『現代怪談考』における、個人的な恐怖から壮大な仮説を拡げていく手さばきなどには、実証的怪談ルポルタージュの先達である小池壮彦からの影響が感じられる。

「小池壮彦さんには最初から影響を受けています。個人的な話題が入ってくるのも小池さんの影響でしょうね。もちろん『新耳袋』や『「超」怖い話』みたいに、いい意味で検証なしに投げっぱなしで出すというのも非常に面白くて新しいスタイルでしたが、私に向いているのはこちらだなと思ってからは意識的に小池さんスタイルでやっていますね、20代半ばから。実証できないものでも、メディア記事などから周辺を探ることで外堀を埋めていくやり方なら実証できるので。もちろん心霊現象自体は実証できないので空白のままなんですが、エビデンスを連ねていってきちんと実証していくというのが非常に面白かったのと、小池さんは雰囲気や文体的には探偵ものなんですね。ハードボイルドだったりする。そういうところは、私も完全に真似しています」

本書を読むと、オカルトブームとされた1970年代に、コインロッカーベイビー、水子供養ブーム、カシマさんの噂の誕生、口裂け女の大流行などが集中していたことに気づかされる。

「70年代にいろいろなことが起こってるとは思いますね。将門の首塚にまつわる怪談が76年に今のかたちになって注目されましたし。10年で区切るのは広すぎるかもしれませんが、高度経済成長が一段落ついて、オイルショックがあって、政治の季節もシラケムードになり、イケイケドンドンから内省的になったり、ポジティブではなくネガティブな空気になっていったのかなと思いますね」

それらが2020年代までつながっていることも、本書からはわかるようになっている。

「雛形が70年代なのかなという気がしますね。そこからはドラスティックな変化はなくて、今につながっている」

本書の終盤では、吉田さん自身がかつて住んでいた家の怪談的な因縁について言及することで読者を戦慄させるが、この構想は最初からあったのだろうか。

「いえ、書きはじめてから発覚した事実です。ここ2、3年で『赤い女』にまつわる情報が集まってきて、かつ私とも関わってくる……という経験が多かったので。怪談ってそういう不思議なところがあって、こっちは意識してないのに似た話が集まってくるとか、自分の身に迫ってくるというのは、実際あるんですね。客観的には、そうこじつけるモードになってるからかもしれないんですが、自分の体験を軸にするコンセプトではあるので、必然的にそうなったんでしょうね」

「赤い女」の怪談は、今後どのように発展する可能性があるか。

「今年は、1972年が資料的に初出であるカシマさんの50周年なんですよ。カシマさんの現代バージョンの実話怪談が入ってきたりとか、50周年に向けていろいろ動いてきました。カシマさんが『赤い女』の大ボスなので、そこは嬉しいです。いろんな情報が集まってくれるといいですね」

吉田さんは今後も、「赤い女」の系譜についてライフワーク的に追いかけていくのだろうか。

「変な言い方ですが、私が『赤い女』と認めれば『赤い女』になるんですね。ひとつの視点というか視座なので、なくなることはないでしょう。もっと流行るものが出てくる可能性はありますが。とはいえカシマさんと口裂け女の関係に言えることですが、カシマさんがずっと残ったのは口裂け女ほど大流行しなかったからで、『赤い女』も、白い女である貞子に知名度で追い抜かれたからこそずっと生き残っているところがあって、ずっと低空飛行で語り継がれていくと思います」

プロフィール

よしだ・ゆうき●1980年、東京都生まれ。怪談研究家。怪談サークル「とうもろこしの会」会長。実話怪談の執筆・研究をライフワークとし、さまざまなメディアで活躍中。著書に『怪談現場 東京23区』『恐怖実話 怪の足跡』『禁足地巡礼』『一生忘れない怖い話の語り方』など多数。

書籍情報



『現代怪談考』吉田悠軌 晶文社 2090円(税込)
カシマさん、口裂け女、八尺様……さまざまな怪談・都市伝説に、かたちを変えながら現れ続ける「赤い女」の系譜。そこから浮かび上がる、現代人にとっての最大の恐怖とは。大胆な仮説と緻密な実証を兼備した怪談研究の新地平。

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『東京の幽霊事件 封印された裏歴史』小池壮彦 KADOKAWA 1760円(税込)
谷中霊園、神田お玉ケ池、中央線の“魔のカーブ”……、土地の記憶に耳を傾け、消えゆく声なき声を蒐集した怪談ノンフィクション。
書誌ページ:https://www.kadokawa.co.jp/product/321901000143/



『一生忘れない怖い話の語り方 すぐ話せる「実話怪談」入門』吉田悠軌 KADOKAWA 1760円(税込)
『現代怪談考』と対になると著者自身が位置付けている、怪談の語り方についての分析書。実話怪談の方法論や歴史を振り返る。
書誌ページ:https://www.kadokawa.co.jp/product/322008000235/


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